唯「……なんか、あっついね・・・」

梓「そう、ですね……もう冬なのに、のぼせちゃいましたよ」

唯「うん、私も」

梓「唯先輩の、せいですからねっ」

唯「あはは。じゃあクーラーとかつけちゃおっか」

梓「クーラーにがてなのに?」

唯「なにごとも挑戦なのです! ふんすっ」

梓「もう・・・」くすくす


ぴっ




           ド           ー               ン




                           _,,,,,,,.........:::::::::::--::.,_
                  .,----─''''''''''""~        |  ~"'-:::.,_
                  .|                   .|      ~"'-:::.,_
                  .|                   .|          ~"l
                ._|_______        |             |
          ,:;::=ニニ"─────:::.,    ̄"'''''':, .. .|             |
          /              ,l /''''''''''''''ー‐:,';  . |             |
       .  /               ,l l / ̄ ̄ ̄~~l'';   |             |
    ;''''''l   /             ,---:,.l'''      .|.||.  |             |
    |  |  ./             |   |l |       | ||.. |             |
    '┬' ./  ____         |   .|.l  _,,,...:::::;:::' .||.. |             |
      ̄l''''''''"~ー--:::::::;,.:::''''',:''''''::, .l,,,,,,,,,,l.| ./ .,,.::''"  .||.....|             |
      '::,,_          '::..,,,.:''''''''''l | | ,,::::'"     ||.....|             |
      | | ~"'''''ー-:::::::::....,,,,,,___,....::'" | ""     ,::::.|| . |        _,.:::::-'
    .  ,::,|             l    | 



唯「わああああっ!!!」

梓「はっはやくとめてください!!!?」

ぴっ

唯「ふぃー・・・なんかもう眠気がふっとんじゃったよ・・・」

梓「もう……同じ失敗くりかえさないでください!」

唯「だって、いいところにリモコンがあったからクーラーかなって・・・」

梓「そのリモコン置いたの唯先輩でしょうがっ」

唯「ごべんなさぁい・・・ぐすっ」

梓「まったくもう……」


梓「……しょうがない人ですね、ほんと」くすっ

唯「……えへへっ」


唯「……でも、おふとんも冷たくて気持ちいいね」

梓「そうですね・・・」

唯「……あずにゃん」

梓「……はい」

唯「……手、つなご」

梓「・・・はい」

唯「……こっち、きて」

梓「……」


梓「……ゆい、せんぱい」

 私が呼ぶと、あずにゃんはこわごわと近づいてきた。
 ろうそくのようにおぼろげな灯りの下では、身体を包む白いタオルがひどく目立ってみえる。
 手を伸ばせば届くほどの、片腕分の距離を、オレンジ色の熱が満たしている。

 片腕の向こう岸で、息づかいがひどく高鳴って聴こえた。
 この熱はたぶん、二人の発したもの。私とあずにゃんの熱に、自分で溶けそうになってしまう。
 いま吐いた息も燃え上がるようで、火に吸い寄せられる虫みたいに私は手を伸ばす。
 お風呂の熱っぽい蒸気を吸って少ししなびた白いタオルに手をかける。
 あと数センチ。
 薄膜のような、コンドームみたいな私と彼女の距離を……この手で突き破る。
 触れた。

 ――ゆいせんぱい。

 まどろみそうな意識に飴のような声が響く。
 私はあずにゃんの細い身体の上に身を寄せ、橙色の熱に照らされる彼女を見下ろした。


 一瞬――何年も経ってしまった気さえした一瞬、意識をうばわれてしまった。
 濡れた髪をほどいた姿は黒く広げた花びらのように見えた。
 手を伸ばすと夜露のような水滴が私の指先を冷ます。でも、熱は消えない。
 それどころが余計に燃え上がるようだった。

 なぜなら……私はあずにゃんの目に、射止められてしまったから。

「あずにゃん」

 名前を呼んだ。
 熱に溶けた瞳はまるで別人みたいで、少し嫌だとも思ってしまう。
 あずにゃん、こんな顔もするんだ。

 当てつけのように唇をあてた。
 湿った唇同士の感触で、頭の奥がしびれそうになる。
 少し開いたあずにゃんの口から、熱っぽい息が私に流れ込む。
 その熱の元に向けて舌を押し込。
 抵抗。けれどいつしか彼女の小さな舌が重なった。

 舌の触れ合う感触を求めるのに精一杯で、思わず目を閉じてしまう。
 そしたら右手に小さな指が繋がれた。すぐに私たちの指は絡まりあう。
 目を閉じた分、余計に唾液のからまる音が強く響いた。

 身体の奥から、熱が流れ出すような気がする。
 私たちを隔てる白いバスタオルも熱にやられて、不快感しか与えない。

 唇をそっとはがす。唾液の糸があずにゃんの舌につつっと伸びる。
 私はあずにゃんのタオルを左手で引き剥がした。


 ゆいせんぱい。

 私を呼ぶ声が遠く聴こえた。
 それどころじゃなかった。
 息をのんだ。薄明かりに照らされた、熱の色に染められたあずにゃんの肌に。
 そこにはいつもの薄く透き通った身体はなかった。
 この部屋の色に染められて、息の仕方も忘れてしまった女の子がそこにいた。

 電影に浮き上がった鎖骨の影が、細く乱れた息と共にゆらめく。
 その下で白くふくらんだ胸も呼吸に合わせて静かに上下する。
 つるんとした胸のふもとで、一粒の水滴が滑り落ちた。
 思わずその一滴に唇を寄せる。遠く、うめくような声が聴こえた。

 汗に少し湿った肌に舌をなぞらせる。
 私の熱っぽい唾液がべっとりとあずにゃんの胸を濡らしていく。
 頭の方で、こもったような息づかいを感じた。
 その息づかいを求めるように首を上げ、鎖骨のくぼみに舌をねじこんだ。
 あずにゃんの声が、いっそう強く響いた。

 壊したい。
 いじめてみたい。こわれるぐらい抱きしめて、本当に溶かしてしまいたい。
 ふと垣間見たあずにゃんのすがるような求めるような瞳に乱されて、そんなことを思ってしまう。
 だめにしてしまいたい。私のものにしちゃいたい。

 私は鎖骨をなぞった唇をはがし、もう一度ふたりの舌を絡め合わせた。


 ふたたび重ねたあずにゃんの味はほんの少し苦く感じる。
 うれしかった。なぜか、もっとほしくなった。
 鼻のあたまが当たりそうなぐらい、歯がじゃまになるぐらい強引に口づけを交わす。
 それは小さい頃に聞いた「愛しあう二人」の健全な像とはまるで違った。
 ただ、生き物がするようにむさぼってしまう。
 唇の隙間から聴いたことのなかった声がもれて、その音を強めようともっと舌を重ねる。

 ゼリーを口の中でもてあそぶように舌を絡めながら、左手を彼女の太ももに沿わした。
 ふるえが起こる。お風呂で洗ったばかりなのに、どろどろした汗が肌に浮いているのを感じた。
 身体の芯へ押し込むように指を強く這わせる。

 シャンプーの香りに混じって、あずにゃんの匂いがつんと鼻につきだした。
 それは生々しくて、たぶん汚くて、だからこそおいしそうな匂い。
 壊しちゃいたいのに、いとおしくてたまらなくなった。

 唇を離すとその匂いを求めてうなじに吸い付いた。
 抑えそびれた声が海鳴りのように響きわたった。
 もっと聴きたい。私の指で、唇で、もっとあずにゃんを唄わせてみたい。

 ――あずにゃん。愛してる。

 本心だった。なのに自分の声がグロテスクな熱に歪んで、ちょっと気持ち悪かった。
 あずにゃんは聴こえたのか分からないような顔で、ほんの少し唇を歪ませた。

 あはは。私たち、だめになりそう。
 食べるようにキスを重ねる私の裏側で、変に他人事のように感じるもう一人の私の気配も感じていた。

 少しざらついたうなじに噛み跡を残す。
 あずにゃんは面白いように声をあげた。
 初めて聞くあずにゃんのそんな声を、私は取りつかれたようにむさぼってしまう。

 太腿から腰の骨へと手を伸ばしながら、唇を長い髪に隠された耳に唇を寄せた。
 耳たぶを唇の肉で挟んでみる。吐息に鼻にかかったようなうめきが混じる。
 私はあずにゃんの耳にわざとあつい息を吹きかけた。
 すると跳ね上がるように腰が少し浮き、あずにゃんは繋いだ右手をはずしてこらえようとする。
 まるで赤ちゃんみたいにいやいやと身体をそらす。
 でも逃がさない。離すものか。
 唾液をべたべたと、音を立てて耳の方へすりこんでいく。
 あずにゃんの声は吹き上がっては消えるしぶきのように強く弱く響いた。
 広くはない部屋に反響して、より強く聴こえて、ますます身体を縮こまらせようとする。

 目が合った。
 助けを求めるように潤んだ瞳。
 だけど、求めてるのは助けだけじゃないのも分かってた。

 左手を上のほうに這わせて、柔らかい胸を掌で包む。
 中指の腹が先っぽに当たって、一弦を爪弾いたような甲高い声が漏れる。
 こんな声、あずにゃん本人だって知らなかっただろう。
 だから怯えてるんだ。聞いたこともなかった、自分の声に。
 味わったことのなかった、こんな熱に。

 待っててあずにゃん。
 今、教えてあげるから。

 私は左手をそっとのけて、あずにゃんの胸の先端に唇を寄せた。
 ひときわ甲高い声が部屋中に響いた。

 柔らかい肉を押し込めるように舌を押し当てる。
 かと思えば、唇を少し離して熱い息で胸の先っぽを撫でる。
 気まぐれにもてあそぶごとにぴんと張り詰めたような鳴き声をあげた。
 ゆいせんぱい、ゆいせんぱい。
 うわごとのように私の名前を呼ぶ声にぞくぞくしてしまう。

 私はあずにゃんの胸に強く吸い付いた。
 あずにゃんはまた身をよじらせる。避けようとして? いや、もっと私の唇を求めて。
 そうしてかたくなった乳首を、舌でほどくようにちろちろ舐める。
 でも余計に張り詰めるばかりだった。
 私たちの吐いた息は、流れ出た汗粒を吸い込む布団のような熱気に絡め取られる。
 脳みそが溶けていくような感じがして、とても気持ちよかった。

 そして私は、左手の指先をあるべき方へ向かわせる。
 あずにゃんは知ってか知らずか、身を少し堅くした。
 私はあずにゃんのどろどろした汗を皮膚ごと舐め取った唇を、そのままうなじに向けた。
 高い声が漏れた一瞬。
 左手を、ふとももの内側に滑り込ませた。

 汗のすべりに引きずり込まれるように指先があの方へ連れて行かれる。
 そのまま綿のように薄い陰毛に向けて手を伸ばす。
 汗で湿りきったところを少しまさぐると、ぬるっとした部分に指先がふれた。
 私のあずにゃんが、また違う声をあげた。

 汗とは違ったぬめりに指をふれさせると、唾液よりも粘っこい感触が絡みつく。
 あずにゃんはもう私の名前を呼ぶのすら精一杯だった。
 途切れかけた声は指や舌を動かすととたんに跳ね上がる。
 気づくと私も熱に浮かされたように身体をすり合わせていた。
 言葉にならない言葉が、いつもじゃ考えられないぐらい下品な息と共にひたすら私を求めている。

 ――あずにゃん。

 ふと、呼びかけてみた。熱に浸る中でも不安がよぎったのかもしれない。
 あの匂いに満ちた中で見たあずにゃんの目は、気づくと怯えたような色に変わっていた。
 求めては、いるんだ。私のことを。それはどうしようもなく、そういう目だったから。
 けど……このまま続けたら、あずにゃんの瞳の色も変わってしまう。

 このままめちゃくちゃにしてしまえる気がした。
 あずにゃんは、別人のようになってしまうかもしれない。
 だけど、私の腕は止まってしまった。
 誓わなければ、許しを得なくてはいけない気がした。
 もう……許されないところまで、あずにゃんを引きずり込んでしまっていたのに。

 ――あずにゃん。すき、だよ。

 声に出した途端、胸の奥で別の色の炎がともった気がした。その色は、たぶん青。
 赤い光よりも冷たく見えて赤い炎よりも温度の高い、あの色。
 今度の声は歪まなかった。肌を伝ってそのまま流れた。なぜだか確信があった。

 あずにゃんはしばらく涙の粒を浮かばせてから。
 自由な方の腕で私の首を引き込んで、強くキスをした。

 脳の奥まで溶かし込むような口づけを交わした後、私たちはまた身体を動かし始める。
 さっきまであった何かに操られるような、ただ食べるような交わりは感じない。
 ただいじるような、もてあそぶだけのような動きではなく、
 皮膚をすりこんで溶け合わせて、心臓と心臓を重ねるぐらい強く抱いて。
 無理やり抱きしめてつぶれた私の胸が、ちょっと邪魔だなと思った。

 私たち、一つになっちゃえばいい。
 癒着してシャム双生児みたいに一つの奇形になっちゃえばいいんだ。
 頭の隅に浮かんだ、気持ち悪いと思っていたはずの画が急にいとおしく感じた。

 ――ゆいせんぱい。おねがい。

 甘く響いた声に導かれるように、改めて私は太ももに内側に指を差し込む。
 腫れ上がって膨らんだ場所に指を当てると撥ねるような声が聴こえた。
 もっと、もっと聴かせて。私だけに、その声を。
 私はあずにゃんの奥から流れ出る熱い液を指になすりつけて、腫れたふくらみを指でこねる。
 あずにゃんのあえぎ声は、最初のぴんと鳴くような声ではなくなっていた。
 それはもっと重みのあるような――たとえば一弦だけじゃなくて、六弦まで重なったコードのような。

 やっとあずにゃんが、本当の声を聴かせてくれた。
 胸の奥が青い炎で焼けただれるような感じがして、私は指をその奥に差し込んだ。
 熱くなった内側で指を折って、新しい楽器の唄わせ方を探す。
 あずにゃんはもう、部屋中に響くような声をあげていた。


 熱くなったところを指で探って、あずにゃんから流れ出る粘っこい汁をかき回すようにいじる。
 あずにゃんは身体中を震わせて声を上げ、それに応えてくれる。
 好き、好きだよ。大好き。あいしてる。
 私もうわごとのように、さっきのあずにゃんみたいに勝手に溢れ出る言葉を繰り返した。
 くちゃくちゃと水の混ざる音が聞こえる。

 思うような歌声が聴きたくて、ギターをかき鳴らすみたいに指の動きを速めた。
 あずにゃんは唄う。誰にも聴かせたことのなかった、自分でも知らなかったような生々しい声で。
 酸っぱいような匂いが鼻の奥につんと刺さって、気づくとまた唇を重ねた。
 もう舌の動きに迷いはない。二人で口の中の柔らかいところをなぐさめあう。
 あずにゃんを壊してしまいたいなんて気持ちはとうに消えていた。
 夜の歌をもっと部屋に響かせたかった。

 やがて、指の動きにあわせて違った言葉が入り混じる。
 耳を澄ますと、私の名前がそこにあった。ゆいせんぱい。ゆいせんぱい。ゆいせんぱい、だいすき……!
 途切れ途切れで、獣の鳴き声に邪魔されながら、それでも私の名前を呼んでくれた。
 歌うように。訴えるように。
 重ねた胸のふくらみはもう青い炎で焼け焦げていて、私の乳首もすこし痛いぐらいだ。
 気持ちよかった。
 思わず私も声を漏らしてしまう。

 歌声は最後の間奏を越えてクライマックスに辿り着く。
 横に捨てられたバスタオルが目に入る。けどそのバスタオルも橙色に染まっていた。
 私たちの身体を青白い炎が包み込んだ。燃やし尽くした。
 あずにゃんは腰の奥を身体ごと震わせながら、一番はしたなくて一番きれいな歌声を上げ、

 ――ぱったりと倒れ込んだ。


 引き潮のような吐息の波が、耳の奥で寄せては返す。
 私はふたりの荒れた息が鎮まっていくのをしばらく他人事のように聞いていた。

 自然と腕を絡ませて、いつもみたいに抱きしめていた。
 あずにゃんは身体中どろどろの汗にまみれて、強い酸のようなあそこの匂いをただよわせて、
 なのに子どもみたいに小さな頭を私の胸にあずけていた。
 心臓の音が聴こえる。うるさいぐらいに聴こえる。
 私の音だけじゃない。あずにゃんのリズムも頭の奥まで響いてくる。
 ……今の私たち、おんなじだ。

 あずにゃんはしばらく、魂をどこかに置き忘れてしまったような顔でいた。
 黒い瞳に映る私のことも見えないぐらいに、ぼんやりした表情で。
 私はそんなあずにゃんに生命を吹き込むようにキスをした。
 今度はもっともっと穏やかなやつ。食べるようにではなく、撫でるようなそれを。

 唇をはなした時、あずにゃんが微笑んだ。

 ――ゆいせんぱい、あいしてます。

 口元がにやけるのを押さえられなくて、思わずぎゅっと抱きしめた。
 二人で踏み越えてしまったけど、後悔はしてない。
 触れ合わせた頬から伝わる熱が、その日の夜はとっても心地よかったんだ。

 手を伸ばして室内照明を切ると、やわらかい暗闇に満たされる。
 あは、あずにゃんもう寝ちゃったみたい。
 私も追いつけるように、手をつないだまま目を閉じた。
 重ねた皮膚から、あずにゃんの熱が伝わってくるのを感じながら。


――――――
――――

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最終更新:2011年04月11日 23:00