この頃、あれほど支持していた軍政府への人々の信頼はすでに消え去り、

第三帝国などもうどうでもいい、こんな戦争の先にある勝利などもうどうでもいいと思う市民が大部分を占めていた。

あの時、私が運転する軍用車を見る人々の目が、覚めきっていたのを私は今でも覚えている。

和(・・・?)

和「憂?いる?」コンコン

私の呼びかけに返事をするかのように、ガチャリと重い音を立てて、ドアが開く。

しかし、そこから顔を出したのは、私の幼馴染ではなく、綺麗な黒髪を腰まで伸ばした少女だった。

澪「ああ、和か」

両親と唯が亡くなった後、憂は澪の家族と共に暮らしていた。

私としては澪とは顔を合わせずらかったものの、
彼女がいつもと変わらぬ笑顔で迎えてくれ、少しホッとした。

澪「憂ちゃんは今出かけてて・・・」

私の服装を見て、澪の表情が曇る。

澪「ママ・・・ちょっと出かけて来るね」

そう小さい声で家族に告げると、澪は扉の狭い隙間からはい出るようにして、

外に出るなり、私を建物の裏へと促した。

澪「和・・・ほんとに変わっちゃたんだな」

和「どういうこと?」

最初の笑顔から一変した澪の一連の行動の理由を、私は理解できないでいた。

澪「今、この国がどういう状況にあるのか本当に理解してるのか?」

澪「街の・・・いや、この国の人たちはみんな戦争に苦しんで、戦争を憎んでるんだ。
軍を憎んでいる人も少なくない・・・っ!?」

その時、澪が突然駆け出し、私の横を通り過ぎていった。

和「・・・っ!?」

私が振り返る直前、銃声が鳴り響き、完全に振り返った瞬間には、

目の前に腹部から血を大量に流した澪が立っていた。

和「なんで・・・こんなことに・・・・。何で澪が・・・」

私に覆いかぶさるようにして立っていた澪が、ゆっくり崩れ落ちていった。

和「どうして私なんかを庇って・・・!?」

私は足がすくんで、動けなかった。

私のつまらない浅知恵が、澪までをも死に追いやってしまったのだ。

その後のことは本当に何も思い出せない。

澪が死ぬ前に私に残してくれた言葉以外は・・・


澪「私にとって和は、律や、他のみんなと同じくらい大切な人だったよ・・・
でも、私が知ってる和は今はどこにもいない」

澪「また・・・そう遠くない未来でいいから、私が好きだった和にもう一度会いたい・・・」

澪「大丈夫・・・未来のない世界なんてないから」




~第三章 精神と心の闇~

律「そうか・・・梓やムギも唯に・・・」

梓「はい、あの真っ暗な場所から助け出してくれたのは、間違いなく唯先輩でした」

紬「唯ちゃんの声がなければ、私たちは一体どうなっていたか・・・」

律「唯は今でも私たちの中で生き続けてるんだな」

紬「でも、そうしたら唯ちゃんのあの記憶は・・・」

梓「事実・・・なんでしょうね」

律「くそっ・・・唯・・・・!!」


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私たちの中には、その体が機械と化しても、

死してすら尚、私たちを守ろうとしてくれた唯が、確かに存在した。

体をサイボーグに改造され、与えられた命令に従うだけだった私たちを救い出してくれたのは、紛れもなく唯だった。

そして今でも、もう一人の自分とでも言えるほど、彼女の温もりを自分の中に感じることができる。

だからこそ、感じられるんだ。

唯の思いを・・・そして、彼女の記憶を・・・・。


唯は、戦争のない世界を、心から望んでいた。

そして、たった一人の妹を、たとえその身が機械となろうと、
記憶を失おうと、最後まで守り続けようとした。

唯が自分を取り戻す前の記憶、その中で彼女は、顔も思い出せない、
それでも大切な思いだけは覚えている妹を・・・

顔のない天使を・・・抱きしめ、そして泣いていた。

記憶を取り戻した後、殺戮兵器となった自分に憂ちゃんを守る資格はないと、

自ら命を絶ってしまったけれど・・・

律「・・・憂ちゃんは私らが守ってやるからな。安心しろ、唯。
私らもお前と同じ殺戮兵器になっちゃったけど・・・
お前が嫌だといっても絶対に守り抜いてやる。」

律「そして、お前が思い焦がれた、戦争のない世界を実現してやるからな」

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姫子「隊長!!最後の一人がRebirthしました!!」

律「“Rebirth”か・・・。私らからしたら、“Reborn”って感じだけどな。」

律「気が付いたら、体が機械に変わってた訳だしな」

紬「だけど、心までは変わっていないわ」

律「そうだな・・・」

律「よぉーし!!それじゃあ、今から軍に対し、反抗作戦を開始する!!
      • ただし、なるべく死者を出すな」

律「この戦争を、私たちの手で終わらせるんだ!!」

GHOST隊員達「おぉーー!!!」

紬「おー!」

梓「やってやるです!」

律(やっと・・・やっと分かったんだ。

やっと・・・自分を取り戻すことができたんだ。

人は弱いものだけれど・・・決して自分を見失っちゃいけない。

人は誰だって弱い生き物で、繊細で、ちょっとしたことで傷つき、動けなくもなる。

それでも、強い意志を持たなければ、人は人じゃあ無くなるんだ・・・。

自分が、自分でいられなくなるんだ。

今の自分が、本当の自分でいるために、戦わなければならないんだ。

私たちが・・・私たちがすべて終わらせなければならないんだ。

そうだよな・・・澪

私に力を・・・貸してくれ!)


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GHOST殲滅作戦開始の少し前、彼女達がついに動き出した。

軍では、【GHOST】達の襲撃に備えて、準備が着々と進められていた。

和「遅くなりました、真鍋です」

紀美「チッ・・・。だから私はこのプロジェクトに反対したんだ」

紀美「フン・・・。さすがだな、君の友人は」

和(届くはずのない手紙が届いたあの日から・・・私は覚悟していた)

和(私こそが、人にあらざる者)


律「撃て!!」

ダダダダダダダダ・・・・・・・!!

律(砕け散るガラスは、命弾ける音・・・)

律「っ!? 伏せろ!!」

ズドォーーン!!

律(ガラス細工のように、壊れていく躯・・・)

和(腐食する躯は祈りの言葉を受け、いつかはすべての者がその運命を負う)

ドォーーン!!

梓「くっ・・・!」

律(悲しみが・・・宙を黒く染めていく)

律(もう、戻れない)

和(もう、戻れない)

律(Real or Dream? 教えてくれ・・・澪)


風子『こちらデルタ1、こちらデルタ1、救援をお願いします』

律「フゥ・・・行くぞ!!」

ダダダダダダダダダ・・・・・・!!

ズガァーン!!

梓「ぐっ・・・!? ぐぁ・・・」

律「大丈夫か?」

梓「肩がショートしましたっ・・・」

律「手を貸せ!」

ダダダダダダダダ・・・・!!

梓「もうっ・・・このままじゃ保ちません!!他の小隊もどんどんやられています!」

ヒューーン・・・・ズドォーーン!!

ズガァァァ!!

ドォーーン・・・

紬「相手は本気ねッ・・・!?」

梓「この装備はおかしすぎます!!」

梓「ほとんどの戦力は、前線に回されているはずなのにっ・・・」

律「そうだなっ・・・ハァッハァッ・・・」

紬「もしかして・・・」

律「ああ・・・おそらく軍は初めから、こういう事態を想定していたんだ」

梓「私たちが“Reborn”することを!?」

紬「唯ちゃんが失踪した原因も、私たちと同じだから・・・」

律「そのことを知った軍はその事実を隠蔽したまま、
次の計画、ツヴァイの大量生産に踏み切ったんだ。・・・不完全なままに」

梓「ということはっ・・・私たちを殲滅するための装備ということっ!?」

律「そういうことだ・・・」

律「死ぬなよ?絶対に生きて帰るぞ!!」

梓「はいっ!」

紬「うん!!」

ダダダダダダダダ・・・・

ズキュウン! ズキュウン!!

律「・・・様子がおかしい。待て! 撃ち方やめ!!」

律(この音・・・)

梓「どうしました?」

ドオンッ!! ヒューーーーーーン!!!!

律「伏せろぉーー!!!」

ズッガァァァアーーーン!!!!!

律(くっ・・・)

律「聞こえるか? デルタ1! こちら【ZERO】・・・こちら【ZERO】!!」

律「応答しろ!! 誰もいないのか!? デルタ1!!!」

ピッ ガガガ・・・・

姫子『こちらデルタ2! デルタ1も、他の部隊ももうやられたわ!!』

姫子『こっちも敵に囲まれているっ・・・!! 応援をお願いっ!!』

律「今からそっちに行く。諦めるな!!」

姫子『隊長・・・私たちに、帰る場所あるわよねっ!?』

律「当たり前だ・・・みんなで帰るんだ。 生きて帰るぞ!!」

『ズガァーン!!』

『ジジジ・・・ジジジ・・・』

律「デルタ2・・・どうした? デルタ2っ!!!!」

律「くそっ・・・」

律(私たちは・・・逃げられるのだろうか・・・

この終わりのない悪夢から・・・)

紬「っ!? りっちゃん!! にげ・・・」

ズッッガァァァァアアアアアアーーーーン!!!!





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最終更新:2011年04月08日 21:30