澪「嘘だよ」

唯「嘘なの?」

澪「うん、嘘。今日はエイプリルフールだし」

唯「そうだったのか~ とりあえずもう遅いし一緒に帰ろ?」

澪「あ、ごめん先に帰ってて」

そういって唯を先に帰した私は一人涙した

「唯に嘘ついちゃった…」

嘘というのが嘘

本当の気持ちを伝えたのに返事が怖くなって逃げ出した臆病な私

唯が好き

この気持ちが嘘ならばどんなに楽だろうか

この気持ちに、自分自身に、嘘をつければどんなに楽だろうか

だけど同い年の女の子に恋をしたのは本当だった


唯は私の告白を聞いて戸惑っていた

いつも見せないような顔で

その顔を見て突然怖くなった私は逃げてしまった

仮に断られてしまったら?

仮にOKでもどうしたらいい?

何もかもがわからなくなったし
今までの唯との関係が音をたてて崩れ落ちる気がしたからだ

いつから好きになったんだっけ?

思い出をたどっていく

………………

わからない

いつから好きなのか

いつの間にか好きになってたんだ

唯とのたくさんの思い出が涙と一緒に溢れてくる

去年のこの日は唯に誘われて遊園地に行ったっけ

そういえばこの日に何かあった気がする

私は記憶をたどっていった


―――――――――

――――――

―――

唯「ごめん、澪ちゃん待った?」

唯が息を切らせて駆けてくる

澪「自分から誘っておいて遅刻か?」

唯「いやー今日が楽しみでなかなか寝られなくてさ」

私と行くのがそんなに楽しみだったのだろうか?

なんか照れくさいから照れかくし

澪「小学生かよっ」

唯「えへへ、まぁね」

いつも通りの笑顔だった

澪「あ、バス来たぞ唯」

唯「私が遅刻してちょうどいいかんじになったね」フンス

澪「ちょっとは反省しなさい」

そう言って唯のおでこを人差し指でツンとつついた

唯「ごめんごめん」

唯は頭をかきながら照れくさそうだ

澪「ふふっ…早く乗るぞ」

唯と私は空いているバスの座席に座った

澪「いくらだっけ?」

唯「250円だよ!」

澪「ありがとう」

唯「下調べは完璧だからね」

澪「唯にしては珍しいな」

唯「今日は大事な日になるから…」

意味深に唯がつぶやいた

澪「え?」

唯「あ、えと、だって春休み最後のお出かけだもん」

澪「唯らしいな」

さっきのはとくに深い意味はないのかな?


澪「あ、両替しなきゃ」

私はバスが曲がっている途中なのもおかまいなしに立ち上がった

唯「澪ちゃん危な…」

案の定私はバランスを崩して転びそうになったが
唯が私を抱きしめて支えてくれた

唯「危ないところだったね澪ちゃん」

澪「あ、ありがとう」

ただ、唯の手の位置が…

澪「唯…そろそろ離してくれるとありがたいな」

唯「あ、ごめんね」

澪「いやいや唯は謝ることなんかないよ」

そう言って両替しに行った背後から

唯「や、柔らかい…」

と聞こえてきた

そういえば胸を唯に揉まれるのは初めてだ

あったらあったで問題なのだけれども…

不思議と嫌なかんじはしなかった

私が両替から帰ってくると唯は手の平を見つめ、指を動かしていた

澪「どうしたの?」

唯「柔らくて大きかった…澪ちゃんの…」

澪「やめてくれ」

恥ずかしくなって唯の手を取り押さえた

唯「想像してたよりずっとすごかったよ」

澪「想像してたのか?」

唯「うん」

あまりにも即答だったので顔背けて一言

澪「もう、ばか」

唯「えへへ」

そんなやり取りをしてるうちに目的地である遊園地についた

バスを降りるとさっそく唯は元気いっぱいだ

唯「よーし、澪ちゃん遊ぶよ!」

澪「ちょ、唯!」

唯に手を引かれるがままについていく

唯の手は温かい

握っていると不思議と安心する

バスの中でも取り押さえたままバスを降りるまで気づかずに握っていたほどだ

そんなことを考えていたらオバケ屋敷に連れ込まれていた

澪「本当に入るの?」

唯「澪ちゃんがどうしてもって言うならやめるけど」

唯の手を強く握りしめて決心した

澪「私、入る」

唯「じゃあ私を頼りにしててね!」

澪「うん」

小さく頷きオバケ屋敷に入った

中は想像以上に薄暗く、すべて作り物だとわかっていても怖くてしかたなかった

唯「大丈夫だよ澪ちゃん」

唯がさらに強く手を握りしめてくれたが怖いものは怖い

澪「…………」

悲鳴をあげるか黙って唯の手に引かれていくかそれしか出来なかった

唯「澪ちゃん澪ちゃ…はわっ!」

澪「ひっ!」

唯が何に驚いたのかもわからないけれど
唯の驚く声に、泣きそうになりながら唯の腕にしがみついた

澪「今のなぁに?」

かすれそうな声で私はつぶやいた

唯「いや、ちょっと躓いちゃって…」

そんなこんなで途中から泣きながら唯の腕にしがみついていた記憶しかない

唯「澪ちゃん無理に入れちゃってごめんね?」

唯がさりげなくハンカチを差し出しながら言った

澪「ううん…入るって言ったの私だし…」

唯のハンカチで涙を拭いながら答えた

唯「でも澪ちゃん可愛かったよ」

澪「ばかぁ」

唯「うん、澪ちゃん元気になってきたね」

  「じゃあ次行こうか」

澪「どこに?」

唯「澪ちゃんはどこがいい?」

澪「うーん…ジェットコースターは?」

唯「でも澪ちゃん苦手じゃないの?」

澪「苦手だよ」

  「でも唯が好きって言ってたし、アレよりはマシさ」

さっきのオバケ屋敷を指差して言った

唯「それもそうだね…」

澪「うん」

私は唯にハンカチを返し立ち上がった

唯「じゃあ行こうか」

そう言うと唯は私の手を取った

唯「ここのジェットコースター面白いらしいよ」

唯がニコニコしながら嬉しそうに、興奮気味に言った

澪「面白いってことは怖いのか…」

唯「苦手な人も好きな人も楽しめるんだってさ」

澪「下調べしたのか?」

唯「もちろんだよ」

私の苦手なものの多い遊園地で
私でも楽しめるように調べてくれた唯に少し感動した

澪「ありがとな唯」

唯「どういたしましてっ」

  「あ、澪ちゃん順番だよ」

澪「え?唯もしかして私たち…」

まさかの先頭だった

唯「一番前なんてワクワクするね♪」

澪「……うん」

座って準備をして前を見た

レールと登って行く先がよく見える

心臓が裂けるんじゃないかとさえ思うくらい早く動いてる

そして私たちを乗せたジェットコースターは動き始めた


急角度の坂を登っていく

ときどき途中でジェットコースターの動きが止まる
そのたびに落ちるんじゃないかとびくびくした

そして頂上がじわじわと近づいてくる

この時点でまたしても泣きそうだったけど隣の唯が私の手を握って言った

唯「私はいつでも澪ちゃんの隣にいるからね」

少し気持ちが落ち着いたその瞬間、体が浮いたような状態になった

私は唯から目を逸らし前を見た

ものすごい風が顔を叩く

目はカラカラに乾いて涙が

耳は轟音でよく聞こえず

鼻は息をしてるのかしてないのかわからない

口をギュッとくいしばる

レールのうねりを見つめて

早く終われと願い続けた

・・・・・・・・・

目を覚ますと唯の顔を下から見上げていた

澪「あれ? 私?」

唯「澪ちゃんが降りたあと気分悪いって言ったからベンチに座って休んでたんだよ」

澪「そこらへんのことは覚えてないな」

唯「ベンチに座った直後に寝ちゃったからね」

どうやら私は自力でジェットコースターは降りたらしい

下唇を噛み締めていたからか口の中に血の味がした

意識を失わないように必死だったのだろう


唯「澪ちゃん?」

澪「うん、大丈夫だよ」

起き上がろうとすると唯に止められた

唯「まだしばらく休んでた方がいいよ」

澪「でも時間は?」

唯「まだたくさんあるから安心して」

澪「じゃあもう少しこうしてようかな…」

唯のひざ枕が心地いい

もう少しだけこうして甘えていよう


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最終更新:2011年04月02日 23:05