梓(3曲目)
唯(永遠の女子高生、なんて言ったら痛々しいおばさんみたいかな?)
梓(唯先輩は今も女子高生みたいだ)
唯(でも歌ってる時は若返った気分になるんだよ!)
梓(構わないけどね。老けこむより若返る方がずっといい)
唯(またあずにゃんが素直じゃないオーラを出してるね。楽しんでるぅ?)
梓(唯先輩? 何ですかその顔)
唯(ん? 私の顔変かな?)
梓(表情がコロコロ変わりすぎです。元の顔が思い出せません)
唯(何がおかしいのあずにゃ~ん。ライブ、そんなに楽しいー?)
梓(唯先輩はライブで出せるものを全て出し切る人だ。今までの放課後を全部解き放ってるんだ。だから面白い)
唯(私も楽しいよ、あずにゃん)
梓(だから……やめられない。あの日の放課後を思い出させてくれるから)
唯(うん、特訓の成果出てるね!)
梓(あの日の唯先輩は珍しくが練習熱心でしたね)
唯(放課後っていいね)
梓(何千時間過ごしたかわからない放課後が今このステージで再生されてるみたい。こんな風に考えてるのは私だけかもしれないけど)
唯(忘れたくても忘れられないもん。あの日もあの日も)
梓(いや……きっと先輩達だって私と同じ気持ちだ。そう信じたい)
唯(大好きだったから)
梓(ふふ。私も大好きだったんだなぁ、放課後が)
唯(今日のあずにゃんはよく笑うね)
梓(単なるノスルタルジーではない。だって放課後は永遠なんだから)
唯(あずにゃんがドヤ顔に)
梓(こんなこと恥ずかしくて口にできないけどね。でも、唯先輩の歌が呼び起こす放課後は、幻想なんかじゃなくて確かな現実だ。確かに私達が積み上げてきたもの)
唯(あずにゃん?)
梓(すみません。ちょっと浸ってしまいました)
唯(あずにゃんでもライブ中気が抜けちゃうこともあるんだ)
梓(奇跡みたいなものだったんだよ。あの時間は)
唯(元気出してよあずにゃん)
梓(だからちょっぴり不安になる。どうすればいいのかなって)
唯(テンション上げようよ)
梓(どうすればいつまでも……)
唯(あずにゃん)
梓(唯先輩?)
唯(……うたおうよ)
梓(唯先輩……)
唯(私達は放課後ティータイムだよ)
梓(そうだ。まだまだ終わってないんだ)
唯(今は楽しも! あずにゃん)
梓(そうだ。楽しむんだ、私)
唯(ふぃー。じゃ、澪ちゃん頼むね)
梓(4曲目。この曲を始めて聞いたのは一年前の学祭)
唯(そういえば去年……)
梓(受験が近かったし心配かけたくなかったから、先輩達には言わずこっそり見に行ったんだけど……)
唯(あずにゃんが見に来てた、ってりっちゃんが言ってたなぁ)
梓(律先輩と目が合ってしまった)
唯(あずにゃん、来るって言ってなかったのに)
梓(あの時の律先輩の目は、私が今まで見たことのない目だった)
唯(りっちゃんもあまりあの日のこと話したがらないし)
梓(仲間外れしてごめんな、そう言っているように見えた)
唯(きっと何か理由があるんだと思う。りっちゃんもあれで結構考えてるから)
梓(律先輩は強引な人だ。きび団子を持ってない桃太郎みたいなものだ)
唯(あずにゃん、りっちゃんに見つめられてるよ)
梓(一方で責任感が強い人だ。一度仲間になったら簡単には離してくれない)
唯(あ、りっちゃん、恥ずかしそうに目を伏せた)
梓(律先輩、リズムが乱れてます。怠けないでください)
唯(あずにゃんが厳しい視線をりっちゃんに)
梓(しかし、今となっては、律先輩みたいな人が部長でよかったと思える。本能任せなこの人でよかったと)
唯(りっちゃんが渋い表情に)
梓(決してうまく部を仕切っていたわけじゃない。やりたいことをやっていただけ、のように見えた)
唯(りっちゃん、がっくし)
梓(でも、それがいい結果につながっていたんですよ、律先輩。おかけで私達はのびのびと過ごすことができました)
唯(りっちゃん、復活)
梓(今まで意識することはありませんでした。でも、律先輩が私達に見えないところで盛んに動いていたことを、最近になってようやく理解しました)
唯(りっちゃんは、私と一番ウマが合う相手と言っていいかな)
梓(律先輩は人の見えない部分を引き出すのが得意だ)
唯(だってりっちゃん見てると楽しくなって来るもん)
梓(逆に律先輩の内面はまだわからない部分が多い)
唯(話してて飽きないし)
梓(律先輩自身、見せたくない感情が多いのかもしれない)
唯(演奏してると楽しいし)
梓(でも、律先輩)
唯(あずにゃん?)
梓(私は敢えて律先輩の中身を見ようとは思いません)
唯(りっちゃん、キョトン)
梓(きっと律先輩は見られるのを嫌がるでしょうから。だから私はずっと生意気な後輩でいるつもりです)
唯(あずにゃん、ニヤリ)
梓(だから、練習サボって怠けてたら遠慮なく注意しますよ、今まで通り。それが私達の立ち位置だと思いますから)
唯(あずにゃん、嬉しそう)
梓(私達は変わりませんよね、部長)
唯(りっちゃん、コクリ)
梓(あと2曲か)
唯(雨、止んだね)
梓(この曲は曇り空が似合う曲だ)
唯(この曲、最近作ったばかりだから練習不足なんだよね。だから集中しなくちゃ)
梓(唯先輩が気を引き締めている)
唯(フンス)
梓(……時々現れる大人の顔。普段子供っぽいだけにいきなり大人の顔を見せられたら身構えてしまう)
唯(さ、あずにゃんも)
梓(! ヘアピンがないと余計に)
唯(いくよー)
梓(ダメダメ。集中しなきゃ)
唯(やっぱり今が一番だね)
梓(子供と大人の境界線。唯先輩を見てるとそんなものを意識してしまう)
唯(だって今のみんなが愛おしいから)
梓(過去と未来に押しつぶされそうになる時がある)
唯(今を愛さないと何も愛せないよ)
梓(先輩達が高校を卒業する、というだけで私は壊れてしまったんだから)
唯(どうしたの、あずにゃん。澪ちゃんの歌声に心臓揺さぶられちゃった?)
梓(唯先輩。私ムカついてます)
唯(ん?)
梓(私がどんなに悩んだって)
唯(怒ってるような、笑ってるような、泣いてるような、よくわからない顔)
梓(唯先輩は自分のペースを崩しませんから)
唯(私に何か言いたいことがあるの? あずにゃん)
梓(何も言いたいことなんてありません。ただ……ただいつか見捨てられるんじゃないかとおびえているんです)
唯(あずにゃん……残念だけど今は抱き締められないよ)
梓(唯先輩?)
唯(あずにゃん、私達いつの間にか大学生になっちゃったね)
梓(卒業……か)
唯(でもね、何度卒業したって私達はやり直せるでしょ。だって……)
梓(うん、決めたもんね。今を楽しむって)
唯(放課後はいつまでも終わらないんだから)
梓(思い出も未来予想も今はいらない)
唯(ステージ上のミュージシャンのやることは一つ!)
梓(ギターを弾こう)
唯(私達は一つ!)
梓(今が私の一番なんだから)
唯(これで最後)
梓(もっと演奏したい)
唯(あずにゃん、デパートのおもちゃ売り場でダダこねてる子供みたいだよ)
梓(何ですか唯先輩。しょうがないじゃないですか。好きなものは好きなんです)
唯(大丈夫だよ。これからもライブはできるよ。何度だって)
梓(明日からしばらくはティータイム漬けかも)
唯(今夜の打ち上げ楽しみだなぁ)
梓(あぁその前に今夜はきっと……)
唯(ま、これ含めて放課後ティータイムなんだからあずにゃんも許してくれるよね)
梓(でも練習もしますよ! もっと真面目に!)
唯(あずにゃんの目……あれは「練習!」の目だ)
梓(私達のためなんですよ)
唯(わかってるよ。練習練習言わないあずにゃんはあずにゃんじゃないもん)
梓(澪先輩もそうですよね。練習が大事ですよね)
唯(でもちょっと休みたいよね、りっちゃん)
梓(ムギ先輩もニコニコしてないで何か言ってください)
唯(ムギちゃんは私達の味方だよね)
梓(はぁ。結局私達はいつまでも女子高生だなぁ)
唯(嬉しそうだね、あずにゃん)
梓(でもこれこそ私が望んだものなのかもしれない)
唯(晴れてきたね)
梓(日差しが……眩しい)
唯「ラスト! “Cagayake! GIRLS”」
梓(できるならば……ずっと、女子高生のままでいたい)
―――――
梓「2013年が始まる。
学祭が終わり、しばらく真面目に練習することはないだろうという私の懸念は当たらなかった。
学祭の二日後には、示し合わせたわけでもないのに5人集まって演奏した。
ゆるい雰囲気は相変わらずなのだが、音楽に対する熱は気温に反比例して上昇していった。
毎日音合わせに夢中だった。あの学祭ライブの感覚を忘れることないよう、全身に焼きつけるかのようにただひたすら。
大晦日だった昨日も、朝からライブイベントに参加した。そしてさっきまで唯先輩の部屋で打ち上げ兼忘年会。
新年を迎える前に眠りに就いた律先輩と純とさわ子先生は唯先輩の部屋で寝かせて、澪先輩とムギ先輩と和先輩には私の部屋に泊まってもらうことにした。
メールだ。さきほど新年のあいさつをしたばかりの隣人から。ベランダに出て?」
梓「唯先輩」
唯「あずにゃん」
梓「寒いですね」
唯「うん」
梓「電話じゃ駄目なんですか」
唯「星空眺めながら話そうよ」
梓「風邪引きますよ。明日帰省するのに」
唯「10分だけでいいからぁ」
梓「はぁ、わかりましたよ」
唯「ありがとー」
梓「憂はもう寝たんですか?」
唯「洗い物とおせちの準備をしてるよ」
梓「手伝ったらどうですか」
唯「邪魔になるだけだから……」
梓「確かに」
唯「ちょっとはフォローしてよ……」
梓「憂は自分の料理を唯先輩がおいしく食べてくれるだけで嬉しいんです。それ以上は望んでません」
唯「でもさ~、たまには台所に姉妹並んで料理とかさ~」
梓「じゃあしてきたらどうですか」
唯「来年はそういう事やりたいかなーって」
梓「もう2014年の目標を立てたんですか」
唯「揚げ足取らないでよー。今年ね、今年。今年の目標」
梓「今年の目標ですか」
唯「あずにゃんの今年の目標は?」
梓「決めてません。まだ去年の総括も終わってませんから」
唯「忙しかったもんね」
梓「あっという間でした。振り返る暇がないほどまっすぐ駆け抜けてきた感じです」
唯「誰も身体壊さなくてよかったよ」
梓「こんな時間に夜風に吹かれてたら簡単に風邪引きそうですけどね」
唯「だぁいじょうぶだよー。憂の料理とおみかんさまがついてるからねー」
梓「憂の苦労を台無しにするようなことだけはしないでくださいね」
唯「わかってるよー。ちゃんと着こんでるから大丈夫……ういっくしっ!!」
梓「……もう寝ますか」
唯「……もうちょっとだけ話そうよー」
梓「この一年、色々なことがありましたね」
唯「そだねー。その度に助けてくれる人がいたね」
梓「1月、2月は入試で」
唯「あずにゃん。受験の日、結局私の部屋に泊まってくれなかったね」
梓「泊まったら落ちてましたよ、きっと」
唯「ぶー」
梓「憂がいてくれてよかったです。教えるの上手だし」
唯「おいしいお茶を出してくれるし?」
梓「……まぁ否定はしません。憂の入れてくれるお茶やコーヒーはおいしいです」
唯「受験のノウハウを姉から引き継いでいたし?」
梓「それはないです」
唯「即答!?」
梓「後輩達も快く部室を使わせてくれました」
唯「あずにゃん達も私達と同じだったんだー」
梓「私達は唯先輩や律先輩みたいにサボってません。……まぁたまに」
唯「んー?」
梓「なんでもないです。何はともあれ合格できて3月には……」
唯「あれ?」
梓「どうかしましたか」
唯「純ちゃんの活躍は?」
梓「純は……私達のペースメーカーでした。純が眠りに就くのが休憩の合図でした。おかげで無理なくやれました」
唯「気が利く子なんだね~、純ちゃん」
梓「そうでしょうか」
唯「3月は卒業旅行に行ったね~。と言っても私達も一緒だったけど」
梓「先輩達の旅行にも連れて行ってもらったんですから当然です」
唯「ありがとー」
梓「私達の行きたい所に行って先輩達が満足できたのか不安でしたけど」
唯「私達の旅行はレジャーがメインであずにゃん達の旅行は観光がメインだったからねー」
梓「退屈じゃありませんでしたか?」
唯「もちろんそんなことないよ! 私達に楽しめないものはないよ」
梓「ああ、確かに振り返ってみると唯先輩と律先輩は走り回って澪先輩とムギ先輩は二人を必死に追いかけてましたね」
唯「うぅ、ごめん。旅行になるとテンションが上がっちゃうんだよ」
唯「逆にあずにゃん達が楽しめてたのかどうか心配になってきた」
梓「楽しめましたよ。私達の方は、盛り上げてくれた先輩達に感謝してますから」
唯「それはよかった」
梓「旅行から帰ったら息つく間もなく大学生になって」
唯「あずにゃんのスーツ姿、かわいかったよ~」
梓「可愛いと言われて喜んでいいのかわかりません」
唯「きっと就活でも高得点だよ~」
梓「どういう採用基準ですか」
唯「私が面接官だったらあずにゃんを雇うよ」
梓「私は唯先輩の部下にはなりたくないです」
唯「しょぼん」
梓「5月の連休は……あぁ。初めて唯先輩の運転を……」
唯「私の運転に酔ってたねあずにゃん」
梓「確かに酔いました」
唯「ごめん。でもあれは他人の車だったし、不慣れだったというか、何というか」
梓「律先輩が、私の車が唯に壊されないか冷や冷やしてたって言ってましたよ」
唯「これでも傷一つつけたことないよ!」
梓「唯先輩の運転する車にはあれ以来乗ってませんけど、これからも乗りたいとは思いませんね」
唯「じゃあ二人でドライブに行きたい時はどうすればいいの」
梓「私が運転します」
唯「え~、あずにゃんの運転、遅くてたいくつ~」
梓「安全運転です」
唯「私だって」
梓「こういう話は私達のどっちかが車買ってからにしましょうよ」
唯「お金貯めなきゃね~」
梓「そうです。6月なんてピンチでしたからね」
唯「しょうがないじゃん。服も買わなきゃギターメンテしなきゃ食料買わなきゃだったんだから」
梓「雨のせいで気軽に買い物行けないからって、一度のお出かけで何時間もお店に居座って高い買い物してましたもんね。そのせいで憂が働きに出る羽目に……」
唯「人聞きの悪いこと言わないで! 元々この時期からバイト始めようって言ってたよ!」
梓「本当ですか」
唯「そう言うあずにゃんだって6月からバイト始めたよね」
梓「私も予定通りです」
唯「ほんとに~?」
梓「本当です」
最終更新:2011年04月15日 23:53