紬「唯ちゃん、来てくれたのね」
唯「当然だよー。ムギちゃんから、放課後部室に来てってメール貰ったときはびっくりしたけどね」
紬「来てくれてありがとう。それから、電話出られなくてごめんなさい」
唯「いいんだよ、こうして元気なムギちゃんに会えたんだから!ほんとに心配したんだよ?」
紬「私も、また唯ちゃんと話せて嬉しいわ」
唯「ところで、なんで私だけなの?どうせなら他のみんなも呼べばいいのにー」
紬「それは……」
唯「今から電話して呼ぼうか?」
紬「待って!実は、唯ちゃんに話さなきゃいけないことがあるの」
唯「そうなんだ」
紬「唯ちゃんに関わる、とても大事なことなの」
唯「私に?」
紬「あのね、
平沢唯って言うのはね、唯ちゃんの本当名前じゃないの。唯ちゃんの……」
紬「あなたの本当の名前は……、七夜唯……」
唯「もー、シリアスな顔で冗談言うのなしだよー、ほんとのこと言ってよー」
紬「ほんとなの、ほんとなのよ!唯ちゃんだって薄々感じてるんじゃない?」
唯「……」
紬「あなたは、うちのお父様が七夜家から引き取った養子なの」
唯「なら、なんで私は平沢の家に預けられてるの?ムギちゃんの家にいるのが道理じゃない」
紬「最初はうちで暮らしていたのだけど、お母様が快く思わなかったのよ」
唯「……お父さんが、外で作った子供だと疑うのも無理はない、ね」
紬「ええ。だから、分家に唯ちゃんとそっくりな子がいるって話を聞いて、お父様がその家の養子にしたの」
唯「それが平沢家なんだね」
紬「姉妹として育てろ、お父様はそう言ったそうよ」
唯「なるほどね。でも、そもそもなんで私はムギちゃんの家に養子としてもらわれたの?」
紬「そ、それは……」
唯「それは?」
紬「七夜家が滅んだから。いいえ、皆殺しにされ、滅ぼされたからよ」
唯「それは、ムギちゃんのお父さんがやったのかな?」
紬「そうよ。上からの命令だったとはいえ、私のお父様はあなたの家族を───」
唯「そう、続けて」
紬「う、うん。もともとね、唯ちゃんの家は退魔を暗殺することを生業とする一族だったの」
唯「へぇ……」
紬「唯ちゃんのお父様は、それはもう凄腕の暗殺者だったらしいわ」
唯「はは、すごいや」
紬「それを快く思わない、危険視していた連中がいたの」
唯「それは?」
紬「身体に人外の血を流す、半人半妖。混血と呼ばれている人たちね」
唯「その混血の連中が、七夜の一族を滅ぼしたんだ」
紬「大雑把に言うとね」
唯「そっか、私はその七夜家の生き残りなわけか」
紬「隠していてごめんなさい」
唯「でも、どうしてそんなことを今さら?」
紬「お父様が死んで、今うちがもめてるのは知っているわよね」
唯「ああ、りっちゃんが言ってたね」
紬「実はね、私の家も混血の一族なの」
唯「そうなの?だけど、ムギちゃんからは何も感じないけどなー」
紬「私は人間の血の方が濃いから」
唯「そっか」
紬「お父様は混血の血も強くて、遠野の分家でもあったから、力も権力もあったの」
唯「遠野?」
紬「混血の一族でも、とくに力と権力がある一族らしいわ」
唯「そう」
紬「だからね、ここら辺一帯の混血をお父様が束ねていたんだけど」
唯「お父さんが死んだのをいいことに、暴れ出したと。吸血鬼事件もムギちゃんの身内が?」
紬「おそらくね」
唯「……ま、だいたい話は分かったよ」
唯「ようするに、ムギちゃんのボディーガードかな」
紬「……」
唯「それから、邪魔者の排除」
紬「ええ、本当にごめんなさい」
唯「一介の女子高生に頼むことじゃないよー、ムギちゃん」
紬「ごめんなさい」
唯「はぁ、困ったお嬢様だ」
紬「でも、そうしないとこの町が、みんなにも危害が及ぶかもしれないの!」
唯「……」
紬「身勝手だってことは承知してるわ!だけど、私にはその力がない!」
紬「恥を忍んでお願いします!お願いします!」 ガバッ
唯「顔あげてよ、ムギちゃん」
紬「……どうか」
唯「全く、しょうがないな、ムギお姉ちゃんは」
紬「唯ちゃん、覚えててくれたの?」
唯「今思い出したんだけどね」
唯「お父さんとお母さん、それにお兄ちゃんを亡くして落ち込んでいた私を励ましてくれたよね」
唯「年上に見えたから、お姉ちゃんだなんて呼んでたけど、本当は同い年だったんだよねー」
紬「ふふ、そうね」
唯「ようやく笑ったね」
紬「え?」
唯「なんでもないよ。さて、ムギちゃんの家で作戦会議と洒落込みますかー」
紬「そうね、そうしましょう」
唯「鬼退治の報酬は、そうだな……。ケーキを好きなだけ頂こうかな」
紬「それぐらいならおやすい御用よ!」
唯「ふふ、楽しみにしてるよ。さぁ行こうか」
――――
唯「ここがムギちゃんの部屋かー、ひっろいねー!」
紬「さぁ、紅茶とケーキをどうぞ」
唯「おぉ!久しぶりのムギちゃんの紅茶とケーキだー!わーい♪」 モグモグ
紬「おいしい?」
唯「すごくおいしーよー」 モシャモシャ
紬「よかったわ」
唯「それで、私はまず何をすればいーの?」 モグモシャ
紬「いきなりで悪いんだけど、分家の者を1人片付けて欲しいの」
唯「ほんとにいきなりだなぁ」
紬「ごめんなさい。でも、その分家はかなりの過激派で、そこの当主が私の命を狙っているのよ」
唯「ずいぶん荒っぽいんだねー」
紬「実際、私も何度か危ない目に遭ってるわ」
唯「なんですとー!?それは許せないね!」
紬「私の家ほどではないけど、そこそこ大きなお屋敷に住んでいてね」
唯「へー、となると警護もしっかりしてるのかな?」
紬「ええ、何人もの部下で周りを固めていて、近づくのは容易じゃないわ」
唯「んー、
その他大勢も片付けちゃっていいのかな?」
紬「そう、ね……」
唯「りょーかーい。んじゃ、今夜にでもパパッと片付けてくるよー」
紬「今日乗り込む気なの!?」
唯「そだよー、早いに越したことはないじゃん?」
紬「唯ちゃん、ちょっと待って」
唯「なーに?」
紬「あのね、その……」
紬「できれば、できれば当主以外の人たちは殺さないで欲しいの」
紬「当主の首さえ落とせば、他は自然と瓦解すると思うから」
唯「やれやれ、お嬢様はどうしてそう難易度を上げるかな」
紬「お願い」
唯「ムギお姉ちゃんにお願いされたら、断りきれないな」
紬「ありがとう、唯ちゃん。それとね」
唯「何?」
紬「無理だと思ったら、すぐに帰ってきて」
唯「横暴なんだか、優しいんだか」
紬「ごめんなさい、だけど私は唯ちゃんが───」
唯「帰ってくるさ、だから紅茶とケーキを用意して待ってて、ね?」 ナデナデ
紬「うん!」
───深夜 分家の家
唯「はぁ、手下どもがあんなにうじゃうじゃと。思いのほか面倒くさくなりそうだな」
唯「……嘆いても仕方ない、さっさと仕事に取り掛かりますかー」 ヒュッ
唯(……っと、高い塀も楽に飛び越えられたな。これなら案外すんなり───)
手下1「だ、誰だおまえ!?」
唯「……よっと」 ヒュン
手下1「え、消え……?」
唯「いかないかぁ」 ガッ
手下1「……」 ドサッ
唯(ふむふむ、身体の方は自然と動くな。身体が覚えているのかな?)
唯(それに、ムギちゃんから貰った七夜の短刀、すごい扱いやすいや)
唯(まるで、腕の一部みたい)
唯(おっと、余計なこと考えてる場合じゃないな。手下どもは、こいつみたいに峰打ちで気絶させていこう)
唯(邪魔者は黙らせて、それからボスとご対面っと)
唯「そうと決まれば、早く片付けてケーキにありつこう。頑張るぞ、えいえいおー」
手下2「そこで何してる!」
唯「……っ!」 ヒュッ
手下2「は、速っ…………」 バタッ
唯「下手だね、どうも」
ガチャッ
当主「遅いぞ!賊を捕まえるのにいったいどれほど時間を───」
唯「やっほー」
当主「お、おまえは!?俺の手下たちはどうした!」
唯「みーんな寝てるよ」
当主「ふ、ふざけるな!おまえみたいなガキに何ができるってんだ!他にも仲間がいるんだろ!」
唯「えぇ、私1人だよー?」
当主「そんな馬鹿なことが……。おまえ、まさかあの七夜の?」
唯「あれ、おじさん知ってたんだね。そうだよー、七夜一族の生き残り、七夜唯です!」 フンス
当主「は、はは!面白い、琴吹のじじいが酔狂で養子にしたってのはマジだったんだな」
唯「よく知ってるねー。なら、私が何しにきたかも察しがつくよね?」
当主「ああ。そうか、七夜の生き残りか。俺の手下たちじゃ相手にならないのも当然だ」
唯「ほほぉ、その口ぶりからするとよほどの手練。見た目は弱そうだけどなー」
当主「ほざけ!」 ズガン!
唯「わっ!壁に穴があいちゃったよ。おっかないパンチだなー」
当主「これが、混血の力だ。退魔の一族とはいえ、所詮は人間。これをくらって無事では済まないだろ」
唯「あー、たしかに当たったらバッラバラになっちゃうなぁ。怖いなー」 ブルブル
当主「余裕ぶっこいてるのも今のうちだ!」 フォン
唯「おっとと」
当主「はは!避けるだけで精一杯か?どんどん行くぞ!」 バババッ!
唯「わわっ」
当主「な、なかなかやるな!だがこれならどうだ!?」
唯「おぉ、スピードアップしたー」
当主(どうした、なぜ当たらない。なぜ当たらないんだ!?)
唯「よっ、はっ、ほっ」
当主(それに、こいつどんどん速くなって、目で捉えらきれない!人間ごときが!!)
当主「くっ……、何処に行った!?逃げても無駄だぞ!」
唯「やだなぁ、逃げるわけないじゃない」
当主「な、おまえどうやって天井に張り付いて……」
唯「さてね、教えてやらない」
当主「クソがぁ!!」 ズバン!
唯「よっと」 サッ
当主(俺の死角へ死角へと動きやがる!ちくしょう、ちくしょう!!)
唯「やっぱりね、弱いねおじさん。ちょっと期待したんだけど、もういいや」 ヒュカッ
当主「は、へ?」 ゴキンッ
唯「寝てな」
当主「おぐ、がっ!あ、あ……」 バタ
唯「あれ、まだ生きてるの?首を180度グルっとさせたのになぁー」
当主「……ぐっ」
唯「もぉ、ここは大人しく死んでおくのがマナーってものだよ。だめだな、おじさんは」
当主「……くく、はははっ!」
唯「何笑ってるの。首を回したもんだから、余計具合が悪くなちゃったのかな?」
当主「おまえ、紬のお嬢さんに雇われたんだろ?」
唯「それが何?」
当主「くく、おまえはな、いいように利用されてんだよ」
唯「……」
当主「あいつも琴吹家当主の座が欲しいのさ。それでおまえを雇ったに過ぎない」
唯「だから?」
当主「あらかた片付いたら、おまえ殺されるぞ」
唯「……」
当主「所詮、おまえも捨てゴマなんだよ!俺と同じように殺されるんだ!はははっ!」
唯「黙れ」 グサッ
当主「がっ!!」
唯「そんなわけない、ムギちゃんはそんな人じゃない……」
当主「…………」
唯「帰ろう、お姉ちゃんのところへ」
紬「唯ちゃん!!」
唯「たっだいまー。無事任務を果たして帰ってきましたー」 ビシィ
紬「血だらけじゃない!早く、傷の手当をしないと!」
唯「大丈夫だよー。私下手っぴだから、返り血浴びすぎちゃって、えへへ」
紬「じゃあ、唯ちゃんは平気なのね。よかったぁ」
唯「ムギちゃんは心配性だなー」
紬「だって、唯ちゃんにもしものことがあったら私……」
唯「ムギちゃんの過保護ー。それよりも、私はお風呂に入りたいな」
紬「そうね、お洋服も洗濯しないと」
唯「落ちるかな、これ」
紬「大丈夫だと思うわ」
紬「唯ちゃん、お風呂から上がったら紅茶とケーキ食べましょう」
唯「んー、今日はいいや。久しぶりに思いっきり身体を動かしたから、疲れちゃったよ」
紬「そ、そう」
唯「だからお風呂あがったら、もう寝るね」
紬「分かったわ。寝室の用意をしておくわね」
唯「うん、お願い」
紬「あ、唯ちゃん」
唯「何?」
紬「も、もしよかったらだけど、また昔みたいに一緒に寝たいなって」
唯「そういえば、あの頃はいつもお姉ちゃんと一緒に寝てたっけ」
紬「ダメ、かな?」
唯「……せっかくだし、一緒に寝よっか」
紬「うん!じゃあ急いで、用意してくるね!」
唯「はーい。私はお風呂行ってくるねー」
唯「……」
最終更新:2011年05月07日 23:24