PM14:45 コンクール会場
澪「がんばれふでペン、ここまできたからかなり本気よ~♪」
パチパチパチ
澪(あと1曲か……何とかここまで来れたけど…)
律(澪の奴、すげぇ気合入ってるな……今迄あんだけ恥ずかしがって嫌がってたボーカルなのに……)
澪「それでは次が最後の曲になります。聴いてください!ふわふわ時間!」
律「1、2!」
澪「キミを見てるといつもハート……!?」
ガチャッ
澪(唯!?それに梓も!)
憂(お姉ちゃん!?梓ちゃんまで!)
紬(純ちゃん、あなたやっぱり思っていた通りの子ね)
私達が会場に入った時には3曲目のふわふわが始まっていた。
唯先輩に促され空いている席に隣同士並んで座る。
ふとステージ上に立つ澪先輩と目が合いアイコンタクトを送られ私はそれに同じように返す。
澪「あぁカミサマどうして好きになるほどDream Night切ないの♪」
そういえばこうやって客観的に先輩方の演奏聞くのって1年の時の新歓ライブ以来だったかな…あれから3年か、懐かしいな……
澪「もしすんなり話せればその後は…どうにかなるよね♪」
澪「ふわふわターイム」
紬「ふわふわターイム」
あの時入部を決めたのはこの演奏を聴いたからだった、そして今でもこの人達の演奏は衰えはしないであの頃のまま。
私は静かに聴き入っていた。
PM15:30 楽屋
律「結局2位か……」
澪「でもやれるだけやれたしこれで良かったんじゃないか?」
紬「そうね、私はこれで満足よ」
憂「はい、今日は皆さんと演奏できて楽しかったです!」
ガチャッ
純「どーも……遅刻しました」
律「遅いぞー、ってもう終わった後だけどな」
純「面目ないです……でも作戦は上手くいきましたよ」
律「だな、今回は結果Okて事にしとくか」
憂「それで、お姉ちゃんと梓ちゃんは今どこに?」
純「2人共まだ客席だよ。さっきまで私も舞台袖にいたから見てたし」
紬「余韻に浸ってるのかもね2人共」
律「じゃあ報告でもしに行こうか」
澪「ちょっと待て」
律「なんだー?何かあるのか澪」
澪「先週私が提案した事覚えてるか?」
紬「ええ」
澪「どうせならさ……やってみないか?」
憂「私はいいですよ」
律「私もOKだぜ」
紬「じゃあちょっと待ってね……」TEL
紬「もしもし斉藤?ええ、今私達がいるホール、すぐに貸し切るように連絡して!ええ、今すぐよ!」
紬「これで大丈夫。さ、行きましょ」
律「よっしゃ行くぜ!これが本当に最後の私達のライブだ!」
憂「はいっ!」
澪「ああ!」
紬「ええ!」
同時刻・客席
コンクールも終わり誰も居なくなった客席で私と唯先輩は余韻に浸っていた。
梓「唯先輩」
唯「どったの?」
梓「ふと思ったんです」
唯「何を?」
梓「私は余命1年と知った時それまでの17年の人生を後悔しました。だから残りの人生は悔いのないように生きようと思いました。そして生きました。」
唯「うん」
梓「後悔したはずの17年間が今ではとてもいとおしく感じます。褒められた人生ではありませんでしたけどとてもいとおしいです」
唯「うん」
梓「たった18年の短い生涯でしたけど80年の生涯より中身の濃い生涯だったと今では思ってます」
唯「うん……間違いないよ、私が保証するよ」
唯先輩の目はこの時涙で溢れていた。
泣かないって決めたんじゃなかったんですか?全くこの人は……
梓「もしあの時軽音部に入らなかったらどうなってたんだろうって考えたんです。でも全く考え付かなかったんです」
唯「そりゃそうだよ。私もあずにゃんと出会わなかった人生なんて思い浮かばないもん」
梓「そうですよね。病気になってしまったのは運命ですけど唯先輩と出会えた事もまた運命かな……って私も思います」
唯「運命なんて私は信じたくなかったけど……これだけは私も運命だと思うよ」
唯「で、あずにゃん、これからどうしよっか」
梓「次、ですか?」
唯「次は、打ち上げのパーティーとかかな?」
梓「いいですね、それ」
唯「パーティーの料理、どうしよっか?大抵はケーキとかチキンだけど……他に何がいいか考えようよー」
梓「唯先輩は相変わらず食いしん坊ですね」
唯「へへー」
梓「でもそうですね……色々やりたくてすぐに思いつきません。考えておきますよ」
唯「じゃあそろそろ病院戻ろっか」
梓「はい」
そう言って私達が席を立とうとした時、突然ステージ上に軽音部の先輩方と憂が現れた。
それぞれ楽器を持っていてライブをするポジションにつく。
澪「今日は梓に聞いて欲しい曲があるんだ。本当は私達の卒業式の日に歌うつもりだったけど完成が間に合わなくて演奏できなかった曲だ」
澪「遅れてしまったけど……これが梓に届ける最後のチャンスだと思ったから聴いて欲しい!」
澪「行くぞ、律、ムギ、憂ちゃん!」
律「いいぜ!」
憂「いつでも行けます!」
紬「やりましょう!」
律「1、2、3!」
4人の楽器が音を奏で始める。
観客はたった2人だけの放課後ティータイムのファイナルライブが始まった。
~♪
憂「ねっ、思い出のカケラに名前を付けて保存するなら宝物がぴったりだね♪」
唯「この曲……そっか……」
梓「知ってたん……ですか……?この……曲」
唯「うん、私達が卒業する時にあずにゃんに贈る為にみんなで作った曲なんだ」
澪「そっ、心の容量がいっぱいになるくらいに過ごしたねトキメキ色の毎日♪」
梓「そうだった……です…か。サプライズ…すぎます…よ」
よく見ると舞台袖で見守っている純の顔も涙でボロボロになってるし。
私にもステージ上の先輩方の気持ちが伝わってきて胸がいっぱいになる。
唯「私のパート、憂に取られちゃったな……ま、いっか」
梓「こんなと…こで……サボって…るから…ですよ…ふふっ」
唯「だよね、あずにゃん先輩やっぱり厳しいっす」
唯先輩は普段どおりに接していてくれてる。
私も普段通りに接しているけど、段々と視界がボヤけて意識が遠のいていく。
律「なじんだ制服と上履き ホワイトボードの落書き♪」
紬「明日の入り口に 置いてかなくちゃいけないのかな♪」
もう視界がほとんどなくてどこに誰がいるのかも分からないよ。
でもしっかりと歌声は私の耳に届いてきている。
憂律澪紬「でもね 会えたよ 素敵な天使に♪」
視界が効かなくなった代わりに今度は私の脳裏に今迄の記憶が走馬灯のように蘇ってきていた。
入部していきなり猫耳をつけさせられて「あずにゃん」て変なあだ名をつけられたのが始まりだっけ……
初めて行った夏合宿じゃ夜中唯先輩と一緒にギター練習して嬉しそうに抱きつかれたっけな……思えばあの時知ったんだっけ、実は唯先輩は普段サボってばっかだけど裏では誰よりも練習してる人なんだって。
純からあずにゃん2号預かって毛玉吐かれて困ってた時も唯先輩はすぐに駆けつけてくれたっけな……
修学旅行のお土産でもらった「ぶ」のキーホルダー、今でも大事に取っておいてありますよ……
演芸大会でゆいあず結成……あれが私達の最初の共同作業でしたね。
あの河原で勉強の合間を縫って練習したの楽しかったですよ…それにしてもあの河原、私がプロポーズしたのもあそこだったし……深い縁がある場所なのかな。
最後の学祭ライブ、先輩方みんな部室で泣いてましたよね?あの時は分かりませんでしたけど3年生になってライブに出た時ようやく分かりましたよ、涙の理由。
卒業してからも唯先輩との思い出ばっかだ……初めてしたキス、一緒に撮った2人きりの写真、短かったけど思い出ばかり詰まった共同生活の日々、2人きりで入った温泉と夜中に泣きじゃくった私を優しく抱きとめてくれた先輩。
でも一番思い出深かったのは初めて2人で出かけたあの焼き鳥屋。
2人で楽しく食べたっけな……確かあの時唯先輩は私が頼んだのをマネして頼んだんだよね。
今でも先輩の楽しそうな顔を見ながら食べたあの味は覚えてますよ。
何食べたんだっけ……そっか、あれ私がいつも頼んでたやつだったか…あれは確か……
梓「とり……かわ……」
唯「ほえ?鶏皮って、パーティーで焼き鳥かー、あずにゃんにしては意外だけどいいんじゃないかな。ほら、昔2人でよく行ったお店に頼んでみてはどうなのかな?」
唯「あ、それより憂やりっちゃんにも手伝ってもらってみんなでお料理しあうってどうだろ?それでいろんな種類の料理をカラフルに並べてみよっか。考えただけで楽しくなるよねー?そうしよっか、ね?」
梓「」
唯「あず……にゃん?」
梓「」
私が横を見るとそこには眠っているようなあずにゃんの顔があった。
安らかに眠っているその顔を見て全てを悟り、もう動く事はないあずにゃんの手をそっと握る。
その瞬間、今迄堪えていた涙が静かに流れ落ちてくる。
そして椅子にもたれかかったあずにゃんの頭が私の方に倒れかけてきたので私はその頭に自分の頭をそっと付けてしばらく寄り添っていた。
ステージの上での演奏の音ももう何も聴こえなかった…長い長い無音、私達2人だけの静寂な時間が流れていた。
唯「ありがとう……あずにゃん……」
唯「そして…また会おうね……」
エピローグ
―― あれから5年後・桜ヶ丘高校
唯「こんにちはー」
さ「あらあなた達、久しぶりね」
私達は数年ぶりに母校の門をくぐった。
相変わらずさわちゃんはここで教師をやっているようだった。
ちなみに未だに彼氏は出来てないらしい、もう三十路なのに……て、こんなの声に出したら何されるか分からないから言わないけどね。
さ「あなた達仕事の方忙しいんでしょ?わざわざこんなとこまで来てて大丈夫なの?」
律「今日は完全オフの日だからな、最近まで全国廻ってて昨日やっとこっち帰ってこれたから顔出しとこうぜって話になってさ」
澪「明日からは海外公演だけどな」
さ「売れっ子も大変ねぇ……」
紬「忙しいですけどいつもみんなと一緒にいれるからきついとか思ってませんよ」
唯「それでさわちゃん、今日は音楽室空いてる?」
さ「今日はみんな下校した後だから誰もいないわよ。でもあなた達もあまり長居しない方がいいわよ。生徒に見つかったらパニックになるんだから」
律「わかってるって、それじゃ行こうぜー」
―― 部室
澪「……私達がいた頃とあんまり変わってないな」
律「だよな……テーブルもティーセットもそのまんまだ」
紬「まだティータイム続いてるのねぇ」
ふとティーセットの置かれている方を見ると棚に置いてあるカップを手に取って眺めている純ちゃんの姿があった。
唯「どしたの?純ちゃん」
純「このカップ、まだここにあったんですね……」
唯「これって……そっか、さわちゃん取って置いてくれてたんだ…懐かしいなぁ」
律「唯、純、どしたー?」
唯「ううん、何でもないよりっちゃん」
純ちゃんは手に持ったピンク色の猫柄のカップを落とさないようにそっと元に戻した。
澪「そろそろ帰ろうか、あんまり長居すると学校にも迷惑になるし」
紬「そうね」
帰り道
律「今夜は凱旋記念にパーッと飲みにでも行こうぜー!」
紬「さんせー!」
純「今夜は朝まで付き合いますよ!」
澪「ハメ外し過ぎて二日酔いなんてやめろよ。でもたまにはいいか……最近忙しすぎて飲みになんて行けなかったし」
律「唯はどうすんだ?」
唯「あ……私ちょっと寄るとこあるから遅れていくね。必ず後でいくから」
律「いいぜー。じゃあこっち向かう時にメールでもくれよ」
唯「うん、それじゃ私こっちだから、また後でね!」
私は夕暮れの川沿いの道を歩いている。
そしてとある川岸で足を止めてその場に座り背負っていたギターケースを下ろす。
私の他に人の気配はなくただ川のせせらぐ音だけが聞こえてくる。
私はギターケースからギターを取り出す、中に入っていたのは赤いギター……そう、大好きだったあの子が大事にしていたむったんだ。
そして手に持った隕石で出来たピック、これはあの子とおそろで分け合った大事な物、今でもライブではこれを使っている。
そして私は1人弾き始め語り掛ける。
唯「あずにゃん、今日は報告に来たんだ。私達ね、メジャーデビューしたんだよ?あずにゃんの夢だったプロになれたんだよ」
そう、ここはかつてあずにゃんが私にプロポーズしてくれた私達2人にとっては思い出の場所。
ここに来ればあずにゃんが「唯先輩!」とか言いながらひょっこり出てくるような……そんな気がする場所。
唯「ずっと忙しくて報告遅れてごめんね。そうそう、ツアー最後のさいたまでのライブ、あずにゃんのむったんとおそろのピックでステージに立ったんだよ。」
唯「武道館じゃないけどね……でもあずにゃんと一緒にスポットライトを浴びたかったから……昔からの私達の目標だったんだからあずにゃんも一緒じゃないと駄目なんだよ」
唯「……私あずにゃんの事未だに忘れられないけど……だけど私はしっかりやってるし元気にやってるから!」
唯「りっちゃん達待たせちゃってるから私そろそろ行くね。バイバイ、あずにゃん、また来るね」
私はギターを背負い思い出の河原を後にする。
ふと背後に気配を感じる……懐かしいこの感じ……やっぱり約束通り来てくれたんだね。
――――
唯先輩、やっぱり来てくれたんですね……
先輩が元気でやっているように私も天国で元気にやっています。
私も忘れられませんよ、唯先輩と過ごした3年半の日々と最後の1年を。
また寂しくなったらいつでも来てください、私はいつでもここにいます。
私は生きた。あなたがいてくれたかけがえのない人生を。世界で1つだけの私の人生を……
Fin
最終更新:2011年04月21日 02:48