「これ、ソフトがささってるけど、なのソフト?」

「唯ちゃん、めずらしくするどいわね」

ムギ先輩なにげにひどい。そして唯先輩、照れないでください。

ほめてるようでほめてないですから。


「たしかに、私の方にもすでになにかソフトが入ってますね」

PSPはソフトってよりディスクかな、と思いながらそれを取り出してみると、
何も表示のされていない真っ白なものが差し込まれてる。

DSにも同様に何も表示のないソフトが差し込まれていた。

「それは私が頼んで特別に琴吹グループに極秘に作らせたソフトなの」ニッコリ

・・・・・。

なんだかとても嫌な予感がしたのは、たぶん、気のせいではないな。


「このソフトを使えば、盗撮した動画をリアルタイムでゲーム機器で見ることができるの!!」


うわっ・・・・。ムギ先輩、会社の金使ってなにしくさってんですか。


「えっ!?動画をこれで見られるの!?すごいね!!」


唯先輩、すいません。ちょっとだまってて。


場合によってはうちら2人かなりやばいっすよ?


なんだか、すんごい嫌な予感が塵も積もって山になってんですけど。



「ふふ、唯ちゃんありがとう。PSPのほうは動画を録画していつでも見ることができるわ。DSのほうも今はまだ動画を見ることしかできないけど、これからちょっと改良して、上下の画面でそれぞれ録画ができるようにするつもりなの。まぁ、今2人が持っているのは試作品ね」



「つまり、今のところDSが視聴用で、PSPが録画兼再生用ってところですか?」


「そんなところね。PSPの容量を大きくしてあるから、最大2ヶ月くらいはデータを保存することができるの」


・・・・なんか、つっこみが追いつかない。


そんなことサラッといわれても。


これがムギ先輩の本気なのか・・・・?


そして、私の中の野生の勘が更にヤヴァイ。盗撮?何を!?


まず、どこにカメラつけてんだ・・・・。まさか・・・・。


いや、まさかな・・・・ハハハ


「そのまさかよ、梓ちゃん」


「!?」



「え?今あずにゃんなんか言った?」



「いえ、言ってません(ムギ先輩、心の中・・・読んだ?)」



「隠しカメラは私たち、放課後ティータイムの活動場所、音楽室に仕掛けてます」テヘッ


「」


ダメだ、驚きを現実が上回った。笑えねぇ・・・マジか・・・・吐き気が・・・・さすがの唯先輩も状況を把握したか?
青ざめて、苦笑ってる・・・こっち見んな・・・・



で、でも、いつからしかけてるんだろう・・・・。あれはたしか2週間くらい前だから、場合によっちゃセー



「ちなみに1ヶ月前から仕掛けてます」イエイッ!



梓「オワターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」ヒャヒャウ


「・・・・・・・・・・・」


―――カチっ



「あずにゃん・・・?」



私はPSPの電源を入れた。



数秒待つと、画面にはパソコンの画面のようなものが表示され、左上にアイコンのようなものが1つあった。



横で画面を見ていた唯先輩が「ふひゃ」と声をあげた。



たしかに、それくらいの驚きの声をあげたくなるのもたしかだ。




アイコンの名前が―――――――[梓唯 ○月×日]




これは・・・・・。もう頭がグワングワンする。頭から血の気が引く。


唯先輩は、横で顔を真っ赤にしてる。



間違いない。これはあの日の日付で、間違いない。



恥ずかしいなんてもんじゃないが、私はふとよからぬことを思ってしまった。



これはもしかして、あの日の唯がもう一度見られるってことでは・・・・



結構あの時テンパってて、詳しく覚えてないんだよね。



見たい・・・ゴクリッ



いや、「見たい」のではない。「見る」んだ。



私には・・・・・これを見る義務がある・・・・・!!!



後になって思えば思うほど、どこかおかしいテンションと妙な使命感で



私は、そのアイコンを選択した。




最初の感想ってのは、人って温かいんだな、ってもんだった。

とくに、胸が。まぁ、それはきっと澪だからだろうけど。

これが唯だったら・・・きっとお菓子くさそうだし、憂ちゃんがあとで怖そうだし、

私はこんなに次の行動に悩んでなんかいない。

最後に澪に抱きついた(この場合は抱きつかれた?)のはたしか

中学生の卒業式のときだから・・・1年半ぶりくらいにはなるのかな?

こういうときに冷静になる頭を真空パックしてテストのときにでも解凍したいもんだね。



澪に腕をひっぱられて、いきなりだったから完全に覆いかぶさるようになった・・・・っと。

よし、状況は把握した。どうする、私。

もし、この澪のこの行動が私の悪ふざけの延長線上のものだったら

私は、こいつをぶっとばさなきゃならん。

もちろん、建前:悪ふざけの延長線上 本音:純情の踏みにじり で、だ。


「りつ」

「なんだよ」

「いきなりひっぱるんじゃねぇよ。びっくりするだろ」

「ごめん」

「・・・・わかってるならいいんだよ・・・・別に・・・・わかってるなら・・・・さ・・・・」


顔がさっきよりももっと近いのに澪の顔を見ていられないのは

自分自身への苛立ちのせいだ。

手を伸ばせば触れられるのに、この手は伸ばせないのは、

今掴めたとしても澪はいつか私から離れていくからだ。

この気持ちを気づかせないように今まで振舞ってきたから

全部いまさらなんだ。

でも、気づかれて今のこの関係が変わってしまっても

私はいやなんだ。

もう、なんなんだ・・・・なんなんだよ、私は。



「ごめん、律」

「なにが?」

「一応、あやまったからな・・・・」

「えっ・・・・ちょ・・・・」


澪は、私を逆に押し倒してそのままキスをしてきた。

どういうこっちゃ。てか、力強いな、おまえ。いやいやいやいや。


プハッ


「ちょ!!? え?え?///なにこれ?ドッキリ?え?み、みおっ?ふあっ!?」


「」



またキスしてきた。

澪はキスしたまま、私のカチューシャをはずす。



すんごい、心臓がドキドキする。

え?澪が私に・・・?なんで?

ちょ、これながいって・・・・い、いきがくるっしい・・・・・

呼吸ってどうやんの?

つか、こいつホントに力強いんだけど!?


プハッ



「・・・・・ふぅ・・・・りつ・・・・・」


「・・・・・・・」



な、なんだ。この状況は、なんだ。

澪は、一体なに考えてんだ。

いきなりキスって・・・・。

こいつ、こんなやつだったっけ?


私が無言でいると、澪は無言で私のリボンをほどいてきた。

そしてそのまま


「」


その手はボタンをはずし始めて


「ちょ///・・・・・・」



「・・・・・ん?」



「ちょっと、まったぁぁぁぁぁぁああああ!!!!///」



「・・・・・」



私は、ボタンに手をかけたままの澪の手をそのままつかんだ。

一緒にいるためではなく、これ以上先へ進まないために。

頬から耳までがすごく熱い。

きっと、私は顔が真っ赤だ。

今の澪みたいに。



「そ、そのさ・・・えっと・・・・わ、私たち・・・・友達じゃなかったのか?」


「友達だよ」


「友達同士って・・・・キ、キス・・・・するのか?///」


「・・・・・しないと思う・・・・」


「・・・・・じゃあ、なんで?]


自分で言ってて、腹がたつセリフだな。

もう、わかってるくせに、私はそれを澪に言わせたいんだ・・・・。

思ってた以上に、嫌なやつだ。

嬉しいのに、本当は、嬉しいのにな。


澪は、黙ってしまった。

ボタンにかけた手には既に力はなく、澪の手を握っている私の手はほとんどその役割を失っている。

視線も私からそらしている。

さっきの澪、私の知らない顔をした。

私の知ってる澪がしない行動をした。

変な気分だ。嬉しいような、悲しいような。

この気持ち、経験したことあるな。


ん・・・・そうだ、思い出した。

澪が、私よりも背が高くなったのに私が気づいたときだ。

あのときもこんな気持ちだった。

私はあのときまで知らなかったんだ。

肩を並べてるときはきづかなかったんだ。

自分が知ってる澪以外にも、いろんな澪がいるってことにも、

この自分の中にある気持ちにも。


だから、きっと、私が知らない顔を澪をするって、悲しいことじゃないんだ。うん。

それに、幸いなことに私は今のこの澪の顔を知ってる。

自分の行動を、悔いているときの顔だ。

いろんな澪がいるんだ・・・。

時間とともに幼さは抜けるけど、それは失うだけじゃないんだ。

その欠けて空いた隙間の分だけ、色んなものがその隙間をうめるんだ。

澪自身も知らない間に。そして、もちろん、私が知らない間に。

それは、・・・・私にも言えることなんじゃないだろうか・・・?

いろんな澪がいるなら、いろんな田井中律もいておかしくはない。

田井中律、お前はどうしたい?

お前の好きな奴は、目の前で泣きそうで、なんとかしてやりたくなる顔をしてる。

お前はどうしたい?


「・・・・り」

「みお」

名前を呼ばれてハッとした澪と目があう。

頬が赤く染まっているのが私のせいであるのはとてつもなく、うれしい。

「いろいろ言いたいことがあるかもしれないけど、ちょっと、私の話をきいてくれないか?」

つとめて明るく言ってみる。まぁ、それでも私の耳はきっと赤いままなんだろうけど。

「う、うん・・・・」

緊張するな・・・・。のどがカラカラだ。

「私、いままで澪に嘘ついてきたんだ」

「嘘?」

「うん・・・・。」

「ど、どんな・・・・?」

「私は、中学校の後半から澪のこと友達って思ってないんだ」

「それって・・・」


澪の言葉をさえぎるように、言葉を発する。


「でも、それはいけないことなんだって思ってた」

気分は、犯行を告白する犯罪者?

「澪はもてるから、中学生のときはたくさん告白されて大変だったよな」

「・・・・・」

「友達ってことでさ、告白相手に断りの返事した後に、『相手を傷つけた』って言っていつも泣く澪を慰めてたり、
上級生から恋愛関係でいじめられる澪の味方になってたけど・・・・」


「私、違うんだ。全然、そんなんじゃないんだ・・・・」


「りつ・・・・」

「正直、告白を澪が断るとき、いつも嬉しかったんだ。『私の澪のままなんだな』って」

「きっと、私が自分の気持ちを隠していれば、ずっと2人のままでいられるんだって思ったし、この気持ちをいったことで2人の関係は壊れちゃうんだって、・・・・そう思ってた」


「そ、そんなこと・・・・ないに決まってるだろ・・・・」


「ん。そうかも。でも、隠し続けても、いつか澪は他の誰かと一緒になるかもとも、思ってた」


あぁ、・・・・・・汚いな、汚い心だな。他人に、澪でさえ、自分の心をさらけ出すってこんなに怖いのか。


「・・・・」


でも、今言わないと、私は一生自分にひきこもりそうだ。


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最終更新:2011年04月13日 21:38