……

チャプ チャプ

梓「ふあー……落ち着きます」

唯「んむ」

梓「やっぱ新しい服は着心地いいですよ、ありがとうございます」

唯「それであずにゃんの心もお肉も柔らかくなるなら大した出費じゃないよ」

梓「なりませんし」

唯「ストレスのかかった環境で育ったお肉はおいしくないんだよ!」

梓「それは聞いたことありますけど……」

唯「いまね、私のお友達のりっちゃん、あ、狐律っていう子がね試してるんだよ」

唯「澪ぴょんっていうウサギさんを愛情込めて育ててるらしよ」

梓「そうなんですか」

唯「いいなーりっちゃんは。澪ちゃんは胸がおっきいからたくさんお乳がでるらしいよー」

梓「へぇ……食べなくても一緒にいるだけですごくお得なんですね」

唯「……じー」

梓「私はでませんから。しってるでしょ。あ、やめてくださいそんな哀れんだ顔」

唯「あずにゃんからお乳がでたら私食べずにそのままいてもらうのに」

梓「お乳ってそんなにいい物なんですか?」

唯「栄養たっぷりなんでしょ? 私あんまり飲んだことないから知らないけど」

梓「そ、そうなんですか」

梓「むむ……どうやったらでるんだろう」モミモミ

梓「おっきくないとだめなのかな」モミモミ

唯「ムリムリ、そんなことしてもおっきくならないよーだ」

梓「うっ」

唯「まずは身体もおっきくならなきゃ! いっぱい食べていっぱい寝てすくすく育ってね」

梓「でもたくさんたべたら太っちゃうし……どうしよ」

唯「困るなぁ、こっちとしてはまるまる太ってくれないと食べ応えがないんだけど」

梓「食べると太る……けどお乳が出て結果的に助かるかもしれない」

梓「けど中途半端に太って、お乳が出ずに食べられちゃったら……うぅう」ブルブル

唯「ね、ねぇ、なんか尻尾がピーンってなってるけどそれ、お、おもらしの合図!?」

梓「違います!! 真剣に今後の在り方を考えてるんです!!」 

唯「絶対逃げないでね」

梓「……」

唯「だめだよ逃げちゃ」

梓「……それは……わかりませんし」

唯「ううん仮に逃げてもね、ほら私たちって、クンクン……鼻がきくから!」

梓「あっ……」

唯「あずにゃんの臭いをどこまでも追いかけるよ」

梓「むむ……」

唯「そのときは悲しいけど、見つけたらその場でガブってやっちゃうね。もう逃げてほしくないから」

梓「……わかりました、それはとても怖いので逃げだしたりしません」

唯「でしょ! 私だって新鮮なあずにゃんをおうちでゆっくり食べたいからね!」

梓「あ、ちなみに私ってどんな味するんですか?」

唯「なんかねー、甘いよ?」

梓「嘘でしょ。果物じゃあるまいし」

唯「わかんないけど甘いよ? ちょっと舐めさせて。ほんと甘いから」

梓「だ、だめですよぉ……そんなの」

唯「いいじゃんいいじゃん。ほら、温泉の中なら舐めてもすぐ洗えるし~」

梓「ひっ、いやああああん」

唯「ほれほれ、ペロペロ狼だぞー」

ちゅ、ペロ、ちゅむ

梓「うぅっ、くすぐったっ……いっ……んっ」

唯「あまあま、ちゅぷ、んまんま」

梓「うえええん、ザラザラしてて気持ち悪いですー」

唯「えー? あずにゃんだって舐めてもらうの好きでしょ? 猫はみんなそうだって聞いてるよ?」

梓「ち、ちがいますぅ。ほんと嫌ですからやめてください」

唯「とか言っちゃって~、あずにゃんの尻尾は嘘つかない。ふりふりって」

梓「にゃああっ……!」

唯「ほんと食べちゃいたいくらい可愛いね」

唯「こんなおいしい猫さん拾えるなんて私ってラッキー」

ペロペロ ペロペロ

憂「あ、おねえちゃん、またこんなところで」

唯「ちゅ、ペロ……あ、憂ー。今日の狩りどうだった?」

憂「最後の狩りにしてはあんまり。果物もなかったよ」

唯「そっかぁ」

憂「それと、私そろそろ行ってくるね」

唯「あ……そっか、縄張り争い」

憂「争うか話合いかはわからないけど、この辺のリーダー格は全員集合だからね」

唯「一人で大丈夫?」

憂「一応お供に純ワンをつれてくね」

唯「あぁ、こないだ憂が拾った汚い犬……」

純「失礼な!」

憂「お姉ちゃんだって汚い猫拾ってきたじゃん」

梓「失礼な!」

唯「とにかく、無事に帰ってきてね憂。私憂がいないと……」

憂「うん! できればおみやげももって帰ってくるね!」

梓「……いってらっしゃい」

憂「心配してくれてるの?」

梓「そんなんじゃないけど……憂ワンは唯ワンにとって大事な人だし」

憂「餌にこんなこというのも変だけど、お姉ちゃんのことよろしくね」

梓「えっ」

憂「ちゃんとご飯たべて、元気にあったかくして過ごして」

梓「う、うん……」

唯「あずにゃんあったかー♪ えへ~」

憂「陽の出てる日はちゃんとワラ布団干してね、服もちゃんと洗ってね、ご飯は配分を考えて」

唯「わかってるわかってるー」

憂「心配……」

梓「わ、私がやるから!」

唯「え?」

梓「憂ワンがいない間は私がなるべく唯ワンのお手伝いします!」

憂「うん……そっか。ならすこし安心かな」

憂ワンは優しく微笑むとそのまま純ワンを連れて出発しました。

集合場所は山を二つこえた先にあるそうです。

戻ってくるまでどれくらいかかるかわかりません。

それどころかこの寒さの中、無事にもどってこれるかどうかも……。

唯ワンはその晩ずっと憂ワンの向かった方向へ遠吠えを繰り返していました。


そしてこの広いほらあなに唯ワンと二人きりになってから数日がたち――――


唯「うわーん、今日はホント寒いよー」

梓「うぅ……冬の本領発揮ってとこですか」

唯「あずにゃーん、ぎゅーってして」

梓「はいはい」ギュウ

唯「ほー、あったかー」

梓「……雪ふらなきゃいいですけど」

唯「憂はいまごろなにしてるかなー」

梓「憂ワンなら大丈夫ですよ。とても強いんでしょう?」

唯「うん……」

梓「気になってたんですけど、どうして妹の憂ワンがリーダーの集会に出向くんですか?」

唯「そ、それは……」

梓「?」

唯「あ、寒っ! あずにゃんもっとギュッてして!」

梓「えっ、そんなに寒いですか? 火もたいてるのに」

唯「うん……」

梓「こんだけ寒いと温泉も無理ですねー」

唯「うう、寒い……ゴホッ」

唯「ごほっ、ごほ」

梓「唯ワン……?」

唯「おかしいな……なんか、寒いのに、暑い……ような」フラフラ

梓「えっ、ちょっ」

唯「う……あず……」

ドサリ

梓「唯ワン!? どうしたんですか!? 唯ワン!?」

唯「うー……ん……」

梓「うっ、すごい身体が熱い」


梓「どうしよう、寝かせとくだけでいいのかな」

唯「……ハァ、はぁ……」

梓「息が荒い……ただの風邪とは違う?」

唯「……あ、あず……」

梓「ちょ、ちょっとおとなしくしててください。いま布団に運びます」

ズルズル

梓「んしょ、んしょ、重たいです」

梓「大丈夫ですか? 唯ワン!」

唯「あ……ぁ……ごめ……」

梓「なんです? お水いりますか? どうしたらいいのもうっ!!!」

唯「わた……し……実、は……」

梓「あ……あれ」

梓「これってもしかして逃げるチャンスじゃ……」

唯「あず……あぅ……ハァ、はぁ、はぁ」

梓「……」


唯「……ぁ、ず」


梓「逃げちゃえばいいんだ……うん、こんなところにいつまでもいても食べられちゃうだけ……」


唯「ハァ……はぁ、はぁ……うっ……あず……にゃ」


梓「そう、逃げたらいいんだよ、放っておけばいい! 逃げなさいよ私!!」

梓「……」

梓「……ッ!! どうしてっ!」

梓「……なんで……私は……」

唯「はぁ、あず……くる、し……の……」

梓「ハッ! 唯ワン! 唯ワンしっかりして!! 私になにができる!? なにもわかんないよ!! 唯ワン!!」


梓「そうだ! 物知りのふくろうさん!」

梓「きっと何かしってるはず!!」

梓「ちょ、ちょっとまっててください! いま助けを呼んできます!」

唯「あずにゃ……いか、ないで……」

梓「逃げたりしません! 唯ワンのこと絶対絶対助けます!! 見捨てたりなんてしません!」

梓「ここでおとなしくしててください! いいですか! 約束ですよ!」

唯「うっ……ハァ、はぁ……ぁず……ゃ……」



そして私は、冷たい風が容赦なく襲いかかる極寒の夜の森へと飛び出した。

梓「寒い……うっ、つらっ……でも……」

梓「唯ワンはいまもっと……頑張れ、頑張れ!」


梓「あっ、ここだっ!」

梓「す、すいませーん! すいませーん、ふくろうさんいませんかー!!」


和「あら……だれ? 夜分遅く失礼な動物ね。ま、昼間こられても迷惑だけど」

梓「唯ワンが! 助けてほしいんです!!」

和「? あなたは誰? 見かけない顔ね」

梓「あの、私は唯ワンの……あの……餌です」

和「よくわからないわ」

梓「そ、それより! 唯ワンが倒れちゃって!」

和「えっ。唯が!? ま、まさかまた発作で!」

梓「ほ、発作……?」

和「ど、どうしよう。憂は!? 憂がいるはずでしょ、どうしたの」

梓「憂ワンは今……縄張り争いで」

和「そ、そうだったわね」

梓「私……グス、どうしたらいいかわからなくて……」

和「薬をのませればいいんだけど、もうその薬になる葉がないのよ……」

梓「えっ……」

和「冬のせいよ。だからなるべく発作を起こさないように、安静でいられるようにと憂が唯の代わりに頑張ってるの」

梓「じゃあ……ほんとは唯ワンが」

和「そうよ。縄張り争いにいくのだって唯の役目。でもそんな唯が病弱だって周りに知られたらどうなる?」

梓「縄張りが……」

和「だからうりふたつな憂がいくことでなんとかごまかせてるわ。ってそんな話をしてる場合じゃないわね」

和「とにかく唯は昔から稀に発作をおこすの。それでいまは薬がない。これがどういうことかわかる?」

梓「えっと……どうしよう……」

和「そうだ! 葉はもうないけれど、薬自体をもってる動物に心当たりはあるわよ」

梓「ほ、ほんとですか!」

和「ただ、私はその子の元へ行けないの。そこは明るすぎてだめなのよ」

梓「おしえてください! 私がなんとしてでもとってきます!!」

和「わかったわ。行きは送ってあげる、背中にのって」

梓「はい!」


和「バサバサバサバサチェケラッチョイ」


……


和「着いたわ。ここよ」

梓「うっ、とんでもなくまぶしいです。森全体が金ピカのような……」

和「金(きん)の森って言われているわ。とある行商タヌキたちが数代かけて築き上げたこの世の楽園よ」

梓「ここに薬が……?」

和「うっ、まぶしいから私はもう行くわね、離れたところにいるから帰りは口笛でも鳴らしてちょうだい」

梓「はいです!」

和「それと……気をつけてね。この森は動物たちの心を試すと言われているわ」

梓「試す……?」

和「早く行きなさい!」

梓「は、はいっ!」



梓「うわー……すごい、夜なのにまるで昼間みたいにあかるいや」

梓「きっとこの木々の葉が月の光を取り込んでるんだ」

梓「すごいなー、うわ、果物も動物もいっぱい! ってそんな場合じゃない」

梓「えっと、薬屋さん」

トコトコ

梓「んーなんか森じゅうからいい匂いがするなー」

梓「わぁ。賑やかだしこんなとこに住めたら幸せかもー……」

梓「はっ、いけないいけない」

「おや、そこの子猫さん、こんなものはいかがかな?」

梓「あ、おいしそう! ……ってだめだめ」

「魚の形に小麦で焼いたの皮の中にたっぷりのアンをつめてます。タイヤキっていうんですよ」

梓「……じゅるり……ダメだもん。ダメ! 唯ワンが待ってるもん!!」

梓「薬屋さんしりませんか?」

「それなら向こうにたってる大きな木の家の一階だよ」

梓「どもですっ!」


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最終更新:2011年04月08日 23:25