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唯「二人乗りしよっ!」

梓「失礼します。また部活で」

唯「とりゃっ」

梓「にゅあっ」

唯「よしっと。腰に手を回すね」

梓「はぁ。重いです」

唯「私二人乗りするのが夢だったのー」

梓「おっとっと。よっと」

唯「がんばれあずにゃん」

梓「そう思うなら降りてください」

唯「もうちょっとだけー」

梓「人に見られてるんですが」

唯「手を振ってみようか」

梓「落ちますよ」

唯「風が気持ちいいね」

梓「背中が熱いです」

唯「いい匂いだよあずにゃん」

梓「嗅がないでください」

唯「心臓バクバクだね」

梓「転びそうです」

唯「朝からあずにゃんに会えるなんて今日はいい日になりそう」

梓「それはよかったですね」

唯「そうだ。明日から毎日早起きして一緒に散歩しない?」

梓「今日はたまたま早起きしただけですよ。明日からゆっくり寝ることにします」

唯「あずにゃんのいけずぅ」

梓「唯先輩だってどうせ続けられないでしょ」

唯「続けるよ。そうだなぁ。一年間続ける!」

梓「一日坊主に終わりそうです」

唯「もー」

梓「放課後へばったらいけないですから無理なチャレンジはよしてください」

唯「いいや。毎朝あの河原で待ってるからね、あずにゃん」

梓「はいはい」

唯「くそっ」

梓「うにゃっ、どこ触って」

唯「おおお? おおっ?」

梓「……もう降りてください」

唯「ごめんよあずにゃん。運転かわろっか」

梓「唯先輩の家、着きましたよ」

唯「おや、あずにゃんに夢中で気付かなかったよ」

梓「しょうがない人ですね」

唯「あずにゃん、楽しかったよ。ありがとう」

梓「こちらこそ」

唯「また河原で!」

梓「また部室で」


―――――

梓「高校最初の学園祭まで一ヶ月を切ったある日の放課後。

  私達5人はコンビニに寄っていた。
  今日はいつもより少しばかり長時間練習した。少し、ね。
  練習終了後、お腹空いたからコンビニでなんか買っていこうぜー、という部長の号令を受けて今に至る。

  正直、早く帰って自主練したり休んだりしたかった」

唯「何読んでるの~?」

梓「ひっつかないでください」

唯「かっこいいねこのギタリスト」

梓「知ってるんですか?」

唯「んーん、この髪型かっこいいね」

梓「今度CD貸しますよ」

唯「ありがとー」

梓「できればライブにも行きたいんですけどね」

唯「その時は付き合うよー」

梓「唯先輩は……ファッション雑誌ですか」

唯「うん。おお、このワンピースあずにゃんによく似合いそうだよ」

梓「ちょっと身長が足りないと思います」

唯「この帽子もかぶせてやりたい」

梓「派手ですね」

唯「こういうのも履いてみたら?」

梓「唯先輩と同じくらいの目線になりそうなヒールですね」

唯「やっぱり実際に着てみないとダメだね。今度一緒に見に行こうよ」

梓「しょうがないですね。……学園祭が終わってからですよ」

唯「あずにゃんは初めてだもんね。ピリピリするのもわかるけどもう少し肩の力抜きなよ。ほれ、もみもみ」

梓「だから。公衆の面前でそんなにくっつかないでください」

唯「よいではないかよいではないか」

梓「ほら、店員さんに見られてますよ」

唯「よいでは……ん? あの人、どっかで見たことあるよ。確か……学校で」

梓「すごく大人っぽいですけど……高校生なんですか?」

唯「うん。たぶん私と同い年だよ」

梓「どうしてアルバイトしてるんでしょうか。何か欲しいものがあるとか?」

唯「夢の実現のためにお金を貯めてるのかもしれないよ。かっくいー」

梓「立派なもんですね」

唯「私もこの子を手に入れるために大変な苦労を……」

梓「唯先輩もバイトしたことあるんですか」

唯「交通量調査っていうのをね。みんなと一緒に」

梓「へぇ」

唯「コンビニのバイトもやってみたいなぁ」

梓「大変そうですよ」

唯「あずにゃん。若い時の苦労は買ってでもするものだよ」

梓「それならちゃんと練習してください」

唯「明日からがんばるよ~」

梓「はぁ」

唯「あ、りっちゃんがあの店員さんに話しかけてる。やっぱり桜高の人みたいだね」

梓「ですね。私達もそろそろ行きましょうか。唯先輩は何を買うんですか」

唯「いちごジャムトーストが欲しかったんだけどね、置いてないみたい」

梓「なんですかそれ」

唯「時代が私に追い付いてないんだねぇ」

梓「そんな商品あるんでしょうか」

唯「だからたいやきクンにするよ」

梓「あ、そんなのもあったんですね」

唯「さあ行こうか。気になるあの子とお話ししたいし」

梓「迷惑だからよした方がいいですよ。引っ張らないでください」

唯「すいませーん。たいやきクン二つくださーい」


―――――

梓「11月最後の金曜日。

  ツインテールが暴れ回る。顔面が歪む。吐く。
  涙が流れる間もなく目が乾く。逆さ吊りにされる。きっと吐く。
  ほぼ90度の角度で落下する。我慢できずに大声で叫ぶ。絶対吐く。

  チラ見する。キャッキャキャッキャ。溜息を吐く」

梓「はーっ……はーっ……はーっ」

唯「楽しかったね! あずにゃん!!」

梓「はぁ……はぁ、そう、ですね」

唯「よーし次は」

梓「ゆ、唯先輩。ちょっと、休みましょ。そこの、ベンチで」

唯「えー」

梓「待ってて、ください。飲み物、買って来ます、から」

唯「あ、待ってよあずにゃん。足下がおぼつかないよ」

梓「だい、じょうぶです。座ってて、ください」

唯「う、うん」

梓「ぷはぁ」

唯「ぷはぁ」

梓「何笑ってるんですか」

唯「いやぁ楽しいなぁって」

梓「まぁ……楽しいですけど」

唯「ありがとねあずにゃん」

梓「お礼を言うのは私の方ですよ。タダで遊園地を回れたんですから。ありがとうございました」

唯「お隣のおばあちゃんがチケットくれたんだよ。運がよかったねぇ」

梓「そうなんですか。ところで一ついいですか」

唯「何かな」

梓「今日って唯先輩の誕生日なんですよね」

唯「そうだよ~」

梓「これってお祝いになってるんですか」

唯「もちろんだよ~」

梓「ただ遊びに付き合ってるだけですよ」

唯「あずにゃんといると楽しいもん。最高のプレゼントだよ」

梓「どうして当日になるまで教えてくれなかったんですか」

唯「あずにゃんのことだから『あ、今日唯先輩の誕生日なんだ。でもプレゼント用意してない……どうしよう……そうだ、私をプレゼントすればいいんだ!』って考えると思ったから」

梓「ないです」

唯「でも来てくれたよね」

梓「遊びに付き合ってるだけです。プレゼントじゃありません」

唯「よしよし。じゃあ次お化け屋敷行こっか」

梓「冷房入ってるんでしょうかここ」

唯「寒いね」

梓「雰囲気出すためなのかもしれないですけど季節を考えてほしいです」

唯「まぁまぁ。そんなに強がらなくても私が守ってあげるから安心して」

梓「子供じゃないんですから作りものに怖がったりしませんよ」

唯「あずにゃんは澪ちゃんのこと馬鹿にするんだー」

梓「……澪先輩は唯先輩と違ってぴゅあぴゅあハートなんです」

唯「そうかもね~」

梓「そうなんです」

唯「そういうことだから、あずにゃん。怖かったら遠慮なく私に抱きつい……」

梓「唯先輩?」

唯「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

梓「唯先輩!?」

唯「なまくび! なまくびぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

梓「ちょっと! 走らないでください!」

唯「うわあっ! あし! おんなのあしがころがってるううぅぅうううぅううぅうぅううぅう」

梓「落ち着いてください! ちょっとさわ子先生の足に似てますね!」

唯「ふわぁ! ちっちゃいおじいちゃんのなきごえぇええぇええぇえぇぇぇええぇえええぇぇ」

梓「静かにしてください! 中の人が泣いちゃいますよ!」

唯「あああ! あのねこないぞうがとびだしてるよおぉおおぉぉおおおぉぉぉおおおぉおぉお」

梓「転びますよ! 可愛いじゃないですか!」

唯「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

梓「あ、もう出口」

唯「いやぁこういうのは落ち着くねぇ」

梓「メリーゴーランドなんて小学生以来です」

唯「へー」

梓「なんですか」

唯「別にー」

梓「私だって人が少なくなかったら乗りませんでしたよ。恥ずかしいですから」

唯「人の目なんて気にしちゃダメだよ~」

梓「唯先輩はもう少し周りを見てください」

唯「以後気をつけます」

梓「まぁ今日はスピードのあるアトラクションばかりでしたからこうしてゆったりできるのもいいですね」

唯「そだねー」

梓「次来た時は今日行けなかったところも行きましょうね」

唯「何があるかなぁ」

梓「迷路とかティーカップとか」

唯「ゴーカートとか」

梓「アイススケートリンクもあるみたいですよ」

唯「バイキングも乗りたいねぇ」

梓「勘弁してください」

唯「あ、そういえばあれに乗ってないね。そろそろ時間だし最後はあれに乗ろうよ」

梓「……敢えて最後に取っておいた、ってわけじゃないんですね」

唯「うわあ。きれいだねえ。水面に観覧車が映ってるよ」

梓「壮観ですね」

唯「ほら見てあずにゃん。私たちの町も輝いてるよ」

梓「お腹を空かせた子供達の声が聞こえてきそうですね」

唯「憂も今頃夕飯の準備をしているのかなぁ」

梓「きっと豪華なんでしょうね」

唯「あずにゃんも来る?」

梓「いえ、家族のお祝いに割って入るほど図太くありませんよ私は」

唯「今日は夜まであずにゃんと一緒がよかったなぁ」

梓「そういうのは彼氏にでも言ったらどうですか」

唯「今日は夜まであずにゃんと一緒がよかったなぁ」

梓「私は女です」

唯「よいしょっと」

梓「なんですか」

唯「となり、いいですか」

梓「構いませんけど、片方の椅子に二人座るとバランスが崩れそうで怖いです」

唯「そんなわけないじゃん。そんなゴンドラ使ってるならこの遊園地とっくに潰れてるよ」

梓「唯先輩には珍しく正論を」

唯「さてそろそろ頂上だね」

梓「ですね」

唯「また来ようね」

梓「来れたら来ましょう」

唯「そっけないなぁ」

梓「子供じゃないんですから、遊園地ぐらいではしゃいだりしません」

唯「『次来た時は』ってあずにゃん言ってたよね。さっき」

梓「……ハテソウデシタッケ」

唯「バイキング乗ろうね」

梓「スケートがしたいです」

唯「尻もちつかないようにあずにゃんにしがみつくよ」

梓「やめてください」

唯「……頂上だね」

梓「……………………ぎゅ」

唯「……ぎゅ?」

梓「手、冷たいですね」

唯「もう12月だからね」

梓「風邪、引かないようにしてくださいね」

唯「あずにゃんが温めてくれるから大丈夫」

梓「私はいつも傍にいるわけじゃありませんよ」

唯「じゃあ、この観覧車を降りるまでは離さないでね」

梓「しょうがないですね」


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最終更新:2011年04月15日 23:32