帰り道!!


唯 「歌いすぎちゃったね・・・」

和 「三人で四時間歌い続け。さすがにきつかったわね。喉が痛いわ」

唯 「ちょっと声、枯れちゃってるね」

和 「ふふ。でも、気持ちよかった」

唯 「・・・うん!」

和 「ありがとう、唯」

唯 「私は何も・・・」

和 「唯が先生に掛け合ってくれたんでしょ?」

唯 「ばれてたか」

和 「ふふ、今度は私が助けられちゃったわね。ていうか、唯にはずっと先に行かれちゃったような気がするわ」

唯 「そ、そんなことないよ」

和 「ねぇ、唯。ライブ、頑張ろうね。私はもう大丈夫だから」

唯 「うん、楽しみだね」

和 「そうね。それでね・・・」

唯 「なぁに?」

和 「私、二年生になったら軽音部を辞めようと思うの」

唯 「・・・そっか」

和 「このことはずっと・・・ 合宿が終わった頃から考えてたんだけど、踏ん切りがね、つかなかったのよ」

和 「それが今日、生徒会の先輩と、それと山中先生と話をしていて気持ちが固まったんだ」


和 「・・・私、生徒会に行くわね」


唯 「・・・うん」

和 「・・・・怒らないの? 唯」

唯 「どうして?」

和 「だって・・・ 唯を軽音部に誘ったのは私なのに。その私が途中で抜けるようなことをして」

和 「私としても、その。ちょっと後ろめたい気持ちもあるから。だからね・・・」

唯 「怒らないよ。けど、とっても寂しい」

和 「・・・うん」

唯 「でもね。和ちゃん、軽音部やみんなが嫌になって辞めるんじゃないもんね」

和 「当然よ。みんな、大好き」

唯 「うん、分かってる。だからね、和ちゃんはそれだけやりたい事があるんだって、その事も分かるんだ」

和 「唯・・・」

唯 「それに、もともと和ちゃん、生徒会やりたかったんだもんね。だからね、最初に戻るだけなんだよ」

和 「違うよ。ちょっと違う」

唯 「・・・・」

和 「軽音部ではね、たくさんのことを得たわ。それはこれからも、私の心の糧になり続ける。ずっと。死ぬまで・・・」

和 「だから、私は昔よりちょっとだけ一歩踏み出した場所から、生徒会のスタートを切ることができると思うの」

和 「軽音部に入って、本当に良かったわ」

唯 「和ちゃん・・・ 私も。和ちゃんと一緒にバンドできて、本当に楽しい!」

和 「唯・・・」

唯 「和ちゃん。私、応援してるからね」

和 「ありがとう、唯」

和 「・・・・・」

和 「まぁ、まだ先の話よ。まだ半年も先の。だからね、唯」

唯 「うん」

和 「これからもよろしく」

唯 「こちらこそ♪」

和 「それに私には、まだ見届けなきゃいけないことがあるからね」

唯 「・・・?」

和 「唯が律にちゃんと気持ちを打ち明けること」

唯 「えっ!」

和 「じゃないと安心して他所になんていけないわ」

唯 「む~~・・・ あ、だったらさ!」

唯 「私がずっとりっちゃんに告白しなかったら、和ちゃんはそのまま軽音部にいてくれるってことだよね」

和 「え、それって。ちょっと、唯・・・」

唯 「・・・・へへ。冗談。冗談だよ。和ちゃんを困らせるようなこと、しないもん」

和 「まったく・・・」

唯 「でも、やっぱり。和ちゃんと離れ離れになっちゃうのは、寂しいなぁ・・・」

和 「・・・・」

和 「離れ離れって言っても。別に転校するってわけではないんだし」

和 「放課後は別々になっちゃうけど、今までと何も変わらない」

和 「・・・・親友だよ。ずっと。これからも」

唯 「うん・・・」

和 「・・・・」

唯 「・・・・」

唯 「あ、あのさ」

和 「なぁに?」

唯 「手、つないでかえろ?」

和 「・・・・あは、子供みたい」

唯 「子供だもん」

和 「そうね、私たちは子供だわ。だから、ね」

ぎゅっ

和 「もっともっと、できることを楽しまないと、ね」

唯 「・・・? うん」

和 「・・・唯、大好きよ」

唯 「うん、私も和ちゃん大好き♪」

和 「・・・・」

唯 「・・・ん??」

和 「あ、いや・・・ ありがとう、唯」



翌日の放課後 軽音部!!


さわ子 「さーて、準備は良いかしら?」

和 「はいっ」

さわ子 「昨日お預け喰わせた分、今日は抜群の演奏を聴かせてくれなくちゃ嫌よ。そこのところ、分かってるわね?」

律 「重々承知してます! な、みんな!?」

澪 「ああ!」

紬 「ドントコイです!」

唯 「ガンバルよ!」

和 「うん!」

律 「・・・・よし、じゃ元気に行こうぜ! ワン・ツー!!」


~~~~♪


和 「キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI」


和 「揺れる想いはマシュマロみたいにふーわ☆ふわ」

和 「いつもがんばる」
唯 「いーつもがんばる」

和 「キミの横顔」
唯 「キーミの横顔」

和 「ずっと見てても気づかないよね」

和 「夢の中なら」
唯 「ゆーめの中なら」

和・唯 「二人の距離縮められるのにな」


~~~~♪ 

じゃ~~ん じゃかじゃんっ♪


さわ子 「・・・・・」

和 「はぁはぁ・・・・」

唯 「上手く・・・歌えたよね?」

澪 「ああ、たぶん」

紬 「演奏することで精一杯だったから・・・」

律 「さわちゃん、どうだった? 私たちの演奏!」

さわ子 「・・・うん」

(ごきゅっ)

さわ子 「良かったわ!」

わっ!!

唯 「和ちゃ~~~ん!!」ひしっ

和 「うわっ、唯。急に抱きついてきて・・・ 唯・・・?」

唯 「う・・・ぐすっ。ひっぐ・・・」

和 「・・・・唯」

律 「おーお、見事な本泣きだなぁ唯。どしたんだぁー?」

唯 「わがんないげど・・・ なんだか感ぎわばっちゃっで・・・ ずず」

澪 「唯、ハナでてるぞ。ほら」

唯 「あじがど、澪じゃん。ちーーーんっ」

紬 「でも、唯ちゃんが泣いちゃうのも分かる気がする。和ちゃん、頑張ったのね」

和 「私は、そんな・・・・」

唯 「そうだよ! 和ちゃんは頑張ったんだよ!!」

和 「ひっ!鼻水!唯、鼻水!飛んでくる飛んでくる!!」

びちゃっ

唯・和 「あ」

唯 「ごめんね和ちゃん・・・」ふきふき

和 「いいのよ。それより唯、ハナは最後まできちんとかもうね」

唯 「うんっ」

律 「お母さんか・・・」

紬 「くすくす」

和 「というような、ね」

澪 「え?」

和 「私ね、軽音部のこういう雰囲気が大好きなんだ。明るくて、みんなが親しい家族のような・・・」

和 「そんな軽音部をもっと楽しみたい。楽しんで良いんだ!、そう気づいたらね」

和 「声、出るようになっちゃった」えへっ

紬 「和ちゃん・・・」

澪 「和・・・」

律 「おいおい、唯に続いてお前らも涙目か? 感極まるの、ちょっと早いんじゃないの?」

澪 「とかいって、律もちょっとうるって来てるくせに」

律 「きてないやいっ! 感動のシーンはライブ後に取っておいたほうがいいんでないのって言ってんの!」

澪 「あーはいはい。でも、そうだな。なにせ」

唯 「本番まであと二日!だもんね!」

紬 「ええ!」

和 「今は自信あるもの。みんなの演奏と私の歌で、観客を総立ちにしてみせるわ!」

律 「大きく出たな!」

和 「任せてよ!」


わーっ!!!


さわ子 「ふ・・・ 私、存在を完全に忘れられてるわね」


ぱんぱんっ!

さわ子 「はいみんな、ちゅうもーく!」

唯 「あ、さわ子先生」

律 「そういや、いたんだよな」

さわ子 「・・・・自分らで呼んでおいて、この扱いかい! ・・・まぁ良いわ。これを見たら、もうそんな態度は取れなくなるわよ?」

澪 「な、何のことです?」

さわ子 「ふっふっふ。不本意ながらも軽音部の顧問になったことだし、何か手伝うことはないかーと思って!」

さわ子 「衣装作ってきましたぁーーー♪」じゃーん!!

律 「のりのりだぁ!!」

律 「や・・・先生、気持ちはありがたいんだけど・・・」

さわ子 「え?」

律 「ん・・・」(和を指差し)

和 「あんな服を着て歌うの・・・? あ、ありえない・・・」がたがた

さわ子 「これはお気に召さなかったか。じゃあ、私の昔の衣装はどぉお?」じゃじゃーん!!!

和 「いやいやいやむりむりむり!!」

さわ子 「・・・あのさぁ和ちゃん?」

和 「ひっ!?」

さわ子 「私さ、けっこう和ちゃんのお願い聞いてあげてた気がするんだけどなぁ。だったらぁ・・・」

和 「あ・・・あ・・・」

さわ子 「今度はこっちの欲求、満たしてくれてもいいんじゃないのかなぁーーぁ・・・」

和 「あぅぅうぅぅ」ぷるぷる

ばたーん!

澪 「あああ、和が倒れた!」

和 「ううーーーーー・・・・ん」ぱたっ

さわ子 「あ、あれ・・・?」

唯 「さわ子先生、荒療治すぎるよ・・・」

律 「これでまた和が歌えなくなったら、その衣装に身を包んでステージに出るのさわちゃんだから!」

さわ子 「ええええ?いやいやいやむりむりむり!!」

さわ子 「こんな恥ずかしい衣装でなんて、歌えないよ!」

律 「おい作者!」

紬 「あらあらうふふふ。これはゴスロリっていうのかしら?和ちゃんの赤ブチ眼鏡と相まって、舞台栄えしそうねー」

律 「そしてこっちもノリノリだ!」

和 「・・・・・」

冷たい木床の感触を背に受けながら、やっぱり好きだなと実感を新たにする。

軽音部のこのノリ、この雰囲気がたまらなく心地いい。大好き。

私も流れに身を任せて倒れてみたけど、わざとらしかったかしら?

周りに合わせての冗談なんて、今までの私のキャラじゃなかったけれど。

ここにいたら、みんなと一緒だから。私はどんどん、新しい自分を発見できる。

みんなと一緒に笑い、歌い、戯れに倒れてもみて。 そして、責任を楽しむ術を知り。

ぜんぶ新しい私。

次は恥ずかしい衣装で、衆目に晒される私・・・かしら。

こっちの「私」はかなりハードルが高そうだけれど、頑張って飛び越えなくちゃ。

だって・・・

和 「く・・・ふふ」

律 「和は寝ながら笑ってるし・・・」

唯 「え? あー。和ちゃん、起きてんじゃん! もう、心配したんだからね?」

和 「ごめんごめん。さ、早速衣装を試着してみましょ。せっかくのライブ、いつもの制服じゃ見栄えしないものね」

さわ子 「和ちゃん! そうこなくちゃね!」

紬 「じゃあこのフリルひらひら~の衣装はどうかしら? とっても可愛いと思うの~~♪」

和 「まずは片っ端から着てみるわ。こんなの着たことがないから、なにが自分に合うかなんて分からないもの」

澪 「なんだよぉ・・・ 結局は和もノリノリの側だったのか・・・」

和 「当然じゃない。確かに恥ずかしいけど、そうも言ってられないわ。だって・・・」


本番まであと二日!


和 「なんだからね!」



終わり!!




11  ※完結編
最終更新:2011年04月19日 23:10