唯 「・・・・・・・」ムー
和 「唯、なにを難しい顔をして考え込んでるの?」
唯 「あ、和ちゃん・・・ あの、ね。実は部活動どうしようかと思って・・・」
和 「え、まだ決めてなかったの?学校が始まってもう二週間もたってるよ!」
唯 「でもでも・・・・私、運動音痴だし。文科系のクラブも良く分からないし・・・・それに・・・」
唯 「私なんかが入ったら、きっと迷惑になっちゃうんじゃないかなって・・・それで・・・」
和 「・・・・唯」
和 「約束したよね。高校に入ったら”変わる”んだって。少なくても、その努力はするんだって」
和 「そのきっかけ作りのために、まずは部活動をやってみるって誓ったんだよね?」
唯 「うん・・・・」
和 「じゃ、ほら。よく分からないんだったら、部員募集の掲示板とか、あと部活見学とかにも行ってみようよ。私も付き合うし」
唯 「ありがとう、和ちゃん・・・」
和 「唯、このままじゃニート街道まっしぐらだからね。唯の保護者を自認する私としては、放っておけないのよ」
和 「なんてね」
唯 「・・・・・・・部活やってないだけで、ニート・・・・」しょぼん・・・
和 「あ、と、とにかく!放課後になったら、いろいろ見に行きましょ?」
唯 「うん」
昼休み!職員室!!
和 「失礼します。あの、先生」
担任 「おお、真鍋か。どうした?」
和 「あの、部活のことでちょっと相談が・・・」
担任 「ん?真鍋は生徒会に立候補するから、部活動はやらないと言っていなかったか?」
和 「あ、私のことではないんです。じつは友達の
平沢唯のことで」
担任 「ああ、いるかいないのか分からない、あの平沢か?」
かっちーん
和 「・・・・そうです。その平沢です。で、ご相談の内容なんですg
担任 「なんだなんだ、真鍋は平沢と親しいのか?」
和 「・・・・はい、幼馴染ですが。それが?」
担任 「ふむ。君みたいな優秀な生徒が、あのような子と親しくするのは、あまり感心せんなぁ」
和 「・・・それは、どういう意味ですか?」
担任 「なんら自己主張ができず存在感はない。出席をとっても蚊の鳴くような声でしか返事ができない。成績も中の下」
担任 「君がつき合って、メリットを見出せるような人物でもなかろう。友達はもっと選ばなくてはなぁ」
担任 「まぁ良い。で、相談ってのはなんなんだ?」
和 「いえ、もう結構です。失礼します」
たったった ぴしゃん
担任 「・・・・なんだ、あいつは」
さわ子 「・・・・・・」
和 「なによなによ、あのヒヒオヤジ。よくも言うに事欠いて、唯の事をああも悪く言えたものね!」
和 「・・・・本当の唯のことなんか、露ほども知らないくせに。頭にくる」
和 「・・・・・くやしい(ぐす)」
さわ子 「待って、真鍋さん!」
和 「え、あのえっと・・・?」
さわ子 「追いついた・・・ えっと、真鍋さんね。私は吹奏楽部の顧問をやっている、
山中さわ子です。よろしくね」
和 「山中・・・先生?」
さわ子 「・・・・泣いてたの?」
和 「これは・・・ べ、別に」
さわ子 「泣きたくもなるわよね、友達のことをああも悪く言われたら。真鍋さんはよく耐えたわ」
さわ子 「私が言われたんだったら、あのクソジジイ!ふん縛ばってフルボッコにした後、下水に塗れた汚い川に放流してやるところ
和 (ぽかーーん)
さわ子 「だいたいあいつぁー・・・ はっ!?」
さわ子 「い・・・今の聞いてた?」
和 「はい・・・」
さわ子 「あ、今の無し!私、そこまで言ってない!あの、今のはオフレコでお願い。ね?」
和 「・・・・・ぷっ」
和 「くす。はい、わかりました。それで先生、私に何か?」
さわ子 「あ、そうそう。真鍋さん、お友達の部活動のことで先生に相談したいことがあるんでしょう?」
さわ子 「力になれるかどうか分からないけれど、私でよければ相談に乗るわよ?」
和 「え、本当ですか?あ、ありがとうございます!」
さわ子 「いいのよ、ここでは何だから音楽準備室でお話しましょう」
和 「はい!」
音楽準備室!!
さわ子 「少人数で、アットホームな雰囲気の部?」
和 「はい、そういう部があったら、ぜひ紹介して下さい」
さわ子 「それは・・・うーん、そうねぇ。和気藹々としている部はいくつか知っているけど・・・・・」
さわ子 「ね、それは必ず少人数でないといけないものなの?」
和 「はい」
さわ子 「どうして?」
和 「それは・・・ その、言わないといけないでしょうか」
さわ子 「そうね、事情を知っているのと知らないとでは、有用な情報を提供する精度に開きが出る、てところかな」
和 「・・・・・・」
さわ子 「当然だけれど、絶対に口外はしません。私を信用して、話してくれないかしら」
和 (宛にならない担任の代わりに、何の関わりもない私の相談に乗ってくれるような人だ・・・)
和 (良い人・・・ この人なら信頼にたるかもしれない)
和 「先生は、平沢唯をご存知ですか?」
さわ子 「ごめんなさい。職員室でも聞いていたけど、私はその平沢さんっていう生徒を知らないの」
和 「当然ですよね。なにせ彼女のあだ名は”空気”ですから」
さわ子 「空気・・・?え、それって本当にあだ名なの?」
和 「悪口半分、特徴半分ってところでしょうか。いるのかいないのか分からない。いても見えない。存在を感じられない」
和 「で、ついたあだ名が空気・・・・」
さわ子 「それって・・・・」
和 「ひどいでしょう?でも、本人が空気に徹しようとしているんだから、どうしようもないんです」
さわ子 「徹するって・・・ じゃあ、本来の平沢さんはそういう子じゃなかったってことなの?」
和 「はい。以前の唯はとぼけたところもあったけど、明るくて、前向きで、元気で・・・いつも笑顔で」
和 「ただ、そこにいるだけで、いつの間にかみんなの輪の中心になっているような。みんなもつられて自然と笑顔になってしまうような」
和 「・・・・そんな唯の親友でいられることが、私の何よりの自慢だったんです」
さわ子 「・・・・・・・」
和 「あの子が変わってしまったのは中学2年の頃・・・ 」
和 「最初は些細なことだったんです。今となっては原因もはっきりとは思い出せない」
あの頃の唯は人よりノンビリというか、マイペースなところがあって。
いわゆる天然っていうものでしょうか。でも、けっして嫌味なところがあるわけでもなく。
私には唯のそんな天然ぶりが快かったくらいです。おそらくクラスのみんなの大半もそう思っていたと思います。
でも、そうではない人たちもいた。いわゆるクラスの不良たち。
最初は取るに足らない悪戯から始まりました。でも、次第にそれがエスカレートし・・・・
唯は唯で、元来のノンビリさであまり深刻にも考えず、いつも通りに日々を送り・・・
それが不良たちの癇に障ったんでしょう。ついには陰湿ないじめに発展してしまいました。
相手はたちが悪い不良です。嫌がらせ程度の時とは違って、本格的に目を付けられてしまった以上、唯に近づく人は誰もいなくなりました。
みんな、次の標的が自分に移るのを恐れたんです。
唯にとっては、まったく訳が分からなかったでしょう。ある日を境にクラスの中でただ一人、孤立してしまったんですから。
そして、唯は覚えたんです。誰も味方がいない。助けが期待できない。自分で打開もできない。ならばどうするか、その方法を。
唯は心を閉ざし、自分の内面に殻をかぶせ、その中に篭ってしまいました。
楽しい事があっても笑わない。辛いことがあっても泣かない。体はそこにあっても、自分はいないものと。
やがて何をしても反応のない唯から興味をなくしたのか、不良のいじめは頻度を減らし・・・
3年になりクラスが離れたことで、唯に「空気」というあだ名を最後に残し、いじめは完全に無くなりました。
でも・・・・ 唯は元には戻らなかった。
さわ子 「ハードな話ね・・・」
和 「高校に入る前、唯と話し合ったんです。このままで良いのかって。このまま自分の殻に閉じこもって、更に3年間を過ごすのかって」
和 「あの子もそれは嫌だって。また以前のように笑って過ごしたい。でも、もう自分ではどうすれば良いか分からないって言うんです」
和 「だから、気のあった仲間たちと、何か夢中になれることに打ち込めたら、心を開くきっかけになるんじゃないかって」
さわ子 「そこで、部活なわけね」
和 「はい。でも、いきなり大所帯に放り込んでも、今の唯じゃ絶対に萎縮してしまう。それじゃ逆効果です」
さわ子 「だから少人数でアットホームな・・・か。うん、心当たりがないでもないけど」
和 「本当ですか!?」
さわ子 「ただね・・・ ちょっと引っかかることがあるのだけど」
和 「え、なんですか?」
さわ子 「あなたはどうするの?」
和 「私・・・ですか?」
さわ子 「そう、あなた。平沢さんを未知の世界に放り込んで、あなたはどうするの?」
和 「わ、私は・・・」
さわ子 「私ね、さっきの話しを聞いていて釈然としないところがあったんだけど」
和 「・・・・・っ」
さわ子 「まぁ、過去の話だし。私に言われて表情を硬くしたってことは、私の言わんとしている事も分かってるようだから・・・」
さわ子 「だからそのことは良いわ。ただし、現在進行形のこの件だけは投げっ放しにしちゃダメよ」
和 「・・・・はい、分かっています」
和 「私も唯と同じところに入ります。ですから、その部を紹介して下さい!」
さわ子 (にっこり)「分かったわ。じゃあ話を付けておくわね。明日の放課後、平沢さんを連れてここにいらっしゃい」
和 「ここって、音楽室へですか?」
さわ子 「そう、廃部寸前の軽音部へ、ね!」
翌日!!
唯 「けいおんぶ?」
和 「そう、軽音部。軽音楽部ね。唯、そこ行ってみない?」
唯 「そこ、何をするところなの?」
和 「うーん。軽い音楽って書くんだから、きっと簡単なことしかやらないわよ」
和 「・・・・口笛とか」
唯 「・・・・ほんとに?」
和 「う・・・ と、とにかく見に行ってみない?ほら、唯。たしか楽器を演奏するの、好きじゃなかった?」
唯 「え、そうだっけ?そんな事いったかな・・・・」
和 「幼稚園のとき、カスタネットを叩いて先生に褒められたって・・・」
和 「嬉しそうに教えてくれたじゃない」
唯 「・・・・そんな昔のこと」
和 「良いじゃない。褒められて嬉しかったってことは、音楽は嫌いじゃないんでしょ?」
唯 「うん・・・・」
和 「だったら行ってみましょ?それとも他に、気になる部でもあるの?」
唯 「そういうわけじゃないんだけど・・・・でも・・・」
和 「じゃ私につき合ってくれないかな?軽音部ね、私も気になってるの」
唯 「え・・・和ちゃん、部活やるの?生徒会やりたいって言ってたのに・・・・」
和 「う、うん・・・ まぁ」
和 「・・・・・・・来年。生徒会は来年。今年は目いっぱい部活を楽しみたい気分なのよ」
和 「ね、唯。一人じゃ心細いの。一緒に来てくれないかしら」
唯 「そぉ・・・ 和ちゃん、生徒会に入らないんだ・・・」
唯 「・・・・わかった、和ちゃんがそう言うなら」
和 「ありがとう、唯」
音楽室前!!
和 (さて、山中先生が話を通してくれてるはずだけど・・・・)
和 (さすがにちょっと緊張するわね)
唯 「・・・・・和ちゃん?」
和 「こほん。ん、んー。そ、それじゃ唯、ノックするわよ」
唯 どきどきどきどき
和 (・・・・返事もできないくらい硬くなっちゃってる。唯・・・我ながら強引だったかしら)
和 (でも、一歩を踏み出すのは唯自身も望んだこと。大丈夫、唯には私がついている。もう二度と・・・・)
和 (もう二度と過ちは繰り返すものか!)
? 「なにしてるのー?」
唯・和 「わぁっ!?」
? 「部室の前で何してるの?」
和 「び、び、びっくりした・・・・ あ、あの、軽音部の人ですか?私たち・・・・」
? 「あ、もしかして真鍋さんに平沢さん?」
和 「あ、はい」
? 「入部希望の!」
和 「は、はい!」
? 「わはぁー!!いらっしゃい、待ってたよ!ギターがすっごく上手いんだってね!」
唯・和 「・・・・・・え?」
? 「来てくれるのまってたよー!ひゃっほー!!」
和 (ど、どういうこと!?私、楽器ができるなんて一言も・・・・)
? 「みんなー!入部希望者が来たぞー!!」
がちゃっ!
? 「本当か?! ようこそ軽音部へ!」
? 「まぁ! 歓迎いたしますわ~!」
? 「よぉしムギ!お茶の準備だ!」
? 「はい~♪」
彼女たちが煎れてくれたお茶を頂きながら、私たちは簡単な自己紹介を済ませた。
一つ判明したこと。それは私たちが楽器を演奏できる。それもかなりのベテラン。
山中先生は私たちを紹介するさい、そんな根も葉もない設定をおまけに付けて話していたらしいということ。
なんでそんな事いったんですか、山中先生ーーーー!
律 「実は私たちも今年の新入生なんだけど・・・・」
澪 「先輩たちがみんな卒業しちゃって、部員は私たち三人だけなんだ」
紬 「一週間以内に部員が4人以上にならないと、廃部になるところだったんです」
和 (う・・・重い。なるほど、両者の利害の一致ってわけか。ただ紹介してくれたわけではなかったのね・・・・)
唯 「あうう・・・・・」
和 (ああ・・・唯が入部を断れない雰囲気に押し潰されそうになっている。どういうこと?っていう目でこっち見てる)
和 (でも、みんな良い人そうだし・・・ それにこの人数。唯のリハビリにはうってつけだわ)
和 (これは、却って好都合だったかも知れないわね)
律 「それで、ふたりはどんな音楽がやりたいの?」
和 「え・・・?」
律 「どんなバンドが好きかぁー?」
唯 「あ・・・ぅ」
律 「好きなギタリストは?」
和 「えっと・・・(早く言わなきゃ。じつはギターなんて引けないって)」
澪 「ん? じゃ、平沢さんは? どんな音楽が好き?」
唯 「え・・・と・・・・あの・・・・」
澪 「?」
最終更新:2011年04月19日 22:51