紬「うふふ、いっぱい買っちゃったぁ」←一人お忍びでお買い物に

紬「でもそろそろ帰らないと斉藤たちが心配しちゃう。急がないと」

紬「でもまだおウチに帰りたくないなぁ……」

「そこのお嬢さん」

紬「はい? 私ですか?」

「珍しい物ばかりだよ、ちょっと見ていきませんか」

紬「え、珍しいもの!? わぁ、変な物がいっぱぁい! ……はっ、ご、ごめんなさい!」

「ほっほっ、正直でいいお嬢さん。どうです? 何か気に入ったものは?」

紬「そうね、なにか最後に買っておきたいし。あら、これは」

「ふむ、それは゛メカあずにゃん゛ですな。お買い上げに?」

紬「メカあずにゃん……?」

紬「えっと、やっぱりこれはなんか違うから……」ポイ

「なんと」

紬「ん~、いっぱいあって迷っちゃう」

「じっくり見ていってくださいな」

紬「そんなに時間があるわけじゃ……あ」

「なにか、目につきましたか?」

紬「お婆さん! 私、これ買います! これで!」

「ほほう、それは゛駆けるあずにゃん゛」

紬「駆けるあずにゃん……?」

紬「駆けるって、走るってことですか?」

「ええ、ええ。どこまでも駆けるあずにゃんでございます」

「ラスト一個。今ならお安くしておきますよ」

紬「まぁ! ね、値切ってもよろしいですか!?」

「それは困ります」

紬「とりあえず買います! 3000円ですね」

「お買い上げありがとうございます」

駆梓「……」

紬「それで、この子はどう扱えばいいのかしら……」

「乗ればよろしいのでございます」

紬「こう、かしら。よいしょ」ノリ

駆梓「ふんぐっ……!」

紬「お、重たい? ごめんね……」

駆梓「い、いえっ! そんなことは……!」

駆梓「それじゃあ、出発しますよ。ムギ先輩」

紬「出発ってどこへ?」

駆梓「行き先は不明です。どこまでも走り続けます」

紬「まぁ! 素敵っ、それじゃあさっそくお願いしまーす!」

駆梓「お安いご用です! ふんすっ……!」キューーー…ン

ドドドドドッ

紬「わくわく♪」

駆梓「はっしん!!」

START UP…ビュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥンッッッッッッ

「よい旅を」

ドドドドドドドドドドドド…

紬「きゃー! はやいはやい~♪ もっともっとぉ~!」

駆梓「さらに加速ですか? お安いご用ですよ」

ギュギュギュギュッ、ギャギャギャアァーーンッッッ!

紬「すごいわぁ! うちの自家用ジェットよりはやーい!」

駆梓「そんなもの、屁でもありませんよ。私は世界一速いんですから」

ドドドドドドドドドドドド…

紬(でも、これじゃあおウチに帰れないのかなぁ)

紬「ねぇ、駆梓ちゃん。これはどこに向かっているの?」

駆梓「東です。とにかく東へ向かっています」

紬「どうして?」

駆梓「東には楽園-エデン-があるんです」

紬「あらぁ、そうなの」

ビュウウウウウウウオオオオオオォォォォオオオオオオオオンッッッ

ドガガガガッ、ドカァーーーーン

紬「今なにか爆発したよ?」

駆梓「私にぶつかったトラックか何かが吹っ飛んで爆発しちゃったんですね、きっと」

駆梓「でもそのおかげで救われた命があるはずです」

紬「素敵ねぇ」

・・・

唯「およよ……」

「わーわー! 女の子がトラックに轢かれそうになったと思ったらトラックが爆発したぞー」

「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」

唯「ハリウッドもびっくりだよぉ」

紬「ねぇねぇ、駆梓ちゃん。駆梓ちゃんはどうしてそんなに速いの?」

駆梓「私は駆ける為に生まれてきましたから。それも速く」

駆梓「私にとって速さとは文化の真髄」

駆梓「そして私自身が速さそのものなんです」

紬「私にはよくわからない世界があるのねー」

駆梓「あ、見てください! 今、海の上を走っていますよ」

紬「あら、ほんと! すごーい!」

紬「駆梓ちゃん、喉は渇かない? よかったらお茶にしましょう」

駆梓「ナイスアイディアだと思います」

紬「ちょっと待っててね。こんなときのために電気ポットを用意しておいてよかったぁ」

紬「あ!」

駆梓「どうしました?」

紬「電気がないからお湯が沸かせないの……がっかり」

ビュウウウウウウウオオオオオオォォォォオオオオオオオオンンンッッ

駆梓「もうすぐ太平洋を抜けますよー」

紬「あら、もうなの? 驚いたぁ」

駆梓「見てください! 外国ですよ! 外国!」

紬「アメリカに到着するのね♪」

駆梓「パスポートいらずで外国旅行なんてちょっとした悪の気分です」

紬「あこがれてたのよね~」

紬「あ、ここはカルフォルニアね!」

駆梓「ちょっと思ったんですけど、アイダホって何が有名ですかね」

紬「えーっと……」

紬「ジャガイモかしら」

ギュオンギュオンッ、ビュビュウウウウゥゥゥゥーーーーーンッ

紬「あれ? なんだかちょっと浮いてないかしら?」

駆梓「速さを極めれば空を駆けます。常識ですよ」

紬「し、知らなかった!」

紬「ああ、もう地面があんなに遠い! どんどん地上から離れていってるのね」

駆梓「しっかり掴まっていてくださいね。振り落とされたら危険ですから」

紬「はーい。えへへ、ぎゅーっ」ムギュウッ

駆梓「はうっ……!」

駆梓「そ、そんなに抱きしめられちゃったら……! ああぅっ……」

紬「減速しちゃった! 減速してるわ、駆梓ちゃん!」

トロトロトロトロ~トットコトットコ…

紬「少し休憩しない?」

駆梓「そんなことしたら死んじゃいます! 私、走り出したら走り続けなきゃ死んじゃうんです!」

紬「困ったわねぇ……」

駆梓「そうこう言っているうちに大気圏を突破しちゃいましたよ」

ゴウン、ゴウン、ゴウン…

紬「わぁ……」

駆梓「見てください、ムギ先輩。あれが地球ですよ」

紬「大きい、それにとっても青いし、きれい……ガガーリンが言ったことは正しかったのね」

紬「見回したって神様もいない。宇宙って、なにもないの……」

駆梓「なのに不思議な場所ですよ。ここからはスペースデブリに気をつけて走りましょう」

紬「地球が遠く、ううん、小さくなっていく……」

コーホー、コーホー…ドタタタタタタタタタタッッッ

紬「宇宙に端はないのかしら」

駆梓「永遠と闇が続きますね。とっても暗いです」

紬「地球から見えていた星が、今私のすぐ前にあるわぁ」

紬「手を伸ばせば掴めそうなくらい小さく見えた星も、こんなに近ければ私の手には収まらないの」

紬「これが……宇宙」

駆梓「気に入りましたか?」

紬「……ぐすんっ」

駆梓「ムギ先輩?」

紬「寂しいわ。とっても寂しい……おウチが恋しい」

紬「帰りたい……」

駆梓「ああっ、どうか泣かないで……」

ブブブオオォォォォォォォンッッッズギュギュババーンッッッ

紬「ううっ……」

駆梓「……行き先を変えましょう」

紬「え?」

駆梓「目的地は、ムギ先輩のおウチです!」

紬「で、でも東の楽園を目指しているんじゃなかったの?」

駆梓「宇宙に東もなにもないです。それに、ムギ先輩を悲しませてまで向かう場所が楽園な筈ないんです」

駆梓「大きくターンしますよ。しっかり掴まっていて!」

グイィーーーーーーーーーーーーン

駆梓「さぁ、帰りましょう。お父さんとお母さんがいる場所へ。私たちの地球へ」

紬「うんっ」

ボボボバババババッババババァァァァァァァンッ!!!

駆梓「大気圏を無事突破できましたよ」

紬「ああ、ただいま! 私たちの星!」

紬「この空気ですら懐かしく感じちゃう……空も、海も、地上も」

紬「なにもかもがきれいで美しいわぁ。全てが新鮮に感じられるの。感謝したいほどに」

駆梓「住めば都ってよく言ったものですよね」

駆梓「このまま一気に日本まで突っ走ります。もうちょっとですよー」

紬「お父様、お母様、斉藤……みんなっ」

宇宙に、さようなら

地球に、ただいま

そして、全てにありがとう―――――


ギュギュッギイイイィィィィィィァァァァァァァァァァンンンンッッッッ!!!


琴吹家

ギュウウウウウオオオオォォオォオオオオオオオンッッッ…3、2、1

ピタッ……TIME OUT

駆梓「うっ!」

ドサァ…

紬「駆梓ちゃん!?」

駆梓「ぶ、じ、もくてき……ちに……到着、ですね」

紬「そんなことより駆梓ちゃんがっ」

駆梓「わたしは……走ることを、やめてしまえ、ば……死ぬんです……」

駆梓「いった、でしょ、う?」

紬「ああっ……!」

紬「どうか死なないで! 死んじゃいやぁーっ!」

駆梓「ふ、ふふ……みつけ、ました……ここ、が」

駆梓「ここが、楽園だったんです、ね……わたし、の……―――――――」

紬「ううっ……ごくろう、さまっ。駆梓ちゃん……っ」

・・・

紬「ふぅ、これでよしっと」

斉藤「……? お嬢様、それは?」

紬「お墓よ。この世で最も速く走る子の」

紬「あの子は最後に、幸せそうな顔をして逝ったわ……」

紬「後悔はないんだって、そんな顔をして」

斉藤「ふむぅ」

紬「ねぇ、斉藤」

斉藤「はい」

紬「ここから東に向かえば、そこに楽園はあるのかな」

斉藤「……わかりませんな」

斉藤「しかし、そう信じているのであれば、それはあるのかもしれません」

紬「……そうなの」

紬「さぁ、お茶にしましょう? 斉藤」


駆けるあずにゃん編 おわり




梓「――――は」

梓「ここは、私の部屋……じゃない」

梓「こんな場所、私知らないよ」

梓「なにか、とってもへんてこな夢を見てた気がする……」

さわ子「そう、あなたは夢の中にいたのよ」

梓「さわ子先生」

和「いいえ、あなたは夢の中にいるのよ」

梓「和さん」

トンちゃん「プクプク」

梓「トンちゃん」

ヤッテヤルデス『ヤッテヤルデス』

梓「あなたは知らない」

唯?「あずにゃん」

梓「唯先輩……じゃない。あなたは唯先輩じゃありませんね!」

唯?「あずにゃん。もう寝ちゃおうよ」

唯?「眠たいでしょ。我慢は体に毒なんだよ」

梓「意味不明です」

「そこのお嬢さん。なにか見ていきませんか」

「ですが、そろそろお時間も少なくなってきました。ゆっくりと見ている暇ではありませんか」

梓「あ、いえ……得にすることがないので、なにか見せてくださいよ」

「冷やかしはごめんですよ。ほっほっ」

梓「やっぱり変なものばっかり」

梓「もっと普通のものはここには置いてはないんですか?」

「……」

梓「全部が全部、あずにゃん、あずにゃん……気味が悪い」

「左様でございますか」

「なにか気に入られたものはありましたか?」

梓「これは?」

「゛覚めるあずにゃん゛でございます」

梓「覚めるあずにゃん……?」


覚めるあずにゃん編 続く



8 ※純編(閲覧注意:グロあり
9 ※苦手な方はこちらへ
最終更新:2011年03月30日 23:57