梓「どうぞ」

律「澪に告白はしないからな」

梓「・・・・」

律「私はもう澪のこと、ふっきれてるんだ」

律「もう終わったことなんだ、本当に」

梓「・・・・どうですかね」

梓「さっき、惚れてるって言ってたじゃないですか」

律「今は人間として惚れてるよ。いいやつだもん」

梓「じゃあ、やっぱりすきなんじゃないですか?」

律「だから、恋愛感情はもうないんだってば」

梓「無理しなくていいですよ」

律「・・・無理なんてしてないよ」

律「逃げだって思われてもいいよ」

律「ただ、私はもう澪のことなんとも思ってない」

律「あいつは私の親友で、部活仲間で、大切な人以外の何者でもないよ」

梓「・・・・・そうですか」

律「だから、告白はしない。いいな」

梓「・・・・・でも」

律「ん?」

梓「澪センパイがそう思ってなかったらどうするんですか?」

律「・・・・・どういうことだ?」

梓「だから、そのまんまですよ。澪センパイが律先輩のこと好きだったらどうするんですか?」

律「澪が?私を?」

律「・・・なに言ってんだよ。そんなことあるわけないよ」

梓「・・・先輩はずっと一緒に居て、澪センパイの何を見てきてるんですか?」

律「なにって・・・・しぐさとか?」

梓「そばに居て、今まで一度も澪センパイから好意感じたことなかったんですか?」

律「そりゃ・・・・1度、2度くらいはそれっぽいこと思ったことあるけどさ」

律「そんなの、私が勝手に思ってることだろ?ないよ、澪が私を好きとかあるわけない」

梓「その否定は、期待したくないからしてる否定ですか?」

律「・・・なんだって?」

梓「それとも、本当に澪センパイが自分のこと好きじゃないって思ってるからしてる否定ですか?」

律「・・・・梓、なにがいいたいんだ。澪のことはもう関係ないってさっきから言ってるだろ?」

梓「・・・っわたしには関係あるんですよ!!!!」

さっきまで泣いていた梓がいきなり大声をだした。
うずめていた顔をあげ、私をにらんできた。
その目はうさぎみたいにまっかだった。

梓「先輩、本当にわからないんですか?どんだけにぶちんなんですか?わからないならおしえてあげましょうか?」

律「・・・・・なんだよ」

律「おまえ、澪が私を好きとか、つまんないこというんじゃないだろうな?」

梓「先輩にとってそれはつまらないことなんですか?」

律「・・・・つまんないよ」

梓「・・・・」

梓、なんでおまえがそこでつらそうな顔をするんだよ。
やめてくれよ、そういうの。
そういうとこ、お前は知らないと思うけどさ、澪にそっくりだよ。

律「梓は私じゃないから、私の思ってること、知らなくてわからなくてあたりまえ」

律「信じてもらおうなんて思ってない」

律「自分でも、最低で矛盾してるようなこと言ってるってわかってる」

律「でも、言わせてよ」

梓「・・・・」

律「・・・・言うぞ」

律「私は今、梓が好きなんだ」

律「だから、いくら澪が私を好きでも関係ない」

告白してるのに、ほっぺた赤くして、涙目で睨まれるってのはどういう状況なんだろうな。
自分ではわからないけどほっぺた、赤いのはきっと私も同じなんだろう。
さっきの梓もこんな風に変にスカッとしてて、でも居たたまれない気持ちだったのかな。

梓「それが、3つ目ですか?」

律「あ、あぁ、3つ目だ」

梓「ばか」

律「やかまし」

梓「本当ですか?」

律「ああ。本当だぞ」

梓「嘘ですよね?」

律「残念ながら嘘じゃないぞ?すまんな」

梓「なんで謝るんですか?」

律「なんとなくだ」

梓「・・・・先輩」

律「ん?」

梓「最低ですね」

律「ん。知ってる」


律「ん?」

梓「うれしいけど・・・・信用できません」

律「ん。わかってる」

梓「私といても幸せなんてないかもしれませんよ?」

律「なんでだよ」

梓「偏見とか」

律「・・・おいおい。そんなもの怖かったら私はここに梓を探しにすらきてないよ」

梓「性格の不一致とか」

律「それは今考える問題じゃないんじゃないかな?」

梓「・・・・・でも・・・・」

律「なんだよ」

梓「私、性格わるいですよ?」

律「ん~・・・それは多分今、もうなんとなくにじみでてるから、なんとなくわかるよ」

梓「・・・・それはそれで・・・」

律「それはそれで・・・?」

梓「むかつきますね」

律「おい!」

梓「先輩」

律「ん?」

梓「やっぱ信用できません」

律「・・・そう・・・ですか・・・」

梓「今日澪センパイと帰るんですよね?」

律「・・・まぁ、そうなってるけど別に話すことないし断るよ」

律「断って梓と帰るよ」

梓「いえ、断らないでください」

律「なんですと?」

梓「今日は澪センパイと帰ってください」

律「え?本当になんで?」

梓「いいから、今日は澪センパイと帰ってください」

律「もしかしてまた盗み聞きするつもりか?」

梓「いえ、そんなことしませんよ」

律「じゃあ、なんで・・・」

梓「・・・・もう下校時間ですね」

律「・・・あぁ・・・」

梓「先輩のケータイ返します」スッ

律「あ、うん・・・」

ケータイが点滅してた。
画面には「着信あり3件」と出ていた。
すべて、澪だった。


律「澪から?」

梓「先輩」

律「ん?」

梓「私は澪センパイじゃないです」

律「そんなことわかってるよ」

梓「告白、うれしかったです」

梓「本当に・・・うれしい」

梓「でも、信用してほしいなら、今日は澪センパイと帰ってください」

律「・・・・」

梓「帰ってから、ちゃんと考えてまた明日ここにでもきてください」

律「・・・あずさ」

梓「はい?」

律「好きだよ?」

梓「・・・はい。じゃあ、また」




やっと電話がつながった。

澪「あ。律?今どこにいるんだよ?梓はみつかったのか?」

律「あーー・・・いたんだけど、かえっちゃった」

澪「帰った?」

そう返えしながら私は部室を見渡す。
今さらながらきづいたけど、梓の荷物はなにひとつとしてなかった。
もしかして、今日は最初からくるつもりがなかったのだろうか。
そして、電話ごしの律の声・・・・なんだか元気がない。

律、梓となにかあったの?

そうでかかったけど、飲み込んだ。

澪「とにかく、もう下校時間だから下駄箱んとこ来い!お前の荷物もってくから」

律「あぁ、すまん。じゃあ、下駄箱で」

澪「ん、また」

いつも元気なあいつの落ち込んだ声は私を動揺させるのに十分だった。

唯「澪ちゃん」

澪「---ん?」

唯「あずにゃんどうだって?」

澪「なんか、・・・帰ったらしいよ」

唯「え!!そうなの?なんでだろう」

ムギ「・・・・」

澪「さあ・・・・具合でも悪くなったのかな?」

唯「あずにゃん・・・・りっちゃんとなんかあったのかな」

澪「な、なにかって?」

唯「え・・・・、いや、わからないけど、りっちゃんがあずにゃんを怒らせたとか?」

澪「たしかに・・・・それはありうるよな」

唯「どうしよう・・・・心配だけど、私、和ちゃんと帰る約束しちゃったよ」

澪「私、律と帰るからさ、話きいとくよ」

澪「だから、梓のことが心配なのはわかるけど、唯は和と一緒に帰りな」

唯「で、でも・・・・」

ムギ「なら、私が梓ちゃんの様子を見に行くわ」

唯「ムギちゃん」

澪「ムギ・・・」

ムギ「私も梓ちゃん、心配だから」

澪「ん。なら、ムギに梓のことまかせるよ」

唯「ムギちゃん、あずにゃんを頼んだよ!!」

ムギ「ええ。まかせて」

澪「じゃあ、とにかくさっさと校内からでないとな」

唯ムギ「うん」


ムギを先に行かせて
唯と2人で戸締りをして、急いで下駄箱へ向かうと
律が壁にもたれてすでに待っていた。


澪「律!」

律「あ・・・・澪」

律「・・・・と唯」

唯「りっちゃん!!私はおまけですかーーーー」ドーーーン

律「ゲフッ!!!」

律「唯、いてーよ!!いきなりつっこんでくるんじゃねぇ!!!」

唯「りっちゃん!!あずにゃんになにかしたの!?」

律「・・・・・!!!」ピク

澪「お、おい、唯・・・」

律「・・・・・」

律「なにもしてないよ」

唯「ほんとに!?」

律「あぁ・・・・」

唯「ほんとにほんとに!?」

律「ほんとにほんとに」

唯「ほんとにほんとにほんとにほんとに!?」

律「あああああーーー!!!ほんとに、ほんとに!!!!」

唯「りっちゃん!信じるよ!!」

律「あぁ。信じてくれよ、唯」

律「そしておかえしだーーーー」ドーーン

唯「ゲフッ!!!」

唯「りっちゃん隊員、痛いです!!」

律「へへへ」

澪「・・・・」


なにか、あったんだな。
唯におどけてるけど、全然いつもの律じゃない。
そう思いながら、律を見ていたら律と目が合った。
律はちょっと、伏せ目がちに笑った。
あぁ。この律のしぐさ、そうとう参ってるときのものだ。
本当に、梓と何があったんだよ、りつ。

アタマ アタマ クビ

唯「あ、和ちゃんからメールきた!」

唯「・・・・え!?校門のとこで待ってるって」

澪「唯はやくいけよ、和、待たせたらわるいぞ?」

唯「え!?う、うん。そうだね。こんな中途半端なときにごめん」

澪「気にすんな」

唯「ほんとにごめんね。じゃあ、先にかえるね!」

澪「気をつけてな」

律「またなー・・・」

唯「うん、また明日!」

靴を履き替えて、校門へ走っていく唯の後ろ姿を2人で見送った。

澪「律」

律「ん?」

澪「ほらこれ、お前のバッグ」

律「あぁ・・・・悪いな、わざわざ持ってこさせて」

澪「いいよ別に」

澪「私たちもそろそろ出ないと」

律「・・・だな」




普段の行いが悪いからだな、と私は思った。
ムギは、机の中のものを全部いれてきた、と言った。

全部、か。重たいぜ、「全部」って言葉はさ。
ムギ、私が勉強に不熱心なの知ってるだろ?
私、これでもおきべんしてるんだぜぇ?
荷物の量、おかしいとか思わなかったか?
感謝はしてるけどな。
感謝はしてるけど、重たい。バッグ重たい。
顔には出さなかったけど下駄箱のとこでバッグを渡されたとき、その重さにびっくりした。
よくもまぁ、こんな重たいバッグをなんでもないかのように
こいつは部室から持ってきたもんだ、と思いながら隣を歩く澪を見る。

私も澪も、下駄箱を通り校門を抜けて普段の帰り道を無言で歩いてた。
長年一緒にいると、こんな無言の時間なんて結構気にならなくなる。
そんなに毎分毎秒話すことなんてない。
違う場所にいるなら、お互いの現状を話すとか、話題の提供元なんていくらでもありそうだけど
私らはクラスは違えど、ほとんど同じ生活空間を共有しているわけで。
だから、こんな沈黙、いつもなら全然気にならないんだ。
いつもなら。

澪「あのさ」

律「っぅえ!?」

澪「・・・・なんて声だしてんだ」

律「い、いや、いきなり話しかけられたからちょっと、びっくりした・・・」

澪「そうか」

律「ん・・」

律澪「・・・・・」

澪「あのさ・・・」

律「うん」

澪「梓と何かあったのか?」

律「・・・え?なんで?」

澪「りつ、なんか元気ないから・・・」

律「・・・・そうか?」

澪「そうだよ。私にはわかる。それに梓部活来ないで帰ったし」

澪「・・・なにか、あったんだろ?」

律「まぁ・・・うん(澪になら言っても大丈夫かな?)」

律「さっきは唯には何にもないって言ったんだけど、ちょっと色々あったんだ」

澪「色々って・・・?」

律「いや、それはちょっと・・・・詳しくは・・・いえない」

澪「・・・・そっか」

律「・・・・うん」


空気が重たかった。
あきらかに、いつもの沈黙ではなくなってた。
そして、どうして私は澪に詳しく言えないんだろう。
考えてるふりしてどうでもいいことばっかり思いつく。

こういう時、咄嗟に出てくる言葉って、本心なんだろうか。


澪「梓がさ」

律「・・・うん」

澪「ホームルーム始まる前にメールくれたんだけど」

律「・・・・うん」

澪「りつが私に話があるって」

律「あぁ・・・・うん・・・・ん?」

澪「話ってなんだ?私、帰り道でちゃんと聞くって言ったからさ」

澪「ちゃんと、聞こうと思うんだけど・・・」

律「・・・・」

どうしよう。


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最終更新:2011年04月20日 03:26