トコトコ

梓「うぅ……寒い、お腹すいた……」

梓「森ももうすぐ冬かぁ……」

梓「冬になる前に……ちゃんとしたおうち見つけないと」

梓「ここ、どこなんだろう」キョロキョロ

梓「随分遠くまできちゃったな……うぅ、それにしてもお腹すいた……」

梓「何か食べる物落ちてないかなぁ」


「じー……」


梓「な、なんか視線を感じる……」


「うふふ、おいしそー……」


梓「えっ、だ、だれ!? だれかいるの!?」

ガサガサッ!

唯「いえーい! 食料ゲットー!」ガバッ

ギュウウ

梓「きゃああっ!!」

唯「んふー、おいしそー」スリスリ

梓「いやああっ、何!? 誰!?」

唯「おやおや、私のことを知らないとは」

梓「えっ……あ!! そ、その耳と尻尾!! まさか……ひ、平沢狼姉妹!」

唯「の姉の方でーす! えへへ」

梓「う、うそ……そんな、なんでこんなところに……」

唯「なんでって、君が私の縄張りでうろうろしてたんだよ?」

唯「えへへ、だからもう私の物。さて、持って帰って食ーべよっと」

梓「いやああっ!! やめてください! 食べないで! 離してください!」

唯「せっかくの餌をみすみす逃すわけないよー」

唯「さぁおとなしくして、こらっ、暴れないで」

梓「いやっ、いやああっ!!」

唯「うるさくするともうここでガブリといっちゃうよ?」



ほらあな


唯「ういー、帰ったよー」

憂「あ、おかえりお姉ちゃん。早かったね」

唯「ほら、おみやげ」ペイッ

梓「うっ……」

憂「わぁ! おいしそうな猫さん!」

梓「あわわわ」

唯「ふふ、かわいーでしょ。さっきそこ歩いてたから捕まえてきた」

憂「お料理はまかせて!」

唯「せっかくだしおいしくいただきたいねー」

梓「や、やだ……やだ……」

唯「食べる前にお名前だけ聞いといてあげる、じゅるり」

梓「ひっ……」

唯「ほら、いってごらん?」

梓「あ、梓です……ぴゅあぴゅあ森の梓です」

唯「きいたことないねぇ、憂しってる?」

憂「ううん」

梓「あの……」

唯「ここはふわふわ森だよ?」

梓「そうなんですか……」

唯「迷子かな? まぁ関係ないか。どうせもうすぐ私たちのお腹の中だしね」

梓「ひい」

憂「もー、おびえてるでしょ。だめだよーせっかくのお肉が固くなっちゃう」

唯「そっかそっかごめんねあずにゃん」

梓「あ、あずにゃ……?」

唯「猫なんだしあずにゃんでいいじゃん。可愛いと思うよ」

憂「お姉ちゃんはね。たとえ餌とは言え、いちいちあだ名をつけるんだよ! 変わってるでしょ!」

梓「そ、そうなんですか……」

唯「よし、準備しなきゃ!」

梓「準備って……うにゃあああ」

憂「あ、こらっ、お姉ちゃん捕まえて」

唯「りょーかい」ガシッ

梓「ああああっあ、食べられたくないですーうわあああん」

唯「もうっ、おとなしくしてよあずにゃん」

憂「うーん、それにしても汚れてるね……」

唯「そだね。じゃあちょっと洗ってくるよ」

憂「うん!」

梓「いやですーいやですー!」ジタバタ

唯「暴れちゃだめっ!」

梓「に"ゃあああっ!!」ジタバタ

唯「もー!」





唯「ほら、こっちだよ」

梓「……」

唯「ね? ちょっと洗うだけだから」

梓「うぅ……グス」

唯「えへ、泣いてる顔もおいしそー」

梓「……」

唯「ほら見て! ついた! 温泉だよ!」

梓「えっ……わぁ!」

唯「私の縄張りの唯一の自慢なんだよ! さぁ入って入って」

梓「で、でも……」

唯「あったかくてきもちーよ!」

梓「……」

唯「ほら、あずにゃんそんな格好じゃ寒いでしょ? 入ろうよ」

梓「……」

唯「その服脱がなきゃ」

梓「は、はい……」スルスル

唯「これなんの葉っぱで出来てるの? 変わってるね」

梓「えっと、バナナです」

唯「ふーん、それでちょっと甘い匂いがするのかな」

梓「脱ぎました」

唯「よーし! 一緒にはいろ! よーく洗わなきゃ」

梓「うぅ……」

唯「ほれ、あずにゃんちゃぷーんといっちゃいなよ。ほんと体の芯まであたたまるよ」

梓「わかりました……」

チャプ

梓「ふぁ……」

唯「むふふ、いいねいいね。ほれ、もっと肩までつかって」

梓「あっ……あったか……」

唯「じー……」

梓「にゃ、なんですか……?」

唯「予想以上に貧相な体つきだなぁとおもって」

梓「えっ……」

唯「これじゃあんまり食べ応えが……」

梓「そ、そうでしょ! 私みたいなちんちくりんなんて食べてもちっともおいしくないですよ!」

唯「味はまだわからないけど」

梓「いえいえ! いままでろくなもん食べてきてませんしきっとおいしくないです。栄養もないし肉もバサバサですよっ!」

唯「そうかなー」

梓「あ、あと、毒とかもあったり……」

唯「じー……」

梓「ひうっ」

唯「ちょっとこっちおいで?」

梓「あう……はい」オズオズ

唯「ぎゅっ」

梓「な、なんですか?」

唯「あったかー……じゅるり」

梓「やっ……やだっ食べる気!?」

唯「もう我慢できないよ……でもだめだめ憂に怒られちゃう」

梓「助けてっ! いやああ」

唯「味見だけ……味見するだけ……えへへへ」

梓「にゃああっ、離してぇ!」

唯「ペロり」

梓「ひっ!!!」

唯「ペロ、ペロ……う、うまい!」

梓「~~~~ぃ!!!」

唯「ん? 怖くて声もでないの? あはは、かわいかわいー、いますぐ食べたりしないのに」

梓「あっ……あぅ……」

唯「ん、あれ、なんかお湯の色が……あーー!!!」

梓「あっふ……えぐ……」

唯「こ、コレは……あわわわ、やっちゃった」

梓「えぐ……グス」

唯「よしよしごめんね」ナデナデ

梓「えーん、うわあああん」

唯「ちょっと怖がらせすぎちゃった……」

梓「あっちいって! いやああ!!」

唯「ご、ごめんってばぁ」

唯「あーあ、せっかくの洗い場が……」

唯「くんくん、うっ……やっぱりこれおしっこだよね……」

梓「ひっぐ、えぐ……ばかぁ……」

唯「もういいや、憂のとこもどるよ。ほら、あがって」

梓「うええええん」

唯「お肉かたくなっちゃったかなー、はぁ……」



ほらあな


唯「……というわけでして」

唯「しばらく温泉つかえません……」

梓「……」

憂「めっ!!」

唯「ひいいいっ、許してぇ」

憂「もうっ、お姉ちゃんはすぐ調子のるんだから!」

唯「だってぇ、あまりにもおいしそうだったんだもん」

憂「温泉で心も体もリラックスさせて柔らかくなったお肉をいただこう作戦が台なしだよ」

唯「……でへへ、めんぼくない」

梓「……あの、それで」

憂「あーあ、じゃあもう適当に食べちゃう? もう香辛料は貴重だから使わないでおくね」

梓「えっ!? 結局たべられ……ひいいいい」

唯「だ、だめだよ憂ー。あずにゃんはおいしくいただきたいよ。きっと耳から尻尾の先まで超おいしいよ」

憂「じゃあもうお姉ちゃん勝手にしてよ。私料理しないから! わがまま!」

唯「う、憂……」

憂「……ご、ごめん。最近この辺の縄張り争いも激しくなってきて、イライラしてるかも。ごめんね」

唯「ううん、いつもありがとう」

憂「しかたないよ……お姉ちゃんは体が……」

唯「だめな姉でごめんね……」

梓「あ、あの……」

唯「なぁにあずにゃん」

梓「わ、私はどうすれば……逃げていい感じなんですかね……?」

唯「うーん、どうしよう。私としてはいますぐ食べちゃいたいんだけど」

唯「じー……」

梓「えっと……」

唯「こんな貧相なのを食べて果たして満足するのか、いやきっと物足りない!」

梓「は、はぁ……」

唯「だからあずにゃんはまるまる太らせてから食べることにするよ! そのほうが食べ応えがありそう!」

梓「えっ」

唯「だって味見だけであんなにおいしかったんだよ!?」

憂「えっ、味見したの!? ずるい!」

唯「おいしいものはなるべくたくさん食べたいってのは動物の本能だよね!」

梓「に、逃がしてはくれないんですね……」

唯「……あずにゃん、外見てみなよ」

梓「……」チラッ


ヒュオオオオ……


梓「さ、寒そう……」

唯「冬がやってくるんだよ。この時期もうご飯なんて落ちてないよ」

梓「うっ……」

唯「外に出て寒さと空腹で野垂れ死ぬか、私たちのごちそうとなる日までここでぬくぬく過ごすか」

唯「あ、でも後者の場合、私たちの食料がつきたら否が応でも非常食になってもらうよ」

唯「さぁどっち!?」

梓「ど、どっちも……ヤですけど……」

唯「えー? 何言ってるのせっかくお互い納得のいくいい選択肢を用意してあげたのに」

梓「納得って……食べられたくないですし……」

唯「この世は弱肉強食だよ!」

梓「うぅ……」

唯「むふふ、あずにゃんは今お腹すいてるんだよね?」

梓「す、すいてませんし!!」グゥー…

梓「あっ、い、いまのはそのっ! 違っ」

唯「うふふ、奥においしいお魚とかあるんだけどなー?」

梓「むぐ……」

唯「春がきたらお祝いであずにゃんを食べようと思うんだ」

梓「……」

唯「よかったね。春まで生きながらえるよ!」

梓「……そんな」

唯「どうせ私につかまらなかったら二、三日で行き倒れてたんだし、儲けもんだと思いなよー」

梓「わかりました……」

唯「おおっ! で、どっち!?」

梓「……」グゥー…

梓「お魚ください」

唯「えへへっ! なら決まりだね」

梓「……絶対太ってなんかやりませんから」ブツブツ

唯「ういー、私ねー、あずにゃんを育てて食べることにするよ!」

憂「そっか、わかった。でもウチの備蓄が底つかないようにしてね」

唯「だいじょうぶだいじょうぶ」

憂「本格的に冬がきたらまた私一度外へ縄張り争い行くけど、お姉ちゃん平気?」

唯「うん! あずにゃんといい子に待ってる」

梓「……」

憂「梓ちゃん。餌の分際でお姉ちゃんを困らせたらだめだよ? そのときは私がこの牙と爪で……」ギラリ

梓「……はい」

憂「うん!」



こうして私は平沢狼姉妹に飼われながら厳しい冬を過ごすことになりました。

そしてそれから数日…


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最終更新:2011年04月08日 23:23