駅前の喫茶店!!
和 「お待たせ、憂」
憂 「こんにちわ、和さん」
和 「なぁに、憂。急にさん付けなんて、他人行儀な呼び方をしちゃって」
憂 「えへへ。だって私も桜校生になって、和ちゃんは先輩だもん。きちんとけじめはつけなきゃって思って」
和 「へぇ?その割には今、ちゃん付けで呼んでたけどね?」
憂 「はっ!いけない・・・ ついいっつもの癖で」
和 「ふふ。まぁ、二人の時はいいじゃない。私も憂からさん付けで呼ばれるの、なんだかくすぐったいって言うか落ち着かないもの」
憂 「そうだよね。じゃ改めて。こんにちわ、和ちゃん」
和 「こんにちわ、憂」
憂 「和ちゃん、軽音部やめちゃったんだね。どうして?」
憂 「その・・・ 楽しくなかったの?」
和 「ううん、とっても楽しかったわよ。居心地が良くて暖かくて」
憂 「じゃあ、どうして?」
和 「やりたいことがあるの。だからね、彼女たちとは今までと違った形で、今まで以上の付き合いをしていくつもり」
和 「それにね。唯も私も・・・ もうお互いがベッタリじゃなくってもやっていけるんだって。その事に気づいたから」
憂 「・・・・・」
和 「あ、それで。今日はどうしたの?何か用事?」
憂 「うん、和ちゃんに見てもらいたいものがあって」
憂 「はいこれ。形になったら一番に和ちゃんに見せるって、約束だったから」
和 「これ・・・完成したんだ。ありがとう。さっそく見せてもらって良い?」
憂 「恥ずかしいけど・・・ うん。感想、聞かせてね」
和 「もちろん。どれどれ・・・ あら、これって・・・・」
憂 「どうかな・・・・」
和 「よく描けてるわ。みんなも特徴を捉えて可愛く描けてる。それに・・・この雰囲気・・・・」
和 「私たちの軽音部に満ちてる雰囲気そのものね」
憂 「えへへ・・・ クリスマスや年越しに皆さんが家に来てくれたから、イメージしやすかったんだ」
和 「あと・・・ マンガの中の唯・・・ とっても楽しそう」
憂 「うん。今まで辛い想いをした分も、これから楽しい高校生活をおくれますようにって。その願いも込めて」
和 「きっと・・・ううん。絶対そうなるわよ」
和 「それにしても・・・うふふ」
憂 「なぁに?」
和 「このペンネーム。変なの」
憂 「だって、本名は恥ずかしいんだもん。だけど、かっこいいペンネームって難しいね。ぜんぜん思いつかなくって」
憂ことPN「かきふらい」作のこのマンガ。作者の姉と周りの人々をモデル(もちろんフェイクあり)に描かれた「けいおん!」。
やがてこの作品は雑誌編集者の目に留まり、連載・アニメ化と順調に人気をはくし、一大ムーブメントを巻き起こすことになるのであるが・・・・
それはまた別のお話である。
和 「憂、カキフライ好きだったっけ?」
憂 「むしろ苦手・・・」
和 「好き嫌いはダメよ。自分のペンネームに恥じないよう、きちんと食べられるようになりなさい」
憂 「はい、努力します・・・」
軽音部には可愛い後輩が入部したそう。きっとますます、賑やかで楽しい部になっていくんだろうな。
居場所とかつての明るさを取り戻した唯。次は律へ気持ちを伝える大仕事が待っているね。
鋭い律もそっちの方面には疎そうだし、苦労する唯が目に浮かぶよう。
でも、今の唯だったら気持ちをきちんと言葉にして、相手に伝えることができるよね。だから、ひとまず心配はしないことにしておくわ。
憂も夢への第一歩を原稿という形になした。
皆が日々、新しい一歩を踏み出している。
じゃあ、私は?
私は今期の生徒会選挙に立候補するため、その準備に追われる日々を送っている。
ずっとやってみたかった仕事。実現のためには、やることは山盛り。演説文、ポスター作りにクラス巡り・・・てんやわんや。
だけど必ず実現してみせる。私には私の新しい居場所を作る、夢を叶えるという義務と権利があるのだから。
律 「みなさん、こんにちわー!今日は私たち軽音部のライブにようこそー!じゃあ、メンバーを紹介します!」
律 「ギター!休みの日はいつもゴロゴロ。甘い物なら私に任せろ!ノンビリ妖精
平沢唯ぃー!」
唯 「じゃらーん!じゃららららら、ぎゅいーーん!」
律 「キーボード!お菓子の目利きはお手の物。シットリノリノリ天然系お嬢様
琴吹紬ぃー!」
紬 「ぽろぽろぽろ、ぽろろろろろろん。えへ♪」
律 「ベース!怖い話と痛い話が超苦手!軽音部のドン、デンジャラスクイーン!
秋山澪ぉー!」
澪 「誰がデンジャラスだ!!」
律 「ドラム!!容姿端麗頭脳明晰!さわやか笑顔で幸せはこぶみんなのアイドル!田井中りt(ごんっ!)いたぁー!?」
澪 「自分だけ持ち上げすぎだろ!!」
律 「最後にボーカル、バンドの花形の登場だ!全てを見通す赤ブチメガネ。しっかり者の軽音部のお母さん!
真鍋和ぁー!」
和 「お・・・お母さん。そう見られてたのね、私・・・ 正直へこむわ・・・・」
律 「てな感じのMCでいってみようと思うんだけど、どーよ」
唯 「私はいいと思うよ、りっちゃん!!」
澪 「えー・・・ もうちょっとまじめにやろうよ・・・コミックバンドと間違われちゃうだろ」
唯 「澪ちゃん、面白いしこれで行こうよー。それにもうすぐ幕が開いちゃうよ、ねぇムギちゃん?」
紬 「あらあら、そうねぇ。今から考え直している時間はないわねぇー」
澪 「うう・・・」
和 「せ、せめてお母さんってのだけは抜いてくれないかしら・・・・」
律 「分かった分かった。さ、時間だ。みんな配置につこうぜ。良いライブにしような!」
おーっ!
静かにゆっくりと、目の前を覆っていた幕が上がってゆく。
替わりに現われたのは、これから始まるライブに期待の目を向ける顔・顔・顔・・・
体が震える。武者震い。心地好い緊張感が全身を支配する。悪い気はしない。
マイクスタンドに手を沿えながら、震えで膝が笑わないように両足に力を込める。
律のワンツーの掛け声と共に始まる演奏。いよいよだ。
私も皆の演奏に負けないように、懸命に歌う。隣では唯も私を追うように声を重ねてくる。
最高の演奏。最高のコーラス。だから私も最高の歌で応えなきゃ。
緊張は興奮に代わり、ただ純粋に今の瞬間を楽しんでいる自分がそこにはいた。
この思い出があれば、きっとこの先。失敗したり後悔を感じることがあっても。
きっと私は膝を折ることなく、挫折を知ることもないだろう。
後ろに気を取られていた私に前を向かせてくれた、かけがえのないみんなとの思い出があれば。
私の軽音部でのライブは終わったけれど、新しいステージの幕はまだ開いたばかりだ。
おわり!
和 「桜高軽音部専属ボーカル 真鍋和です~桜高祭 本番まであと三日 編~
学園祭を三日にひかえた、ある日の放課後。
軽音部!!
ちゃちゃっ!ちゃちゃっ!ちゃ~~~ん♪
じゃかじゃんっ!
澪 「・・・・・ふむ」
律 「いいじゃんいいじゃん」
唯 「うんうん!」
和 「・・・だね!」
みんな「完・璧!!」
澪 「最近ずっと思ってたんだけどさ。もしかして私たち、凄くないか?」
律 「ああ、凄い凄い。夏休みに初めて音合わせして、それからまだ間もないってのに」
澪 「もうこんなに息がピッタリだ!」
唯 「これなら胸を張って、桜高祭のステージにも立てるね」
和 「そうね。これも合宿で頑張った成果かしら」
合宿・・・
私が無用なこだわりを捨て、唯が心の蓋を開くことができた、あの合宿が終わってから早一ヶ月。
私たちの高校生活最初の夏休みは、軽音部のみんなとの多くの思い出を跡に残して、怒涛のように過ぎ去っていった。
日中は部室に集まり練習に明け暮れ、それがすめばみんなで外に繰り出し。
街で遊んだりファーストフードでだべったり。
わずかひと月たらずの夏休みの、なんて密度が濃かったことだろう。
友達とただ楽しく笑いあって、負い目のない付き合い方をすることが、こんなにも楽しかっただなんて。
忘れていた感覚。
律 「しっかし和って、良い声してるよなぁ」
和 「え。な、なによいきなり・・・」
澪 「いや、私もそれは思ってた」
和 「ちょ、ちょっと・・・」
澪 「声に伸びがあるって言うか、聞いていて心地好い声音だよな~」
和 「ああ、もうっ!」
唯 「和ちゃん、照れてる~」
和 「ゆ、唯っ!」
唯 「きゃー♪」
唯 「照れてる和ちゃんも可愛いよ」
和 「唯!こら、待ちなさいっ!」
唯 「やだー」キャッキャ
和 「ちょ、この・・・!逃げ足だけは相変わらず速い・・・!」
唯 「可愛いって言ってるのに、なんで和ちゃんは怒るのかなー・・・ おっと!」
和 「くっ!この!ちょこ・・・」すかっ
和 「まか・・・とっ!」すかっ!
澪 「すごいな唯。全部すんでのところでかわしてるぞ」
律 「おーおー、和も必死になっちゃって」
律 「なんも怒ることないだろー、和」
和 「はぁはぁ・・・だ、だって、みんなで・・・ぜぇぜぇ、変なことを言うから・・・」
律 「褒めたんだろ?」
和 「うう・・・」
澪 「別にお世辞や冷やかしで言ってるんじゃないよ。本当に良い声だなって思ったから言ったんだ」
澪 「歌い手が良いと選曲の幅も広がるし、ほんと和が軽音部に入ってくれて良かったよ」
和 「・・・っ」
律 「唯のコーラスも、良い感じで声が出てきたし」
唯 「えへへ」
律 「楽しみだな、ライブ!」
和 「え、ええ・・・・」
唯 「・・・・和ちゃん?」
和 「そ、それはそうと・・・!」
律 「誤魔化した!」
和 「じゃなくて。今日ムギの姿が見えないのが気になってたんだけど・・・」
澪 「ああ、ムギなら職員室だよ」
澪 「学園祭でステージを使う許可をもらいにね、お使いをお願いしたんだ」
和 「そうだったの」
律 「と、噂をすれば・・・」
がらっ
紬 「みんな、ただいま~」
唯 「ムギちゃん、おかえり!」
澪 「ご苦労様、ムギ。それでステージは何時から使えるって?」
紬 「それがねぇ。軽音部はまだちゃんとしたクラブって認められてないって、断られちゃった」
唯 「ああ、そっか~」
律 「それじゃぁ仕方がないよなぁ」
澪 「うんうん。じゃあ、ライブに向けてもう一ガンバ・・・・り・・・」
・・・・・
・・・・・
律・澪・唯・和 「ええっ!?!?!?」
律 「部として認められてないだって!?」
紬 「うん、そうみたい・・・」
唯 「部員が四人以上集まったんだから、ダイジョブなんじゃなかったの・・・?」
律 「そのはずなんだけどな」
和 「・・・部として認められてないのに、音楽室を勝手に使ってて良かったのかしら」
律 「い、今まで何も言われなかったから、大丈夫だよ!・・・・きっと」
律 「それより!どういう理由なのか聞きに行かないとな!」
澪 「そうだな。納得のいく答えがもらえない時には、抗議してやらないと・・・!」
律 「よし、ここは部長の私と・・・ 和!いっしょに来てくれ!」
和 「分かったわ」
とことこ
律 「しかし、これって一体どういうことだよ・・・!」
和 「律、そんなにカッカしないで。生徒会室に行けば、理由も分かるから」
律 「そりゃそうだけど、だけどさぁ・・・」
和 「?」
律 「人前で声を出すのに慣れてない唯がさ、あんな一生懸命がんばってるってのに」
律 「そんな前向きな気持ちに水を差されて、それでまた唯の心が蓋で閉ざされたらって思うと、私・・・」
和 「律・・・」
和 「ありがと、律。唯のことを本気で考えてくれてるのね」
律 「友達なんだ、当たり前だろ」
和 「でも大丈夫。今の唯は、そんなにやわじゃないわよ」
律 「そんなの分からないだろ。心なんてデリケートなもの、何がきっかけで崩れちゃうかなんてさ」
和 「そうだけど。でもね、平気なのよ。今の唯は」
律 「なんでだよ・・・」
和 「それは私の口からはちょっと、ね。機会があったら本人から聞いてちょうだい」
律 「いじわるめ」
和 「知らなかった?こう見えてね、私はけっこう意地悪なのよ」
それはね、律が唯の側にいてくれているから。
なんてことは、私の口からは言ってあげない。
最終更新:2011年04月19日 23:01