自分勝手だけど、これはこれで本当につらいな。
胸に「ど━━━━━━━━━━━んっっっ!!!!!」とくるものがある。
だいっっきらいか。そりゃ、まぁそうだよな・・・・。
なんか、澪に言われると意外に相当ショックだ。
澪「おい」
律「・・・・え?」
澪「いきなり黙り込むなよ」
律「いや、なんというか、・・・・・・まぁ、当然ですよね」ハハッ
澪「なにショックうけてんだ、ばか」
律「う、うるせぇ」
澪「私はもっとショックなんだからこれくらい当然だよ、ばか律」
律「う」
それを言われると元も子もない。
澪「りつ」
律「・・・・・なんだよ?」
澪「・・・・・私をフルんだから、これくらい許せよ」
そういうと澪が顔を近づけてきた。
つまり、私の人生初めてのキスは、あからさまな涙の味だったわけだ。
澪「・・・・友達でいていいんだよな?」
顔が少し離れると、澪はそう尋ねてきた。
その顔を直視できない私は最低というレッテルを貼られてももう文句が言えなかった。
律「・・・・澪が友達でいてくれるなら」
澪「じゃあ、私たちはこれからもずっと友達だ」
律「・・・・うん」
澪「・・・・・」
澪「・・・・・じゃあ、私は帰るから」
そういって、澪が立ち上がって、傍にあったベースとバッグを担いだ。
律「・・・・送ってこうか?」
澪「いや、1人で帰るから」
律「・・・・・そうか」
この部屋で、澪を見ることはもう無理なのかもしれないな
と、なんとなく思った。
2人で無言で部屋を出て階段を下りた。
ローファーを履く澪を見てた。
玄関の電気はオレンジ色のやつだけど
それでも明かりはなんだかまぶしくて目がチカチカした。
律「・・・・ん」
澪になにかいいたいけど、何を言えばいいのかわからなかった。
でも、何か言いたかった。
律「澪」
澪「ん?」
律「その・・・・なんだ?」
澪「お前がなんだよ」
律「はは・・・・その、な」
澪「ん?」
律「初めてが澪でよかったよ」
澪「ほんっと、最低だな」
今の私には最高の誉め言葉なのかもしれない言葉を吐いて、にがわらって澪は玄関を開けた。
ちょっと冷たい風が家の中に入ってきた。
澪「りつ、さよなら。また明日な」
玄関が閉まって、澪の姿が見えなくなった。
澪が帰ったあと、
一人で部屋に戻ったら澪が飲み残した麦茶が目に入ってきて無性に泣けてきた。
私は泣いてはいけなかったし、泣いてはいけないのに、
「泣いてはいけない」と思えば思うほど澪の前でも、そしてその時も涙はとまらなかった。
隣にはうさちゃんがいた。
澪の涙の後が残っててうさちゃんまで泣いてるみたいだった。
いつか、機会があればちゃんと洗濯して澪に返そうと、ちょっと思ってたうさちゃんはもう
澪の部屋の匂いはしなくて、私の部屋の匂いがした。
もう、お前は家に返れないかもな、とちょっと笑いながら語りかけた。
律「やっぱり・・・・ドキドキしなかったよ」
返事はなくて、むやみに目頭が熱くなっただけだった。
結局、風呂にも入らず、家族がいつ帰ってきたかも知らずにそのままその日は泣きながら寝てしまった。
次の日、余裕で学校を休んだ。
朝なんとなく母親に起こされたような起こされてないような気がしたけど、
目が覚めたときはすでに家には自分以外誰もおらず、バッチリ遅刻な時間帯だった。
とりあえずシャワーを浴びてサッパリしたところで、
学校行きたくねーと思ってしまったらもうどうにも布団からでたくなくなってしまって、
一応律儀に着た制服のまま、また眠ってしまった。
空腹と尿意を感じて昼頃に目が覚めた。
目を覚ましたとき、ふとぼんやりした頭で
「梓に会わなきゃいけない」と思った。
でも、会って何を言えばいいかよくわからない。
澪のこと、梓は何故か知ってた。
でも、知ってたのに梓は私にそのことを何も言わなかった。
きっと私のこと、梓は本当はどうでもいいんだ…。
そう思うと、梓に会うのもなんだか怖くなってしまった。
いつもの私は一体どこへ行ってしまったんだろうか。
澪のアレみたく私の中の何かもちょっくら家出でもしてるんだろうか。
家出なら家出でもうそれでいいと思えた。
ケータイを見るとメールが1通着ていた。
梓かな、もしかして澪か?
と思い、ちょっと緊張しながら恐る恐る開いてみると
唯からのメールだった。
唯には悪いが、一気にがっくりきた。
『どうされましたか!?りっちゃん隊長!?』
というなんてことはない内容に、なんてことはない返事を返して
私はまた眠ることにした。
澪のことも、梓のことも全部1日で起こりすぎだ。
起こりすぎて、私の頭も心もチューニングもリズムも狂ったドラムみたいだ。
無駄にうるさいよ、いろんなもんが。
でも、いつもドラムが走りすぎてると怒鳴られてるんだから、ある意味でそれは私らしいのか…?
いやいや、ドラムが走りすぎてるんじゃない、ベースが遅すぎるんだよ
きっと、そうだ。
そういうことにしておこう。
きっと言ったらまた殴られそうなことをぐちゃぐちゃ自分勝手に思いながら
ほどなく眠りに落ちた。
耳に聞こえてくる音からして、
どうやら雨が降っているらしいと目をつぶったままぼんやり思う。
一体今は何時だろうとケータイを探すためにベッドの上をまさぐろうとして、手を伸ばす。
しかし、手は思ったとおりに伸びなかった。
かわりになにか、やわらかいものに触れた。
てか、髪の毛っぽい。
律「うへぇ・・・・!?」
てか、もっと早く気づけよ、私・・・と思う。
律「・・・・・」
律「・・・・・」
律「・・・・・・」
律「・・・・なんでいるんだよ・・・・ゆい・・・」
唯「」スヤスヤ
不法侵入という言葉が頭をよぎった。
てか、寝んな。
律「おい、唯、おきろ、おい、唯!」
唯「」スヤスヤ
当たり前だが返事はない。
さすが、唯である。
制服姿のままってことは、まぁ、学校からそのままきたんだろう。
部屋の隅っこに唯のギータと通学バッグが置いてあった。
律「・・・・(ったく)」
律「・・・あ」ピーン
こういうさえない気分の時でも悪知恵は働くもんだなぁ~と思いながら
私は再びケータイを探した。
律「あ、唯のやつ、私のケータイ踏んでんじゃないか」
起きることを少し期待しつつ、つぶされているケータイを乱暴に抜き取った。
唯にまったく変化はなかった。
律「こいつ・・・てか、見舞いにきて寝たなら普通ベッドサイドとかで寝るよな」
律「まぁ・・・別にいいんだけどさ」
律「ベッドに入って、しかもご丁寧にふとんまでかぶって私から枕まで奪ってるとか、もう寝る気まんまんじゃないか」
はんばあきれながら、しかし、まぁ、唯だもんな、と思いつつ
普段はたかないフラッシュ機能をオンにして、寝ている唯の顔にケータイを向けた。
さすがにこの至近距離からのフラッシュ攻撃をくらったら唯でもおきるであろう。
ケータイ越しに唯の寝顔を見る。
髪が少し乱れて、よだれもたれている・・・
てか、よだれ・・・よだれよだれ、まくらにたれている・・・・うへぇ。
律「・・・・まったく・・・・唯がかわいいのはギター弾いてる時と寝顔の時だけかよ」
唯の魅力は一切わからないが、寝顔はかわいいと仮定する。
とても、幸せそうな寝顔だ。
どんな夢を見たらこんないい顔で寝ることが出来るんだろうかね。
律「・・・・いつか、お前はその寝顔を一体誰に見せるんだ?」
ふと、そんなことを思う。
でも、それは唯に対して思ったことではなかった。
私とは平行するだろう未来を想像して、ケータイのボタンを押す。
一瞬だけまぶしい光で唯の顔が見えなくなる。でも、すぐにまた明るさは元に戻る。
雨のせいで薄暗い部屋にこの光はまぶしすぎた。
さすがに、唯でもおきるだろう。
唯「・・・・む」
写真はきっとうまく取れてなんていない。
でも、まぁいいか。
早速しかめっ面をしておきてくれた唯にばれないように私は急いで写真を保存した。
唯「・・・・むぅぅぅぅぅ」
唯は機嫌悪そうに唸ってた。
相変わらず、寝起きが悪い。
律「やっと起きたか?」
そういいながら、私はベッドから出て部屋の電気をつけた。
うん、明るい。
雨が窓をたたく音に混じってまたベッドの中から唸り声が聞こえた。
唯「ちょっとぉぉ・・・・・まぶしいよぉぉぉぉ」
そういいながらうつ伏せでまくらに顔をうずめてる。
唯「なにこれぇぇぇぇ・・・・なんか、この枕冷たいよ?」
律「あ、それおまえのよだれな」
「うううううぅぅぅぅ」という機嫌悪そうな声を背中で聞きながら
背伸びをしつつベッドの傍においてあるテーブルの上に目をやると、
なにやら見慣れぬ白い箱が置いてあった。
律「お前、いつからいたの?」
唯「・・・・・学校終わってからすぐ」
律「うちの鍵は?」
唯「開いてたよ」
おまわりさーーーーん!!!!
この人、本当に不法侵入だよぉぉぉぉおおおおおお!!!
唯「ちゃんと、りっちゃんに電話したから不法侵入じゃないよぅぅぅ」
律「は?」
手の中にあるケータイを見てみると、たしかに電話が着てた。
てか、着信1件ありって・・・。
律「・・・・おまえは私の家をなんだと思ってるんだよ、やっぱり不法侵入だろうが」
唯「・・・・てか、そんだけ元気なら、りっちゃんずる休みじゃん」
律「・・・・まぁ、ずる休みちゃずる休みですけどそっちだって不法侵入じゃん・・・・・」
唯「むぅぅぅ・・・・あ、さっきまぶしかったのってなに?」
律「え?部屋の電気つけたからじゃない?」
唯「その前・・・なんか一瞬まぶしかったけど・・・・」
律「雷じゃない?この箱なに?」
唯「えぇぇ・・・雷の音しなかったよぉぅう・・・」
律「唯、知らないのか?光って音より早いんだぜ?この箱なに?」
唯「・・・・さっき、ケータイのシャッター音したよ・・・」
律「気のせいじゃない?きっとここからすんげぇ遠くで雷っつーか、ロギオ系が月を目指してんだよ」
律「で、このケーキなに?」
箱の中にはショートケーキとモンブランがそれぞれ3個ずつ入っていた。
唯「・・・りっちゃんはどうしてそんなにシレッと嘘つくの?」
唯のほうを向く。枕に半分顔を埋めた唯と目が合う。
一瞬唯が驚いた顔を見せた。
不自然にならないようにスッ目をケーキにそらしてみた。
律「唯だからじゃないかな」
たぶん、このケーキはお見舞い品なんだろうな、と思いながら答えた。
仮病に見舞いもなにもありはしないだろうけど。
律「私がムギに嘘つくの、お前みたことないだろ?」
唯「・・・・たしかに。てか、やっぱり嘘だったんじゃん・・・・・」
「んんんんんんんんんn・・・・」とそのまま枕にまた顔をうずめて
「写真消しておいてね」とかなんか唸ってたけど、
余裕でシカトしておいた。うん、そうあれは雷だったのだ。
断じて寝顔を撮っていたわけではない。うん、もうめんどいからそれでとことん通す。
また半分顔をこっちへ向けて今度は唯から話しかけてきた。
唯「今日はさ、澪ちゃんが用事とかで部活これなくて」
唯「あずにゃんはまた無断欠席で」
唯「りっちゃんは学校自体来てなかったから、ムギちゃんと私で今日の部活は休みにしたんだよ。2人でいてもさみしいだけだし」
律「そっか・・・・」
澪は今日ちゃんと学校に行ったんだなぁ
澪は強いなと思いながら
「また明日」といわれたのに行かなかったことへの罪悪感に襲われたけど
梓の無断欠席が気になった。
唯「うん。で、私がりっちゃんのお見舞いに行くって言ったらムギちゃんが
ムギ『なら、今日の分のお菓子、お見舞いに持ってて』
っていうから。持ってきたの。だから、そのケーキは食べていいよ」
律「そっか。じゃあ、今遠慮なく食べる。朝から何も食べてないんだ。唯も食べるか?」
唯「あったりまえじゃん!」
そう言いながら、やっと唯は起きて「うーーーん」と背伸びをした。
律「なんか飲む?」
唯「んーー、牛乳がいい」
律「わかった。ちょっと、取ってくる」
唯「あーーい」
そういいながら、唯は大きなあくびをした。
まだ、寝たりないのか、お前は。
不自然に麦茶が入ったコップを持って部屋をでた。
唯はたまにフラっと私の家に1人でくる。
しかも、それを他の3人には内緒にしている。
一度なんでそういう風に隠さなきゃいけないんだと尋ねたところ
「なんだか2人の秘密みたいで楽しいから♪」という返答をいただいた。
そのときはその理由で「ふーん」となんとなく納得してしまって
私の中でそこから先へは疑問は進まなかったけど、
もしかしたら、私以外にも(澪とかムギとか梓とかと)
そういう風な「2人だけの秘密」というものを
唯は作っているのかもしれないな、とボンヤリ思ったこともある。
別に私の他にそういう秘密を持っていたとしても、どうでもいいんだけど。
一度としてみんなの前でボロを出したことはないから
唯のそういうところは妙に器用だな、と私は感心・・・・感心することなのかどうかはよくわからないけど、
とりあえず感心したことがあるってことだ。
1階に降りると弟のランドセルが居間に放りすてられ
『ともだちの家に遊び行ってくる』という
汚らしい字がチラシの裏に書きなぐられているのを私は発見した。
律「・・・・あいつ、急いでて家の鍵閉め忘れたな・・・・・」
唯が不法侵入するきっかけをつくったこいつを私は後で思う存分ゲームで痛めつけようと決意した。
2人分の皿と新しいコップとスプーンと、そして牛乳を持って私は部屋へ戻った。
最終更新:2011年04月20日 03:39