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事の始まりは、金曜日の部活終わりだった。

澪「みんな、明日は何か予定あるか?」

律「いや、別に~」
唯「私はヒマだから家でのんびりする予定~」

梓「唯先輩はいつもですよね・・・てか勉強は」

澪「・・・ムギは?」

紬「私も夕方までなら空いてるかな」

律「でも、澪から遊びの誘いって珍しいな」
唯「あ、もしかして澪ちゃんも昨日のテレビ観たの?
  駅の反対側に最近オープンした新しいアイス屋さんが大人気なんだって!」

澪「バカ、そんな訳ないだろ。・・・ミーティングをやろうと思うんだ」

唯「みーてぃんぐ?」

澪「そう。学祭ライブに向けたミーティングと練習」

律「なんでまたいきなり」

澪「私たちは受験生だから仕方ないけど、今年はどうしても勉強中心で練習時間が削られてるだろ。
  正直、このままじゃ学祭でちゃんとした演奏ができるかどうか怪しいんじゃないかって」

律「普段からちゃんと練習しないからいけないんだぞ」

澪「後でちゃんと殴るからな。・・・で、ちょうど新曲が出来上がったことだし、
  明日は休日返上でライブの構成決めたり新曲の練習とかやりたいんだ」

律「ぶーぶー!休日は学生の権利だぞ」
唯「そーだそーだ!」
紬「クリームソーダ?」

がん☆ごん☆

律「くぁぁぁぁ・・・何故私だけ、しかも2発」

澪「さっきの分も込みだ」

澪「という訳で、明日は9時に部室に集合ってことでいいな」

律「へーい」
唯「はーい」
紬「うん!」

澪「梓もいいよな?」

梓「あ、はい。大丈夫です」

もちろん、断る理由なんてなかった。
今の私に、部活より優先するようなイベントなんてあるはずがない。

・・・そのはずだった。



その日の夜。
意外な相手からの電話に私はベッドから飛び起きた。

『やっほー、梓。久しぶり♪元気にしてる?』

電話の先の相手は、中学の時仲が良かった友達の一人だった。
卒業後は進路が分かれ、彼女は隣県の高校に進学した。
高校入学当初は、お互いに無理矢理時間を作って遊ぶこともあったが、
それぞれの新しい人間関係の拡大や、相手に彼氏が出来たりしたことなどから
徐々に疎遠になっていき、最近は電話やメールのやりとりも途絶えていたのだ。

梓「びっくりしたよ~ホント久しぶりだね」

お互いの近況や、他の友達のことなど、他愛もない話で盛り上がる。
ちなみに例の彼氏とはあの後程なくして何もないまま終わったとのこと。ざまみろ。

『ところでさ、明日とかって・・・暇だったりする?』

梓「えっ・・・?」

明日。

『私が企画したんじゃないんだけど、何かたまたま予定が合うヤツが多いみたいで、
 明日急遽集まらね?って話になってんの』

明日は・・・

『私もちょうど都合が良くて。他にも来られそうなヤツ片っ端から声かけてみてって言われたから、
 まず梓に連絡してみたんだけど』

部活の、ミーティングが・・・

『あ~やっぱ急すぎて無理っぽい?アンタも結構忙しそうだしね・・・』

新曲の、練習が・・・

『でも結構メンバー集まるよ?元クラスの女子だと来られない人数の方が少ないくらいだし。
 もはやプチ同窓会みたいなノリで騒いじゃおうって感じ』

梓「そ、なんだ」

・・・だけど。

行きたい。行きたいに決まってる。
高校に入ってから一度も会ってない友達も数人来るらしい。
来年になって、お互いに受験生の身分になったらなおさら行動が制約される。
こんな機会、もう二度と無いかもしれないのだから。

『それで・・・どうする?』

梓「もちろん・・・行くに決まってるよ。久しぶりにみんなの顔見たいもん!」

『だよね!良かったぁ。私も久しぶりに梓と会うの楽しみにしてるね♪』

梓「うん、じゃあ明日ね」

そうして電話が切れる。
携帯のディスプレイには1時間半を超える通話時間が記録されていた。

梓「あちゃあ・・・」

来月、お母さんのカミナリを覚悟しておく必要がありそうだ。

梓「さて、と」

とりあえず、ダブルブッキングを解消すべく軽音部の先輩に明日行けない旨を・・・

そこでふっと気づく。

梓「いやいや・・・」

言えるわけ、ないじゃん・・・

澪先輩から・・先輩から直々に言い渡された休日集合を、
後輩の私が「友達と遊ぶんで無理です」なんて理由で断れるわけがない。

梓「バカだな、私って」

ため息をつきながら、携帯の着信履歴を開き、ついさっきまで話していた友達の番号にコールする。

『あれ、梓?どうしたの?』

梓「ん、ごめんね、ちょっと・・・」

『もしかして、やっぱり行けないんだ~とか言うつもりじゃないよね?』

梓「いや、あの・・・」

『やめてよね?もう他の人にも一通り話しちゃったんだから。
 梓が来るなら行くってヤツもいるし。人気者だね、アンタ』

梓「・・・」

『それで、何の用なの?』

梓「いや、明日行くのはいいけど、場所とか時間とか聞いてないし・・・」

『あれ、言ってなかったっけ?ごめんごめん、えっとね・・・』

梓「ん、おっけー。そっちこそ遅れずに来てよね」

再び、電話が切れる。

梓「どうしよう、言えなかった・・・」

とはいえ、大して後悔はしていなかった。
相手のペースに流されるままだったのは、そもそも積極的に断る気持ちがなかったから。

絶対に行きたい、友達との約束。
絶対に断れない、先輩との約束。

だったら・・・


梓「嘘、ついちゃおうかな」

風邪でもひいたことにして、部活に行けない合理的な理由を作れば。

でも、それは・・・

自分の中の理性と欲望が入り交じり、行動をためらわせる。
天使と悪魔が頭の中で囁くっていうのはこういうことなんだろう。


白あずにゃん「あんなに優しい先輩方を騙して、裏切るようなことなんて出来ないよ」

黒あずにゃん「じゃあ昔からの友達を裏切るのはいいの?みんな会えるのを楽しみにしてるのに」

白あずにゃん「もっとちゃんと練習しようって言い続けてたのは他でもない、私なんだよ」

黒あずにゃん「練習は放課後でも、来週でもいくらでもできるじゃん。こんなチャンスは二度と無いかもよ」


梓「・・・」


私の心は、黒あずにゃんの方に惹かれていってしまったようだ。

・・・そうだよ、明日を逃したら二度と会えないかも知れない。
付き合いが悪いと愛想尽かされて、縁を切られちゃうかも知れないんだ。

黒あずにゃん「大丈夫、たった1回サボったくらいどうってことないよ」

黒あずにゃん「私は唯先輩や律先輩と違って普段しっかり練習してるから、少しくらい出遅れたって余裕だよ」

黒あずにゃん「とにかく・・・明日私は部活の練習より、友達と遊びたいんだ。そうでしょ?」

・・・うん、そうなんだ。

新規メール画面を開き、嘘だらけの本文を手早く打っていく。

『家に帰ってから、少し気分が悪かったので計ったらちょっと熱が出てました。
本当に申し訳ないんですけど、明日の練習は行けないかも知れないです』

それを4人の先輩に同時送信する。
即座に4通の返信。

律『おいおい大丈夫かぁ?とにかく暖かくしてさっさと寝るんだぞ』
澪『練習のことは気にしなくていいから。早く治すことだけ考えて』
紬『梓ちゃん大丈夫?こじらせないようにゆっくり休んでね』
唯『あずにゃ~~~ん!心配だよう。
  今からお見舞い行こうか?何か食べたいのある?』


梓「うう・・・」

白あずにゃんが残した良心がひしひしと痛む。
しかし、もう後戻りはできない。

『みなさん、ありがとうございます。そんなに酷くはないと思うので、全然大丈夫です。
 念のため、明日の昼から病院に行ってみようと思います』

・・・とりあえず、この嘘は信じてもらえたようだった。

「昼から」と言ったのは友達との約束も午後からだったからだ。
明日は両親ともに朝から終日外出してるし、もしも午前中誰かがお見舞いに来てもどうにかごまかせるだろう。

友達との待ち合わせ場所も、先輩たちの通学ルートや普段遊ぶエリアからは離れている。
おそらく、鉢合わせることはないはずだ。

梓「ごめんなさい、先輩方。私どうしても・・・」



翌日、土曜日。

昨夜は結局まともに寝付けなかった。

待ち合わせ場所への移動は内心びくびくしながらであったが、
到着し、懐かしい顔と再会した途端にそんな不安はどこかに吹き飛んでしまった。

ゲーセンで遊んで、カラオケで騒いで(さすがに少し自重したけど)、
わいわいご飯食べて、買物で散財して。

時間を忘れるほどに盛り上がった。

あっという間に日も暮れ、そろそろお開きの時間。
十数人の集団が、それぞれの方向に少しずつバラけていく。

『じゃーねー、梓。冬休みになったら時間作るからまた遊ぼうよ』

梓「うん、私もその時は時間作るよ。またね!」

別れの寂しさと、楽しい時間の余韻。

しかし、そんな気分も次の瞬間、一瞬で砕け散ってしまう。

梓「・・・え?」

突然、背中に突き刺さるような鋭い視線を感じた。
射すくめられたような恐怖が全身を襲う。

恐る恐る、後ろを振り返ってみる。

・・・誰も、いない。

『おーい、梓~』

・・・気のせい、だった?

『梓ってば!』

梓「うわっ!な、なに?」

『・・・何か顔色悪いよ?どうしたん?』

まだ残っていた友達が、心配そうな顔で話しかけてきた。

梓「ううん、何でもない。ちょっとはしゃぎすぎて疲れちゃったのかも」

『何老け込んじゃってんだか』

梓「・・・うるさいな」

そうだよ。何をびびってんだろ、私。

『あ、そういえばさ』

思い出したように友達が言う。

『さっき、あっちの角を曲がった先にあるアイス屋で、桜高の制服着た人見かけたよ』

梓「え・・・」

『3人組で、二人はギターのケースみたいなの背負ってたから、ひょっとしたら梓の知り合いだったのかなって』

嘘、まさか・・・

梓「・・・それって、どんな感じの人たちだった?」

『えっとね・・・ギター背負った子が店の前ではしゃいでて、それをヘアバンドした子がなだめてたよ。
 そんで、もう一人ギター背負ったロングの子がそれ見て呆れてた!』

梓「あ、あ・・・」

『知り合いと一致する?』

梓「うん・・・いやぁ、どうかな?うちは軽音部の他にジャズ研ってあるから、そっちの人かも・・・」

『へぇ、そうなんだ』

梓「・・・ごめん。そろそろ私も帰るね。なんだか本当に疲れちゃったみたいで」

『ん、分かった。バイバイ』

・・・どうしよう。どうしよう。
たぶん、間違いない。澪先輩たちだ。

でも、なんで・・・

その時、昨日の部室でのやりとりがフラッシュバックした。

『でも、澪から遊びの誘いって珍しいな』
『あ、もしかして澪ちゃんも昨日のテレビ観たの?
 駅の反対側に最近オープンした新しいアイス屋さんが大人気なんだって!』

梓「新しい・・・アイス屋さん」

やっぱりそうだ。
唯先輩のことだから、きっと練習後にだだこねて、律先輩と澪先輩と一緒に・・・

梓「やばいよ、これ・・・」

嘘ついて、練習サボったのがバレちゃった・・・

梓「そ、そだ!メールでっ」

慌てて携帯を取り出す。
とにかく先輩たちにメールを送ってみよう。

『みなさん、ご心配おかけしました!
今朝の時点でほとんど熱も下がってたのですが、念のため病院で診てもらいました。
特に問題なかったので、月曜日は学校に行けそうです。新曲、楽しみにしてますね。
元気になったので、今から昨日唯先輩が言ってたアイス屋さんに行ってみようと思います』

・・・こんな感じでいいかな。

上手くごまかせるかも知れないし、もしかしたら笑って許してくれるかも・・・

もしバレてても、唯先輩なら・・・

頭の中で、理想的な返信を思い浮かべる。

『あずにゃん、見~て~た~よ~!練習サボっちゃうような悪い後輩は明日一日
猫耳つけて猫語しか喋っちゃいけない刑に処すから覚悟しとくよーに!!』

いいです、いいですから!
明日は猫耳強制されようが抱きつかれようが文句言いませんから、だから・・・

梓「お願いっ!」

祈るように送信ボタンを押す。

しばらくして、メール着信を示すランプが点灯した。
着メロの流れる暇も与えず即座に画面を開く。

『着信:1件』

『梓ちゃん、ひどい風邪じゃなくて安心しました。だけど、油断しない方がいいよ。
今日はあんまり出歩かない方がいいんじゃないかな?
新曲はみんなの評判が結構良くてうれしかった。梓ちゃんも気に入ってくれるとうれしいです』

梓「うう、ごめんなさい。ムギ先輩・・・」

ムギ先輩は夕方から用事があるとのことだったから、早めに切り上げて帰っていたのだろう。
問題は、他の3人の先輩たちの反応。

しかし、なかなか返信が来ない。

携帯を握りしめたまま家路を急ぐ。
結局、家に帰り着くまでの間も、そして帰り着いてからも。
待っていた返信が届くことはなかった。


翌日、日曜日。

目が覚めて、即携帯をチェックする。
いくつか来ていた友達からのメールを読み飛ばし、お目当てのメールを探すが・・・

梓「はぁ・・・」

これはもうそういうことだろう。

梓「すごく怒ってる、よね・・・」

そう考えると昨日のメールは逆効果もいいところだ。

バレたのが分かって取り繕うために送ったというのがミエミエ。
火に油を注ぐようなもの。

動揺のあまり自ら墓穴を掘ってしまったことになる。

梓「なんで、こんなことしちゃったんだろう・・・」

とにかく、直接会って謝ろう。
・・・そもそも、会ってもらえるかどうか分からないけど。

とりあえず唯先輩の家に行ってみることにした。

唯先輩なら最悪追い返されることはないはずだ。
それに、憂に間に入ってもらえば少しは話しやすくなるかもしれないし・・・


唯&憂の家。

梓「・・・こんにちは」

憂「あ、梓ちゃん。どうしたの、何か用事?」

梓「う、うん。ちょっと唯先輩に話があって」

憂「お姉ちゃんに?ちょっと待ってね」

憂「お姉ちゃ~ん、梓ちゃんが来たよ~!お話があるんだって」

唯「・・・」

憂「お姉ちゃん?」

唯「・・・お、おかけになった電話番号は現在使われておりません、よ~」

二階から中途半端に声色を変えた声が聞こえた。

梓「・・・」

憂「・・・」

梓「・・・やっぱり、私帰るね」

憂「えっ?いや、ちょっと待っててよ!今お姉ちゃん呼んでくるから」

半ば無理矢理に憂に家の中に引き込まれる。

二階から拒む姉と説得する妹とのやりとりがしばらく聞こえた後、
階段を下りてくる2つの足音が続いた。

梓「唯先輩・・・」

唯「・・・」

今日の唯先輩は、いつものように抱きついては来なかった。
その顔は、普段めったに見せないような真剣な眼差しで、その眼には明らかに分かる非難の色があって。

梓「あの、先輩」

唯「・・・私の部屋で話そっか、中野さん」

梓「えっ」

なかのさん・・・?


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最終更新:2011年04月14日 22:06