唯『!』
唯『時計落ちて……あれ?これ電池切れてる…』
唯『憂ーっ!電池あるー?』トントン
梓「間一髪ってところですかね」
梓「っ!」
ち、近いな…
唯「?」
唯「よいしょっと」バサッ
唯「…ていうか私なんでタイムマシン使わなかったんだろ」
梓「あ、そうですよ!」
唯「よし、明日に行こう!」
梓「はい!」
梓「……って制服脱いで行ってくださいよ?」
唯「危ない危ない」ガサガサ
唯「よし!準備おっけー」
唯「
平沢唯、いっきまーす!」
シュンッ
―――
シュンッ
ドンッ
唯「もうやだ……なんなの?」
梓「逆にどうやったら着地に失敗するんですか?」
唯「はぁ……」
ガヤガヤ
唯「これ新入生じゃない?」
梓「そうみたいですね…」
唯「いつも思い出すのはここからだよね」
梓「?」
唯「ダ・カーポ」
梓「あー、確かにそうですね」
梓「入学式の日とか入部の日は覚えててもその次の日は覚えてないんですよね」
梓「……っていうかよく知ってますね、そんな記号」
唯「梓ちゃんが教えてくれたんだよ」
梓「そうでしたっけ?」
唯「この日から私の物語は始まったんだ」
唯「りっちゃんや澪ちゃんムギちゃんや和ちゃんもこの桜を見て、そしてこの桜を思い出す日が来るんだ」
唯「それはきっと梓ちゃんもだと思うけど」
「ちょっと、」
唯「?」
さわ子「三年生は明日から登校よ?」
梓「!」
唯「あっ、さわちゃ」
梓「あーー!そうでしたー!すいませーーん!」
梓「ほら行きますよーー!」
唯「え、あっ」
さわ子「まったく…」
さわ子「ってヤバい遅刻遅刻ー!」タッタッタ
唯「あぶなー」
梓「顔でも覚えられてたら大変なことになっていましたよ」
唯「次どうする?」
梓「唯先輩のドキドキの入部を見に行きましょう」
唯「別にそんな楽しいものじゃないよ?」
梓「…ていうかどうやって学校入るんですか?」
唯「OBってことで…」
梓「ま、なんとかなりますよね」
唯「うん」カチカチ
唯「よーし!ごーごー!」
シュンッ
―――
シュンッ
スタッ
唯「やっと成功だよー!」
梓「まーそこ車の上ですけどね」
唯「はっ……もういいや…うん無理なんだな」
梓「じゃ、行きましょうか」
唯「はい…」
スタスタ
唯「時間も日にちもぴったりぐらいだと思うんだけどなー」
梓「そうなんですか?」
唯「4月の終わり一週間前くらいだからねー」
唯「…にしても私もOBなのか…」
唯「感慨深いよ…まったく」
梓「そういえば何の仕事してるんですか?」
唯「秘密だよ」
梓「いいじゃないですか、教えてくれたって」
唯「笑うもーん」
梓「笑わないですよ!」
唯「……先生」
梓「え、唯先輩がですか?」
唯「さわちゃんの後輩です」
梓「桜高で教えてるんですか?」
唯「そうだよ」
梓「……プッ」
唯「ほら笑ってるじゃん!」
唯「梓ちゃん昔からそういうとこあるよー」
梓「あの唯先輩が生徒に何か教えてるなんて……むしろ教わる側の人間でしょ!」
唯「そこまで言うなんて……」
唯「まあ実際教わることもあるんだけどね」
唯「きっとそれはさわちゃんも一緒だったと思うけど」
唯「だからさ、余計に気になるんだよ」
唯「誰もいない音楽室がさ…」
唯「目を閉じるとあの頃の光景がはっと浮かぶんだ」
唯「紅茶の甘い匂いとか、みんなの笑い声とかね」
唯「それに私の人生は軽音部が変えてくれたから」
唯「だからそのきっかけとなった軽音部をもう一度復活させたかったの」
唯「そしてそれが軽音に対する恩返しにもなると思ったんだ」
唯「だから梓ちゃん!決してあきらめないで」
唯「今度は君が誰かの人生を変える番なんだよ!」
梓「私が……誰かの人生を変える?」
唯「そう!梓ちゃんが!」
唯『ひいぃっ…』フラフラ
唯「隠れて」
梓「……」サッ
唯『怖いよぉ…』フラフラ
梓「なんかすごいふらふらしてますね」
唯「あの頃は軽音部なんて全然わかんなかったからね」
唯『……ゴクリ』テクテク
唯「もしここで私が逃げ出していたら、今の私はない」
唯「勇気ある一歩を踏み出したから私はあんなに幸せな毎日を送れたんだよ、きっと」
梓「……」
唯「梓ちゃんに何があったか知らないけど、立ち止まっちゃいけないんだよ!」
唯「そりゃその先は必ず成功するとは言えないけど、進まなきゃ何も得られないんだよ?」
梓「……なんか本当に先生、って感じですね」
唯「いやいや本当に先生なんだけどな…」
梓「過去に戻るのは次で最後にします」
唯「そっか…」
梓「私がしなくちゃいけないこと、わかった気がするんです」
唯「本当に?」
梓「もちろん、それで成功するとは言えませんけど、なんていうか……ですね」
唯「ん?」
梓「平沢先生に触発されちゃったかなーって」
唯「そんなぁ…えへへ」
唯「まー私も言われたことなんだけどね」
梓「誰からですか?」
唯「さー、誰でしょう」
梓「何となく察しがつくのでいいです」
唯「じゃとりあえずムギちゃんのところに戻ろうか」
梓「そうですね」
シュンッ
―――
シュンッ
ガッチャーン
紬「もう唯ちゃん!」
唯「う……うぅ」
梓「ムギ先輩、私にもう一度だけ一人で行かせてくれませんか?」
紬「もう一度だけ…って」
梓「けじめをつけたいんです」
梓「今までの…私と」
紬「未来を変えるチャンスなんてめったにないんだからもっと遠慮なく…」
唯「ムギちゃん」
紬「わかったわ…」
梓「ありがとうございます」
シュンッ
―――
唯「きっと…もうすぐ未来は変わる」
紬「ただ…過去をいい方向に変えても未来がいい方向に進む訳じゃない」
紬「それなりにリスクがあることなのよ」
唯「でもそれが本当の人生なんだよ」
唯「何が起こるかわからない毎日がね」
唯「軽音が私に教えてくれたみたいに、自分が変われば世界も変わるんだってこと」
唯「きっと梓ちゃんもそれにはもう気がついてる」
唯「だから信じよ。梓ちゃんを」
紬「……」
紬「ていうか、あなた本当に"大人"になったのね」
唯「まーあの頃描いていた大人とはちょっと違うけどね」
紬「本当にタイムマシンができるなんてね」
唯「そしてまさか後輩をそれで助けようとする、なんてね」
唯「どうせなら自分たちの未来も見に行けば良かったね」
紬「あなた見たいの?」
紬「これから私たちどんどんおばさんになって…」
唯「あーごめんごめん!」
唯「実際明日何があるかわからないから楽しいんだよね」
唯「はいここマーカーで線引いてー!」
紬「先生!もう教科書がマーカーでぐちゃぐちゃです!」
紬「…って最近よくそれ言うけど笑ってくれるの憂ちゃんだけよね」
唯「ムギちゃんだって最初笑ってたじゃん!」
唯「ってかりっちゃんと澪ちゃんはー?」
紬「もうすぐ来るんじゃない?」
唯「あ、そうだ!桜高の桜見に行こうよ!」
紬「あーいいわね」
唯「きっとりっちゃんも澪ちゃんも思い出すんだろうな」
紬「そうね…全てが始まったあの春の日のことを…」
唯「また…あの桜を五人で見られる日が来るのかなあ」
紬「来るわよ…」
紬「……きっと」
―――
シュンッ
梓「私が風邪で休んだ二日目到着…っと」
梓「時間は放課後…よし!」
正真正銘、先輩たちと過ごす最後の放課後だ
バタン
梓「こんにち……ってあれ誰もいない」
梓「ってあれ…これ元に戻って来ちゃったんじゃ」
「あーずにゃん」
梓「あ、唯先輩」
梓「ちょうど私も今来たところで…」
唯「……」
梓「……?」
律「ちーっす!」
澪「あー今日も疲れたー」
紬「すぐお茶入れるわねー」
梓「唯せんぱ…」
唯「私も疲れちゃったな~」
梓「……」
澪「どうしたー梓」
梓「いっ、いえなんでも…」
唯先輩…どうしたのかな
律「そしたら澪がさー、」
これが最後だと思えば思うほど自然に笑えない
卒業式でちゃんとお別れしたはずなのに…
頑張りますって言ったはずなのに…
全部そこで止まってる
唯「演奏…しない?」
律「お前……どうかしたのか?」
唯「いやいや、なんかギター弾きたいなーって」
澪「っていうかそれが在るべき姿なんだけどな」
唯「あずにゃんもしよ?」
梓「は、はい!」
なんでだろ…
もうこんな風な日常を送れない気がする
そっか…きっとそうなんだ
わたしいつの間にか、ギター弾くことよりも先輩たちとお茶飲んだりお菓子食べたり
他愛のない話で盛り上がる
…そんな日常が大好きになっていたんだ
先輩たちのいない音楽室には何の楽しみも何の幸せもない
……だけどそんなことわかってたじゃない
わかってたはずなのに…それを受け入れられない自分がいる
きっと私は先輩たちとの約束を裏切って逃げた……最低な人間
だったら始めからこんな部活……!
唯「やろうよ」
梓「え?」
唯「演奏、しようよ!」
梓「す、すいません」
ジャカジャカ
ジャーン…
澪「ってもうこんな時間じゃないか!」
唯「帰ろ帰ろー」
伝えなきゃ…
私の気持ち…!
最終更新:2011年04月16日 04:31