憂「うっひょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

憂「やった! やった! やった!」

憂「ついに“私のTシャツ”を、お姉ちゃんに“怪しまれず”一晩着せることに成功した!」

憂「こんなにも私の計画が上手くいくとはっ!」

憂「昨日の夜、お姉ちゃんがお風呂入ってるときに
  こっそり脱衣所にあったお姉ちゃんの着替えと私のTシャツとをすり替えておいたのさ!」

憂「それにまったく気づかないお姉ちゃんも超可愛い!!」

憂「『ていうか、それ私のパジャマじゃん』っていうセリフも
  あたかもお姉ちゃんのうっかりで間違っちゃった感を引き出してて
  真犯人である私の思惑を上手く打ち消している!」

憂「私ってば、超したたか! 狡猾!」

憂「では、さっそく、獲物の品定めを」

憂「なんてったって寝苦しい夏の夜、この脇の辺りは……」

憂「ああっ! やっぱりとってもウエッティ!」

憂「この湿りがいいねと私が言ったから、○月×日はお姉ちゃんTシャツ記念日!」

憂「えへへ」

憂「さて、これをどうするべきか……」

憂「今日の内に着て、お姉ちゃんの湿り具合を楽しむか」

憂「それとも真空パックにして永久保存にしておくか」

憂「な、悩むところだなぁ……」

憂「ってか、そんなことに悩まなくったってもう一度、同じことやればいいんじゃ……」

憂「幸いこのOKO(お姉ちゃん、カワイイよ、お姉ちゃん)ブランドのTシャツはまだたくさんある」

憂「だけど、そう毎回上手くいくとも限らない……」

憂「とりあえずこの戦利品は永久保存しておこう」

憂「で、額縁に飾ってと。ホームセンターに売ってるよね」

憂「そうだ! せっかくだからお赤飯を炊こう!」

憂「私の中では国民の祝日にしたいくらいめでたい日だもんね」

憂「そうと決まればさっそく買い物に行こっと」

憂「うふふ、急に今日お赤飯なんて炊いたらお姉ちゃんビックリしちゃうだろうな」

憂「美味しいおかずもたくさん作っちゃお」

憂「この私の喜びをお姉ちゃんにも分けて……」

憂「……」

憂「……あ」

憂「今日、お姉ちゃん、いないんだった……」



 真鍋家

和「ほら、ここが繰り上がって、あとはわかるでしょ」

和弟「あ、そっか」

和妹「お姉ちゃん、私の夏休みの友も見て~」

和「はいはい、わかってるわよ」

和弟「だ~め~、今は僕がお姉ちゃんに教えてもらってるんだぞ」

和妹「い~や~だ~! 私もお姉ちゃんに教えてもらいたい~!」

和「こらこら、喧嘩しないの」

   prrrrrrrrrrr…

和「あ、ちょっと静かにしててね、電話だから」

和「もしもし?」


憂「の゛~ど~が~ぢゃ~ん!」

和「憂!? ど、どうしたのいったい?」

憂「あのね、お姉ちゃんの汗のね、私の寝間着のTシャツのね
  昨日お風呂入ってるときにすりかえてね、額縁で赤飯炊こうと思ってね
  だけど、この家にはお姉ちゃんの香りがほのかに漂うだけでね」

和「ち、ちょっと。何言ってるのかさっぱりだわ」

憂「だからね、お姉ちゃんが着たTシャツを永久保存してね
  お姉ちゃんの残り湯もペットボトルに何本か詰めてね
  だけど、お姉ちゃん自身の温もりだけは残せなくてね」

和「なるほど、今日唯は軽音部の合宿に行ってて家にいないのね」

憂「私が言うのもなんだけど、よくわかったね、和ちゃん」

和「何年あなたたちと付き合いがあると思ってるのよ」

憂「えへへ」

和「で、私にどうしろっていうの?」

憂「今日は和ちゃんに家に泊まって欲しいなって思って」

和「あいにく、私は忙しいのよ」

憂「そんな……」

和「憂の同級生の友達いたじゃない。あの子に来てもらえるように頼めば?」

憂「純ちゃんは田舎に帰ってて今こっちにいないもん……」

和「そうなんだ、じゃあ私、兄弟の宿題見てあげてるので忙しいから」

憂「待ってよ和ちゃん!」

和「なに?」

憂「あのね……今日、家誰もいないんだ////」

和「異性への誘い文句を同性に言われたところでなんともこないわね」

憂「こんなに可愛い私が言っても!?」

和「自分で何言ってるのよ、あたりまえじゃない」

憂「じゃあもう和ちゃんには頼まないもん!
  折角美味しいご馳走をたくさん作ろうかなって思ってたのに……」

和「行くわ」

憂「和ちゃんも意外と単純だよね」

和「タッパーは持参してもいいのかしら?」

憂「お店じゃないんだし、食べきれなかったら、いくらでも持って帰っていいよ」

和「助かるわ」

和妹「あ~ん! 消しゴムとった~!」

和弟「違うって! 借りただけだろ!」

和「こら! 弟と妹! 電話してるから静かにしなさいって言ったでしょ!」

和弟・妹「は~い……」シュン

和「ごめんなさいね、騒がしくって」

憂「ううん、別にいいんだけどね。
  和ちゃんってあいかわらず自分の兄弟のことを『弟、妹』って呼んでるんだね」

和「あら? 別に変なことでもないでしょ?」

憂「いや、結構。っていうか、かなり変わってると思うよ。普通名前で呼ばない?」

和「そうかしら? 憂だって唯のこと『お姉ちゃん』って呼んでるでしょ?」

憂「そうだけど……」

和「だから私も自分の兄弟のことを『弟、妹』って呼んだって何もおかしなことはないわ」

憂「和ちゃんには屁理屈で勝てそうにないから、それでもいいや」

和「うふふ、憂も変なこと言うのね」

憂「……」


 ・ ・ ・ ・ ・

和「こんばんは」

憂「いらっしゃ~い」

憂(和ちゃん、今日も青と赤のTシャツだ)

和「手ぶらじゃなんだから、これ」

憂「なになに?」

和「乾燥ひじき」

憂「友達の家へお泊りに来る時に乾燥ひじきを土産に持ってくるっていう発想はさすがだよ」

和「あと、切り干し大根と、ごぼうをささがきしたやつと」

憂「作れってこと? まぁ、材料くれるって言うなら助かるけどさ
  和ちゃんってあいかわらず、そういう渋めな一品系の煮物だったり炒め物好きだよね」

和「それからこの『ごはんですよ』もうこれだけで朝ごはんはいけるわよね」

憂「残念だけど、明日の朝はパンにしようかと思ってて」

和「……そう。まぁ、パンに塗ってもいけないこともないわ」

憂「へぇ~」

憂「とりあえず、玄関で立ち話もなんだし上がってよ」

和「おじゃまします」

憂「ど~ぞ、ど~ぞ」

和「いい匂いね」

憂「さっき出来たところなんだ」

和「言ってくれれば、私も早く来て手伝ったのに」

憂「いいのいいの、今日、和ちゃんはお客さんなんだから」

和「そういうことなら、甘えさせてもらうわ」

憂「うん」

和「ところで」

憂「ん?」

和「初潮?」

憂「違うよ」

和「それもそうよね」

憂「お赤飯=初潮っていう考え方はどうかと思うよ」

和「じゃあなんでお赤飯なの? どうせまた唯に関することで……」

憂「えっと……。和ちゃんが泊まりに来てくれたから、かな」

和「そうなの。憂にとって私が泊まりにくるのがそれほどおめでたいことだったなんて」

和「十年以上の付き合いの中で、これほど嬉しいと感じたことはないわ」

憂「う、うん」

和「ありがとう、憂」

憂「どういたしまして」

和「まさか、憂にここまで想われていたなんて……本当に感激だわ」

憂(本当は、お姉ちゃんの汗染み付きTシャツ獲得記念だなんて言えないし)

和「私はまた、唯が留守なもんだから唯の部屋を色々物色できる前祝いのお赤飯かと思っちゃって。
  確かに憂は重度のシスコンだけど、そこまで酷くないわよね」

憂「……」

和「ごめんね憂。こんなおかしな想像をしてしまった私を許してくれる?」

憂(さすが、長年私たち姉妹と付き合いがあるだけのことはある)

憂「そ、それよりも早く食べようよ」

和「ええ、そうね。それにしても本当に品数多いわね」

憂「がんばっちゃった」

和「これだけ出来るのに、唯専属のコックにするのが勿体無いくらいだわ」

憂「そんなことないよ。お姉ちゃんがいるからこそがんばれるんだよ」

和「あらあら、結局憂は唯にベッタリなのね」

憂「だって、お姉ちゃんの美味しそうに食べる顔、すごく可愛いんだよ!」

和「まぁ、それは私もわかるわ」

憂「でしょ!」

和「あの子にはいつもお弁当のおかずを取られちゃってるし」

和「でも、本当に美味しそうに食べてくれるのよね。
  そのお弁当だって私が作ってるから、それだけ美味しそうに食べてもらえるなら悪い気はしないわ」

憂「うんうん、だよね~」

和「だから、一回わざと糞不味いお弁当作って持っていったのよ」

和「そんなこととも知らずに唯はいつものように私のお弁当のおかずを摘んだの」

和「でも、あの子『美味しい美味しい』って馬鹿みたいな顔して喜んで食べてたのよ」

憂「……」

和「唯は味覚障害かもしれないわ」

憂(い、言えない……。私も前からそうじゃないかなって思ってたなんて)

憂(滅多にないけど、味付けに失敗した料理はお姉ちゃんに押し付けてるなんて。言えないよ……)

和「あと、若干頭の方も大きな病院で診てもらった方が」

憂「も、もう! 和ちゃん!」

和「うふふ、冗談よ冗談」

和「さすがにそんな不味いお弁当をわざわざ作って持って行くわけないわよ。
  なにより、私が食べる分も無くなっちゃうし」

憂「えっ!?」

和「えっ? 何か私変なこと言ったかしら?」

憂「う、ううん。なんでもないよ」

憂(お姉ちゃんが味音痴なのは私だけが知ってるお姉ちゃんの秘密なんだ////)

和「それにしても、さすがにこれだけの量は食べられないわね」

憂「まだあと、ちらし寿司とピザもあるよ」

和「憂が料理上手いのはいいけど、その組み合わせはどうも納得できないわね」

憂「そう? だってどっちも美味しいよ」

和「そうでしょうけど、普通、ちらし寿司とピザは別々に食べたいわ」

憂「お姉ちゃんだったら喜んでくれるよ?」

和「世間は唯中心で回ってるわけじゃないのよ?」

憂「まぁ、地球は回ってるもんね。仕方ないよ」


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最終更新:2011年04月11日 21:16