数分後!!


和 「泣くだけ泣いたら、すっきりしちゃった」

唯 「そうだね。でも、憂にはビックリさせて、悪いことしちゃったなぁ」

和 「あの子まで泣かせちゃったもんね。後で謝っておかないと」

唯 「うん・・・」

和 「・・・・」

唯 「あの、ね。和ちゃん。愛してるって。言ってくれて、ありがとう」

和 「べ、別にっ。・・・礼を言われるようなことじゃないわ」

唯 「ううん。やっぱり、ありがとうだよ。だって、嬉しいんだ。とっても・・・」

唯 「友達としてだけじゃなく。私のこと、そこまで大切に思ってくれているなんて・・・すっごくね、嬉しいの」

和 「唯・・・」

唯 「だけどね、返事はちょっと待って欲しいんだ。いきなりだったから、まだ頭が混乱してるし・・・」

和 「えっ?」

唯 「えって・・・え??」

和 「あ、だって・・・てっきり私、即座に拒否されるかと思ってたから・・・」

唯 「そんなことしないよ!大好きな和ちゃんにそんな事できない。できない、けど・・・」

唯 「私、本当に和ちゃんが好き。大好き。」

和 「唯・・・」

唯 「だけど、この”好き”が、どの”好き”なのか・・・ラブなのかライクなのか・・・私、分からない」

唯 「だって、和ちゃんは小さい頃からずっと私の側にいてくれてて」

唯 「私はそんな和ちゃんが”好き”だってことが、あまりに当然の事になりすぎてたんだもん」

和 「うん・・・・」

唯 「えへへ、あまり上手く説明できないや・・・」

和 「ううん、分かる。すごく分かるよ。だって私も、今の唯と一緒だったんだもの」

和 「今日の今日まで、私の”好き”がラブだって、ずっと気がつかなかった・・・」

唯 「うん・・・それにね、りっちゃんが好きだって気持ちも、ほんとのほんとなんだ。ふられちゃった今も、やっぱり好き」

唯 「告白して、ふられて、告白されて、キスまでされちゃって・・・」

和 「あ・・・///」

唯 「これだけの事がいっぺんに起こって、正直私の頭はオーバーヒート寸前だよ!」

和 「う~~~。なんか・・・ごめん」

唯 「へへ・・・ううん。だけど。だから、ね。落ち着くまで、返事は待って欲しいの」

唯 「和ちゃんに、混乱した頭で出した答えでなんて、返事したくないもん」

和 「唯。ありがとう。本当にありがとう。私・・・唯の答え、ずっと待ってるから」


私自身が戸惑い、どう扱って良いものか思いあぐねている、唯への気持ち。

なかば押し付けるような告白を唯は。自分も辛いときだと言うのに、唯は・・・

嫌な顔一つせず、正面から受け止めてくれた。唯の心の温かさに触れることができた。

私、唯を好きになって・・・好きだって気がついて本当に良かった。

だけど・・・


それから間もなくして・・・


私は無事、生徒会に入ることができた。

のみならず書記という役職にまで選出され、私の高校生活二年目は上々のスタートを切ることができた。

でも、それからが大変。

初めての仕事、慣れない役目に追われる日々。もう忙しすぎて、文字通り目が回っちゃう毎日。

全校集会がある時なんかは、たまに司会みたいなこともやらされて。

もちろん主役は生徒会長である曽我部先輩なのだけれど。

それでもやっぱり全校生徒の注目を集める壇上に登っての司会は、なかなかに緊張を強いられる役目なわけで・・・

      • でも。

軽音部にいたから。そこで歌い、笑い、泣き。友情を育んで。そして一緒に培った舞台度胸があったから。

私は大勢の前で過度に緊張することも言葉を噛むこともなく、大過なく役目をこなし続けることができている。

みんなと過ごした一年。あの宝石のように輝く想い出の日々は、確かに私の血となり肉となり。

今の、そしてこれからの真鍋和を形づくる、大きな糧となってくれている。


だけど・・・


そんな大好きなみんなと、ここ最近わたしはろくに話をしていない。

かろうじて唯一同じクラスになった澪と、申し訳程度に挨拶を交わすくらいだ。

理由は明快。私が雑多で忙しいから。これに尽きる。

        • というのは表向きの話。

唯の告白を発端として起こった一連の出来事で、気まずかったり気恥ずかしかったりして・・・

それに軽音部を抜けた後ろめたさも手伝って、まともに顔を合わせる気になれないのが本当のところだった。

梅雨もとっくにあけ、もうすぐ楽しい夏休みが控えているというのに。

私の心の中には、未だに暗雲が低くたれこめたまま。


和 「はぁ・・ぁ・・・」


口から漏れ出るは、ため息ばかり。

和 「そういえば・・・」


生徒会室の窓辺に立ち何気に空を見上げてみれば、ふわふわ揺らぐ白い雲と、ぽっかりノンキに浮かんでいる眩しいお日様。

去年の今頃もこんな風に空を眺めながら、指折り夏休みの訪れを待っていたっけ。

皆で行く合宿を。唯の笑顔を取り戻すため。夏の海に。


和 「海・・・行こうかな」


なんだか無性に、打ち寄せる波と戯れたくなった。

砂浜で寝転がって、意味もなく身体を焼いて。水平線に沈む夕日を愛でて。それから・・・


『トウキュウハーンズナウ ヘイッ♪トウキュウハーンズナウ ヘイッ♪』


ん・・・?


和 「メール・・・?唯、から・・」


『和ちゃん、放課後お暇?何もなければ、一緒に帰ろうよ!』


和 「・・・唯」




帰り道!!


唯 「なんだか久しぶりだね、和ちゃんと一緒に帰るの!」

和 「そうだね。なんかごめんね、唯」

唯 「んーん、和ちゃん忙しいの知ってるし。今日もね、ダメ元でメールしてみたんだ」

和 「うん、たまたまね。今日は何も予定が入ってなかったから」

唯 「誘って正解!だね」

和 「で?私に何か、話でもあったんじゃないの?」

唯 「さすがだよ、和ちゃん!やっぱりお見通しだったか」

和 「うん、そろそろかなって思ってたから」

唯 「内容まで読まれてましたか」

和 「でも、唯の出す答えまでは読みきれない。だから、ね。ハッキリ唯の気持ちを聞かせて欲しい」

唯 「うん・・・」

唯 「と、重い話をする前に!和ちゃんにお見せしたいものがあります!」バッ!!

和 「え、な、なに?藪から棒ね・・・それ、携帯でしょ?一体・・・」

唯 「ちっち。見てもらいたいのは、この中に入っている”とある物”なのです!てことで、さい・せい!!」ピピッ

和 「・・・動画?」


律 『和ー!』


和 「!」


律 『唯、もう始まってるのか?ちゃんと写ってる?』

唯 『平気だよ、りっちゃん!さ、澪ちゃんもムギちゃんもこっち来て!』

澪 『お、おお・・・』

紬 『なんだか緊張しちゃうわー』

律 『和。今これ、見てるんだよな?じゃ、さ。久しぶりだな。なんだよ随分ご無沙汰してくれちゃってさ!』

澪 『教室でもあまり、話せてないしな』

紬 『寂しいわー・・・』

律 『あと・・・おい、梓。なに隅っこに隠れてるんだよ。こっち来いって。一緒に写ろうぜ!』

梓 『あ!わ、私は遠慮して・・・ああ、もう・・・』

唯 『あずにゃん、あずにゃん。はい、にっこり笑って自己紹介!』

梓 『あうう・・・は、始めまして真鍋先輩。新しく軽音部に入部させていただいた中野梓っていいます』

唯 『通称あずにゃん!』

梓 『もう!その呼び方、やめて下さいって!こ・・こほん。えーと、真鍋先輩・・・』

梓 『新歓ライブ、とても感激しました。先輩の歌声、すっごくすっごく心に響きました。感動です!』

梓 『よろしかったらぜひ、部室に遊びに来てください。いろいろお話、伺ってみたいです』

律 『・・・てわけでさ、和が忙しいのは知ってるけど、たまには暇見つけて軽音部にも顔を出せよ』

律 『梓もこう言ってるし、澪もムギも。もちろん唯も、さ。寂しがってるから。な?』

紬 『あらあら、りっちゃん自分のことは?』

澪 『和がいなくて張り合いなくなっちゃってさ。一番しょんぼりしてるの律のくせになー』

律 『ば、ばかぁ!んなことないやい!』

唯 『りっちゃん、照れてるー♪』

律 『ゆ、ゆ、唯!お前は黙って携帯かまえてろ!』ガー!

紬 『きゃー、暴力よ暴力♪』

唯 『こわーい♪』

梓 『なんですか、そのキャラは・・・』

律 『ぐぎぎ・・・こ、こんないじられ方されるのも、和!おまえがぜんぜん、軽音部に顔を出さないせいなんだからなっ!』

澪 『こらこら、人のせいにしちゃダメだろ』

律 『とにかくぅ!近々いっかい遊びに来い!つーか、和の壮行会。中途半端なままだったろ?』

律 『あれ、梓も入れてもっかい仕切りなおすから!だから部室に来るように!これは部長命令ですっ!』

唯 『えー、部長命令って。和ちゃん、もう軽音部じゃないんだよー・・・?』

律 『そんなの関係あるかよ。私はずーっとお前達の部長のつもりだし・・・』

律 『そして和、お前も。どこにいても変わらない。私たち軽音部の大切な仲間なんだからな』

唯 『りっちゃん・・・て、あ!残り時間がm(ぷつっ)

唯 「・・・おしまい」

和 「り、律・・・」

唯 「あずにゃん・・・梓ちゃんも加わって、軽音部はますます賑やかで楽しい場所になったよ。いつも笑いの絶えない・・・」

唯 「これも和ちゃんが新歓ライブでがんばってくれた成果だよね!」

和 「私の歌が、心に・・・」

唯 「うん。あずにゃん、とても和ちゃんと会いたがっていたよ。だから、ね?」

唯 「あと、りっちゃんからの伝言。あの時は、きついことを言ってごめんって」

和 「・・・・」

唯 「ね、和ちゃん。たまに、たまぁにで良いから軽音部に遊びに来てね?」

唯 「澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも、もちろん私も。あと、りっちゃんが・・・首、長くして待ってるからね」

和 「うん。行くよ。ありがとう、唯。みんな・・・」


15
最終更新:2011年04月19日 23:20