―― 帰り道
梓「そうだ、先輩今週の火曜受験でしたよね」
唯「そだよー」
梓「絶対合格してくださいね!先輩はその気になったら何でもできる人なんですから」
唯「任せなさい!どんと来いです」
梓「じゃあ私はこの辺で」
唯「もう夜遅いんだから気をつけて帰りなよー」
梓「唯先輩こそ気をつけてくださいよ」
唯「失礼な!」
梓「ふふっ、では失礼します」
―― 病院
梓「先生の予言あたりましたよ。私に運命の人が来たみたいなんです」
金田「ほらね?だから言った通りだったでしょう」
梓「この先の予言も当たるんですかね」
金田「この先って僕何か言ったっけ」
梓「前に言ったじゃないですか。その人は生涯を通じて力になってくれるって」
金田「あー、そんな事言ったっけか。ははは、覚えてないや」
梓「もう、先生ったら……」
金田「その人に病気の事相談できたらいいんだけどね」
梓「だめです、絶対にできません」
金田「どうして?」
梓「その人だけには絶対に同情されたくないんです」
――――
唯(やっぱり私、あずにゃんの事が気になってるのかな)
唯(あの日以来ずっとあずにゃんの事が頭の中に焼きついて離れない)
唯(プロポーズされた時何で私断っちゃったんだろう……)
唯(こんな恋愛をして周りの視線であずにゃんを苦しませたくないからって思ってたけど違ったんだ)
唯(ただ単に私自身が怖かっただけ、理由を作って逃げただけ)
唯(サイテーな先輩だよ私。あんな可愛い先輩想いの後輩泣かせるなんて)
唯(自分に正直に、か……そうだよね、うん)
唯(でもとりあえずは受験に合格しなきゃ!)
それから日は流れ先輩達の受験も終わり結果を待つのみとなった。
試験が終わった後先輩達は部室に来てくれて打ち上げに行こうと律先輩が誘ってきた。
まだ合格したかどうかも分からないのに気が早すぎ……
そんなわけで、完全ななりゆきで今カラオケBOXに来ています
―― カラオケ屋の廊下
梓「今日は久しぶりに騒いだなぁ。やっぱ先輩達といると楽しいな」
梓「うん?このお店テラスなんてあるんだ。狭い部屋でエアコン効き過ぎで暑かったからちょっと夜風にでも当たっていこうかな」
梓(誰かいる、って唯先輩だ)
唯「おっ、あずにゃんだ。どしたの?」
梓「トイレに行った帰りですよ。先輩こそどうしたんですトイレに行ったっきり帰ってこないと思ったら」
唯「暖房ききすぎてて暑かったからここで涼んでたんだよ」
梓「なんだ、私と一緒ですね」
―― その頃
律「義理と人情の板挟み だからお前はアホなのだ♪」
澪「なあ、唯の奴帰って来るの遅くないか?」
紬「そうねぇ、梓ちゃんもトイレ行ったきり帰ってこないし」
律「愛で地球が救えると救いきれない馬鹿が言う♪」
澪「なんかヒマだ……律の奴1人で何曲予約入れたんだよ」ぼそ
澪「これならHTTのボーカル私じゃなくて律がやればよかったじゃないか、もう」ぼそぼそ
―― テラス
唯「今日は楽しかったよねー」
梓「そうですね」
唯「そうそう、話は変わるけどさ」
梓「はい?」
唯「前にさ、病気になったお友達の話してくれたよね?」
梓「ええ」
唯「そのお友達って今どうしてるの?」
梓「前向きに生きてますよ」
唯「そっかー、すごいよねその子」
梓「いえ、それよりも今日は誘ってくれてありがとうございました。久々に人生の洗濯ができた気がします」
唯「言い出しっぺはりっちゃんなんだけどね。それよりもまた行こうね、今度は2人でさ」
梓「え、いいんですか」
唯「私、あずにゃんの事大好きだよ。誤解しないでね、好きっていう意味」
梓「もちろんです。私はそんなおめでたい人間じゃありません。ちゃんと分かってますから学校帰りの遊びはよくてデートは駄目、好きってのは部活の後輩としての意味ですよね」
唯「ぶーっ!やっぱり誤解してるよ」
梓「え!?」
唯「こういう意味だよっ」
そう言うと唯先輩は私を引き寄せていきなりキスをしてきた。
梓(え、ちょっ……ゆ、唯先輩!?)
あまりに唐突すぎて何が起きたか分からず頭の中がごちゃごちゃだ。
唯「今度の金曜の祝日、映画にでも行こうよ、ね?」
梓「」ぽかーん
唯「おーい、あずにゃーん」
梓「はっ!?す、すいません、な、なんですか?ぼーっとしてたので」
唯「だーかーらー、金曜映画行こって言ったんだよー」
梓「え、映画ですか。はい、分かりました」
唯「よーし、約束だよ?じゃあそろそろ部屋に戻ろっか、澪ちゃん達待たせちゃってるし」
梓「」ぼー
唯「おーい、もどってこーい」
梓「……はっ」
―― 部屋
梓「駆け抜けていく蒼い時の嵐が頬をたたくよ♪」
梓「ずっと 愛してる♪」
唯「愛してる♪」
律「なあ、この2人に一体何があったんだ?急に息合いすぎだろ。それにさっきまでと違ってご機嫌すぎるし」
澪「さあな」
唯梓「息を吐いて♪」
唯「今選びに行こう未来 ヴァルキュリア♪」
澪(上手くいったんだな。おめでとう梓)
律「なんだよニヤけてさー、澪ちゅわーん」
澪「やかましい!」ゴンッ
律「えろばっ!」
紬(唯ちゃん、これからが大変よ……でもあなたならきっと乗り越えられるわ)
梓「私は風に出会いヴァルキュリア♪」
唯「いつか風を見送るヴァルキュリア♪」
梓「夜明け前に♪」
唯梓「輝かない生命はない♪」
私の初恋はまだ終わりそうにありません。
第二話終わりです
第3話
―― 病院
梓「」にこにこ
金田「何かいいことあった?教えてよ」
梓「そんなもったいないことできません」
金田「あ、そう」
梓「恋人ができました」
金田「平沢さん?」
梓「どうして知ってるんですか?」
金田「ふっふっふ」
―― 翌日
梓「いけない、朝の薬飲み忘れちゃってた。すぐ飲まなきゃね」
休み時間、朝飲む予定だった薬を今日は飲み忘れてたのに気が付いた私は給湯室にあわてて駆け込んだ。
薬袋を流し台の上に置いて備え付けのコップでカプセルを一気に飲み干した直後私を呼ぶ声がした。
クラスメート「中野さんここにいたんだ、探したよ」
梓「どうしたの?」
ク「今日の日直の子がね、急用できて早退しちゃったんだ。それでね、明日中野さん日直でしょ?だから悪いけど次の授業の用意代わりにやってくれないかなって」
梓「えー」
ク「お願い!この通り!」
梓「うーん、しょうがないなぁ。それじゃあ職員室へ行けばいいんだよね」
ク「うん、本当にありがとう。恩に着ます!」
梓「早退じゃ仕方ないもんね。じゃ行ってくる」
この時の私は知る由もなかった。取り返しのつかないミスをしていた事に。
昼休み
純(今日はいつもと趣向を変えて金ちゃんヌードルにしてみました!、お湯お湯ー♪)
ドボドボ
純「よし、あとは2分待つだけ!3分も待ってられないもんね、麺ふにゃふにゃになるし」
純「ん?何この紙袋。誰かの忘れ物かな」
純「病院の薬かぁー誰のだろ……ん?中野梓?梓のか」
純「ちょっと中身はいけーん。失礼しますっと」ごそごそ
純「……!?このカプセルまさか!何で梓がこんな物もってんの!?」
純「多分梓が取りに戻ってくるだろうからこれはここに置いて教室に戻ろう……」すたすた
この数分後
梓「いけない、薬持ってくの忘れてたよ、こんなの誰かに見られたら大変だもんね」
梓「よかった、ちゃんとある。誰にもバレてないよね、よしよし」
梓「純と憂待たせてるから早く教室戻らなきゃ」
教室
梓「相談したいことがあるんだ。もしかしたら気付いてるかもしれないけど……」
純「…!」
憂「なになに?」
梓「実はね、唯先輩とお付き合いする事になったんだ」
憂「それなら昨日お姉ちゃんが嬉しそうに教えてくれたよ。本当におめでとう」
純「ほっ……」ぼそっ
純「昨日何かあったの?梓と憂のお姉ちゃんと」
憂「お姉ちゃん、梓ちゃんとキスしたんだって」
純「うわー、とうとうゴールインですか!」
梓「や、やめてよ純」
純「なるべくしてなった感じだねー」
梓「はいはい」
梓「なんか私、憂から唯先輩取っちゃったようで悪い気がする」
憂「そんな事ないよ。2人共私の大事な人だもん。梓ちゃんとお姉ちゃんが幸せならそれは私にとっても幸せだから」
梓「憂にそう言ってもらえると嬉しいよ、ありがとう」
憂「それで今度の金曜映画行くんだよね?」
梓「うん」
ここで机の上の焼きそばパンを手に取り口に入れる、が、一気にいったせいか喉に詰まらせてむせてしまう。
梓「うぐっ!?げほっ!ごほっ!ごほっ!」
純「あずさあっ!!!」ガタンッ
憂「純ちゃんどうしたの?いきなり大声あげて立ち上がって」
梓「何なの純怖い顔して。ただパンが挟まってむせてただけなのに大袈裟すぎ」
純「う……」
梓「ほら、純のせいでみんな見てるし。恥ずかしいじゃんもう」
純「ぬぅぅ……まー気にしない気にしない!それよりさっきの話だけどさ」
憂「そうそう、金曜の話だったね。これってお姉ちゃんが誘ったんだよね」
梓「うん、でもこれって普通に考えたらデートだよね」
純「そうなんじゃない」
梓「じゃあ私、唯先輩の恋人でいいんだよね」
憂「うん、2人共とってもお似合いだよ」
梓「でも信じられないよ、私恋人の実感全然わかなくて」
純「私も突然すぎて驚いちゃったけど」
梓「全く予想がつかない事が起こると最初は実感わかないものなのかな。いいことも……悪い事も」
純「悪い事って?」
梓「ううん、別に何もないよ」
純「私こう見えても口堅いからどんな事でも相談してよ」
梓「なんか信用できない」
憂「ふふっ」
純「……」
―― 学校の屋上
梓「純、用事って何?」
純「梓、最近病院通ってるよね?」
梓「え?」
純「給湯室で薬の袋みちゃったんだ」
梓「あ、あれね、そ、そう、胃腸薬なんだ」
純「私のおばあちゃんが飲んでた薬と一緒だった。おばあちゃんは本当に胃腸薬だと思ってたけど梓は違うよね」
梓「言っている意味がよく分からないんだけど、純ってほんと変な事いうよね」
純「ふざけないで梓、真面目に答えてよ!!」
梓「……っ!」
純「私の目はごまかせないよ、本当の事話してよ!ねぇ!」
梓「お願い……この話はみんなに黙ってて」
純「……学校通ってて体は大丈夫なの?」
梓「しばらくは薬を飲みながら続けていいって言われてる」
純「手術は?」
梓「もう無理だって。あともって1年くらいらしいんだ」
純「そんな……1年って」
梓「学校には時期見ていうつもりだけど今はまだ話すつもりはないよ」
純「私のおばあちゃんは医者に言われたよりずっと長く生きてたからさ……ねぇ、私に出来る事があったら何でもするから。身体が辛くなったらすぐ言ってよね?」
梓「うん、ありがとう純」
純「それとさ……この事、他の人達は知ってるの?」
梓「知ってるのは純とムギ先輩だけだよ」
純「唯先輩は……まだ知らないんだ」
梓「うん……でも話さなきゃいけないよね?」
純「私が唯先輩だったら話して欲しいと思う」
梓「そうだよね……」
―― 金曜
唯「今日は楽しかったねぇ」
梓「はい、そうですね」
梓(先輩の顔ばっか見て浮かれてて映画の内容なんて全く覚えてない……)
梓(浮かれてもいられない。病気の事言わなきゃな……今日言えるかなぁ)
唯「この後どうしよっか。あずにゃんどっか行きたいとこある?」
梓「うーん」
唯「そうだ!あずにゃんの家行ってもいい?」
梓「へ?まあ今家に誰もいないからいいですけど」
―― 中野家
梓「どうぞ、あがってください」
唯「お邪魔しまーす」
梓「先に私の部屋で待っててください。お茶持っていきますから」
唯「おーけー」
梓の部屋
唯「そいえばあずにゃんいっつもお留守番してるよね」
梓「親は仕事でいつも家を留守にしてますからね。家にいるのは1年通しても数日程度ですよ」
唯「私の家族と同じだねー」
梓「唯先輩には憂がいるじゃないですか」
唯「そうだよね。だから私あずにゃんは本当にすごいと思うよ」
梓「買いかぶりすぎです。だけど先輩は姉なんですからもっとしっかりしてください」
唯「そうだよね。私憂がいないと何もできないからさ。お姉ちゃんなのに妹に頼りっきり」
梓「先輩はやればできる人なんだからその気になれば絶対に何でも出来ますよ。ギターだってそうだったじゃないですか」
唯「あずにゃん私を励ましてくれたんだ、嬉しいなぁー」
梓「なっ!違いますよ!そんなんじゃないです」
唯「あっずにゃーん」ぎゅー
梓「ふにゃああっ」
唯「ありがとねあずにゃん」
梓「え?」
唯「私あずにゃんに出会えて良かったよ。卒業してからもずっとずっと一緒にいようね」
梓「は……はい」
●REC
『2月11日、黙っている私はずるいですか?これぐらい許してもらえますよね?』
梓「話さなきゃないい加減……」
最終更新:2011年04月21日 02:30