「その、つまり、純ちゃんまで迷子になったらダメだから」
「……」
あきれ顔。ちょっと恥ずかしい。
「純ちゃんはやさしいね」
「先輩もいい人ですよ」
「ええ?」
「憂やあずさがよく話してますよ、唯先輩のこと」
「照れるなあ…どんなはなし?」
「えっと、それは、本人には言えません」
「ええぇ」
「あはは」
「憂から、純ちゃんの話もよく聞くよ」
「あんま聞きたくないけど……どんなこと言ってます?」
「おもしろい子」
「えー」
「ゴールデンチョコパンで野球してたって本当?」
「それはウソです」
「ウソなの?」
「ウソです」
「ウソかあ」
「なんでちょこっと落ち込んでるんですか」
「ねえ、純ちゃん」
「はい」
「純ちゃんは、おかし作るのがうまいんだね」
「へ?なんの話ですか?」
なんの話だろ。
頭がぐるぐるして
私なに考えてるのかな。
純ちゃんのことこんなに気になる。
もっとよく知りたい。
仲良くなりたい。
お話したい。
さわりたい。
なんでかな。
純ちゃんがいてくれてうれしいのに、
こんなに胸がいたむの。
「ねえ、純ちゃん。あのね」
「はい」
「あの……あの」
『迷子のお知らせです
ういのばかあ……。
――――
引越しが終わって、大学生になった。
みんなはしゃいでる。
私もおとなな格好で、すこしだけ
大人の気分。
おうちに帰ったら、ひとりの部屋です。
好きなだけごろごろしてると、妹の電話。
「お姉ちゃん、入学式どうだった?」
「……」
「こないだのこと、まだ怒ってる?」
心配そうにいうのでかわいそうになって
怒ってないよ、と言いました。
「よかった。ほんとにごめんね、お姉ちゃん」
「いいよお」
「あのね、お姉ちゃん。8日の午後って暇?」
「うん」
「その日、うちで純ちゃんのお誕生パーティーやるんだけど、お姉ちゃんも」
「行きます」
「ふふ」
「ぜったいぜったい行くっ!」
「お姉ちゃん。純ちゃんのこと好きでしょ?」
私、純ちゃんのこと好きなのかな。
「そうだよ、きっと」
そうなのかな。
「ねえ、うい」
「なあに、お姉ちゃん」
「ケーキの作り方教えてください」
「おやすいごようだよ」
うい大好き。
ケーキをつくるのはむずかしい。
早くその日がくればいいのに。
毎日純ちゃんの誕生日だったらいいな。
そしたら毎日純ちゃんにお祝いできる。
私はおふとんの中で
ふわふわのもこもこの夢を見た。
4月8日。いい日。
早く来ないかな、純ちゃん。
まだかな、来ないかな。
来た。
「いらっしゃい!」
扉をあけると、純ちゃんではなくてあずにゃんが
びっくりした顔で立っていました。
「あ、迷子の唯先輩」
あずにゃん、ひどい。
「う、ういー」
「わたし言ってないよ!」
「純から聞きましたよ。デパートで迷子になってたって」
「純ちゃん……」
ひどいのです。
ここまでは記憶がある。
そして、純ちゃんが目の前にいる。
「憂と梓おそいですねー」
とつぜん。
「うん」
ええっと。
二人は足りないものを買いに出かけて、私がお留守番。
してる時に純ちゃんが来ちゃったんだ。
たしか。
私と純ちゃんしかいない。
びっくり。
どうしよう。
ねえ、純ちゃん。
「はい」
なんで漫画読んでるの。
純ちゃん、それおもしろい?
「はい」
純ちゃん。
「はい」
……う、ぐす。
「!?」
「うええぇ……」
「なんで泣くんですか!?」
「わたしと二人じゃつまんないよね……」
「いや、そういうんじゃないですって!」
「うう、でもぉ」
「もう読むのやめます!はい、やめた!」
「ごめん……」
「こっちこそごめんなさい」
はずかしい。
子供みたいに泣いてしまいました。
大学生なのに。
「……」
「憂とあずさ、おそいですね」
「うん」
「そうだ、先にごちそう食べちゃいましょうか!」
「うん」
「……冗談です」
「ううん、食べよう!純ちゃんのための料理だもん」
「そんないくらなんでも」
「おいしいよー、きっと、このケーキ」
「う……たしかにおいしそう」
「ね、一口だけなら大丈夫だよ」
「そう、ですね」
しめしめ。
純ちゃんは、ケーキを一口
食べました。
「……どう?」
「甘くて、すっごくおいしいです」
「! よかったー!」
「ありがとうございます」
「ん?」
「このケーキ、唯先輩が作ってくれたんですよね」
「!?」
ひょっとしてエスパー!?
「う、憂から聞いたの?」
「先輩の顔に書いてあります」
「え、え、え?」
「先輩って、なんか子犬みたいですね」
「えええ!?」
「表情がころころ変わって」
へんなの。
犬みたいなのは純ちゃんだと思ってたのに。
へんだな。
純ちゃんの頭からお耳が、
おしりからふわふわのしっぽが
見えるみたいなんだけど
ねえ、純ちゃん。
「はい」
これ、あげます。
「わあ……開けていいですか」
純ちゃん、その、それ、キャンディーです。
誕生日プレゼントと、ホワイトデーのお返し含めて。
あのね、憂が言ってたんだけど、
ホワイトデーのお返しって意味があるんだって、
クッキーなら「お友達でいよう」とか
マシュマロは「ごめんなさい」とか……
その、キャンディーは「お付き合いしましょう」って意味で
あ。あずにゃんにもお返しでアメあげちゃったんだけど、
でもそれはそうゆう意味じゃなくて、
つまり、その。純ちゃん、
純ちゃんにキャンディーあげたくて、あの。
純ちゃん
いまわたしの頭ぐるぐるしてるよ。
おなかがどきどきしてつらいよ。
「ねえ、純ちゃん。だきついても、いい?」
どきどきしてて、きみにふれたいよ。
神さま
もし純ちゃんがうなづいてくれたら
もし純ちゃんがにっこり笑ってくれたら
もし純ちゃんがわたしのこと少しでも好きでいてくれたら
うれしいのです。
「純ちゃん、誕生日おめでとう」
それから、純ちゃんは―
end.
最終更新:2011年04月24日 01:47