唯 「・・・・・・・・・」

律 「んー??」

和 「あ、あのっ!な、なんだか手違いがあったようで・・・・ 実は私たち、ギターなんて弾けないんです」

紬 「まぁまぁ、そうだったんですか? きのう山中先生がとんでもない逸材をスカウトしてきたって言うから、私たちてっきり・・・・」

和 「あはあは(何を言ってるんですかー、せんせい!!)」

紬 「じゃあ、なにならできるの?」

和 「それが、まったくの素人で。ここで一から始めてみようかと。ご迷惑でしたか・・・」

澪 「いや、そんなことはないよ。弾けなければこれから弾けるようになれば良いだけだし。なぁ、律」

律 「平沢さんもできる楽器ってないの?」

唯 「・・・・・・・・」

和 「あ、この子もしr
律 「平沢さんに聞いてるんだけど」

唯 「・・・・ぅ」

澪 「おい律、どうしたんだ? そんな強引な聞き方するなよ」

律 「平沢さんさー。ここ来てまだ一言も話してないんだけど。どうしちゃったのかなーって思って、さ」

紬 「そういえば。大丈夫?具合でも悪いのかしら」

唯 (ふるふる・・・・)

澪 「震えてるぞ。風邪か?」

紬 「大変! たしか風邪薬の持ち合わせがあったはずだわ! 待ってね、今・・・」

和 「あ、違う! 違うんです。この子、緊張しちゃってて。それで少し静かになっているだけなんです」

律 「ふーん・・・ そうなんだ」

律 「まぁいいや。二人とも入部ってことでいいんだよね? じゃ、これ。入部届け。書いて明日持ってきてね」

和 「はい。じゃ、今日はこれで。行こう、唯」

唯 (こくっ)

和 「あ、お茶。ご馳走様でした」

ばたん


澪 「・・・・おい律。途中からなんか、態度悪かったぞ。良くないぞ、ああいうの」

律 「お前、今の平沢っての見て、何も思わなかったのか?」

澪 「なんのことだよ」

紬 「どうかしたの、りっちゃん」

律 「別に・・・・ たださ。ああいうモジモジしたの見てると、無性にイライラするんだよ」

律 「言いたいことがありゃ言えばいいし、無けりゃ堂々と座ってりゃ良いんだ。それをオドオドウジウジ・・・」

澪 「やめろよ律。誰しもお前みたいに単純じゃないんだ。それにお前に辛く当たられて、二人に入部を取り消されたりしてみろ」

紬 「そうよ。二人のおかげで廃部も免れそうなんだし。ね、ここは我慢して・・・」

律 「あー、もう、はいはい。分かってる。わぁーってるよ」

紬 「ま、まあともかく!これで練習開始前に廃部っていう、最悪の事態は避けられそうね」

澪 「そうだな! いよいよ軽音部の本格始動だ。がんばろうな、律! ・・・・律?」

律 「・・・・・・・」

和 「見学のつもりが、入部することになっちゃったわね・・・」

唯 「・・・・・・・」

和 「どう、やっていけそうかしら。 ・・・・唯?」

唯 「・・・・・あのカチューシャの人・・・ 怖い・・・」

和 「あー・・・ ちょっと自己主張が強そうな子だったわね。唯の苦手なタイプか」

和 「でも、そんなに悪い人には見えなかったし、もし何かあっても・・・」

和 「・・・・・今度は私が唯を守るから」

唯 「・・・・のどか・・・ちゃん?」

和 「だから。ね、唯」

唯 「うん・・・ありがとう。私、がんばってみるよ」

和 「一緒にね、がんばろう」

和 「それじゃ、また明日ね」

唯 「・・・うん。また明日」

和 「・・・・・・」

和 「・・・さて、携帯を」(ぴぽぱ)

和 「あ、もしもし。待たせたわね、いま帰るところ。ええ、分かったわ。じゃ、駅前の喫茶店でね」(ぴっ)

和 「あの子にも報告、しておかなきゃね」



喫茶店内!!


和 「えっと、窓際の席・・・ あ、いたいた。お待たせ、だいぶ待った?」

憂 「あ、和ちゃん。ううん、さっきついたところ」

和 「そう、良かったわ。あ、コーヒー下さい」

憂 「和ちゃん。お姉ちゃんの部活の件だけど・・・・」

和 「軽音部に決めてきたわ」

憂 「え、もう決まっちゃったの?」

和 「届けを出して、明日から練習に参加するつもりだけど」

憂 「・・・・・・・」

和 「どうしたの?」

憂 「私、やっぱりお姉ちゃんが部活をするの、反対です」

和 「その話はこの前もしたでしょう? これは前に一歩を踏み出すため、唯自身が望んだことなのよ」

憂 「それでも。お姉ちゃんが自分で決めたからって、その答えが正しいとは限らない」

和 「憂・・・」

憂 「怖いの。もしまた酷い事をされたら、今度こそお姉ちゃん、立ち直れなくなっちゃう。それがとても怖い」

憂 「今は静かにそっとしておいて欲しい。そうすればいつかはお姉ちゃんも」

和 「そのいつかって、いつ?」

憂 「え・・・」

和 「唯が苛めにあったのがもう二年前。この二年で唯が元に戻ることは無かった」

和 「じゃあ、この先の二年も元に戻る保障なんて無いじゃない。二年後って言ったら三年生。進路を決めなきゃならない大事なときに・・・」

和 「その時になって唯が今のままだったら、あの子は本当に終わりよ。そうならないために、させないために・・・・」

和 「多少荒療治でも、今からできることをしておかなきゃ」

和 「だいじょうぶよ。何かあっても、私が唯を必ず守るから」

憂 「・・・・・あの時も、和ちゃんがそれだけ親身になってくれてたら、お姉ちゃん壊れなかったかもしれないのにね」

和 「憂・・・ そうね。本当にその通りよ。でも、過去にはもう戻れないもの」

和 「だから私は、今できることを全力でやるわ」

憂 「勝手だよ」

和 「そうね、勝手だわ」

憂 「私ね。和ちゃんのこと、まだ許せてないんだ」

和 「・・・・当然よね。でも。許さなくて良いから、少しだけ私を信用して? お願い」

憂 「・・・・・うん」

和 「ありがとう」

和 「ところで、憂の夢。そっちのほうはどうなっているのかしら?」

憂 「うん・・・こつこつやってるよ」

和 「機会があったら、私にも見せてね?」

憂 「そのうちに・・・ね」

和 「楽しみだわ」

憂 「・・・・・」

和 「・・・・空が高いわね。明日も晴れるのかしら」

憂 「うん、晴れたら良いよね」



・・・
・・・・
・・・・・

男子 「やーい、がり勉!勉強ばっかしてて、そんなに先生に褒められたいのかよー!」

和 「ちが・・・やめて・・・やめてよ・・・」

男子 「がーりがりべん!がりがりべんべーん!」

男子 「あひゃーひゃっひゃっひゃ!」

和 「う・・・ぐす・・・ ふぇ・・・」

唯 「こらーっ!」

男子 「うわ、平沢だ!」

唯 「和ちゃんをいじめるなー!」

男子 「うっせーな、からかってただけだよ。ちぇ。もう行こうぜ」

唯 「まったくもー! だいじょぶ?和ちゃん」

和 「あ、ありがとう、唯ちゃん・・・・」

唯 「えへへ。和ちゃんは唯が守ってあげるからね!」ぎゅっ

和 「きゃっ、唯ちゃん!?」

唯 「へへ。ぎゅってされると落ち着くでしょ?泣き止むまで、ずっとこうしていてあげるね!」

和 「ありがとう・・・///」


・・・・・
・・・・
・・・


和 「・・・・・ん」

和 「朝・・・? 夢か・・・昔の・・・・」

和 「・・・・・・・唯」

和 「・・・今日から部活か。がんばろうね、唯」



放課後! 音楽室!!

がちゃっ

和 「こんにちわ」

唯 「・・・・こ、こんにちわ」

律 「おー、来たなー、新入り! 改めて今日からよろしくな!」

和 「こちらこそよろしく、田井中さん」

律 「ちっちっ、今日からは同じ軽音部の仲間なんだしさ、堅苦しいのは無しにしようぜ。私のことは律でいいよ」

澪 「私は澪で」

紬 「私はみんなからムギって呼ばれてます。お二人にもそのように呼んでもらえたら嬉しいです」

和 「ありがとう。私のことは和って呼んでね」

律 「平沢さんは、どう呼んでもらいたいー?」

唯 「え・・・あの・・・・ うぅ」

律 「・・・・・はぁ」

澪 「ま、まぁまぁ。呼び名なんて馴染んできたら自然に決まるさ。なぁ、ムギ!」

紬 「そうね。その為にもまずは親睦を深めないと。というわけで、お茶にしましょう!」

和 「え、あの・・・練習は?」

澪 「練習といっても、まだ平沢さんと和のパート分けが決まっていないだろ?どっちにしてもすぐに練習と言う訳にはいかないよ」

和 「そうか・・・ 言われてみれば当然よね」

律 「で、いま我々に不足しているのがギターだ。てわけでぇ、二人のどっちかはギターって事でお願いね」

和 「残ったほうは?」

澪 「それなんだけど、ギターが加われば一通りバンドの形は整うんだ。もちろんギターが二本になっても、それは構わないんだけど」

紬 「ただ、楽器は二人とも初心者でしょ? それだったらギターは一人に集中して練習してもらって、もう一人には専属のボーカルを頼もうかと思ってたの」

和 「ぼ、ぼーかる!!?」

唯 「!!!!」

和 (こ、これは予想外の展開だわ。てっきり楽器だけをやればいいものかと思っていたけど・・・・)

和 (でも、そうよね。バンドだもん。歌を唄う人が当然必要になるわよね。だけど、人前で歌を唄うなんて、そんな恥ずかしいこと・・・)

唯 がくがくぶるぶる・・・・

和 (唯・・・・ )

律 「平沢さん、やってみない? ボーカル。いちばん目立つし、かっこいいぜ!それにきっと気持ちいーよ?」

唯 ぶんぶん!!!

律 「そんな豪快に首ふって、それほど嫌かぁ」

唯 こくこく!!!

律 「嫌なら嫌でいいけどさぁ、意思表示は言葉でしようぜ。口、ついてるんだからさ」

唯 「うう・・・・」

和 「はいっ!!」 しゅたっ!

和 「はいっはいっ!!ボーカル、私がやります!」しゅたっしゅたっ!

唯 「・・・・のどかちゃん」

和 「ボーカル、前からやってみたかったの! ああ、超やりたいなー!!」

律 「超って・・・」

澪 「決まりだな! じゃあ、平沢さんがギターね。それで良い?」

唯 こくり・・・

和 (いくらなんでも今の唯にボーカルはやらせられない! くぅ、唯のため。がんばるのよ、私!)


こうして私たちの役割が定まり、いよいよ軽音部員としての新たな日々の幕が切って落とされたのだった。


澪 「じゃあ、早いうちにギターを買わないとだね」

和 「ギターってどれ位するのかしら。値段・・」

澪 「うーん・・・ 安いのは一万円台からあるけど、あんまり安すぎるのもよくないからな。5万円くらいが良いかも」

唯 (五万・・・!私のお小遣い10カ月分・・・・・)

澪 「高いのは10万円以上するのもあるよ」

和 「部費で落ちないのかしら」

律 「落ちません♪」

澪 「とにかく、楽器がないとなにも始まらないからな」

律 「よーし!今度の休みにギター見に行こうぜ!ね、平沢さん」

唯 「う・・・・うん」(お金だいじょぶかなぁ・・・)



その日の夜。平沢家の唯の部屋!!


憂 「お姉ちゃん、ご飯だよ・・・ あれ、貯金箱なんかひっくり返して何してるの?」

唯 「あ、憂・・・。あの、えっとね」

憂 「なにかお金が必要なの?」

唯 「うん。あのね、私・・・ 軽音部に入ったんだ」

憂 「・・・・そうなんだ」

唯 「うん。でね、ギターをやることになってね。それ、買うお金が必要で・・・・」

憂 「そっか。ねえ、お姉ちゃん」

唯 「なぁに?」

憂 「軽音部の人たちって、どんな人なの?」

唯 「え、どうして・・・?」

憂 「単なる好奇心だよ」

唯 「・・・・みんな良い人だよ。一人ちょっと怖い人もいるけど、悪い人じゃないっていうのはわかるから・・・・」

憂 「やっていけそう?」

唯 「がんばってみるよ」

憂 「うん、がんばって。でも、無理もしないで。辛くなったら逃げ出したって良い」

唯 「・・・憂?」

憂 (逃げないで無理して、それでよけいお姉ちゃんが壊れてしまったら、元も子もないもの)

憂 (もしそうなったら・・・今度こそ和ちゃん。私はあなたを許さない)


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最終更新:2011年04月19日 22:53