♯3
澪が帰ってこなくなって1週間が経った。その間にも被害者は出ているのに私は全くと言って良いほどに進んでいなかった。そもそもお腹から裂けるしか情報のない唯にとっては途方もない調査だった。ちなみに今日は3人同時だった。
毎日化け物を探しているが、全く出てこない。
休憩に寄った公園で彼女に出会った。
律「精が出てるね」
唯「りっちゃん!!」
律「進展はどうだい?」
唯「さっぱりだよ。縫ってあげるよ」
そう言いまたぼろぼろになってる律の制服を脱がす。
律「いや、貸せ。お前は下手糞だからな」
唯「糸遣いをなめるなよぉ」
そう言って唯は破れている部分にワッペンを付ける。今回は抵抗していないし、寧ろ実力を見ていたのだろう。そして、唯もまたやりやすかったのか、あっという間に修繕が終わった。
律「おいおい。確かに上手だがほとんどワッペンで制服が見えないだろ!!」
唯「まあまあ」
律「唯は本当に糸遣いなのか?」
唯「うん。お母さんが統堂だったんだ」
律はビックリして目を大きく見開く。
律「くくく。なるほど。統堂がここでヒーロー気取ってるのか。おかしすぎる」
とたんに腹を抱えて笑う律に少し不快感を覚える唯。
唯「こっちは真剣なんだよ!!澪ちゃんだって帰ってこないし」
律「澪?ああ。人形の事か。死んだか拷問だな」
唯「澪ちゃんは死んでない。約束したんだ」
律「唯は少し変わっているな。統堂は闇宮を道具のように扱うんだぞ」
唯「私は統堂じゃないもん!!」
律「でも情報を探らせたんだろ。唯よりも人形の方が遥かに出来るからな」
唯「澪ちゃんを人形みたいに扱ってないよ」
律「要するに人形扱いする事に抵抗感を持っている中途半端なだけ」
唯「だったら勝負だよりっちゃん!糸遣いの戦い方を……私の戦い方を…」
りっちゃんの糸を視る。大糸、筋肉、極糸までも視る。数千と視える糸を捉える
律「……後悔するなよ!!」
唯「ぐっ……」
律「その程度か」
結局、律には勝てなかった。善戦もなく百八の名刀の前には糸も視えず、ただ痛い警告だけを貰った。
唯「……それでも澪ちゃんを助けなきゃ…」
目の前には律の刀があった。
律「唯は普通の女の子の方が良かったかもな。1回死んだ方が良いかも知れない」
唯「私はまだ死ぬわけにはいかない。澪ちゃんと約束したから……私がやるしかないんだ!!」
律は唯を掴み顔を思いっきり平手打ちをする。さっきの戦いで力を使ったのか、唯地面に転がる。それを律は見下す。そして言う。
律「唯は自分が何をしてるのかわかってるか?」
律「澪って奴を助けるために戦う。じゃあ唯に何かあったら誰が澪を助けるんだ?」
唯「あ……」
そう言われて唯はやっと気づく。助けるために死ねない。でも唯はその逆をやっている。
律「焦ってるのはわかるけどお前が冷静にならないとダメなんだぞ」
唯はわかっている。1人で何をやろうとしても限界があることを…それでも犯人を捕まえるため、敵に捕まっているとされている澪を助けるためにこの1週間無茶をしてきた事。結果は何も出来なかった。
でも今律に殴られて少し冷静さを取り戻した。敵を見つけ、澪を助ける方法を。
唯「りっちゃん力貸してよ」
律「無理だな」
即答で答える律。
律「だって私にメリットがない。でも唯は糸遣いだから何かしらの役に立つかもしれない。私に力を貸してくれ」
唯「それなら喜んで貸すよ」
律「じゃあ行こうぜ。ここは色々壊しちまったから他のところで作戦を練ろうぜ」
ほとんど律が壊したのだが、元々は律の攻撃を避けまくった唯の身代わりである。そんなのお構いなしで律は公園を後にする。唯もちょっと罪悪感に責められながら後にした。
公園近くの道路で律は持ってる情報を唯に話す。
律「実はな見たんだよ」
唯「何を?」
律「被害者の腹部は食い破られてたんだ」
唯「そう……なんだ」
唯は考える。律の言ってる事は本当だろう。じゃあなぜ犯人は食い破る必要があったのだろうか?唯は思い出したくないが、トイレの死体を思い出す。女性は生きたまま腹を割かれて死んだ。つまり、個室で腹を食い破られているのに抵抗すらしなかった事になる。
律「……普通じゃ無理だな…いや、あいつ等なら可能か」
1人納得した律は頷きながら考える。
唯「あいつ等?」
律「蟲遣いだ」
唯「蟲遣い?」
律「私等みたいな異能だよ。しかも唯みたいな操り専門だがあっちは蟲だ」
唯「でもどうして……」
頭が付いていけない唯は必死になって話しに食いついていく。
律「いいか唯。私達は犯人を追っていたがそれは無理なんだ」
唯「何で?」
律「被害者はみんな抵抗してないんだ。で、今日だったか3人同時に襲われたのを知ってるか?」
唯「うん…あっそうか!!」
唯はやっと気づく。犯人を見つけるなんて不可能である。何故なら犯人は被害者のお腹に潜んでいるからである。
唯「なら行こう!」
そう言って唯は人通りの多い道に向かって走り出す。それを律が追った。
駅前に着いたところで律が唯に尋ねた。
律「どうやって見つけるんだ?」
唯「…………」
律の声も無視して目を集中させ唯は糸を視た。そして見つけた。謎の糸を持つ女性を。
唯「来て」
人が全く通らない道の中を女性は歩いている。が、突然倒れた。正確に言えば律が当身をしたのだ。その女性を公園に連れて行き、唯は謎の糸を手繰った。ずるぅ。出てきたのは巨大な蟲だった。それに思わず唯は糸を放してしまう。蟲は鳴き、唯目掛け襲い掛かる。が、その蟲は真っ二つに切断された。
律「大丈夫か?」
切断したのは律だった。腕から刀を出している。
唯「うん。ありがと」
律「やっぱり蟲か厄介だな。しかも闇宮が捕まるほどだからおそらく聡だな」
唯「聡?」
律「蟲遣いでもトップクラスの実力者さ」
そこから律は簡単にその聡について、そして虫使いについて教えてくれた。元々は一般人だったが研究の度が凄すぎて特殊な蟲を作り出した事により異能を獲得した。そしていくら蟲を倒してもキリがなく、術者を倒さないとこの事件は終わりが見えない事。
律「ただ、問題はどこから蟲は侵入したのかだ」
唯「う~ん」
律は何かと思い女性のバックを漁る。そして何かを見つけた。
律「これなんだ?」
唯「姫子ちゃんが持ってた薬」
律「これか」
薬を取り出して中を見てみると白っぽいグミのような薬。それを律が刀で切る。真っ二つに割れ、中から卵が出てきた。
律「これの出所はわからないがこれで蟲が生まれるのは確定だな」
唯「出所は聞いてみるよ」
律「そうか頼んだぞ。じゃ今日は解散な」
唯「えっまだ……」
と、唯は訴えるが律は軽く唯を押す。その力に逆らえずふらつく唯。
律「限界超えてるのに無理はダメだ。そうそう今日で片付いた闇宮は捕まらなかったはずだ」
唯「……そっか」
律「それじゃあな。またこの時間で」
唯「わかった」
律と別れふらふらな足取りで家に戻る。鍵を差し込むが回らない。また、何かあったのかと思って扉を開け中に入る。
澪「おかえり」
連絡の取れなかったゴスロリ少女がそこにいた。待っていたかのような笑顔は唯の疲れを多少和らげてくれた。そのまま唯は倒れてしまうかと思ったが、先に澪の方が倒れた。
唯「澪ちゃん!!」
慌てて彼女を抱きしめると彼女は虫の息と言う事がわかった。連絡がない間酷い拷問を受けていた事が丸分かりである。急いで救急車を呼んだ。が、彼女は到着するまでに死んでしまうのかと言うくらい瀬戸際であった。
澪「唯…ごめん……私………」
唯「喋らないで!!」
私は応急処置に彼女の心臓の糸を視る。かなり弱々しく動いている。その糸を掴み、澪の代わりに心臓を動かす。次に横隔膜を操り楽にさせる。
澪「わたしに…そこまで……」
唯「黙ってて!話は後で聞くから!!」
しばらくして救急車が到着してそのまま病院に運ばれた。私は待合室で澪から預かった匕首を握り締めただひたすら待っている。澪はかなり衰弱状態であり、さらに外部損傷も見られた。もしそのまま澪が死んでしまったら……
唯「そんなのいやだ」
大切な人がいなくなるのを唯は味わっている。既にお母さんが行方不明である。さらに澪までも続いたら……
唯「…………」
1人で空気を重くした待合室から出て中庭に出る。するとどこからか羽音が聞こえてくる。どうやら腹の蟲が成長したらこうなるであろう蟲が飛んでいる。どうやら狙いは唯ではなく澪のようでどうやってかわからないが追跡してきたみたいである。その一匹の糸を操りもう一匹にぶつけ狙いを唯に定めさせる。もちろん。ぶつけ、ぶつけられた蟲は落ちて動かなくなる。蟲は全部で十匹くらい。初見であるが唯は負ける気がしなかった。
唯「よくも澪ちゃんを……」
ただそれだけを思って唯は蟲に勝負を挑みに行った。
朝、澪の病室に行くと白い服を着た澪が迎えてくれた。その回復力は看護婦さんでも凄いとか。
唯「澪ちゃん!!」
澪「ごめん。迷惑掛けた」
ペコリと頭を下げるが、まだ完治し切れてないので多少傷に障ったらしく顔が歪む。その姿を見ると心が痛い私がいる。
唯「ううん。澪ちゃんが無事で良かったよ」
近くまで寄って手を握る。澪ちゃんが無事で良かった。誰に感謝すればいいのかわからない。けど今こうして澪ちゃんが生きている。それだけでも私は救われた気がした。
澪「警察の情報は簡単だったけど、犯人の調査に潜入したら捕まった。不覚だった。ごめん」
唯「やっぱりそうだったんだ」
澪「ごめん」
唯「気にしないで」
そう唯は言ったが、澪はそこではないと言った。本当は捕まった時、澪はすぐ死のうとした。しかし、唯との約束を思い出して隙を見つけて逃げてきたと言う。
澪「唯の命令だから…ただ、敵に唯の情報漏れたかもしれない。ごめん」
唯「そんなことどうでもいいよ。生きて帰ってきてくれて本当に良かった。それだけで満足だよ」
澪「ありがと……本当に生きてて良かった…それだけで、私は救われたよ……本当に…」
声に嗚咽が混じり、目からは大粒の涙が零れてはシーツを濡らす。そのまま唯は澪が寝息を立てるまで付き添い、眠った頃唯は病室を後にした。
家に帰り澪の服の修繕を行う。どうやらこの服は糸遣いが縫ったハンドメイド。誰かはわからないが技術が凄い。それに負けないように私も縫う。服の修繕が完了した頃には日が暮れていた。
―――
律「今日は元気だな」
唯「わかる?澪ちゃんが帰ってきたんだ!!」
律「へぇ~。良かったじゃん。で、どうするんだ?まだ続けるのか?」
唯「もちろん!澪ちゃんの受けた痛みや辛さを蟲遣いにぶつけるんだ!!」
律「ふうん。じゃあ行くか」
唯「あっ!最初にちょっと良いかな」
最初に唯は姫子を呼び蟲の卵入り薬の詳細を聞いた。どうやら駅前で配っていたらしいと姫子は思い出しながら言った。そのお礼に姫子の腹に潜んでいた蟲を退治してあげた。
その日は5匹くらい駆除した。
澪が退院するまで唯と律は蟲を駆除しまっくった。そのおかげで蟲を孕んでいる女性も減ったがまだ少なからずいる。早く安全にしたい。そのためには蟲遣いを倒したほうが早いのだが、中々現れない。早く出てきてよ。
最終更新:2011年04月20日 22:46