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梓「う、うわ~ん!!」

唯「あ、あずにゃん!?」

梓「脱退しちゃってごめんなさい!! ジャンキーになっちゃってごめんなさい!!
  ひどいこと言ってごめんなさい!! でも私……ぐすっ……本当はHTTに戻りたく
  て……」

唯「わかってる。わかってるよ、素直になれなかったんだよね?」

梓「うえっ……本当はもう一度……唯先輩達と……ひっく……演奏がしたくて……
  でも最後の方はそれができなくて……ぐすっ……気づいたらドラッグにハマっちゃって
  て……」

唯「うんうん。わかってるよ、だからもう一度やり直そう? ね?」

梓「うわーーーーん!!」

かくして梓は唯の腕の中で、己の再起を涙とともに誓ったのであった。

憂「梓ちゃん……よかったね。でもお姉ちゃんにあんなにぎゅーっと抱きしめられちゃって、ちょっと妬けちゃうなぁ」

その後、梓はドラッグ中毒の治療のため律と同様に更生施設に入所。
身体中の骨がきしみ、穴という穴から冷や汗が吹き出すようなつらい禁断症状に襲われ、
苦しむこともあったが、唯や憂の励ましによってなんとかそれを乗り越えた。



ドラッグの静脈注射の乱用で腐りかけた腕は寸でのところで一命を取り留め、
いずれはもう一度ギターを弾けるという医者のお墨付きも出た。

唯「ケロイド状の跡は残っちゃったけどね……。
  澪ちゃんがリストカットした時みたいにムギちゃんにいい外科医師を紹介してもらっ
  て……」

梓「いいんですこれで。この腕の傷跡を見る度、過去の愚かな自分を反省して、戒めることが出来ますから」

抜け落ちた歯やスニッフィングの連続で溶けかけた鼻骨の治療は簡単には行かなかった。
歯に関しては、腰の骨の一部を切除し義歯に充て、鼻にはプレートが入った。

梓「サイボーグにでもになった気分ですね」

唯「でもあずにゃんは可愛いままだよ?」

梓「(……この人は相変わらずだな)」

ドラッグどころか煙草とも手を切り、一度は売り払ったムスタングを買い戻すと、梓はまた一日中部屋にこもり切る生活に戻った。
もっともこれはドラッグをキメるためでなく、ギターを弾きまくるためなのだが。

梓「ムギ先輩や澪先輩が戻ってくるまでに、カッコイイリフやソロをいっぱい考えておかないと」

こうして、『消えた天才美少女ギタリスト』のはずだった梓は、
今一度表舞台へと立つため、見えないところでのバタ足を始めたのであった。  



③ムギの場合

アナウンサー『幼女虐待の容疑で起訴されている音楽グループ「放課後ティータイム」の琴吹紬容疑者が本日、初公判のため○○地裁へと出廷しました。
        裁判所周辺には多くの報道陣と琴吹容疑者を糾弾する被害者団体、また無実を信じるファンの群衆が押し寄せ……』

屈強な黒服のSPに囲まれ、目深に被った帽子と大きなサングラスで報道陣のフラッシュの嵐から身を守り、
琴吹家御用達のリムジンから降りてくる紬の姿を、唯はテレビの画面の向こうに見守っていた。
すると画面は変わり、抗議者団体の代表を務める某有名タレントの顔が映った。

ア○ネス・チャン『コトブキツムギはコドモに手を出すなんてサイアクよ。
        ワタシ、あの女のこと、ずっとアヤシイ思ってたヨ。あの太いマユゲはヘンタイのアカシネ。ワタシ、ダンコ戦うヨ』

唯「酷い……。ムギちゃんはそんな人じゃないのに!」

アナ『……と、琴吹容疑者への糾弾の声は日に日に高まっております。
  また、裁判では琴吹容疑者が起訴事実を認めるか否か、また被害少女の証言にどの程度の信憑性があるのかが焦点となると見られ……』

居た堪れなくなった唯はテレビを消し、大きく一つ溜息をついた。

唯「ムギちゃん心配だな……。裁判だなんて」

裁判の準備に忙しい紬とは会うことはおろか、連絡すらつかず、唯にとってはやきもきするしかない日々が続いていた。
というのも紬はHTTのメンバーである以前に日本有数の名家である琴吹家の末裔であり、
そのスキャンダルとあれば影響が及ぶのはバンドだけではないからだ。


唯「でもムギちゃんの場合はへんな濡れ衣を着せられただけだから……裁判が落ち着いたらすぐにHTTに戻ってこれるよね」

紬が抱える問題は律や梓や澪のそれに比べれば……と楽観していたフシのあった唯であったが、

さわ子「果たしてそう簡単にいくかしらね?」

唯「さわちゃん先生!? いつの間に!?」

さわ子「細けえことはいいのよ。久しぶりね、唯ちゃん」

さわ子は、唯達が桜高を卒業し、本格的にメジャーシーンで活躍し始めた後も、
バンドへのステージ衣装の提供等の裏方として放課後ティータイムに関わり続けていた。
勿論、教師としての仕事は続けていて、今ではHTTの母校として未来のロックスターを志す少女達の集まる軽音部の顧問として、
あのHTTのメンバー達にロックの何たるかを授けた名伯楽として、生徒達の信頼を集めている。

唯「久しぶりです……」

さわ子「相変わらず可愛いわねぇ~。まだJKっていっても通るんじゃないの?」

唯「………」

とはいっても昔からの色キチガイっぷりは相変わらずで、HTTヘの衣装提供の際も幾度となく澪を恥辱の絶壁に立たせてみたり、
現在の桜高軽音部でもよりどりみどりの美少女JK達をとっかえひっかえで着せ替え人形にしてご満悦らしいが。

唯「それで……『そう簡単にいかない』っていうのは……」

さわ子「他でもない。ムギちゃんのことよ」

話を戻した唯に対し、さわ子は過去殆どみせたことのない(寧ろ一度も?)くらい真剣な面持ちでそう言った。


さわ子「今回の訴訟騒ぎには、ただのスキャンダルで済まない、ムギちゃんの深い心の闇が絡んでいるってこと」

唯「こころの……やみ?」

さわ子「そう。マスコミが言ってたでしょ? 『琴吹紬はもとより同性愛者だった』って」

唯「そ、そんなの嘘に決まってる!」

さわ子「気付いてないのは唯ちゃんだけだったのかしらね。あの子、高校時代からそういう素振りを結構見せてたと思うけど……」

さわ子は遠い目をして、話を続けた。

さわ子「もっとも桜高は女子校だったし、周りにオトコがいない状況となればオンナノコ同士でイチャイチャしたり、それを眺めてほっこりするのも親愛の情の範囲内だと思ってたけど……。 ムギちゃん、卒業してデビューしてからもちっとも浮いた話がなかったでしょ?
芸能界なんてそういうことは腐るほどあるのに」

唯「あっ……」

唯も確かに、と思いだす。
それこそデビューしてからの紬は潔癖症なくらいに異性との交流を避け、スタッフであろうと男性とあれば目をあわせようともしなかったではないか。


さわ子「デビューしてからきっとオトコの怖さでも知って、潜在的な百合体質が悪化してしまったのかもしれないわね」

唯「でも! それと今回の事件に何の関係が……!
  それに悩んでいたのなら私達に相談してくれれば……!」

さわ子「唯ちゃん、人と違う自分の性的な嗜好を認めて、更にそれを友達に明かすなんて、どれだけ勇気がいることかわかる?」

唯「えっ……?」

さわ子「それこそそのせいで友達が自分から離れていってしまうかもしれないなんて考えたら、ね。 きっとムギちゃんの場合、その不安から逃れるための対象が、性に対する偏見どころか知識すら持ち合わせないちっちゃい女の子だったのかもね」

唯「そんな……! それじゃまるでムギちゃんが本当に性犯罪を犯したみたいな……」

さわ子「だから真実は本人に確認するしかないというわけ。
    私もお供するわ。唯ちゃん、一緒にムギちゃんのところに行ってみましょ?」

唯「でも……今のムギちゃんは裁判で忙しくて連絡も取れない……」

さわ子「でも居場所はわかってるんでしょ? だったら簡単♪」

戸惑う唯の手をとると、さわ子は満面の笑みを浮かべてそう言った。


唯「それにしてもムギちゃんちのSPさんをかたっぱしからギターで殴り倒すなんて……
  さわちゃん先生、ちょっとアナーキーすぎるよ?」

さわ子「ギターっていうのは弾くだけが用途じゃないのよ?
    私がメタルやってた頃は、ライヴ中に興奮した客がステージに上がってきて殴り合いの乱闘なんて日常茶飯事だったわ」

唯「(目が、こ……怖すぎる……)」

さわ子「キース・リチャーズも言ってたけど、人を殴るならやっぱりフェンダーがいいのよね~。 あの曲線的なボディがちょうどアタマの形にぴったりで……」

唯「それより早くムギちゃんのところにいこ?」

さわ子と唯は、厳重な警備に守られる琴吹家の屋敷――所謂タクアンランド――への侵入に成功し、広い屋敷内からひたすら紬の居場所を探した。

唯「いた! ムギちゃん!」

紬「!? ゆ、唯ちゃん……!?」

紬は自室にこもり、ベッドの上で膝を抱えていた。(勿論部屋へは無断侵入だった)

唯「………」

紬「………」

さわ子「………」


互いに気まずいのか無言の唯と紬。そしてそんな教え子二人をさわ子は静かに見つめる。

唯「裁判……大変だね」

紬「……ごめんなさい。そのせいで放課後ティータイムの活動にも参加できなくて」

唯「ううん。いいんだよ? 私はムギちゃんのことを信じてるから」

紬「!!」

唯「?」

唯の言葉に紬の肩が大きく跳ねた。

紬「……ごめんなさい」

唯「ムギちゃん……どうして謝るの? ムギちゃんは何も悪いことなんかしてないのに……」

紬「私は……変態なんです」

唯「えっ」

紬「女の子しか愛せない……異常な性癖を持った変態なんです」


紬「高校の時は、唯ちゃんが梓ちゃんと仲良くしてる所や、澪ちゃんと律ちゃんが話してるところを眺めているだけでよかった」

紬「でも最近になって……それだけじゃ我慢できなくなってきたの」

紬「澪ちゃんの黒髪に顔をうずめたくて、梓ちゃんの小さな身体を触りたくて、
  律ちゃんのデコを舐めまわしたくて、唯ちゃんに至ってはもう率直にぶっこみたくて仕方なかった……」

唯「そ、そんな……」

紬「そんな欲求を誤魔化すため、私は何もわからない小さな女の子に……ううっ」

唯「うそ……でしょ……?」

紬「唯ちゃんもこれでわかったでしょ?
  私はおぞましい変態……そしてそんな人間は放課後ティータイムにはもういてはいけない
  ――」

唯「な、なにを……」

紬「どちらにせよ、この長引く裁判沙汰でこれ以上唯ちゃん達に迷惑はかけられない……。だったらいっそのこと私のことはグループから解k――」

唯「ムギちゃんのバカ!!」

紬「グエッ」

さわ子「(……何もグーで殴ることはないんじゃないかしら……って、私が言えたことじゃないか)」

唯の熱い拳に思わずベッドに倒れ込む紬。
それを見た唯は追い打ちをかけるように倒れ込んだ紬に覆い被さり……



紬「――――!」

さわ子「ちょっと唯ちゃん! 私が言うのもなんだけど暴力はダメよ……って」

あろうことかそのまま紬の唇を奪ったのだ。
そらもう、ぶちゅーっと。

さわ子「(ちょ……!!)」

紬「(……えっ!?)」

自分が唯に何をされたのか理解するのに、紬には時間がかかった。
しかし、しばらく経つと、唯の行動に対する驚きに眉毛をビクつかせると同時に、北欧の大地を思わせるようなその白い頬が真っ赤に染まっていった。

紬「ゆ……い……ちゃん?」

唯「ムギちゃんがどんな人だろうと、私には関係ないよ」

紬「…………」

唯「もしもムギちゃんが女の子を好きだって言うならそれでもいいし、私はムギちゃんとちゅーすることくらい、ぜんぜん気にならないよ」



紬「そ、それは嬉し…・・・いや、で、でも……世間の目が……」

唯「関係ない!」

紬「(ビクッ!)」

唯「私はムギちゃんのことが好きだし、ムギちゃんが私たちのことを好きでいてくれるならこんなに嬉しいことはないよ」

紬「そ、そんなぁ……」

さわ子「(そういう『好き』とは、ちょっと意味が違うんだけれど……まぁ、いいのかしらね)」

唯「ムギちゃんが女の子好きだろうと腐女子だろうとたくあんだろうと私たちには関係ないよ」

唯「そんなことくらいで私たちはムギちゃんから離れていったりなんかしない」

唯「そんなことくらいで私たちはムギちゃんを嫌いになったりなんかしない」

高校1年の頃の初めての出会いから、数年――ムギはここまで真剣な唯の顔を見たことがなかった。
そして、「きっと誰にも受け入れてなどもらえない」と思っていた自分の性癖を、
寧ろ自分の存在自体までここまで純粋に肯定されたとあっては、もう堪らなかった。
心底、唯には叶わない――そう思った瞬間、紬の中で何かが決壊した。

紬「ゆ、唯ちゃん……う、う、うわ~ん!!」
唯「悩んでるのに気付いてあげられなくてごめんね……」

さわ子「(やれやれ……)」


そうしてひとしきり紬が唯の控えめな胸で涙を流した後、

唯「あのねムギちゃん、私思うんだけど――」

唯はゆっくりと話し始めた。

唯「ムギちゃんは絶対に幼女にいたずらなんかしてないって」

紬「でも私、あの時の記憶が曖昧で……」

唯「いや、絶対にムギちゃんはやっていない。
  確かにムギちゃんは女の子が好きかもしれないけど……何も知らない子供を騙していたずらをするような悪い人じゃないって、知ってるから……」

紬「唯ちゃん……」

唯「私に任せて。いい弁護士を知っているから。ね、さわちゃん先生」

さわ子「わかってるわ、唯ちゃん、既に先方には連絡済よ」

数日後、

和「久しぶりね唯。話は聞いているわ。大変なことになっているみたいね」

唯が手配した弁護士とは、幼少時代からの幼馴染にして、軽音部時代には生徒会長として放課後ティータイムを影から支えた真鍋和その人であった。
彼女は類まれなるその知力を生かし、大学卒業後、弁護士となっていた。



唯「お願いだよ、和ちゃん! どうかムギちゃんの潔白を証明して!」

和「わかってる。でも肝心の琴吹さんが当時の状況を覚えていないことに加えて、
  マスコミの大げさな報道のせいで、今や世論全体が彼女のことを疑ってかかっている。
  これは簡単な裁判じゃない――」

紬「…………」

唯「そ、そんな……」

和「暗い顔しないで。私だってこの依頼を受けてから今日まで、何もしていなかったわけではないわ。 過去の判例、被害者を名乗る子供とその母親の証言の矛盾、そしてその証言以外に確たる証拠がないという現状……戦う材料はいくらでもある」

和「それに何よりも私自身が、琴吹さんがそんなことをする人じゃないって確信してるから」

唯「和ちゃん……」

紬「真鍋さん……ありがとう」

和「これでも私だって高校時代の三年間、軽音部を通じて皆のことを見てきたんだから。六法全書に頼らなくたって、それくらいわかるわ」

こうして和の力強い助けを得た紬は、泥沼の裁判に突入していくのであった。


そして、紆余曲折あった末に紬は無罪を勝ち取った。
一連の虐待に関する証言は全て少女の母親が娘に対して強要したものであり、
放課後ティータイムの琴吹紬というネームバリューとその潤沢な財産を目当てとした計画的な狂言であったと結論付けられたのだ。

唯「もっとも、和ちゃんが証言の矛盾をこれでもかってくらい指摘してくれたからこそだったんだけれどね」

更に、肝心要の犯行時の濁った紬の記憶については、
その夜、少女とともにタクアンランドに招かれた母親が紬に過度な飲酒を強要した末の酩酊の結果であったことが判明した。

これには当時の紬の泥酔した様子を包み隠さず法廷で証言した、執事の斉藤の力によるところが大きかった。

唯「何はともあれ、これで世間の誤解も解けたよ! 良かったねムギちゃん」

紬「本当にありがとう……でも……」

これで紬が放課後ティータイムに復帰するための障壁は何もなくなった。
しかし、現実的にはそう簡単な問題ではない。
内面的には立ち直ったものの、律はアルコール中毒と、梓は薬物中毒と闘い、必死にバンドへの復帰を目指している状態であり、澪に至っては所在すら知れない行方不明状態である。

紬「今度は私がみんなを救う番ですね……」


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最終更新:2010年01月13日 02:48