♯6
それから全く敵の動きがない。澪は逃げたんじゃないかと言うが、その可能性はないとはいいきれない。
この一週間は私は普通に学校に行けたり、澪は買ってあげたベースを弾いてたり平穏だった。澪ちゃんの事も考えるとあまり時間がない。蟲遣いは切り上げて本家に帰った方が良いのか?澪は全く忘れたように何も言わない。
唯「ねえ澪ちゃん。統堂の家は…」
澪「唯の好きなように。それに私は従うよ」
チャイムが鳴り澪はベースを一旦立てかけて玄関に向かう。黒のゴスロリ服のまま出るのでいい澪が家に来てからずっと白い目で見られている。
憂「お姉ちゃん久しぶり」
唯「ういー」
憂「お姉ちゃん流石だよ!事件解決してくれたんでしょ?」
そう言って唯に抱きつく憂。憂は喜んでいたが唯は違った。
唯「えっ?」
憂「とぼけなくて良いよ。異能者始末してくれたんでしょ。それでお母さんは?」
唯は首を横に振る。それで憂は理解した。
憂「う~ん。どこ行っちゃったんだろね?まあ、それはともかく依頼は完了だから、また何かあったらお願いね。お姉ちゃん」
唯「ふふふ。お姉ちゃんに任せなさい!」
憂は機嫌良く帰って行った。
澪「今のが依頼者?」
唯「そうだよ。憂って言うんだ。でも憂は終わりって言ってたけどまだ違うよね」
澪「別に終わりでも良いんじゃないか?」
と、澪は唯の顔を覗き込む。
澪「まあ気が済んだら帰ろうな。唯はまだ気が済んでないみたいだし」
唯「そだね」
澪「まぁたまには骨休めでもしないか?」
にこりと笑う澪の本音が見える。
唯「…………パフェ食べたいの?」
澪「ついでにちょっと付き合ってよ」
開き直って澪は答えた。
律「誘っといて遅刻とは酷いな~」
唯「澪ちゃんが思ったより楽しんでてさぁ~」
澪「すごいなスタジオってところは!!」
律「……まあともかく唯は聡を倒すんだろ」
律の言うとおりである。澪の事と唯の母の事と借りは二つある。何故母なのかと言うと、澪が田井中聡の情報をパソコンで見せてくれた時に彼の日記があった。そこには闇宮、あの女と書かれてあった。闇宮はおそらく澪だが、あの女は唯の母の事だろう。そう唯は思っているからである。
澪「とりあえず、今はこの話しはやめないか?ただでさえ目の前の奴でパフェの美味さ半減してるんだから」
唯「澪ちゃん喧嘩するなら外で待ってて貰うよ」
澪「むぅ」
律は多少苦笑する。それに澪は文句を言いたいのを必死に堪えている。顔が真っ赤だ。
澪「律!貴様とはいつか決着をつけないといけないようだな」
律「ふうん。来いよ」
唯「喧嘩はだめだよぉ」
律「ほら、主人が困ってるぞ」
澪「お前がいるからだろ!」
唯「りっちゃんってさ、この後どうするの?」
律「とりあえず、神の手が近くにいる気配を感じるし、しばらくここにいるよ。唯は?」
唯「聡を倒すんだ」
律「でも情報がからだろ」
唯「おそらく前回倒した蟲遣いは聡と接点がないんだ」
律「はぁ?」
律が難しい顔をする。唯は予想を説明する。
元々桜ヶ丘には2人の蟲使いがいて実験をしていた。それは聡には迷惑であった。通り魔事件のせいで仕事がやりにくいから。互いの接点は存在しないのに聡は取引データを持っていた。つまり、聡自身で邪魔な蟲遣いを葬るつもりだった。しかし、誤算は澪が脱走した事。ただ、取引データも持って行ったのは嬉しい誤算。そのため聡はホームページをあんな風につくり、唯達が倒すように仕立てたのである。
律「なるほど。唯のくせに」
澪「ちょっと表出るか?」
唯「すみませーん。これとこれさげてください」
律澪「ごめんなさい」
澪「ところで唯、聡のホームページ見てたら……こんなのが…」
唯「ん?」
澪がパソコンを唯に見せる。最近気づいたが、澪のゴスロリ服の内側にはたくさんの収納袋が付いているのだ。
『このホームページを見ている蟲遣いへ。俺の蟲がついに完成したから見に来い!』
下に場所が載っていた。
唯「聡って子供?」
律「多分な」
唯「とりあえず行こう!」
唯は立ち上がるが律はともかく何故か澪まで座っている。
唯「あれ?どうしたの?」
と、そこにパフェとステーキを持ってきた店員がやって来て
「チョコレートパフェのお客様」
澪「はい」
「ステーキセットのお客様」
律「はい」
更に何故か…
「グラタンのお客様」
澪「あっ唯です」
「ごゆっくり召し上がってください」
唯「……………」
澪「ゆっくり行こう。ファミレスっていいな」
律「そうそう」
さっきまで犬猿の仲だったのにこういう時だけ暗黙の了解みたいに気があっている2人。
みんな嫌いだ。
♯7
澪「闇宮流葬技――雅一閃!」
スパッと目の前の木の枝が切られて落ちる。
律「わざわざ必殺技まで使わないと道をつくれないとは……」
澪「うるさいな。もう良いや。よいしょ」
唯「うわっ」
澪「さて行くか」
さて、現在の状態は律を先頭にしてその後ろでお姫様抱っこされる唯。抱っこする澪。最初は先頭は澪と律が歩いて、唯が後ろを糸を視ながら歩いたのだが、夜で暗いので、木の根に躓いたり、木の枝にぶつかったりとRPGでいう毒状態みたいに1人ぼろぼろになって行った。そこで澪がナイフでスパスパ枝を切っていくが律がそれを挑発。そしてこうなった。
唯はこの年でお姫様抱っこをされてなのか、顔が赤い。ただ、周りが見えないおかげで二人に見られることはない。そこはほっとしたようだ。
指定の場所はぱっかり森が開かれていて広い場所だった。
律「にしても招待状なんてふざけてるな」
澪「しかも私達に勝つ気らしいな」
唯「何か秘策があるんでしょ」
じゃなきゃこんな所には呼び出さない。
森の奥からソイツは姿を現した。
聡「来たな」
澪「聡……」
そう呟いたのは澪だった。あれが蟲を作ったの!?って思った。だって小さいから……。
目は私達を睨んでいるらしいのだが、全然怖さを感じない。寧ろ澪の方が遥かに怖い。
唯「君が聡君?」
聡「君付けるな!まあ俺が蟲使いだ。まあもうすぐお前達は俺の作った『ゲルミル』の胃袋に収まるがな」
聡「お前も俺の研究を邪魔してたな。まあ良いさ。ゲルミルの性能テストには良い格好の相手だったからな」
要するに生かしてやったと言っているのだろ。
律「テストの相手だと!?なめやがって!新種の蟲なんかで私達を……」
聡「コイツでもか?」
ドン……地中から太鼓を叩くような音が響く。音の感覚は短くなり大地が震えだす。
聡「出て来い!ゲルミル!!」
ソイツは姿を現した。クワガタとカブト配合した異様な角に巨大で強靭な顎、体長は軽く十メートル以上あり、背中は分厚い甲羅で覆われている。体躯はまだ柔らかい肌色の外殻で覆われていた。
聡「でかくなったなお前」
聡はゲルミルの甲羅に乗り睨みつける。
律「そんな蟲じゃ竜宮城は行けないな。でかいだけの蟲に臆するなよ唯!」
聡「俺はお前達を過大評価してるわけない!秘策もあるんだ!」
聡が高らかに笑う。
律「とりあえず殻が柔らかい内に……「それはさせない」
律の顔面に黒い拳が飛んだ。
澪「私がそれを止めるからな」
律は吹っ飛び木にぶつかる。メシメシと嫌な音を立てて木が倒れ、律はその木の下敷きになる。
唯「りっちゃん!」
律を吹っ飛ばした後の光景をつまらなそうに眺めてから澪は私を冷たい目で睨みつけた。
唯「澪ちゃん……何で…」
澪は何も答えない。代わりに答えたのは聡だった。
聡「澪姉は一度捕まってるんだぞ!操るはお前だけじゃない!薬漬けにすればどうってことない!!」
唯「あっやっぱり子供だ」
なんて暢気な事を考えていてはいけない。聡の秘策。それが薬漬け。
聡「お前はこの蟲が相手だ!澪姉はこっち来て」
澪「はい、聡様」
初めて会ったときの様な敬語を使い、音もなく聡の下へ飛び、ひざまづく。
聡「澪姉可愛いよ。ぺろぺろしたいお」
澪「聡様。後で差し上げますので……///」
唯「澪ちゃん……」
聡「そうだったな。まあ、この糸遣いは気づかないほどアホだったんだな。おかしいと思うだろ普通、簡単に澪姉なんか脱走させて」
唯「……まさか!?………じゃあホームページも!?」
聡「澪姉はちゃんと俺の元で動いててくれたんだよ!池沼がぁ!!」
唯「嘘…嘘でしょ澪ちゃん……」
澪が唯に見下す。その笑みは歪んでいた。さっきまでの過保護な澪の笑みではなく醜い笑みだった。
唯「嘘だあぁぁ!!!」
聡「形成逆転だ。3対1じゃ勝ち目はないが闇宮を味方にして刀姫を殺しちまえばこっちのもんよ!!」
「勝手に殺すな!」
身体中から刀を出した律は聡の背後を取り突き刺そうとする。が、澪が聡を守る。
聡「まだ生きてたか!」
律「自動防御反応を舐めてもらっては困るな」
殴られた部分は刃の面であり、律は刀をそういう使い方も出来るらしい。
律「堕ちたもんだな闇宮」
澪は何事にも動じずただ律の刀をじりじり押し返す。
聡「澪姉頼む!」
澪「はい、聡様」
澪は刀の一本を握り投げる。
律「なっ!」
宙に浮かぶ律。それを追撃するかのように追う澪。律は背中から刀を出して地面への衝撃を和らげ、澪は軽やかに着地する。
澪「今度は本気で殺すぞ律」
黒い手袋を嵌め直し、オーラを放つ。
律「お前もな」
唯「りっちゃん…澪ちゃんは……」
唯は悲痛な声で、懇願するかのように律に問うが、彼女は――
律「ダメだ唯。澪はもう手遅れだ。最初の一撃はマジだった。しかも薬漬けだから、仮に聡を倒しても禁断症状で死ぬ。諦めろ」
聡「うひひひ。俺を倒すってのか?ゲルミルがいる限り負けねーよ」
唯「うるさい!」
聡「来いよ。糸遣い。ゲルミルでも操ってみやがれ。後澪姉、その化け物早く殺してくれ。いい加減うざイから」
澪「はい、聡様」
澪が加速し律に迫る。
澪「“化け物”風情が…さっさとくたばれ!死ね!!」
律「薬中の癖にドーピングで強くなっただけじゃないのか?百花繚乱!」
律の両手から刀の花が咲き澪の連打する拳を弾く。澪の手袋はワイヤーか何かが仕込まれているのか、拳と刀がぶつかる度に火花が闇夜に光る。
聡「じゃあやろうか。池沼糸遣い」
巨大な蟲は完全な黒金色の殻で覆われていた。まさに戦闘準備万端。
唯「でも糸さえ視れば」
糸を視るが唯はショックを植えつけられた。糸が余りに多すぎる。
聡「舐めるなよ。じゃあやろうか。こいつは色々凄いんだぜ」
蟲が片脚を振り上げる。その脚からさらに無数の脚が出る。迂闊に近づいたら死ぬ。無数の脚が迫る。その先端は尖っており刺されば穴が出来る。
唯「糸が多いよ!多いならこれで」
唯は蟲の脚を掻い潜って一本の糸を掴む。
唯「えっと…操糸術!」
捻じ曲げて小さい脚をねじ切る。が、すぐに脚は再生された。
聡「ゲルミルは高い栄養素のある人間を食って育ったんだ。一本二本程度なんてすぐに再生するぜ!!」
それから防戦一方だった。攻めようにも攻めれないし、攻撃をかわすだけで精一杯だった。おまけに唯のスタミナはそ底に尽き始めていた。
勝つためには…操る!
聡「そうだ。冥土の土産に一つ教えてやるよ。ミサオだっけな。糸遣いいるだろ。あれはゲルミルの栄養になった」
お母さんが……殺された!?
最終更新:2011年04月20日 22:57