梓「唯先輩……わたし、唯先輩のことが好きです!」
唯「へ……?」
梓「好きなんです。女どうしで変だって思うかもしれないけどそんなの関係ありません!
唯先輩のことが好きで好きでたまらないんです。
大好きなんです。だから……わたしとつきあってください!」
唯「あ、そう。ふうん……」
梓「……なんか反応が鈍くないですか、唯先輩?」
梓「わたし、今めちゃくちゃ勇気を振り絞って告白したんですよ?
このちっちゃいカラダの中にある、ありったけの勇気をしぼりだして唯先輩にアタックしたんですよ?」
唯「いやいや、だってねえ。ちょっと……ていうか、だいぶ遅いと思うんだけど」
梓「なにがですか?」
唯「あずにゃんがわたしに告るの」
梓「そ、そんな! そんな言い方ってないです!
だいたい告白に遅いも早いもないですよ!」
唯「いや、あるでしょ。たとえば映画とかドラマとかでもあるじゃん。
好きだった人が死んで、ようやく『わたし、あなたのことが好きだったのに。告白すればよかった』
みたいな展開」
梓「そこまでは遅くないと思うんですけど……」
唯「遅いわっ!」ドン☆
梓「ひっ!」ビクッ
唯「もう今が何月かわかってるの!?」
梓「さ、三月ですけど……」
唯「そう、三月だよ! 今年の花粉症はひどくて三月から花粉が舞ってるらしいから気をつけてね……へっくしょん!」
梓「それで、どうしてわたしの告白が遅いんですか?」
唯「あずにゃん。あずにゃん、さっき今が何月だって言った?」
梓「だから三月でしょう? つい最近唯先輩たちも学校を卒業したじゃないですか」
唯「そうなんだよ、わたしたち晴れて卒業しちゃったんだよ。
さて、あずにゃん」
梓「なんですか?」
唯「高校を卒業したわたしたちは、次にどこに行くでしょう?」
梓「……大学でしょう? たしかN女子大でしたっけ?」
唯「そうそう。N女子大。
そう、言ってみればわたしやムギちゃんや澪ちゃん、りっちゃんは新たな舞台に移るわけだよ」
梓「……それがわたしの告白とどう結び付くっていうんですか?」
唯「はぁ~」
梓「そんな呆れ果てたみたいなため息をつかなくても……」
唯「いやいや、さすがに仙人みたいに寛大なわたしも、あずにゃんのKYっぷりにはイラッとしちゃうよ?」
梓「KYって……」
唯「あずにゃんって、基本的にいつでもどこでも空気読めないんだから楽屋裏でくらい、空気読もうよ。ね?」
梓「楽屋裏ってなんですか」
唯「あずにゃん、あと一ヶ月したらわたしたちは大学に行くの。
これが意味することがわかる?」
梓「全然」
唯「わたしたちが大学生になったら、わたしたちとあずにゃんたちはしばらく会えないんだよ」
梓「な、なんでですか?」
唯「大人の事情だよ。
大幅に下がってしまった雑誌の売り上げを取り戻すのみならず!
同系列の会社の他の雑誌の売り上げまで、上げようとする大人の陰謀によってね!」
梓「イマイチ意味がわからないんですけど、結局どういうことなんですか?」
唯「つまり、たとえ今から付き合ったとしても、わたしとあずにゃんがイチャイチャすることはできないということだよ」
梓「ほ、本当ですか……!?」
唯「だいたい、あずにゃんがイケナイんだよ?
わたしがあずにゃんにいつもモーションかけても、あずにゃんは、
『や、やめてください』の一点張りだしさ」
梓「最近は比較的他のバリエーションも増えたような……」
唯「それが遅いんだよ!
もっと早くしてよ! なんでアニメ終了間際や原作終了間際になって、ようやく動きだすんだよ!?」
梓「だ、だって……」
唯「だって、じゃない! たしかにわたしが抱き着く→あずにゃんイヤがるのお約束コンボは悪くない。
でも、いくらなんでも同じパターンの繰り返しにもほどがあるんだよ!
もうそれ、お約束通り越して単なるマンネリだよ?」
梓「ま、マンネリ……」
唯「さすがに全国のゆいあずファンの堪忍袋がブチ切れちゃうよ!?」
梓「ゆいあずにそんな全国規模のファンはいないと思います。
ていうか、あれ一日かぎりのバンドだったし……」
唯「バカッ!」ビシッ
梓「いでっ!?」
唯「だからこんなとこでまで空気読めないとか、いいかげんにして!」
梓「……すみません」
唯「だいたいあずにゃんって、わたしとくっつけそうなときになんでくっつかなかったの!?」
梓「だ、だって……」
唯「だってなに?」
梓「た、たしかにわたしは唯先輩のこと一年の文化祭のときあたりには気になってたし……」
唯「うんうん、その兆候にはわたしも気づいてたよ」
梓「ゆいあずのときの唯先輩の寝顔を見てたときとか、夏祭りに唯先輩に手を引かれたときとか……。
あと、文化祭のときの唯先輩の演奏してる姿とか見てもう自分のキモチには気づいてたけど……」
唯「気づいてたのになんで告白しなかったの?」
梓「……この甘酸っぱいキモチを……大切にしたかったから……///」
唯「ざけんなっ!」ドガシャン!
梓「ひいっ!?」
唯「澪ちゃんもあずにゃんも空気読めないって点で似てることはわかってたけど黙ってたのに……!
そんなメルヘンなとこまで似られたらたまらんわ!!」
梓「ゆ、唯先輩落ち着いてください!」
唯「……すーはー」
梓「だ、大丈夫ですか?」
唯「うん。ゴメンね、あずにゃん。ちょっと取り乱しちゃったよ。
でもって、落ち着いたらまたひとつ不満が出てきたんだけどさ?」
梓「ま、まだあるんですか?」
唯「いや、本当はもっとある気がするけどね。
あのさ、一億万歩譲ってわたしに告白しなかったのは許すよ。
でも途中でほかの子に浮気しだしたのはなに!?」
梓「う、浮気!?」
唯「ちがうね。よく考えたらあずにゃんって最初から、色んな子にツバつけてたよね?」
梓「ツバをつけるって……人をそんな尻軽女みたいに言うのはやめてください」
唯「へえ……じゃあ聞くけど軽音部に入ったころはあずにゃん、わたしのこと好きだった?」
梓「……!
そ、それは……その、正直あまり好きではなかったですけど」
唯「うんうん、わたしも嫌われてたもんだよねえ」
梓「で、でも今は唯先輩が一番大好きです!」
唯「でも初期は澪ちゃんラブだったんでしょ?」
梓「…………」
唯「そうだったんでしょ?」
梓「……はい」
唯「まったくあずにゃんは気軽だよねー。
そんなホイホイ女の子に寄っては弄んじゃってさあ」
梓「……」
唯「憂なんてわたし一筋で何年生きてきてると思ってるの?」
梓「ちょ、ちょっとまってください」
唯「なに? なにかわたし、間違ったこと言った?」
梓「たしか憂だって原作では和先輩に、『和ちゃーん』とか呼んで抱き着いてましたよね?
それにアニメでは唯先輩と同じでわたしに抱き着いてきたりだとか……」
唯「あのね、あずにゃん。それは仕方ないことなんだよ」
梓「仕方ないこと?」
唯「そう、どうしようもないことなんだよ。
連載が長く続いたりして、ネタが無くなってきて苦し紛れのネタとしての『和ちゃん』だったり。
テキトーに姉妹だから似たような癖つけとけばいいみたいな、安易な萌えネタを付加されたりとか。
そういうのは仕方ないんだよ」
梓「お、大人の事情……!」
唯「それに憂の場合は連載が続いたりアニメ続編の産物みたいなものであってね。
あずにゃんみたいに二週間やそこらで、澪ちゃんからわたしに乗り移るようなのと一緒にするのは失礼だよ!」
梓「ぐっ……」
唯「ほかにもさあ。りっちゃんのこともそうだよねえ」
梓「律先輩? わたし、律先輩とは特になにも……」
唯「ここに来てとぼけるなんて、あずにゃんも往生際が悪いなあ」
梓「ど、どういうことか説明してくださいよ!?」
唯「いいよ、バッチリ教えてあげる」
唯「わたしが二年の頃、つまりあずにゃんが一年の頃のことだね」
梓「……」
唯「たしか文化祭前にみんなで初文化祭ライブを見てたよね?
覚えてるよね、もちろん?」
梓「……覚えてますよ、ええ」
唯「で、ビデオを見終わったあとか見てる最中か忘れたけど。
りっちゃんがさ、あずにゃんの首に腕を回したんだけど覚えてる?」
梓「だから覚えてますって」
唯「全然イヤそうな顔しなかったよね? ねえ?」
梓「そ、それは……」
唯「ほかにもさあ。
ロミオとジュリエットで、りっちゃんがジュリエットの役に決まったことをあずにゃんに教えて……」
梓「…………」
唯「またもや首に腕を回され、今度はグリグリされてるのにニタニタしやがってえ!」
梓「そ、そうでしたっけ?」
唯「自覚がないんかい!?」
梓「いや、なんだかそのときは先輩たちと最後の文化祭だと思って憂鬱なキモチになってたんで……」
唯「無自覚なの!? 鈍感なの!? ギャルゲーの主人公なの!?
聞いたことないよギャルゲーの主人公がツインテールなんて!?」
梓「あの……落ち着いてください先輩」
唯「こふー……こふー」
梓「……落ち着きましたか?」
唯「うん。でも落ち着いたらまたイライラする要素を見つけちゃったんだけど」
梓「唯先輩、そんなに記憶力よかったですか?」
唯「アニメ二期後半とか原作後半とかでさあ、あずにゃん、ついにはムギちゃんともヤッちゃったよね?」
梓「なんにもしてませんよ!?」
唯「へえ。原作じゃあムギちゃんに抱き着かれて鼻血出してなかったっけ?」
梓「あ、あれは……ちょっと胸が……」
唯「なに、あずにゃん真面目になんなの!?
ムギちゃんに『当ててんのよ』とか言われたの!?」
梓「言われてないですけど……言われてたらどうなんですか?」
唯「それならまあ、鼻血出ても仕方ないかなあとは思うよ」
梓「言われました」
唯「嘘つくな」
梓「すみません」
唯「ていうか、わたし的にはむしろ、アニメのが問題だよ」
梓「なにかありましたか? アチラは健全に終わったような気がするんですけど」
唯「あずにゃんさあ。ムギちゃんの顔が目の前に迫ったら……
『ムギ先輩目ぇ大きいなあ』とかなんだの言ってうっとりしだすしさあ!
なんで毎回抱き着いてるわたしに対するコメントはないのに、ムギちゃんにはあるの!?」
梓「いや、なんかムギ先輩と二人きりだったから緊張して意識しちゅって……」
唯「意識して……?」
梓「へ、変な意味でじゃないですよ!」
唯「だいたい普通、あのタクアンフェイスが目の前にあったら目じゃなくて
その上にある眉毛に目が行くだろ!? なんで目にしか触れないんだよ!?」
梓「……なんででしょうね?」
唯「はあはあ……もう、あずにゃんなんなの!?」
梓「知りませんよ」
唯「アニメ二期ではなぜか主役であるわたし視点じゃなくて、あずにゃん視点だから
アニメ最終回をイヤでも意識させられて鬱にさせるし……」
梓「それは本当に知りませんよ」
唯「だいたい原作、アニメ、終了までにくっついてたらきっと続編なんてなかっただろうに……」
梓「続編イヤなんですか?」
唯「大学行くのめんどくさい。
正直印税だけであとは余生をすごすつもりだったのに……」
梓「…………」
唯「どうせ連載再開したら、新しい部員とイチャイチャするんでしょ?」
梓「し、知りませんよそんなこと」
唯「まったく……原作にあった澪ちゃんとムギちゃんの絡みはアニメでやらないのに、
あずにゃん関連はアニメできっちりやるし」
梓「…………」
唯「ていうか、もとはなんの話をしてたんだっけ?」
梓「たしかわたしの告白がどうこうという話でした」
唯「そう、それ」
唯「あのね、あずにゃん。今さら告白しても雑誌が違うからイチャつけないんだよ」
梓「さっきも言ってましたけど、雑誌外でイチャイチャすればいいじゃないですか?」
唯「なに、たとえば?」
梓「こんな感じで」
…………………
……………
唯「いやあ、昨日もあずにゃんとハッスルしちゃったよ」ハハハ
澪「は、ハッスル///」
律「おさかんだねえ、二人とも」
唯「えへへ」
……
…………
梓「みたいな?」
唯「いや、ダメでしょ。なにこの事後報告みたいなの。
ほとんど想像にお任せください状態じゃん」
梓「オタクなんて1パーセントの事実と99パーセントの妄想で自分の世界を構築してるから大丈夫ですよ」
唯「……ていうか、あずにゃんはそれでいいの?
わたしと堂々とイチャイチャしたくないの!?」
梓「わたしだってそりゃあ唯先輩とイチャイチャしたいですよ!
でもどうせ雑誌が違うからたとえソチラに出演したとしても
黒く塗り潰されてたりモザイクかけられたり、コマの外にわたしだけいたりするんですよ……!」
唯「ちょっとそれ見てみたいね」
梓「わたしも一瞬だけそう思ってしまいました」
唯「はあ……どうしたらいいんだろうね?」
梓「どうしたらわたしたちイチャイチャできるんでしょうね」
唯「アニメ三期とか劇場版に期待するしかないのかな……」
梓「悲しいですね」
唯「うん……」
梓「唯先輩」
唯「なあに?」
梓「一緒に死にませんか? 死んだらいつまでも一緒にいられますよ」
唯「あずにゃん……」
唯「そうだね。なんだかんだ言ったけどわたしもいつまでもあずにゃんと一緒にいたいよ」
梓「唯先輩、わたしも先輩と一緒にいたいです」
唯「いつまでも一緒にいてくれる?」
梓「一緒にいますよ。それに……」
唯「それに?」
梓「二人きりで死ぬからわたしたちの間をジャマする人は誰もいません」
唯「あずにゃん……」
梓「唯先輩……好きです」
唯「わたしもだよ、大好きだよあずにゃん……」
………………
…………
……
かきふらい「……とか言う夢を見たんで、やっぱり別々連載はなしって方向にしてもらえないですかね?」
編集「うん、それ無理」
かきふらい「ですよねー」
編集「まあ今までより労力が増えて大変だろうけどカンバレ」
かきふらい「はい……はあ……ゆいあずぅ……」
お わ り
最終更新:2011年04月01日 20:54