♯4

澪が結構早く退院した。普通ではありえないらしい。

澪「迷惑掛けた。でも安心しろ。性的拷問はされてないから膜は健在だぞ。これは唯に破って「いいよ。帰ってきてくれた方が嬉しいから!それより本題に!」

自宅に戻って来た澪は軽く謝る。そこまでは良かったが余計な事を頬を赤く染めながら放し始めたので無理やり話しを終わらせて本題に移らせた。………いや、余計しゃないけどいっか。

澪「今回の犯人は……」

唯「蟲遣い…でしょ?」

澪「そう。唯もそこまで調べてたのなら話は早い」

澪はノートパソコンを開きある画面を唯に見せる。

澪「こいつだ」

唯「田井中聡」

澪「聡は蟲遣いのトップクラスだ。今回の蟲もこいつのだ。で、どうやら今夜取引があるらしいんだ」

唯「取引?」

澪「それがこれ」

澪は別のファイルを開くと画面に取引日時と地図が映る。澪曰く多分蟲の取引と言う事。

唯「じゃあここでまとめて蟲遣いを倒しちゃお!!」

澪「私も行くよ」

唯「大丈夫なの?」

澪「心配ない。あ、この服は唯が直してくれたのか?ありがとな」

唯「このくらいしか出来ないけどね」

澪「充分だよ」

唯「あっこれ返すよ」

唯は澪から預かってた匕首を澪に差し出すが澪は黙って押し返す。

澪「それは唯が大事に持っててくれ」

「でも」と唯が言ったが澪は何も言わず押し返したままである。

唯「……わかった」

「………これでいいんだよな」と、なにか澪が呟いた気がした。

澪「ところで唯」

話をまるっきり変える予定の澪。

唯「何?」

澪「私、敵に捕まったけど頑張ったよな?」

唯「もちろんだよ!!」

澪「じゃあご褒美をくれないか///」


唯「え?」


「ありがとうございましたー」

ほくほくな顔で澪は店を出て闇宮がいるのに影が薄い唯が続いて店を出た。

澪「ありがとう」

満開の笑顔でお礼を言う澪。

唯「うん」

もの凄く軽くなった財布を力なく握り締めて頷く唯。
そのまま2人は近くのファミレスに寄る。

澪「本当にありがとう」

唯に買って貰ったベースを大事に抱きしめる。相変わらず満開笑顔は萎れたりはしていない。

唯「ご褒美だもん」

やっと影の濃くなってきた唯は言葉を出す。

澪「じゃあこの喜びはちょっと置いといて私の与太話に付き合ってもらえないか?」

唯「いいけど。何の話?」

澪「闇宮についてだ。唯はまだ疑問を持っているだろ?」

唯「まあ」

澪「それをなくしてあげる。おそらく唯の人形ってとこだろ。闇宮は統堂の糸遣いが誕生したときに、その世話係りとして誕生するんだ。いや、作られるの法が正しいな」

唯「作られるって……」

澪「そうだな。私なら唯が産まれただろ。その吉報を聞いてじゃあ唯専用の世話係りを作らなきゃなって事で私は産まれたんだ。親は産む専用の種馬でな」

唯「じゃあ本当に澪ちゃんは……」

澪「ああ。唯のために産まれた人形だ。唯がいるから私はここにいる。ついでだが、基本闇宮は専属主人が死ぬと人形も死ぬんだ。いわば一心同体だ」

軽々しく自分の事を人形と言う澪。少し狂っている。

澪「わかってくれた?」

唯「でも私は自分の事を人形って言わないでって言ったよね?」

久々に澪の口から人形の言葉を聞きいらいらさせた。その言葉を使わないように長いながら少し怒ったように言った。

澪「甘い。唯は当主になるんだから…自覚あるだろ」

唯「ないよ」

澪「参ったな。……じゃあこう言えば良いのか。私は元々唯を連れて帰ってくるよう言われたんだ。ついでにな、一ヶ月以内に連れて帰って来れなければお前を処分だと」

唯「えっ?」

澪「場合によっては例外が適用するけど、その場合、唯は殺されるぞ」

要するに跡を継がなければ殺すって事だった。少しばかり思っていたけど、統堂も異能だった事を忘れていた。常識が通じないと……。

澪「もちろん。唯が帰るが帰らないが私は唯の決定に従うよ。ただ、私の命で心が動かされる時点で唯はまだまだ甘いよ」

唯「そうだったね。元々澪ちゃんはそのために来たんだったよね」

澪「これから敵倒すのに詰まんない事話してごめんな」

再び頭を下げる澪。唯にはわからない事がある。それは澪の心である。どこまでが闇宮の澪でどこまでが澪の本心なのかわからない。ひょっとした澪はまだ唯に全てを見せてないのかもしれない。

澪「さて、どうする?」

唯「まずは蟲遣いを倒そうよ。その前に何か食べよっか」

澪「何でも頼んでも良いのか?」

唯「ご褒美の延長で良いよ。さっきのベースは警察の資料。この蟲遣いのご褒美がここの料理食べて良いご褒美」

澪「本当か!?」

ベースに好きなものを食べて良い許しが出て再び笑みが現れる。それは闇宮の澪ではなくて秋山澪の笑顔なのかもしれない。正直こっちが恥ずかしくなるくらい可愛かった。

澪「たっ食べて良いのか!?」

唯「良いよ」

澪の目の前にはイチゴパフェがある。唯の前にはアイスがある。ご褒美って事でパフェを頼んだらしい。そのイチゴパフェをスプーンで掬いゆっくり口に運ぶ。

澪「いっいただきます///」

唯「召し上がれ」

言葉と動作が逆だったのだが余程食べたかったのかいただきますを言った直後に最初のクリームが口の中に入った。

澪「美味しい」

唯「甘いもの好きなの?」

澪「うん///」

恥ずかしそうに答える澪。

澪「甘いものは好きなんだけど、食生活管理されてたから余り食べさせて貰え得なかった」

唯「なら言ってくれたら良いのに……」

澪「唯のご褒美で食べたかったんだ。じゃないと全部半減してしまう。美味しさも喜びも」

ぱくぱくパフェを平らげていく澪。これが彼女の本心なのかもしれない。そう唯は感じ取った。

唯「……可愛いなぁ」

澪「えっ?何か言った?」

唯「いや別に」

さっさと自分のアイスを食べる唯。先に澪がパフェを平らげると再び口を開いた。

澪「さっきの話しの続きだが……いや愚痴だけど」

そう独り言のように呟く澪。私はスプーンを口に加えたまま澪を見る。澪はメニューを見て次に注文するパフェを見ていながら……

澪「普通、統堂専属の闇宮は幼少の頃からずっと一緒にいるんだ。といってもべったりじゃないんだけどな。こっちも鍛錬したり、統堂だって勉強とかがある。学校に行くようになってから普通の専属は本領発揮なんだ。理由は影で主人を守るため。いつどこで襲われるかわからないしな。でも私は唯の専属だけどそんな活躍は今までなかった。主なしの人形だから一族でも浮いた存在だったんだ。最悪だったし、呪った事もあった」

澪が今までどのような扱いを受け、教育を受け、成長してきたか唯は知らない。でもその言葉と澪の視線が唯の胸に突き刺さる。

澪「どうして私は唯のためなんかに作られて、生まれたのか…毎日唯を呪って大きくなった。でも闇宮は統堂に畏怖、畏敬を持っているから唯の興味を捨てきれなかった。他の統堂の専属闇宮が羨ましかった。時には部下、時には友として…厳しかったり優しかったり……そういう関係を憧れていたんだ。唯はどういう人なんだろう。好きなものはなんだろう。毎晩思いを馳せてたんだ。でな、そんな事考えてるうちに私は唯を恨んでる以上に慕ってたんだよ。だから私は厳しい修行も積んで来た。唯に会ってみたい。その事だけを考えてな。そしてやっと許可が出たとき、とても嬉しかったんだ。やっと唯に会えるって。そして唯に始めてあって声を聞いたときは凄い嬉しかったんだ。まあこっちが赤面しちゃったけど……おかしいだろ?最初は怨んでたが今は幸せ。唯の傍にいられるから……敵に捕まった時だって唯に会えない方が辛かったんだ。また会えたとき本当に嬉しかった。私は唯に慕いしてると自覚した。だからさっきちょっとキツい発言したけど唯は優しいから……だめだな私…闇宮失格だよ」

私は何も知らなかった。異能の家系で次期当主になることや澪という少女が待っていてくれた事を……。澪の本心は恨んでるのか慕っているのかわからなかった。


澪「どうかしたか?」

唯「いや」

澪「まあさっきのは私の愚痴だから…あんまり気にする事じゃないからな」

そう澪は言うが、このままではいけない。澪は自分の事をたくさん話した。しかしそれは闇宮の人形の事で、秋山澪の事は話していない。
答えは出ている。

澪「じゃあ行こうか」

唯は澪にこんな教育した奴を許さないと誓いファミレスを出た。




♯5

唯「あっちょっと聞きたいけどさ。楽器好きなの?」

歩きながら最初に買ったベースの話を聞く。

澪「詩を書くのが好きでな。唯に会いたいと思ってた時に歌詞が出来てな、その時統堂の方が専属闇宮に四本弦のギターを教えてて羨ましかったんだ。それでちょっと唯と弾いてる想像してたりして……」

唯「へ~。どんな詩?読んでみたい!!」

澪「え?」

唯「だから澪ちゃんの詩を読んでみたいの!!」

澪「はっ恥ずかしいな///」

唯「そこをなんとか!」

澪「まっまあ唯なら良いよ///私の主人だし///」

律「唯!」

唯「りっちゃん!」

声の主の方を向き返事をする唯。ただ、澪は警戒態勢を取っていたが唯がそれを制した。澪には説明していなかったので律について軽く自己紹介する。

唯「りっちゃんだよ。蟲遣いを倒すのを手伝ってくれる大事な仲間だよ」

澪「……そうなのか」

律「で、2人は今日はどうするんだ?」

唯「アジトに乗り込むんだ!!」

律「なるほど」

澪「なあ唯。律って奴についてもうちょっと説明してくれないか?」

澪が唯の服の裾を引っ張り詳細を求める澪。それにちゃんと唯らしい説明する唯。

唯「りっちゃんはね。身体から刀が出るんだよ!」

澪「刀?」

律「ほれ」

律の手から刀が出る。それにすぐ反応した澪が……

ゴッドハンド
澪「お前はまさか……『神の手』の作品の……」

                     アンソロジー
律「流石闇宮。物分りが唯より良いな。そう。作品集の『刀姫』だ」

唯「え?神の手って?」


澪「簡単に言うと化け物を作る人物だ。コイツも神の手によって改造されたんだよ」

唯「りっちゃんは化け物じゃないよ!!」

唯は否定するが本人の律は……

律「良いんだよ唯。化け物呼ばわりは慣れてるさ」

特に表情には変化がない。本当に慣れているようだった。

澪「律とか言ったな。唯を助けてくれてありがとう」

律「別に」

と、ここで唯はある怖さを感じた。それは謎の緊張感だった。

澪「で、お前は唯とどういう関係だ?」

律「唯の力を借りてるだけ。操糸術は役に立つからな」

澪「なあ唯。コイツも連れてくのか?」

唯「仲間はたくさんいた方が………」

律「そゆこと」

澪「だめだ!!」

澪はぴしゃりと言う。

澪「唯は私が守るから化け物は退場だ」

不良に絡まれたときの鬱陶しい顔になる。対して律は澪を直視している。

澪「とっとと帰れ!仲間料金払ってないならすぐ死んで詫びろ!」

律「敵に捕まっといて何言ってやがる」

澪「っ!…あれは潜入なんだよ!!」

何か良くわからない言い争いになる。どちらも戦闘力は唯より遥かに上である。ここは穏便に解決しようと唯は決めた。

唯「みっ澪ちゃん。りっちゃんくらい……」

澪「唯は黙ってろ!」

唯「ごめん」

澪から穏便に解決出来なかったので律から解決しようと試みる。

唯「りっちゃんや……」

律「ちょっと待ってろ唯。こりゃああいつより私のほうが専属闇宮向いてるかもな」

澪「化け物のお前に唯の世話なんか任せられるか!」


解決出来なかった。
結局唯は隙を見つけて2人の糸を掴み無理やり仲直りさせた。そこで澪のゴスロリ服の謎もわかった。…………関係ないけどね。
後、どっちが可愛いか争ってた。

目的地の場所は町外れの廃アパートで、外から見ると糸が視えた。人間が2人でもっと凝らして視ると蟲の糸まで視れた。相手は1階の奥の部屋にいるので作戦としては律は上の部屋から、澪は外から回り込み、唯は正面突破の形を取る事にした。
一応廃アパートに入る前に他に人がいないか確認するがいない。
アパートの中は意外にも綺麗だった。ゆっくり進み奥の部屋に向かう。話し声の聞こえた部屋の扉を少しだけ開けて中の様子を伺う。中にはスーツ姿の初老の男と白衣の男がいて、取引の真っ最中だった。会話していたので盗み聞きをすると今回の事件の蟲の話しをしていた。

「ほらこれで全部だ」

そう言って白衣の男は錠剤の入った無数の瓶を初老の男に渡した。

「ただ、期待の完成度より劣ってしまった。改良の余地があるんだ」

「その資金をよこせと」

「そう。話が早い」

蟲遣いの笑い声が聞こえた。

「分かった。それと今ある卵は貰う」

「そうだな。孵化率は三割。腹を食い破るまで十日前後でそれから最低一週間は潜伏可能だ。後は俺の合図でコンニチワだ。すぐ死ぬがな」

「お前達の蟲は死んだら消えるだろ。なら脅迫にはうってつけの蟲だ」

取引の話が聞こえる。

「しかし、最初の話では一ヶ月は潜伏可能ではなかったかな?」

「そのはずなんだが、急に死に出したんだ。ある蟲は一ヶ月の蟲だったりある虫は孵化した奴だったり………」

「誰かが摘出したみたいだな」

蟲についての話は唯にはよく分からなかったが急に死に出したところからは自分たちで駆除しているとなんとなく自覚した。ただ、気になっていたのは初老の男が少しこちらを見たことである。偶然かもしれないが、気づかれているのを黙認しているかもしれない。

「無理だろ。どうやって腹ん中の蟲を取り出すんだ」

「……あまり派手にやるなよ。勘付かれる」

「はぁ?誰にだよ?」

「例えば正義の味方とか」

……偶然ではなかった。二度目は必然で、唯の目と初老の男と目が合った。

「澪ちゃん!りっちゃん!」

2人の名前を叫んで部屋に入る。窓から侵入した澪はすばやく動いて蟲遣いを床に突き倒す。律は天井を崩して初老の男の腕を掴む。

「なんだお前ぐえっ」

澪「黙ってろ」

蟲遣いは床に叩きつけられる。

「ここまでか」

初老の男性が若い女性の……感情のない声で呟いた。そして律の掴んでいた腕が取れた。その腕から勢いよく白い煙が出る。律はすぐ刀を出して男の身体を刺したがそれはきぐるみだった。

唯「待てー!」

謎の人物を追うが既に窓から外に飛び出ていた。窓枠まで来た時にエンジン音が聞こえた。そして無人で動くサイドカー付き大型バイクが女性と唯の間に滑り込む。無人と言うのは糸が視えないからである。

「忠告する。この場から離れろ」

彼女は感情のない声で唯に言い、バイクにまたがりあっという間に見えなくなってしまった。

唯「何者なんだろ?」

澪「唯!」

蟲使いは死んでいた。律曰く蟲遣いは臓器も改造できるらしく、他の蟲同様彼の身体も崩れて消えた。

澪「とりあえず物色しないか?」

澪はそういうが私はさっきの女性の言葉が気になっていた。「この場から離れろ」と。

唯「澪ちゃん!りっちゃん!逃げるよ!!」

そういって唯は窓から逃げる。訳の分からない2人は唯に続いてアパートから出る。その途端アパートに火の手が上がった。

澪「やっぱり罠だったか」

唯「すぐに人が来るからここから離れよ」

遠くに蟲が飛んでいるのがわかる。さっきの蟲遣いが死んだからおそらくあれは聡の蟲。聡にとってこの事は想定外だったかもしれない。



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最終更新:2011年04月20日 22:54