○ 軽音部部室 ○

純「そろそろ帰ろっか」

憂「うん、そうだね」

純「それにしても、憂って上達早いなぁ」

憂「オルガンは小さい頃にやってたからだよ」

純「はぁ……あたしも上手くなりたい」

憂「純ちゃん上手だよ?」

純「澪先輩くらいになりたいのぉ~」

憂「じゃぁ、次の練習はもっともっと頑張ろ♪」

純「新歓ライブまであまり時間ないしね」

憂「量よりも密度で勝負だよ」

純「乗りかかった船だし、憂や梓と一緒に練習するのも楽しいし……頑張るかぁ」

憂「ジャズ研の方は大丈夫?」

純「うん、問題なし」

憂「そっか♪ ……そういえば梓ちゃん、やっぱり今日は来れなかったね」

純「まぁ、卒業前の先輩達との貴重な時間だし……仕方ないんじゃない?」

憂「うん。そうだね」

純「それに……憂と二人っきりで練習っていうのも、普段と雰囲気違って良いものだし」

憂「……そ、そうだね。二人っきりっていうのも……良いよね」

純「ん? どしたの? 憂」

憂「な、なんでもないよ」

純「そ?」

憂「うんっ」

純「ま、いいか……んじゃ、帰ろー」

憂「はぁい」


・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

          ○ 下駄箱 ○

≪ザーッ≫

純「…………」

憂「…………」

≪ザーッ≫

純「うそぉ~ん……」

憂「急に降ってきたね」

純「天気予報じゃ何も言ってなかったのにーっ」

憂「確かに曇り空だったけど、まさかこんなに急に来るとは思ってなかったよ」

純「一応聞くけど……憂、傘持ってきた?」

憂「うぅん、持ってきてないよ」

純「はぁ……どうせなら家に着いてから降ってくれればいいのに」

憂「どうしようか? 止むまで待つ?」

純「でも止みそうもないよ?」

≪ザーッ≫

憂「……みたいだね」

純「しょうがない……職員室行って、忘れ物の傘とかないか聞いてくるよ」

憂「わたしも行くよ」

純「んじゃ、一緒に行こっか」

憂「うん♪」


・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

          ○ 職員室 ○

≪ガラガラ~≫

純「失礼しまぁす」

憂「失礼します」

さわ子「あら? 二人とも……部室に忘れ物でもしたの?」

憂「いえ、そうじゃないんです」

純「山中先生、忘れ物の傘とか余ってませんか?」

さわ子「なるほど、この雨ね。確かあったと思うから取ってくるわ」

純憂「ありがとうございます」

さわ子「じゃ、ちょっと待っててね」

≪てくてくてく≫

純「あるみたいだね」

憂「よかったね~」

純「うんうん……あ、それにしてもさ」

憂「ん?」

純「山中先生って、カッコいいよねぇ」

憂「…………」

純「綺麗で優しいっていうのもあるんだけど、なぁんとなく『カッコいい!』って思っちゃうんだよね」

憂「そう……だね」

純「あ、憂もそう思ってた?」

憂「えっとぉ……うん」

純「何でだろうね? やっぱり大人の女ってあーいう人のこと言うのかなぁ」

憂「…………」

純「きっとモテるんだろうなぁ……いや、やっぱり仕事第一って感じなのかな」

憂「…………」

純「澪先輩も良いけど、山中先生みたいにもなりたいよね~♪」

憂「それはどうかと……」

純「ん? 何か言った?」

憂「な、なんでもないよっ」

純「んぅ?」

≪てくてくてく≫

さわ子「お待たせ。あったわよ」

純憂「ありがとうございます」

さわ子「でもね……一本しか無かったのよ」

純「ぉおぅ」

憂「何とかなる……かな?」

純「ま、平気でしょ」

さわ子「大丈夫そう?」

純「はい、何とかします」

憂「それじゃぁ、お借りしていきます」

さわ子「あまり長くならないのなら、いつ返しにきてもいいわよ」

憂「はい」

純「それじゃ、失礼しまぁす」

憂「失礼します」

≪ガラガラ~ ピシャンッ≫

さわ子「……良い子達ね~」

さわ子「唯ちゃん達なら『さわちゃん車出してよっ』とか言ってきそうだもの」

さわ子「…………」

さわ子「違うわ。あの二人が普通で、唯ちゃん達がズレてるのよ」

さわ子「ふっ……私も毒されたわね……」


・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

          ○ 下駄箱 ○

純「んじゃ、オープンッ」

≪バサッ≫

純「ではでは……そこの可愛らしいお嬢さん、どうぞこちらへ」

憂「ふぇっ!?」

純「傘が一本しかないんだから、一緒に入るしかないでしょ?」

憂「え? あ、うん……そ、そだね……」

純「女の子二人ならこの傘でも十分いけるでしょ」

憂「でも……さすがに濡れちゃわないかな?」

純「こんだけ降ってるんだもん、どうやったって濡れちゃうって」

≪ザーッ≫

憂「……そうだね」

純「というわけで、ささっ 早く入った入った」

憂「はぁい」

≪ぱしゃぱしゃ ザーッ≫

純「それにしても凄い雨だ」

憂「季節外れだよね……あ、ベース大丈夫?」

純「うん、なんとか」

憂「気をつけてね? わたしは少しくらい濡れても大丈夫だから」

純「何言ってんの。いくらなんでも憂の方が大事に決まってるでしょ?」

憂「…………」

純「さすがに、楽器と大事な親友を天秤にかけたりしないってば」

憂「え、えっとぉ……その……あ、ありがと……」

純「いえいえ、どーいたしましてー」

憂「えへへ♪」

純「まぁ、梓だったら濡れちゃってもいいけどね」

憂「え?」

純「…………」

憂「…………」

純「冗談だよ?」

憂「う、うんっ わわ分かってるよっ!?」

純「ホントに? 一瞬信じなかった?」

憂「信じてない信じてないっ」

純「ホントかなぁ~」

憂「本当だよっ」

純「ぅわっと! こらこら、暴れないの。分かってるってば」

憂「ご、ごめん」

純「あ、そだ。憂……もっとこっち寄って」

≪ぐいっ≫

憂「わっ」

純「っていうか、腕組んで行こう。じゃないと、傘に入りきらない」

憂「あ、ああ歩きづらくないかな?」

純「ちょっと窮屈かもしれないけど、雨に濡れるよりは良いでしょ?」

憂「う、うん」

純「放課後デートみたいで楽しいしね。相合傘だし♪」

憂「でっ!?」

純「……で?」

憂「なな何でもっ……ない……です……」

純「んん? 変な憂だなぁ」

憂「うぅ……」

純「とにかく、ささーっと帰ろう~」

憂「お……おぉ~」

純「♪~」

憂「……ふぅ」


・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

          ○ 帰り道 ○

≪ぱしゃぱしゃ ザーッ≫

純「……でね? 梓とメールし合ってたら、気がついたら3時頃になっててさ~」

憂「あははっ でも夜更かしは身体に悪いよ?」

純「あと美容にもねっ」

憂「うんうん……って、バス停通り過ぎちゃったけど……純ちゃん?」

純「あぁ、このまま憂を家まで送るよ」

憂「えぇ!? さすがにそれは悪いよっ」

純「いいのいいの♪ 憂を送った後、ちょっと寄りたいお店あるしね」

憂「じゃぁ……先にそっち行っちゃおうよ」

純「何か買いたい物あった?」

憂「わたしは無いけど……付き合うよ」

純「はいはい、スルースル~♪」

憂「わたしなら平気だよ?」

純「ふんふふ~ん♪」

憂「ねぇ、純ちゃん……」

純「それにね……先に憂の家に行かないといけない理由があるんだよ」

憂「そうなの?」

純「うんうん」

憂「それってどんな理由?」

純「それは秘密です」

憂「嘘だよね? 付き合わせちゃ悪いって思って、気を使ってるんでしょ?」

純「ブブーッ 外れでーす」

憂「じゃぁ、理由を教えて?」

純「どうしても知りたい?」

憂「うん」

純「ふぅ……しょうがないなぁ。そこまで聞くなら教えてあげよう」

憂「…………」

純「それはねぇ……」

憂「う、うん」

純「なんとっ」

憂「…………」

純「…………」

≪ぱしゃぱしゃ ザーッ≫

憂「……なんと?」

純「お喋りしてる間に商店街を通り過ぎてしまったから……でした~♪」

憂「あ」

純「今から戻るのも手間だし、このまま平沢家にGO~ってことで」

憂「もう~」

純「えへへっ ゴメンね?」

憂「謝るくらいならこんなやり方して欲しくないよ」

純「怒った?」

憂「……ちょっとだけ」

純「今度、美味しいドーナッツ奢るから許してよ~」

憂「送ってもらって、その上お菓子まで奢ってもらったんじゃ……わたしの方が困るよ」

純「んじゃ、今度奢って?」

憂「それくらいなら全然構わないけど……」

純「あ、でも……奢ってもらうより作ってもらった方が嬉しいかも」

憂「作ったのでいいの? だったら喜んで作るよ♪」

純「へ? 冗談だったんだけど……作れるの? ドーナッツ」

憂「うん、出来るよ?」

純「おぉ~……すご~いっ」

憂「結構簡単だよ?」

純「……じぃ~」

憂「?」

純「憂……いや、平沢憂さん」

憂「な、なに?」

純「結婚してください」

憂「……えぇーっ!?」

純「…………」

憂「なっ!? え? あの、そのっ……冗談だよね?」

純「うん」

憂「……ぁぅ」

純「いや~、可愛い反応だ♪」

憂「も、もぅ~っ」

純「あはははっ」

憂「純ちゃんなんて知らないっ」

≪ぷいっ≫

純「そーやってほっぺた膨らませてる憂も可愛いなぁ~」

憂「…………」

純「眉寄せて『わたしは怒ってるんだよ?』って顔してる憂も可愛いなぁ~♪」

憂「…………」

純「あ~……えっと……ぴょこぴょこ揺れてるポニーテイルも可愛いなぁ~」

憂「…………」

≪もそもそ ほどきっ≫

純「そーやって反応するところは普通に可愛いよね」

憂「う」

純「どっちにしろ商店街は過ぎちゃったんだし……機嫌直して?」

憂「…………」

純「お願いっ」

憂「はぁ……純ちゃんには敵わないよ」

純「よしっ 勝った♪」

憂「でも、帰りは気をつけてね?」

純「それはもちろん」


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最終更新:2011年04月13日 23:02