―― PM13:15 楽屋前の廊下

律「いやー、最高だったぜ、な?そう思うだろ?」

唯「うん!私すっごく楽しかった!」

紬「そうねー。これなら予選突破間違い無しよ」

純「やっぱ唯先輩のボーカル上手いなー。さっすが憂のお姉ちゃん」

律「あとは結果を待つだけだな。のんびり待とうぜー」

憂「お姉ちゃーん!」

唯「ういー!どうだった?私達の演奏」

憂「最高だったよ。もっと聴いていたい位にね」

さ「あなた達お疲れ様」

紬「先生も今日はお疲れ様でした」

さ「あなた達ほんと上達したわねぇ…元顧問としても鼻が高いわよ」

唯「もっと褒めてよー褒めてよー」

梓「……」

澪「?梓、どうした?」

梓「い、いえ……大丈夫です……気合入れすぎて少し疲れただ……うぐっ!」

憂「梓……ちゃん?」

梓「ゲホッ…ゴフッ!うぅ……がはぁっ!!」

 何が起きたか分からなかった。
 今の状況がスローモーションで展開されているようだった。
 私の目の前で突然あずにゃんが口を押さえて苦しみだしたんだ。

澪「お、おい……梓……」

紬「梓ちゃん!?」

 あずにゃんの突然の異変に場の空気がさっきまでとうって変わって一気に凍りついた。
 私はすぐにあずにゃんに走り寄ろうとした。
 だけど私の手が届く直前、あずにゃんはまるで全ての力を出し尽くしたかのようにその場に倒れてしまった。

唯「あずにゃあああんっ!!!」

 私は悲鳴にも似た大きな声を上げながら走りこみ抱き起こそうとする。
 よく見るとうつ伏せに倒れたあずにゃんの顔の周りの床に赤い水溜まりが出来て広がっていってる。
 水なんかじゃなかった……この瞬間、私は頭の中に最悪のケースを想定した。
 私は血まみれになりながらあずにゃんを抱き起こしその小さな身体を両手で抱きかかえて何度言ったか分からない程名前を呼び続けた
 みんなも悲痛な声で必死にあずにゃんの名前を叫んでいる。
 けど反応はない……

さ「あなた達落ち着きなさい!すぐ救急車呼んでくるからそこで待ってるのよ」

 なんだかんだでさすが先生……緊急事態でも冷静に判断してるよ。

 すぐに救急車はやってきた。
 救急隊の人達があずにゃんをストレッチャーに乗せ救急車に運び入れるのを私達はただ黙って見守っている。
 そんな中、りっちゃんが後ろから私に話しかけてきた。

律「唯、お前は梓についてろ。それに純と憂ちゃんもだ」

唯「え?でもそれじゃ」

律「後は私達が何とかする。結果聞くなんて別に全員じゃなくてもいいだろ」

律「唯、お前梓に約束したんだろ!『何があっても離れない』って。だったらさ、一緒にいてやれよ。純と憂ちゃんもさ……梓の一番の友達なんだからついていてやって欲しい」

純「分かりました。私梓についていきます」

憂「私もいきます。すいません、後はお任せしますみなさん」

唯「りっちゃんありがとう!私いくね!」

律「ああ、行って梓を元気付けてやってこい」


―― 夕方 病院

 私と憂と純ちゃんは手術室前のベンチに座ってただじっと手術が終わるのを待っていた。
 「手術中」の赤ランプが無機質に点灯してるのを私は見つめている。
 もうここに運び込まれてから5時間位経ってるんだよね……その間私も憂も純ちゃんもこのベンチから1歩も離れたりしていない。
 2人は完全に憔悴しきっているようだった。
 私は声をかけてあげれなかった、何を言っても気休めにもならないだろうから……それだけ今が絶望的な状況なんだろうと改めて思い知らされた。

 しばらくして手術室の反対側の廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
 1人じゃない、複数だ。

律「唯!」

唯「りっちゃん!それにみんな来てくれたんだ」

 りっちゃん達は全力で走ってきて私の前で息を切らしながら話しかけてきた。

澪「それで、梓の容態は?」

唯「……心停止で危険な状態なんだって……」

澪「心停止って……嘘だろ……おい……」

憂「梓ちゃん……ぐすっ」

純「あずさぁ……ひっく……ぐすっ」

律「梓なら絶対戻ってくる!だってそうだろ、まだ決勝残ってるんだから梓ならほったらかしたりなんか絶対したりしないだろ!」

唯「という事は私達予選通過できたんだ……」

紬「ええ、決勝は来週の28日の金曜日よ」

律「だからそれまで梓が死ぬわけないんだよ。あいつが一番……楽しみにしてたんだからさ」

唯「そうだよ、そうだよね!みんな、あずにゃんを信じてあげようよ。ね?憂、純ちゃん」

憂「うん」

純「そうですよね……」

 その時だった、手術中のランプが消えた。
 私達全員が手術室に注目する。

 しばらくして中から金田先生が出てきて私達の前に。

律「梓は!梓は無事なんですか?」

金田「大量の吐血をしてかなり危険な状態でしたが一応今の所は命は取り留めました」

 え?「一応」って?一応ってどういう意味!?
 その意味は次の言葉で分からされる事になる。
 それはまさに非情通告という物に相応しいものだった。

金田「しかし胃からの出血はもう止められません。物は食べられませんしまた吐血する可能性も高いのでずっと輸血が必要になります」

唯「退院できる事はもうないんですね」

金田「はい、今日のところは大丈夫ですが今後はいつ急変してもおかしくない状態です」

金田「ご家族とご友人の方には心の準備が必要かと思います」

 とうとう一番聞きたくなかった一言を聞かされちゃった……
 もうすぐ……あずにゃんは私達の前からいなくなってしまう……

律「唯!」

唯「りっちゃん!それにみんな来てくれたんだ」

 りっちゃん達は全力で走ってきて私の前で息を切らしながら話しかけてきた。

澪「それで、梓の容態は?」

唯「……心停止で危険な状態なんだって……」

澪「心停止って……嘘だろ……おい……」

憂「梓ちゃん……ぐすっ」

純「あずさぁ……ひっく……ぐすっ」

律「梓なら絶対戻ってくる!だってそうだろ、まだ決勝残ってるんだから梓ならほったらかしたりなんか絶対したりしないだろ!」

唯「という事は私達予選通過できたんだ……」

紬「ええ、決勝は来週の28日の金曜日よ」

律「だからそれまで梓が死ぬわけないんだよ。あいつが一番……楽しみにしてたんだからさ」

唯「そうだよ、そうだよね!みんな、あずにゃんを信じてあげようよ。ね?憂、純ちゃん」

憂「うん」

純「そうですよね……」

 その時だった、手術中のランプが消えた。
 私達全員が手術室に注目する。

 しばらくして中から金田先生が出てきて私達の前に。

律「梓は!梓は無事なんですか?」

金田「大量の吐血をしてかなり危険な状態でしたが一応今の所は命は取り留めました」

 え?「一応」って?一応ってどういう意味!?
 その意味は次の言葉で分からされる事になる。
 それはまさに非情通告という物に相応しいものだった。

金田「しかし胃からの出血はもう止められません。物は食べられませんしまた吐血する可能性も高いのでずっと輸血が必要になります」

唯「退院できる事はもうないんですね」

金田「はい、今日のところは大丈夫ですが今後はいつ急変してもおかしくない状態です」

金田「ご家族とご友人の方には心の準備が必要かと思います」

 とうとう一番聞きたくなかった一言を聞かされちゃった……
 もうすぐ……あずにゃんは私達の前からいなくなってしまう……


―― 夜 唯の部屋

 私と憂は部屋に着替えやら荷物やらを取りに戻ってきていた。
 今は憂がせっせと私の荷物をまとめてくれている。

憂「お姉ちゃん、用意できたよ」

唯「うん、ありがと憂」

憂「そろそろ行こ?梓ちゃんが待ってるし」

唯「そうだね」

 部屋を出ようとした時、ふと洗面台が目に入る。
 完全に電気が切れた蛍光灯の下に新品の蛍光灯が置かれていた。
 そう、今朝あずにゃんが押入れから出してきて置いておいた蛍光灯だ。
 本当なら今頃あずにゃんがこれを交換してくれてた筈なんだけど……

憂「もう梓ちゃんこの部屋には帰ってこないんだよね……」

 私は憂に返事はしないで新品の蛍光灯を手に取り部屋を見渡す。
 2人で仲良く使い続けてたお揃いの2本の歯ブラシとお箸、夫婦茶碗、もう使う機会は無くなっちゃったんだよね。

唯「どうして……替えてくれるって言ったのに。あずにゃん、帰ってきたら取り替えるって言ってくれたのに……」

 私は震える声でそう言い蛍光灯を強く抱いた。


―― 同時刻 病院の休憩所

 唯先輩と憂が出て行った後、私達は病室のすぐ横にある休憩所で休んでいた。
 休憩所といっても自販機があって椅子が置いてあるだけの仕切りも何もない狭い場所だけど。

 私も含めて全員疲れきった顔でうなだれている。
 澪先輩なんかもう今にも泣き出しそうな顔をして鼻をすすっている。
 この張り詰めた空気が耐えられない、何とかしたいけどどうしたらいいか分からない。
 だけどその空気は突然破られる事になる。

紬「悲しくなんてないの!」

 その場にいた人全員がムギ先輩を見た。
 その顔は台詞とは全く逆の表情だったがとにかく作り物でもいいから笑顔でいようとしている顔にも見えた。

紬「もって1年て言われたのに半年以上も長く生きられたのよ!悲しいわけ……ないじゃない!」

 再び沈黙が訪れる。
 そんな雰囲気の中、澪先輩が呟いた。

澪「……唯がいたからだよな」

律「ああ……きっとそうだよな……唯がずっといてくれたから生きてこれたんだ」


―― 9月19日

 翌日、あずにゃんが目を覚ましたと連絡を受けた私は病室へと向かった。

梓「唯先輩……」

 呼吸器は外されていたけど、誰の目から見ても明らかな程あずにゃんの表情はやつれていた。

梓「あの……予選の方はどうなったんですか?」

唯「残ったよ。決勝は来週の金曜だって」

梓「残れたんですか……よかったぁ…」

 ここで不意に病室のドアが開いた。

金田「中野さん、気分はどう?」

梓「はい、もう大丈夫です」

金田「そうか、それは良かったよ」

梓「それで先生、私はいつ退院できるんですか?金曜までには退院したいんです」

金田「……残念だけど無理かな」

梓「どうしてですか?」

金田「君の身体が一番よく分かってるんじゃないかな?」


 先生が病室を去って少しした後、あずにゃんのお母さんがやってきた。
 昨日私が連絡して仕事先から飛んできたようだった。

梓「お母さん!?どうしてここに」

梓母「あんたが倒れて意識不明になったって唯ちゃんから連絡もらって飛んできたのよ」

梓「で、でも仕事が……」

梓母「仕事なんかどうでもいいでしょ!娘がこんな大変な時に……」

梓「ありがとうお母さん」

 お母さんはあずにゃんのやつれ変わり果てた姿を見て涙を流していた。
 私も釣られそうになったけど我慢した。
 だけどもう泣かない、あずにゃんを笑顔で送り出そうと決めたから。

梓母「唯ちゃん、梓の事今まで本当にありがとう。唯ちゃんにはお礼を言っても言い切れないわ」

唯「いえ、私は別にそこまで大した事してませんよ」 

 コンコン、とここで病室のドアをノックする音がした。
 どうぞーと返事をするとりっちゃん達がきてくれた。
 だけどみんな表情が重い、あずにゃんの姿を見て本能的にもう残された時間が少ないのを察したのかも。

律「よっ梓、調子はどーだ?って、唯ももう来てたのか」

唯「うん」

紬「その方は?」

梓「紹介しますね。私の母です」

梓「お母さんにも紹介するね。この人達は私がお世話になってる軽音部の先輩方と同級生の友達」

 お母さんはみんなに1人づつお辞儀してまわってる。
 みんなもそれぞれお辞儀して返す。
 そういえばみんな初対面だったっけ。


梓「今日は皆さんに言っておきたい事があります」

憂「なに?梓ちゃん」

梓「今の内に皆さんにお礼を言っておきたいんです」

澪「お礼って何だよ梓、言ってる意味が……」

梓「みなさん、今まで本当に私の我侭を聞いてもらってありがとうございました。正直、こんなに長く皆さんと音楽続けられるとは思っていませんでした。今は退院のメドがたたなくなりました」

律「退院できないって……嘘だろ……」

梓「嘘ではありません。もしかしたらみなさんとまた演奏するのも決勝の舞台に立つのももう無理かもしれません」

 みんな俯いてる……かける言葉もないように見える。

梓「唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩、憂、純、みなさんと出会えたお陰でこの3年半は私の中でとても有意義で忘れられない思い出になりました。本当に……ありがとうございました」

律「くそっ……何でお前そんなに落ち着いていられるんだよ!それに何で私達より年下の梓が死ななきゃいけないんだよ!出来るなら代わってやりたい気分だ」

梓「律先輩、そんな事言っちゃダメです!」

律「え?」

梓「もし律先輩が私に代わってこんな身体になったら今度は先輩を愛してくれている人が悲しむ事になるんですよ。代わってやりたいだなんて気持ちは嬉しいですけど言わないでください」

梓「決勝、見にいけそうにないですけど先輩方ならきっと出来ると信じてますから」

律「分かった……決勝は私達で何とかしてみせる。梓にいい報告が出来るようにしてくるからさ……」

梓「はい、先輩方ならきっと上手くいきますよ」

唯「それじゃー明日からまた部室で練習だね!」

律「いや、唯、お前はダメだ」

唯「どうして!?どうしてなのさりっちゃん」

律「お前は梓の傍にいてやれ。後は私達で何とかするからさ」

紬「そうね……唯ちゃんは梓ちゃんに付いていてあげて」

唯「でもそれじゃギターがいないよ!」

澪「そんなの何とかなるさ。コンクールはこれから先何度も機会はあるけど梓といられる時間は今しかないんだからさ」

律「そういう事だ。これは部長命令だからな」

唯「うん……」

律「じゃあ私達は打ち合わせあるからそろそろ帰るな」


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最終更新:2011年04月21日 02:45