♯プロローグ

私は子供の頃から動物、人から生える糸が視えていた。その糸は身体のあらゆる部分から伸びて天に伸びていた。それらは普通は見えないが、目を凝らすと視えるのだ。いや、視ようと思わなければ視えないのだ。
その糸は私には視えるのだが他人には全く視えない。糸は触れる事が出来るし、操る事も出来る。
お母さんに何故糸が視えるのか聞いても、寧ろ私にその答えを見つけるような小難しい話をしていたが、私には全く付いていけなかった。興味が無かったの間違いかもしれない。

お母さんはいつも『行ってくる』とふらっと仕事?に出掛けてお金を稼いで帰ってくる。小さい頃の私は見送って、何の仕事か興味すらわかなかったのだが、この年になったらいくら私でも気になるが、教えてくれなかった。
元々お母さん1人で私を育ててくれたので、お父さんは知らない。お母さん曰くお父さんは私が生まれる前に死んだからだ。

そして今日もお母さんは仕事に出掛けた。しかし、帰ってこなかった。

お母さんが出掛けて少し日が進んだ。元々仕事で家を空けているお母さんと二人暮らしなので家事も自然と私がやっていた。そんな私にとって平穏な毎日だったので家事スキルはそこそこある。
そんな私の元に1人の女の子がやって来た。

憂「始めまして平沢憂です」

唯「はぁ」

憂「えっと…唯さん?」

唯「はい」

憂「へぇ~…じゃあ私のお姉ちゃんだね♪」

唯「は?」

そう言って憂は私に抱き付いて来た。歳は私より下なのか。しかし私より胸がある。見た目は可愛い系で私より全てにおいて万能な気がした。
それよりもこの平沢憂からは特殊な感じがした。一般人とは違う私やお母さんに近い匂い。
いきなりやって来て憂は延滞中のアパートの家賃を払ってくれた。財布をチラッと除くと諭吉がざっと100人くらいいた気がした。ついでに憂は更にしばらく生活できるお金もくれた。

唯「こんなにいらないよぉ~」

憂「報酬だよ」

唯「報酬?」

憂「お姉ちゃんのお母さんの操お母さんだよ。そのお仕事の。まあ私のお母さんでもあるけど、実は私が生まれた直後にお父さんとお母さん離婚して私はお父さんの元で、お姉ちゃんはお母さんと生き別れになっちゃったんだよ」

唯「えっ?お父さん死んじゃったんじゃ……」

憂「あはは。お姉ちゃんをいやな思いにさせたくないからだよ。嫌でしょお父さんが飲んだ暮れだから別れました。こんなお父さん」

唯「う~ん。えっとうい?だっけ?」

憂「そうだよ。お姉ちゃん」

唯「お父さんってどんな人?」

憂「かっこいいよ!それよりもお姉ちゃんはお母さんの仕事知ってる?」

唯「興味なかった」

憂「もうっ。親孝行しないと!」

唯「でも危険なお仕事でしょ?」

昔、お母さんを狙って化け物が現れた事がある。とっても小さかった頃の私だから化け物と言う感じでしか覚えてない。それでも今こうして生きているわけだからお母さんが倒してくれたのだろう。

憂「お母さんはここ桜ヶ丘の裏の社会と戦ってたんだよ……お姉ちゃん私の糸視える?」

唯「ちょっと待って……おっけー視えたよ」

憂の身体から伸びている糸。太い糸は四肢で次に間接と凝らしてどんどん細かな糸まで視てみる。

憂「その様子じゃ視えてるね。でね。お母さんはその糸を使って化け物と戦ってたんだよ。異能って奴」

唯「異能?」

憂「そう。まあ化け物。お姉ちゃんも化け物だよ」

唯「えっ?がおー」

憂「めっ!」

唯「こほん……さて、どうして私に教えてくれるの?」

と、聞けば要するにお母さんの代わりに仕事をやってくれとの事。憂は私も忙しいからと言うわけで仕方なく引き受けた。この仕事は糸が視える私にしか頼めないらしく、決して代わりに働かないとお金払わないよと言われたからではない。
ちなみに糸が視える異能を糸遣いで糸を使う事を操糸術とか人形遣いとか初めて知った。




♯1

さて、その仕事と言うのは連続通り魔事件の犯人を突き止めろと言う事だった。もちろん警察の仕事でしょって突っ込んだら、異能が絡んでるから頼んだのって言われた。
それで、現在夜の10時近くの雨が降る中、傘を差して人通りの多い所まで行く。

唯(そろそろかな)

そう思って目を糸を視る目に切り替える。ぱっと色んな人から糸が視え、それは天に昇っている。屋根からも糸が視える。屋根に糸があるのではなく、屋根の下に人がいる。その糸が屋根という障害物を突き抜けて視える訳である。

唯(人…人…この糸はネコさんだ。あっちは犬だね)

糸の動きや糸の数で動物を見分ける。夜は基本動物が多い。それにおかしな動きをする糸は見当たらない。
ぐるっと回っておかしい糸を……発見。その糸は明らかに人間より糸が多い。要するに化け物である。

唯(あそこは公園だ。何してるんだろ?)

半分不安に半分好奇心。また半分恐怖に半分興奮。四分の一ずつの感情を胸に公園に向かう。仕事の事はすっかり忘れていた。
公園の入り口から化け物を探す。といっても視認くらいだが、化け物はスライムや獣人みたいなのではなく制服を着た少女だった。少女は空を見上げていた。ただ、服が所々ぼろぼろであり、おまけに知らない制服である。

?「………」

唯「!」

唯の視線に気づいて少女は唯に目を向ける。1秒で視線を外して空を見上げる。

唯「何してるの?風邪引いちゃうよ」

近づいて声をかける。傘をもう一本持って来れば良かった。
しかし、気にしてないのか「話しかけるな」と一蹴された。それでも唯は食い下がる。

唯「服も濡れてるよ。化け物でも風邪引かない?」

化け物の言葉に反応したのか唯に向かってあらゆる感情を込めた目を向ける少女。わかる事は明らかに敵意を唯に向けている事である。

?「どうしてわかったんだ?」

唯「えっ?糸が普通の人より多いからだよ」

?「糸?…お前人形遣いだな?」

唯「よくわかったね」

?「そりゃあ糸と言われたらそいつらしか浮かばないしな」

少女は敵意を見せなくなったが軽快しているようである。そんな事をお構いなしに唯は独自のペースに持ち込む。

唯「私は唯。よろしく」

?「苗字は?」

唯「平沢」

?「平沢…あっ私はカタナ。だけど嫌いだから律って呼んでくれ」

唯「りっちゃんだね。よろしくね」

律「ん。ああよろしく」

完璧に律は唯のペースに嵌ってしまった。糸遣いの唯であるのだが、ホントに糸遣いなのか、逆に思ってしまう点があるのだ。

唯「ねえ。服ぼろぼろだから私が縫い直していい?」

律「いやだめだめ」

唯「いいもん。勝手にやるもん」

唯は律の糸を勝手に操って制服を脱がしにかかる。当然律は抵抗するが、身体が言う事を利かない。操糸術を使っているからである。なんとか制服を脱がす。下は何も身に着けていなかった。

唯「りっちゃんおっぱい小さいね」

律「やかましい!!勝手に脱がしておいて!」

と、怒っているが構わず裁縫セット出して縫う。……が「片手じゃうまくいかない」と悪戦苦闘している。しばらく格闘していると「貸せ。もう自分でやる」と再び抵抗を始める。それを糸で制してやっと一箇所補強が終わる。

唯「………ごめんなさい」

律「…努力は認めてやるから貸せ」

唯「はい」

結局、律は唯よりも早く縫ってしかも唯の下手な補強も直してしまった。ただ、制服が動物のワッペンだらけになった。お気に入りの制服のため落胆した律が一丁出来た。ワッペンだらけになった理由は唯がうるさいからだった。

律「で、唯は何してたの?」

唯「私は通り魔事件の捜査だよ」

律「てことは唯は通り魔の犯人じゃないんだな?」

唯「そだよー。りっちゃんも犯人捜してるの?」

律「唯とは関係ない個人的に調べてるんだ」

唯「その傷は?」

律「敵と戦ったときの勲章。通り魔じゃないぞ」

唯「へー。でもりっちゃんは化け物だから負けないでしょ?」

律「でも唯の操糸術の方が私より化け物だぞ」

律はそう言い顔を顰める。化け物扱いに唯はちょっとショックを受けたが、確かに操糸術はタイマンではほぼ最強の部類に入る。相手の糸さえ掴めばそれまでなのだ。相手は足掻く事も出来ずになすままになるからである。

唯「ねえ、さっき言ったカタナって何?」

アンソロジー
律「作品名『刀姫』だからカタナって略すんだけど私の名前は律だから律って呼んでるんだ」


唯「作品…名?」

律「この身体はある男に改造されたんだ。だから私はその男を捜している。もちろんこの事件にも絡んでそうだからな。もちろん、化け物じゃなかったら私は男なんて追わないし、唯にも会わなかったな」

唯「そんな自分の事を化け物なんて……」

律「唯には視えてるだろ?」

確かに律からは普通の人間よりも遥かに多い糸が身体中あちこちから出ている。唯にはわからない謎の糸が出ている。その一本を適当に手繰った。

ずるぅ。

唯「わっ!?」

律の手から得体の知れない刀が飛び出た。思わず糸を放して距離を取る。

律「そんな驚くなよ。私の身体は百八の名刀の鞘なんだぞ」

唯「そんなに!?」

律「私は改造が趣味の最低な奴に改造されたんだ。ソイツは私みたいな異能を生み出すんだ。もちろん、私は恨んでいる。この手で殺すんだ。この事件にも絡んでるかもしれないんだ。だからな人形遣い!私じゃなかったらお前は殺されてたかもしれないんだぞ!私みたいな奴が異能者だと軽々しく思うな!!この事件を甘く見てるな!!」

律の怒りは唯を怯ませた。余程異能者を憎んでいる事だ。異能者に対して敵意を向けていた。もちろんそれは唯も例外ではない。

唯「私だって真剣だよ!!」(生活費だってかかってるし)

律「どうだかねぇ~」

唯「ならさ」

ここで唯は一つ提案を律に言った。同じ事件を追っているなら一緒にやらないかと…。が、それは決裂に終わった。

律「残念ながら私はソイツの手がかりを掴む事。唯とはまた違うんだ」

唯「ふん。なら私だって自分で犯人捕まえてやる!!」

律「ほんとか?」

唯を挑発するかのような返事。唯はそれをまじめに返した。律はため息をついた。おそらく半人前の唯が事件の真相掴もうとするさまにため息をついたのかもしれない。

律「ならさ、そこのトイレ行って来いよ。女性トイレな。唯には良い手がかりがあるぞ」

唯「罠でしょ?」

律「いやいや」

唯「じゃあちょっと行って来る」

公衆トイレに着いた。糸を視るが誰もいない。しかし、余り良くないものがあるのは臭いでわかったし、中に入ると個室が空いていた。そして個室を中心に血溜まりが出来ていた。
つまり通り魔が既に殺した後であった。手がかりを掴むために血溜まりを踏まないように個室の正面に向かう。ハンカチで口と鼻は既に抑えていたが結構きつい。
少し冷静になってから……唯は中を覗いた。

唯「―!!」

ダッシュでトイレから逃げるように出る。とても直視できるようでなかったからであったのだ。

唯(なっ何なの!?)

テレビでは胸を一突きだったのだが、そんな優しい通り魔ではなかったのだ。
女性トイレには女性の死体が確かにあった。お腹を大きく切り裂かれ夥しい血が流れていた。断末魔を上げた口は開いたままで、おそらく生きたまま裂かれたのだろう。
マジシャンでもあんな殺し方は出来ない。
備え付けの水道まで何とか走り着いたとたん吐いた。

律「本当に事件を追っかけてるのか?」

唯「あれはないよぉ~」

律「やっぱり唯みたいな人形遣いは後ろで糸を操ってた方が良いかもな。正面に行ったら何も出来ずに唯は死ぬぞ。唯だけでなく他の人形遣いも同じな。唯を守る人形がいるならまだしも」

唯「私を守る人形って?」

律「さーね?」

そう言って律は何処かに歩いて行った。その背中は来るなと言っていた。



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最終更新:2011年04月20日 22:44