•講堂
講堂に生徒達が続々と集まり始め、ざわついて来た。
ステージの上に設置されたテーブルに座っているのは生徒会メンバー達だ。
そして中央の司会台に立っているのは生徒会長、和先輩…
暫くして講堂の扉が閉められると和先輩が話し始めた。
和「お集まり頂き有難う御座います。」
和「本日議長を務めさせていただく真鍋です。宜しくお願いします。」
和先輩がそこまで言うと会場が一気に静かになった。
和「この度の生徒総会は二つの
議題に付いての審議です。」
和「まず一つ目は以前から生徒会への要望が多かったスカートの長さに付いてです。」
和「これまで校則では膝下五センチとなっておりましたが、膝丈、つまり校則を五センチ緩める提案を校長先生にして見たいと思います。」
確かにスカートの長さの校則はあるが事実上無いに等しい。
私もスカートを三回折っている。
誰も守ってないし風紀委員会も先生も注意しない。
和「重要度の低い案件ですので会場内の拍手を以って決議としたいと思います。」
和「賛成の方は拍手をお願いします。」
スカートの長さの校則を緩くする議題だ。
誰も反対する筈がない。
パチパチパチパチ!!
会場内から大きな拍手が起こる。
和「一つ目の議題は採決とさせていただきます。」
間髪入れずにどんどん進める。
全校生徒も早く生徒総会を終わらせたいだろう。
和「続いて二つ目の議題に移りたいと思います。」
和「生徒会では新たに特別執行委員会である虐め撲滅委員会を設立致しました。」
和「明日のHRで各クラスから一名ずつ選出し虐め撲滅委員会を組織したいと思います。」
和「虐め撲滅委員会の組織化は急を要するので、委員長を投票では無く私からの推薦で選ばせて頂きます。」
…私は頭を抱えた。
ステージの袖から唯先輩が歩いて来たのだから。
和「こちらの議題も会場内の拍手を以って決議としたいと思います。」
和「賛成の方は拍手をお願いします。」
パチ…パチ…
会場内から小さな拍手が聞こえる。
拍手しているのは澪先輩FCの人達だ。
和先輩はFC会長でもあったのを忘れていた。
やがて拍手は大きくなり会場を包んだ。
皆早く帰りたいんだな…
和「二つ目の議題も採決とさせていただきます。」
和「お時間を頂き有難う御座いました。これにて生徒総会を終了致します。」
和「この後の部長会議に出席する生徒は速やかに生徒会室までお越し下さい。」
既に多くの生徒がパイプ椅子を折り畳み会場を後にしようとしていた。
見せ付けられた、唯先輩は本気だ。
唯先輩が怖い。あの温かい唯先輩が。
•同時刻、講堂
和「唯、お疲れ様。」
唯「私はなんにもしてないよ。」
和「そうね、じゃあ部長会議に
行くわよ。」
和「副会長さん、書記さん、悪いけどここの片付けお願いね。」
副会長「お安い御用です。」
•生徒会室
和「遅れてすみません。皆さん揃ってますか?」
律「揃ってるぞー。」
唯「りっちゃん、おいっす。」
律「え、唯がなんで部長会議にいんだよ!?」
唯「和ちゃんのお手伝いだよ。」
和「臨時の生徒総会で遅れましたが部活動代表者会議を始めます。」
和「まず、漫画愛好会の部員増大に伴い、部として昇格させます。今後の呼称は漫画研究部で統一するようにお願いします。」
和「部室を用意するので、来週までお待ちください。」
和「漫画研究部の昇格、バレーボール部の県大会出場、マーチングバンド部のコンテスト金賞を受けまして、部費の再分配を行います。」
マーチ「すみません、軽音部の部費が多くないですか?」
律「…いつも通りだろ。」
マーチ「部員はたしか五人ですよね。」
律「あの部室じゃあ五人でいっぱいだっつうの。」
マーチ「一人当たりの部費が私達マーチングバンド部の部費を超えるのですが。」
律「うちは少数精鋭でやってんだ。そっちのが部費貰い過ぎだろ。」
マーチ「うちは人数が多いから楽器の消耗が激しいのは当たり前でしょ。」
律「はぁ?管楽器をコンクリートの上に置いたら傷が付くに決まってんだろ。布を敷くなりの
工夫は出来ねーのか?」
マーチ「うちの部は大編成だから会場に迷惑をかけないよう楽器を置くスペースに隙間を作らないようにしてるのよ。」
律「はー、軽音部は楽器を自腹で買ってんのに、おたくは部費を使ってんだな。大編成とやらは贅沢な事だ。楽器に愛着が無いのかねぇ。」
マーチ「…」
律「YAMAHAの楽器ならそんなに部費も要らねーだろ?どーなんだよ、おい。」
またマーチングバンド部部長が律につっかかる。
もはや部長会議の恒例となってしまった。
和「各自手元のプリントに目を通して、他に不満があれば挙手をお願いします。」
律「異議なーし!」
和「今日はもう一つ議題があります。」
和「第二学年の大規模な停学、退学処置に付いてですが、現在停学中の生徒が所属している部は正直に挙手して下さい。」
スッ
バレーボール部、バスケットボール部、ソフトボール部が手を上げる。
和「正直に手を上げなさい。」
続いて、マーチングバンド部、美術部が手を上げた。
和「ジャズ研はどうなの?」
ジャズ研「うちの部に停学者はいません。」
律「軽音部にもいじめっ子なんかいないぜー。」
マーチ「いじめられっ子ならいるみたいだけどね。」
律「…お前、ちょっと顔貸せよ。」
マーチ「虐め撲滅委員会会長が見てるけどいいの?」
唯「…」
和「唯、ちょっと見せて。」
唯が見ていたプリントを私も見せてもらう。
1
秋山澪【軽音部】
2 飯田慶子【バスケ部】
3 遠藤未知子
4 太田潮
5 岡田春菜
6 菊池多恵
7 木下しずか
8 木村文恵
9 小磯つかさ
10
琴吹紬【軽音部】
11 佐伯三花【バレー部】
12 佐久間英子
13 桜井夏香
14 佐々木曜子
15 佐藤アカネ【バレー部】
16 佐野圭子
17 柴矢俊美
18 島ちずる
19 清水響子
20 砂原よしみ
21
田井中律【軽音部】
22 高橋風子
23 瀧エリ【バレー部】
24
立花姫子【ソフトボール部】
25 近田春子
26 土屋愛
27 中島信代【バスケ部】
28 中西とし美【バレー部】
29 野島ちか
30 平沢唯【軽音部】
31 巻上キミ子
32 松本美冬
33
真鍋和
34 三浦一子
35 宮本アキヨ【文芸部】
36 矢田ますみ
37
若王子いちご【バトン部】
38 和嶋まき【バレー部】
…なるほど。
和「わかりました。今手が上がった部活は停学者が復学したら各自しっかりと教育をやり直して下さい。特にマーチングバンド部と美術部。できるなら退部させて下さい。本来なら退学処分の生徒です。」
和「それぞれの部長は私か平沢さんに定期的に報告することを義務付けます。協力的では無いと判断した場合は生徒会から圧力をかけます。」
和「本日の部活動代表者会議を終了します。」
この学校は生徒の自主性を重んじるという大義名分の下あらゆる事を生徒会に任せる。
おかげで私は殆どの休み時間を会長の業務に奪われたが、今こうして自由に立ち回れる。
下拵えは完了ね。
全クラブの部長が生徒会室を後にしても律だけは残っていた。
律「なぁ、唯…」
律「お前なんか怖いぞ?」
唯「そりゃあ、心を鬼にしてるからね。」
律「梓と憂ちゃんがお前になにを求めてるかわかるか?」
唯「求められた事をやるのは簡単だよね。気を引くには求められた以上のことをやらないと。」
律「やっぱわかってねーな。梓を悲しませるなよ。」
唯「え?」
律「とりあえず部室いこうぜ。和もこれから暇か?」
和「講堂の片付けを手伝わないと。唯は部活行っていいわよ。」
唯「ありがとう和ちゃん…」
私と澪先輩とムギ先輩は何も出来ずただ座っていた。
ムギ先輩が淹れてくれた紅茶にも口を付ける事が出来ない。
事態は予想以上に進んでいた。
唯先輩に会いたいが、会うのが怖い。
この部室にいずれ唯先輩が来るかもしれないと思うと、ただじってしていることしかできなかった。
紬「唯ちゃん、何処にいったのかな…」
澪「帰ってはいないと思うけど…」
そんなことを澪先輩とムギ先輩が話していると、階段を登る足音が聞こえて来た。
それも二つ。
唯先輩と律先輩だ。
この二人が部室に現れたらいつもは凄く嬉しいのに、今は…怖い。
考えている間も二つの足音は部室に近づいて来てやがて扉を開ける。
律「おーっす!」
唯「皆お待たせー!」
部室が一気に明るくなる。
良かった、いつもの唯先輩だ。
梓「唯先輩どこにいってたんですか?」
唯「部長会議でのりっちゃんを観察してたんだよ。」
梓「…?とにかく今日は練習しますからね!」
唯「えー、今日は両手が筋肉痛なのに。」
梓「ちょっと黙って下さい!」
律「喉乾いたわー、ムギ、お茶頼む。」
紬「はーい。」
澪「唯、ちょっといいか。」
う、澪先輩…
澪先輩も真面目に怒ると怖いから、出来ればムギ先輩に任せたかったんだけど…
唯「遅れてごめんね、澪ちゃん。」
澪「そんなことはいい、とにかく座れ。」
嫌な予感しかしないよ…
腕を組んで俯き気味の澪先輩…
昨日の病院での澪先輩からは想像も付かない。
ムギ先輩、律先輩のお茶なんかどうでもいいから場を和ませて下さい!
澪「…唯、お前なぁ」
紬「澪ちゃん?」
紬「お茶淹れ直したから少しどうかな?」
流石ムギ先輩!
澪「…あぁ、頂くよ。」
束の間のティータイム。
しかし空気は重い。
唯「…」
律「…」
お願いですから黙らないで下さいよ…
澪「ふぅ、いいか?」
唯「いいよ。」
梓「…」
澪「唯、もう一度目的を教えてくれ。」
唯「澪ちゃん、あずにゃんの前でその話は…」
澪「…そうだな。ムギ、悪いが梓と席を外して貰えるか?」
紬「梓ちゃん、私のクラスに行きましょう?」
梓「あ、はい。」
ムギ先輩は何故かバッグを持って立ち上がった。
最終更新:2011年05月06日 01:47