澪「な、何で私に拝んでるの?」

純「澪先輩は女神様なので」

澪「やめてそういうの。ホントやめて」

純「程々にしておきます」

澪「所で純は、何か用事があったんじゃない?」

純「いえっ、大した事は。ヒマなんで憂ん家行く所でしたんで」

澪「そっかー、構わせて悪かったな」

純「いえっ、出来ればずっと構いたい位で。純の心の相合傘、澪先輩には
  いつでも空いてますんで」

澪「それはさすがに私も困るぞ」

純「澪先輩が困ったら、私も困りますよ~」

澪「フフ、何だか純とは話し易いな」

純「本当ですか? 奇遇ですね、私も気が合うなって思い始めてました」

澪「私なんかとしゃべっても、おもしろくないだろ?」

純「とんでもない。楽しくて仕方ないですよ」

澪「それは純が、勝手に盛り上げてくれてるからだよ」

純「澪先輩は人が良すぎるから、人のいい所ばかり目につくんですよ」

澪「純は私の事、美化しすぎてるんじゃないか?」

純「美しいものは美しいですから」

澪「調子いいんだから。どっかの誰かさんみたいだ」

純「澪先輩じゃなきゃ、こんなにはしゃぎませんよぉ~」

 すごい、澪先輩がこんなに私に話し掛けてきてくれてる。澪先輩の吐く
息が、私のと混ざり合っている。これは間接キスといっても差し支えある
まい。でへへ。

澪「とにかく、憂ちゃんと約束あるんだろ? 行かなくちゃ」

純「はぁ、まぁ……澪先輩の家ってこの近くだったんですか?」

澪「う~ん、そうでもないな。結構走ってきたから」

純「じゃあ本当に偶然だったんですね」

澪「そのようですね」

純「あの、もしかしておヒマですかね?」

澪「ン~?」

純「一緒に憂の家行きませんか? 唯先輩と梓もいますし」

澪「えっ? 突然私が行ったら迷惑じゃないかなぁ……」

純「そんな事ありませんよ、私も急だし」

澪「で、でも、ジャージだし恥ずかしい……」

純「全然カッコいいですよ。黒豹みたいで」

澪「そんな訳ないだろ、騙されないぞ」

純「ゴメンなさい。でもそんなの気にするような人達じゃないですよ」

澪「わ、分かってるさ私だって」

純「アハッ! じゃあ行きましょっ?」

澪「ハー、全く強引だな」

純「うぅ……生意気でしたか?」

澪「勘違いするな。先輩の私が後輩に引っ張られてるってのがね?」

純「澪先輩、私っ……」


澪「もういいから。行くぞ」


純「……」

 澪先輩がそう言って私に微笑みかけ、私の手を引いた。身体中が熱く
なり、卒倒しそうになった。

 しおらしくするなんて私らしくない。でも意識するなというのが無理。
どんだけカッコいいんですか、澪先輩は。

 ていうか何、このいいムード。これフラグ? フラグが立ったの?

















 とまあ、脳内シミュレーションでは、こういった展開になるのだが、
現実では私は澪先輩に声を掛けることすら出来ず、ただ見送るだけで
イベントは終了するのであった。


~~

澪「純、唯ん家ついたぞ」

純「――えっ? あ、ハイッ!」

 ……って、あれ? げ、現実? 現実だったのこれ? あまりにも妄想
爆発な展開で、リアリティがないんですが。

 ともあれ私は、憂の家に澪先輩を伴って到着した。これはちょっとした
サプライズと言えるのではないでしょうか。


憂「いらっしゃい、純ちゃんっ! 遅かった……あれっ、澪さん?」

澪「は、ははは、どうも憂ちゃん」

純「イヤー、実は途中で澪先輩とバッタリと合っちゃってぇ~!」

憂「そうなんだ」

純「もし憂の家で遊ぶのに澪先輩もいたら、ポッキーゲームやツイスター
  で確実に盛り上がる事うけ合いでしょ。その際、密着する役得を考え
  れば、ナチュラルにムネタッチもありえるよね。とすれば、澪先輩の
  綺麗な黒髪を口に含み、堪能したとしても許されるかもという、年頃
  の少女らしい淡い期待を抱いても仕方ない。ていうか、例えその行為
  によって下心が見透かされ、澪先輩から汚物を見るかの様な蔑んだ目
  で罵倒されて唾を吐かれようとも、それはそれでご褒美じゃありませ
  んか。そこで私は足蹴にされてもすかさずスンスンする事を目標に、
  土下座で澪先輩の脚をロックし、お誘いしたという訳さぁ。ビックリ
  した?」

憂「へ、へぇ~」

 私はマシンガントークで捲くし立てた。憂は若干ひいているが、これは
照れ隠しである。彼女に澪先輩の事を説明するのが、何となくアガって
しまっていたのだ。

 いくら仏の憂相手とはいえ、私が予告もなく勝手に澪先輩を連れてきた
のは事実で、それを引け目に感じたフクザツな乙女心ってヤツだね。

澪「えっ? なに言ってんだ?」

純「私にも分かりません」

憂「分かったよ、純ちゃん」

純「良かった」

澪「ゴメン。やっぱり突然で、迷惑だったよね?」

憂「そんな事! お姉ちゃん達も喜びますよ!」


唯「ふぁっ、純ちゃんと一緒に澪ちゃんもいる!」

梓「どうして澪先輩が!?」

 私達が玄関でもめていると、奥から唯先輩と梓もやってきた。やはり、
澪先輩に驚いている様子だ。ペロッ、これは私が空気になる予感。

澪「やあ、唯、梓。純に誘われて来ちゃったんだ」

唯「歓迎だよ、澪ちゃん! 楽しんでって!」

梓「私も感激です!」

純「ぬははは、私の手柄だよ梓君」

憂(あれ澪先輩、今、純って呼び捨てだった?)


梓「でも澪先輩、いつの間に純と連絡とりあう仲になってたんです?」

澪「ああ、違うよ。これは単なる偶然というか」

純「福留っていうかデスティニー? なんちてなんちて!」

唯「アラアラ、何だか澪ちゃん、純ちゃんとおでんの様ですねぇ?」

澪「意味が分からないぞ」

純「アツアツって事ですか? いやー照れる!」

梓「何バカみたいにはしゃいでるのよ」

純「おっ、妬いてますかぁ? 私の先輩ですってか? ジュワッチ!」

梓「その鶴のポーズは何なの?」

唯「何だか格ゲーっぽい! 純ちゃん後でゲームやろうよ!」

純「やりますか唯先輩!」

梓「唯先輩は私とギターの練習やるんでしょ!?」

唯「分かってるよぉ。でも折角澪ちゃんと純ちゃんもいるんだし?」

梓「それとこれとは話が別です」

唯「ほえぇ、あずにゃんそんなに私と練習したいのー?」

梓「あ、当たり前です! 練習しなかったら私何の為に来たんですか!」

純「ふへー、耳がいてぇー、焼けるー」

澪「何も目的を持たず、ぶらりと来てすみません」

憂「熱血だね」

唯「コーチと呼ばせていただきます」

梓「な、なんなんですかもーっ!」

 唯先輩にからかわれ、真っ赤になって照れる梓。素直ではないが顔には
出やすい。こういう所がカワイイヤツだ。

純「ほいじゃ、先生のお手並み拝見といきましょうか」

梓「ちょっ、純!」

澪「そうだな。私達は見学してるよ」

梓「澪先輩まで!?」

唯「あずにゃん、期待されてるね~」

純「唯先輩のカッコいい所も見たーいっ!」

唯「あははっ、そう? 緊張しますなぁ~、あずにゃん」

梓「全然そうは見えませんが」

唯「よ~し、折角なんだし、二人でギターバトルしない!?」

梓「えっ……の、望む所ですよ!」

純「おおっ、何だかおもしろそう!」

澪「唯がやる気になるなんて!」

憂「頑張って、お姉ちゃん! 梓ちゃん!」

純「あれっ? これからって時に憂はどこ行くの?」

憂「私は今、みんなにお菓子作ってるから」

 そういえば憂はエプロンをしていて、仄かに甘い香りも漂わせている。
思い返せば私が憂の家に訪れた時、彼女は大体エプロン姿だった。

 全くいいお嫁さんになれるわ、この子は。むしろ、私が貰ってやりたい
くらいだ。

純「何作ってるの?」

憂「ドーナツだけど?」

純「わああぁーっ! 私の大好物だ!」

 朝に食べたとはいえ憂の作るドーナツなら別。彼女が作るドーナツは、
プロ顔負けの絶品なのだ。

唯「私も! 私もっ!」

憂「エヘヘッ、張り切って作るからね!」

梓「憂のドーナツは本当おいしいんですよ、澪先輩」

澪「へぇー、でも私飛び込みなんだけどいいのかな?」

憂「全然! よろしかったらお土産にもどうぞ!」

 いつもの事だけど、どんだけ作るつもりだろうか。

純「ねっ憂、私も手伝おっか?」

澪「それなら私も」

憂「あ、大丈夫です一人で。お姉ちゃん達の練習見てあげてて下さい」

純「でも私の大好物だし、もしかして私の為に?」

憂「アハハッ、たまたまドーナツの気分だったんだよー」

 確かに彼女がお菓子作りをするのは、日常茶飯事。別にうぬぼれでは
なく、ただの軽口だ。


 しかしこうもあっさり返されるのは、何だか悔しい。


 そうだ、私が来た目的。それは彼女の成長の確認ではなかったか。思い
出したら吉日、私は早速実行に移す事にした。

純「でも憂、そんなにお菓子ばかり食べて太らない?」

澪「ハッ!? ふ、太っ!?」

憂「やだなぁ、平気だよ。常時食べてる訳じゃないもん」

純「ふぅん、確かめていい?」

憂「えっ……な、なに?」

 私はそれには答えず、やや強引に憂を抱きしめた。


憂「ひゃっ、純ちゃん! 急にどうしたの!?」


 憂は多少モゾモゾと暴れたが、それ程強い抵抗ではない。嫌がられては
いない様なので、私は憂の身体を、主に胸とお尻を中心に撫で回した。

純「ホホー、なるほど太ってはいませんね。これは健康的な肉付きと言え
  ます。しかしこの触り心地、私とちょっと違う! やわらか過ぎる!
  掴んだ瞬間、指がニュッと吸収されてく感じ! おもしろい!」


憂「ダ、ダメッ、純ちゃん! みんなの前でっ!」


澪「あわわ……」

唯「ほぇ~」

梓「やめなよ純! 憂困ってんじゃん!」

 私の行動に、みんなが目を丸くして驚いている。思ったより憂の抵抗が
ないのと、憂の身体に触る気持ちよさの為、私は少々調子に乗り過ぎて
しまったみたいだ。

 別に彼女を傷つけたかった訳ではないので、私は照れ笑いをしながら
憂から離れ、素直に頭を下げる。

純「ゴメンゴメン、最近憂の発育具合が気になってさぁ」

唯「純ちゃん、それでどうだったの?」

純「服の上からでも最高でした」

憂「もうっ……バカ」

唯「へぇ~、どれどれ~?」

憂「お、お姉ちゃん! めっ!」

唯「え~、純ちゃんばっかずるい~」

梓「ふ、二人共信じられません! ねっ、澪先輩?」

澪「あれっ、それで終わりなのか?」


梓「えっ」

 さて一悶着あったものの、やはりお菓子作りはプロである憂に任せる事
にし、唯先輩と梓のギター披露会の見物と相成ったのであります。


 唯先輩は実に楽しげに演奏をする。ミスってもそれが愛嬌になって、逆
にいい味になるというか。これは見習いたいテクニックですね。

唯「ズギャギャーン!」

梓「口に出てますよ」

純「あはははっ!」

澪(ああ、私もやりたくなってきた……)


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最終更新:2011年05月03日 21:16