生徒会室!!
和 「さて、ついたわね」
律 「相手は海千山千の役員どもだ。気圧されるなよ」
和 「もちろん」
律 「じゃあ、開けるぞ!」
がちゃっ!
和 「ごめん下さい!」
律 「部長はワタシッ!!」
曽我部 「・・・・・・へ?」
・・・・・・
・・・・・・
曽我部 「そう、正式な部じゃないって先生に言われちゃったのね」
和 「はい。部活動の申請と許可は生徒会を通して学校側に通されるでしょう?」
曽我部 「そうね」
和 「なので、なぜ軽音部が部として認められていないのか。ここに来れば分かると思いまして」
律 「ふむ・・・ ちょっと待ってね」
ぺらぺら
律 「それ、何です?」
曽我部 「桜高の全部活
リスト。一応申請が出されたものに関しては、全て記録されているはずなんだけど・・・」
曽我部 「やっぱり無いわね。軽音部」
律 「無いって・・・ それ、そういうことですか」
曽我部 「部活申請用紙、ちゃんと提出した?」
和 「そんなの当然じゃないですか」
曽我部 「おかしいわね。提出された申請用紙もまとめて綴られてるんだけど、軽音部のはやっぱり無いのよ」
律 「・・・・・あ」
曽我部 「一応聞くけど、用紙の出し忘れってことは無いのかしら?」
和 「そんな。申請用紙なんて一番最初に提出するものですし、忘れるなんて事・・・」
和 「・・・・律?」
律 「・・・・」
和 「まさか・・・?」
律 「え・・・えへ♪」
律 「ごめんなさいっ!!」どげざっ!!
和 「ちょ・・・ 律、頭を上げて」
曽我部 「そうよ、土下座はよくないわ」
律 「だけど!私の不注意で軽音部のみんなには不安な思いをさせてしまったし・・・」
律 「生徒会の人を疑うようなことをしちゃったりもしたし、もう何と謝ったら良いのか」
曽我部 「まぁまぁ。仲間内のことはそっちで解決してもらうとして、私のことならもう良いわよ」
律 「怒ってないので・・?」
曽我部 「土下座までされちゃ、怒る気にもなれないわよ」
律 「いやはや、なんとも・・・・」
和 「私も生徒会のほうに原因があると、一方的に決めてかかっていました」
和 「曽我部先輩、すみませんでした」
曽我部 「え?」
曽我部 「あなた、私の名前を知って・・・?」
和 「あ、はい」
曽我部 「どうして?そんなに下級生に名が売れてるとも思えないんだけど」
和 「えっと・・・ 一応。生徒会の主だった人の名前は覚えていますので・・・」
曽我部 「へぇ?何はともあれ、それは光栄ね。じゃ、私にもあなたの名前を聞かせてもらえるかしら?」
和 「はい、真鍋です。真鍋 和」
曽我部 「真鍋さんね。これも何かの縁、あなたの名前は覚えておくわね」
和 「ありがとうございます」
曽我部 「よし・・・ これで良いわ」
曽我部 「これで軽音部は正式な部として認められたわ。ステージの使用申請も、問題なく受理されるはずよ」
律 「あ、ありがとうございますうううっ!このご恩は一生忘れませんんっ!」
曽我部 「面白い子ね、田井中さんって」
和「彼女なりの、罪悪感と責任感の現われなんです」
曽我部 「あらあら」
和 「曽我部先輩、なにから何までやっていただいて、本当にありがとうございました」
曽我部 「良いのよ。それと、これ」(ぴらっ)
和 「これは?」
曽我部 「顧問の承諾書。これに顧問の先生の印鑑をもらってきてちょうだい。それで万事解決よ」
律・和「え」
曽我部 「えって・・・ え?」
律・和 「いやあの・・・ え?顧問?」
曽我部 「・・・まさか」
律 「あ、あはは・・・ 忘れて・・・た。そういや必要ですよね、部活に顧問って・・・」
和 「自分に愕然だわ。なぜこんな基本的なことに、今まで気がつかなかったのかしら・・・」
曽我部 「あなたたち・・・」
律 「てへ・・・」
和 「あは・・・」
曽我部 「はは・・は・・」
ははははははは・・・
生徒会室にしばし響く、私たちの乾いた笑い。
和 「とりあえず、この用紙は頂いていきます」
曽我部 「これから顧問を探すつもり?」
和 「はい。諦めるわけにはいかないので」
曽我部 「そう。でも急いだほうが良いわ。学祭で講堂のステージはあらゆる部が使用するのだし」
曽我部 「割り振りの都合上、もうそんなに時間は残されていないのよ」
律 「これは、本格的にやばい雲行きになってきたな」
和 「・・・・平気。私にちょっと心当たりがあるの」
律 「ほう」
和 「ではこれで。書類うめたら、またすぐ来ます」
曽我部 「はい。がんばってね」
廊下!!
律 「ほんとゴメンなぁ・・・」
和 「もう良いわよ。いつまでも、律らしくない」
律 「そうかもしれないけど、さっきかっこいい事を言った手前、どうにも・・・さ」
和 「まぁ、分かるけど。けど、律が唯のことを本気で考えてくれてるのは変わらないのだし」
和 「それに顧問の件はね。律だけじゃなくて、部のみんなが迂闊だったわけだから」
和 「だから、あまり気に病むことはないわよ」
律 「和、良いやつだなぁ・・・」
和 「律ほどじゃないわよ」
律 「・・・むぅ」
律 「それはそうと、和。あの先輩のこと、知ってたんだな」
和 「ええ。律には言ったかしら。私、一時期生徒会に入りたかったことがあってね」
和 「だからかな。生徒会の人のこと、自然と目で追っちゃうのよ」
律 「そうなんだ。私はまたてっきり・・・」
和 「・・・・」
律 「あ、いや。それで。顧問の心当たりって言うのは?」
和 「ふふ・・・ねぇ律。あなた、音楽室の書架に古い卒業アルバムがあったの知ってる?」
律 「ああ、昔の卒業生が記念においていったやつな。パラパラめくってみたことはあるけど・・・」
和 「で。それがここにあるわけだけど」(てってれー)
律 「なんで持ち歩いてるんだよ!」
和 「いざというときに役に立ちそうだったからね」
律 「なんでさ?」
和 「それはね、ほらここ。軽音部のページを見て」
律 「・・・なんど見ても凄いな。ロックって言うか、パンクだろこれ」
和 「でね、この真ん中のギターの人。よく見てみて?」
律 「え? ・・・んー」
和 「何か気がつかない?」
律 「・・・・・・あれ?この人、どっかで・・・」
律 「あ」
和 にやり
職員室!!
律 「というわけで、顧問になって欲しくて来ました!」
さわ子 「来ました!って、元気に言われてもねぇ・・・ まだ顧問いなかったんだ」
和 「お願いします。先生しか頼める人がいないんです」
さわ子 「ごめんなさい。なってあげたいのは山々だけど・・・」
さわ子 「真鍋さんには言ったことがあると思うけど、私は吹奏楽部の顧問をしているから。かけもちはちょっと・・・」
律 「そんなぁ・・・」
さわ子 「ごめんなさいね・・・」
律 「いてもらうだけで良いんです!ここに名前書いて、はんこ押すだけ!簡単でしょー!?」
さわ子 「ちょ、ちょっと・・・」
さわ子 「無理なものは無理です!」
律 「どうしても?」
さわ子 「ごめんね」
律 「そうか・・・ できればこの手は使いたくはなかったんだけど」
さわ子 「え?」
和 「致し方ないわね。先生を脅迫するなんて、非常に心苦しいのだけど」
ごそごそ
和 「私たちも手段を選んではいられないので」
てってれー
さわ子 「そ、その卒業アルバムは!?」
和 「ふっふっふ」
和 「このページのこの人、山中先生ですよね?」
さわ子 「そ、その禁断の書を、一体どこで!?」
和 「部室にありました」
さわ子 「ま、まさか最後の一冊が学校に保管されていたなんて・・・・!!」
和 「やはりこのアルバム、先生にとっての黒歴史だったようですね」
律 「綺麗な顔立ちと柔らかな物腰で、生徒はおろか教師の間でも人気が高い。そんな山中先生のかつての姿がこれ・・・」
律 「そりゃ、誰にも知られたくないわなぁ~」ケラケラ
さわ子 「よこしなさい!」ひゅっ
和 「おっと!」ひょいっ
さわ子 「ちいっ!」ひゅひゅっ
和 「ぬるいぬるい!」ひょひょいっ
律 「おお、普段から唯の逃げ足に鍛えられてるだけあって、和もなかなかのフットワーク!」
和 「というわけで。ばらされたくなかったら顧問をやってください」
さわ子 「分かったわ。負け。私の負けです。さっきも言ったけど掛け持ちですからね。つきっきりにはなれないわよ」
和 「はい。それで構いません」
律 「やったー!じゃ早速、これにはんこちょーだい♪」
さわ子 「はいはい。・・・・と、これで良い?」
和 「確かに。じゃ、律。書類は私が生徒会室に持っていくから」
律 「頼んだ!私はこのこと、みんなに伝えに戻るぜ!」
律 「そんじゃこれからよろしく、さわちゃん!」
さわ子 「さ、さわちゃん!?」
さわ子 (ぐったり)「はぁ・・・ 他の先生が側にいなかったのだけが、せめてもの救いね」
さわ子 「・・・あなたは行かないの?」
和 「行きます。でも、その前に・・・・」
がばっ!
さわ子 「な、なぁに?いきなり頭なんか下げて!」
和 「先生を脅迫するような真似をして、すみませんでした」
さわ子 「・・・真鍋さん」
和 「先生には感謝しているんです。あの時の私に進む道の指針を与えてくれて」
和 「おかげで私は唯と同じ部活に入る決心がつき、その結果、いま一緒だった律をはじめ・・・」
和 「すばらしい友達とも出会えることができたんです」
さわ子 「・・・そう。よかったわ、そんな風に思ってくれていて」
和 「唯、みんなと出会えて少しずつ明るさを取り戻していって・・・」
和 「そんな唯が今、桜高祭のライブに向けて本当にがんばっているんです」
和 「だから、顧問がいなくてステージに立てないなんて。唯の頑張りが無駄になっちゃうなんて、そんな事にはしたくないんです」
さわ子 「うん・・・」
和 「それに山中先生なら良い顧問になってくれると思ったから。だから強引に。すみませんでした・・・」
さわ子 「もう良いわよ。怒るに怒れなくなっちゃったじゃない」
和 「・・・はい」
さわ子 「それじゃ、あとで軽音部に顔を出します。みんながどんな演奏を聴かせてくれるのか、確かめに行かなきゃね」
和 「先生」
さわ子 「顧問の初仕事よ。あなた達も気合入れて聴かせなさい。さ、まずは書類。もってっちゃいなさい」
和 「はい!ありがとうございました!」
再び生徒会室!!
曽我部 「え、もう顧問を見つけてきたの?」
和 「はい。掛け持ちですけど、山中先生に承諾を頂いてきました」
曽我部 「へぇ、あの山中先生がねぇ。ちょっと意外だわ。じゃ、書類を貰えるかしら?」
和 「お願いします」
曽我部 「・・・はい。後はこれを学校に提出して、手続き終了ね」
曽我部 「ステージの使用申請も、その時いっしょにやっておいてあげるわ」
和 「すみません。なにからなにまで」
曽我部 「良いのよ。ついでだし、生徒会の仕事でもあるしね」
和 「生徒会の・・・ 仕事・・・」
曽我部 「ん?」
和 「凄いですね、曽我部先輩って」
曽我部 「なにが?」
和 「手際が良いというか、何でも分かっている感じ」
曽我部 「私、生徒会は二年目だしね。こんなの慣れよ慣れ」
和 「聞いても良いですか?」
曽我部 「なにかしら」
和 「曽我部先輩は、どうして生徒会に入ろうと思ったんですか?」
曽我部 「唐突ね」
和 「すみません。でも、興味があって」
曽我部 「そうねぇ・・・ 理由はいろいろあるんだけど・・・」
曽我部 「やっぱり一番は、物事を良い方向に変えていける醍醐味を味わえるから・・・かな」
和 「・・・・」
曽我部 「みんなの”こういう学校であって欲しい”という意見を集約して、それを形にする」
曽我部 「それによって、みんなの学生生活がより良く改善されていく。生徒会でなければ出来ないことだわ」
和 「つまり・・・生徒による自治に意義を見出しているっていう事ですか?」
曽我部 「まぁ、しょせん私たちは子供だからね」
曽我部 「こんなの、大人の掌の上での”なんちゃって自治”だっていうのは、十分分かっているんだけれどね」
曽我部 「それでも、生徒会には微力でも学校を良くしていける力がある」
和 「学校を良く・・・」
曽我部 「縁の下の力持ちって言うのかな?私たちの活動でさ。みんなの学生生活が少しでも素晴らしい物になるのなら」
曽我部 「最高じゃない!」
和 「・・・・!」
曽我部 「・・・・真鍋さん?」
和 「あ・・・いや」
曽我部 「ごめんね、語りすぎちゃった。ちょっと引いちゃった?」
和 「そんな事・・・ あの、先輩の考え、とても素晴らしいと思います」
曽我部 「そう? ありがと」
和 「それじゃ、わたしはこれで。色々ありがとうございました」
曽我部 「ううん。じゃあね」
和 「失礼しまs
曽我部 「あ、そうそう」
曽我部 「こうしてせっかく知り合えたんだから、また遊びにいらっしゃいね」
和 「・・・はい!」
最終更新:2011年04月19日 23:02