その後、先輩は特製のラベンダーティーを淹れてくれた。
気分を落ち着かせる効果があるらしい。
その温かさに涙が出そうになったが、これ以上ムギ先輩に心配かけたくないので、何とか耐えきった。
しばらくして・・・
扉の向こうから、急ぎ足で階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
慌てて立ち上がり、訪問者を待ち構える。
ガチャッ!
唯「あ~ずにゃ~んっ!」
梓「わわっ!」
ものすごい勢いで部室に飛び込んできた唯先輩が、ものすごい勢いで抱きついてきた。
梓「せ、先輩、ちょっと・・・」
唯「ごめんねぇ~、あずにゃん・・・
よく考えたら私もテストボロボロだったの忘れてたよ・・・」
梓「・・・冷静に考えたら予想できた話でしたね」
唯「あっ・・・でも、その様子だとムギちゃんとは仲直りできたんだよね!?」
梓「あ、はい。それは・・・」
紬「ふふっ、私はもともとそんなに怒ってなかったけどね」
唯「・・・あっ、何だかきれいな色のお茶!あずにゃんだけずるい!
ムギちゃん、私にもちょうだい!」
紬「はいはい、今唯ちゃんの分も淹れるね」
梓「・・・はぁ」
律「・・・おーい、そろそろ私も入っていいかぁ?」
梓「わぁっ!」
突然後ろから聞こえてきた声に飛び上がって後ずさる。
梓「り、律先輩・・・お疲れ様です!」
律「ん・・・おーっす」
唯「りっちゃんにはこっちの話が終わるまで少し待っててもらったんだよ」
梓「そ、そうなんですか?」
律「そのまま忘れられたかと思ったけどな・・・で、梓。
次は私の番か?」
律先輩もムギ先輩と同じように、ある程度は唯先輩から話を聞いているんだと思う。
それでも、謝らなければいけないことに変わりはないけど。
梓「あ・・・そのっ・・・」
律「・・・」
梓「律先輩、すいませんでした!
正直に言わずに、嘘ついてごまかそうとしたりして・・・」
律「わかった。・・・梓、ちょっとこっち来い」
律先輩は強い口調で、私に窓際まで来るように命じた。
梓「な、なんですか・・・?」
律「いいから、早く来なさい」
梓「は、はい・・・」
おそるおそる従い、先輩の正面に移動する。
梓「先、輩・・・?」
律「よし梓。目を瞑って歯を食いしばれ」
梓「えぇっ!」
唯「り、りっちゃん、まさか・・・」
律「・・・部長として、けじめはつけなきゃいけないから」
梓「ひっ・・・」
言われたとおりに目を閉じ、下を向く。
今からひっぱたかれるのかな。
・・・そういう覚悟が、まったくなかったわけじゃないけれど。
唯先輩にムギ先輩、2人続けて優しく許してくれたから、
どこかで律先輩や澪先輩もこんな感じで許してくれるんじゃないかって期待があった。
でもそれは、ただの甘え。希望的観測でしかないんだ・・・
だけど・・・怖いよぉ・・・
ガタガタと体が震えているのが自分でも分かる。
紬「りっちゃん・・・」
律「いいから、黙って見てろ」
律「・・・じゃあ、行くぞ」
梓「は、いっ・・・」
ばちんっ☆
梓「!?」
梓「いっ・・・い・・・」
梓「いったぁぁぁいっ!」
いきなり額に炸裂した予想外な痛みに無意識にしゃがみこみ、絶叫する。
律「やったぜっ!」
唯「どっきりっ!」
紬「大成功~!」
梓「ど・・・どっきり?」
まだ痛む額をさすりながら、どうにか立ち上がる。
律「ふふふ・・・どうよこのデコピンの威力。聡を実験台にして改良を重ねた甲斐があったってもんだぜ」
梓「えっ・・・えっ?」
紬「梓ちゃん、大丈夫?」
唯「すごい音したねぇ」
梓「・・・律、先輩、怒ってたんじゃ・・・?」
律「ん・・・そりゃまぁ、怒ってたのは怒ってたけどさ。
でも、生意気な後輩への罰ならこれくらいで十分っしょ」
梓「・・・」
律「唯から色々話聞いてたしな。
説教しなきゃいけないことはもう唯と・・・多分ムギとでほとんど言っちゃってるだろうし。
だったらこれ以上私が言うようなことは何もないだろ?」
梓「・・・」
律「だから、お仕置きに1発デコピンかましてそれでもうチャラってこと」
梓「な・・・なんですか、それ・・・」
律「え?」
梓「どう、反応っ、したら・・・いいのかっ・・・わからなっ、ですっ」
律「あ、梓?」
梓「いたい、よぉ・・・ひっぐ・・・」
デコピンの痛みで、今まで我慢していた涙腺が一気に崩壊したみたいだ。
痛みと安堵がごちゃ混ぜになって、止め方が分からない。
律「ちょ・・・あれ?ひょっとしてマジで痛かった?」
唯「もう、りっちゃん、やりすぎだよ!」
律「わああ、ごめんっ、梓!泣くなぁっ!」
律「・・・落ち着いたか?」
梓「・・・はい」
律「・・・正直、すまんかった」
梓「いえ・・・やっぱり、そもそもの原因は私ですし」
律「・・・」
紬「後は、澪ちゃんだけ、なんだけど・・・」
梓「そう・・・ですね」
律「とんだラスボスが出てきたもんだよ。
今日一日、うちらでさえまともに話できなかったしな」
唯「澪ちゃん、何でか分からないけどすごく怒ったままなんだよね・・・
私の説明もほとんど聞いてくれなかったし」
律「・・・ま、分からないことはないんだけどさ」
唯「え、何か言った?りっちゃん」
律「いんや、独り言」
紬「・・・」
梓「土曜日の練習を言い出したのは澪先輩ですから・・・
それは、一番怒ってて当然だと思います」
唯「あずにゃん・・・」
律「それはそうなんだけど、な」
律「・・・梓」
梓「は、はい」
律「うちらも横にいてフォローはするけど、
結局最後はお前と澪が直接話して解決するしかないだろうから」
梓「・・・分かってます」
唯「頑張って、澪ちゃんとも仲直りしようね!」
紬「澪ちゃんもきっと、梓ちゃんと今まで通りの関係に戻りたいと思ってるはずだから」
梓「はい・・・ありがとうございます、みなさん」
澪「・・・私が、どうかしたのか?」
その瞬間、元に戻りかけていた部室の空気が一瞬で凍り付いた。
梓「あ・・・」
椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がり、すぐさま頭を下げる。
梓「み、澪先輩!今回は・・・本当にすいませんでした!
私、もう二度と嘘ついたりしませんから・・・その・・・」
澪「・・・ムギ、私にもお茶もらえる?」
紬「え・・・う、うん・・・今、淹れるね」
梓「あ・・・」
澪先輩は、私の方を見ようともせず、そのまま自分の定位置に座った。
律「澪、あとお前だけだぜ」
澪「・・・」
律「スパッと許しちゃえよ、もう」
唯「もう多数決で3対1だし!」
梓「先輩、あの・・・」
澪「梓」
梓「は、はいっ」
澪「立ってないで座ったら?・・・そこに立ってられると落ち着かないよ」
梓「・・・すいません」
今日ほど、このいつも通りの席配置を呪いたい日はない。
すぐ右正面に、澪先輩が座ってるのだ。
うつむいたまま、ちらちらと上目で先輩を伺うが、
まったくこちらを見てくれる気配はなかった。
律「・・・たく」
梓「えと・・・先輩・・・」
澪「・・・そういえば梓」
梓「な、なん・・・ですか」
澪「風邪の方はもう大丈夫なのか?」
梓「!」
律「おい」
梓「・・・すいません」
澪「大丈夫かって聞いてるんだけど」
梓「・・・っ」
澪「ま・・・今みんなとはしゃいでたくらいだし、大丈夫なのかな」
梓「・・・っく」
律「おい澪」
澪「・・・それとさ、ムギ」
紬「何?」
澪「あの曲、やっぱムギのオリジナルの楽譜でやった方がいいんじゃないかな」
紬「澪ちゃん!でも、あれは・・・」
澪「・・・だって、任せられないよ」
紬「そんなこと・・・」
・・・あの曲って、新曲のこと?
オリジナルがどうとか、よく分からないけど・・・
任せられないっていうのは、多分私のこと言ってるのかな・・・?
唯「澪ちゃん、もうやめようよ・・・」
澪「・・・ああ、そういえば梓は昨日唯の家に行ったらしいじゃないか。
何の用事だったんだ?」
梓「それは・・・あの・・・」
唯「・・・ち、違うんだよ!澪ちゃん!
あずにゃんは昨日憂に用事があって家に来て・・・
それでたまたま私がいたから少しお話しただけで・・・」
澪「・・・唯には聞いてないよ」
唯「うっ・・・ごめん」
梓「や、やめてくださいっ!唯先輩は何も悪くないんです!」
唯「あずにゃん・・・」
梓「私が勝手に押しかけたせいで、唯先輩にも迷惑かけちゃって・・・」
唯「そ、そんなことないよ!」
梓「悪いのは全部私ですから・・・だから・・・
唯先輩にまでそういうこと言うの・・・やめてください」
澪「・・・わかってるよ、そんなこと」
梓「そ、そんなこと、って・・・」
澪「つまり梓は・・・最初に唯、次にムギ、そして律。
謝りやすい相手から順番に片付けていったってことか」
梓「・・・」
紬「澪ちゃん!」
律「・・・そろそろいい加減にしとけよ、お前」
・・・嫌だよ、もう。こんなの・・・
なんで、どうして、こんな・・・
梓「・・・っく・・・や、もう・・・」
澪「何か汚くないか?そういうの」
梓「もうっ、いやだぁ・・・っ」
唯「あ、あずにゃん!?」
梓「いくら謝ってもっ・・・澪先輩っ・・・話も聞いてくれないし・・・」
紬「梓ちゃん・・・」
梓「私の顔っ、見てくれないから・・・」
律「・・・」
梓「どしたら・・・ひっく・・・いいのかっ、わかんなっ・・・」
澪「梓・・・」
梓「どうしてっ・・・聞いてくれないんですかっ・・・?
どうしてっ・・・分かってくれないんですかぁっ・・・」
澪「なっ・・・何もっ・・・分かってくれなかったのは、梓の方じゃないか!」
梓「わっ・・・かんないっ・・・!
澪先輩なんかっ・・・きら・・・いっ・・・」
澪「・・・梓っ!」
最終更新:2011年04月07日 23:19