唯「何回見ても綺麗だね~」
澪「ふん、こんなもの眩しいだけだ」
唯「……澪ちゃんは人気者さんなんだね」
澪「……」
唯「凄いね」
澪「……私なんてまだまださ。梓国王に比べたらな」
澪「」スッ
唯「」アセアセ スッ
澪が片膝をついたのを見て唯も見おう見真似する。
澪「三騎士が一人剣者、澪……ただいま戻りました」
梓「うむ、ご苦労であった。下がってよし」
澪「ははっ」
梓「よく来たな、唯」
唯「は、はは~。ありがたき幸せ~」ヒラニ~ヒラニ~
梓「そんな畏まらなくてもいい。今日は他の民もいないしな」
唯「?」
梓「ゴホンッ! 単刀直入に言おう。そなたを王宮に迎えたい」
唯「……へ?」
梓「私の専属ペロリストの一人になってはくれないか? 唯」
唯「え、えええええっ!?」
和「国王ったらあなたのペロに夢中なのよ」
梓「こらあーーーー!」
和「すみません」
唯「あの……その……」
紬「そんな難しく考えなくていいのよ。梓ちゃんはただ唯ちゃんと一緒に居たいのよ」
梓「こらこらあーーーー!!」
紬「失礼しました」ペロッ
唯「私……」
梓「来てはくれないだろうか? 無論食べ物、水、住むとこまで全て面倒みよう」
唯「……私なんかで勤まるのでしょうか?」
梓「勤まるとも。いや、寧ろあなた以外には勤まらないと言ってもいい」
紬「まあまあ」
和「愛の告白ね」
澪「くっ……私は認めないからな」
梓「もうっ! ちょっと静かにしててよ!」プンプンッ
唯「ぷ……ぷふふ……あはははっ」
梓「?」
澪「貴様! 梓国王を笑うとは何事か!」
和「いいから少し黙ってなさい」
紬「うふふ」
梓「何がおかしい?」
唯「あはははっ! いひひっ! だって何か変なんだもん! 梓国王ってもっとお堅い人だと思ってました」
梓「そ、そうか? まあ民を守るために敢えて厳しくせねばならないこともある……」
唯「そのいつもとは違う一面を見せたと言うことは私は民ではないのですか?」
梓「ああ、唯はもう私達と同じ扱いだ。もし断られてもその方針を変えるつもりはない」
唯「そうですか……ありがとうございます……? なのかな」
梓「そろそろ答えを聞こうか」
唯「ではお断りします」
梓「えっ?」
澪「」チャキン
和「」スッ
紬「まあまあ、続きを聞きましょう。理由は何なのかしら?」
唯「私には妹がいます。命より大切な妹が。その妹を置いてここで暮らすことは出来ません」
梓「なら妹もここで住めばいい」
澪「国王! それはなりません!」
梓「な、なんでだ?」
和「そんなホイホイと王宮に入れては他の者に示しがつきませんからね。なら私も、自分も、と言い出すものが現れること必死です」
梓「むぅ……しかしだな」
唯「それに妹は……ペロペロ病なんです」
梓「なっ!」
和「なんですって!?」
紬「ペロペロ病……」
澪「……」
唯「だから妹をここには連れてこれません」
梓「……」
紬「待って唯ちゃん。ペロペロ病は確かに難病よ。けれどここならその進行を送らせることが出来るわ」
唯「憂草……ですよね」
紬「え、ええ。何故それを?」
唯「うちの妹はペロペロ病になってからもう3年生きています」
紬「3年……ですって?」
梓「なんだ? 凄いのか?」
紬「普通ペロペロ病に感染したら感染者は1ヶ月で発狂、または舌が動かなくなると言われています……それを3年なんて前例がないわ」
澪「こいつの家の周りには一面に憂草が生えていた。そのせいだろう」
紬「でも……それだけじゃとても3年なんて」
唯「それにペロペロ病は……移るから」
紬「えっ……」
唯「なにか?」
紬「な、なんでもないわ」
唯「というわけでお断りします。せっかくのお誘いを蹴ってしまってすみません」
梓「……」
唯「では、私はこれで」タッタッタッ……
和「……残念だったわね、梓。まあ仕方ないわ。他にも優秀なペロリストは沢山」
梓「ダメなんですッ! 唯じゃないと……! どうしても……!」
和「梓……」
澪「梓国王……」
紬「……」
澪「待て!」
唯「ん?」
澪「梓国王はああ言ったが私は許さない。いや、本当はお前がいなくなって清々するがそれで梓国王が悲しむならお前がいる方を私は選ぶ!
だから来い!」
唯「無茶苦茶だよ澪ちゃん」
澪「筋が通ってないのはわかってる……けど梓国王は私よりお前のことが気になってるんだ。
なら私は梓国王の騎士としてその手伝いをするしかできない……どうしても来ないと言うなら」シャキン
澪「決闘だ」
唯「……あずにゃんが好きなんだね」
澪「う、うるさい! 決闘だ決闘だ!」
唯「澪ちゃんがそれで納得するって言うなら……いいよ」
澪「ふんっ! この私に挑むとは、多少は腕に覚えがあるようだな」
澪「場所を変えよう、いつも訓練で使っているところがある」
唯「うん」
───
澪兵「なんだなんだ?」
澪「おい! 隊長がやり合うってよ! 他のやつも呼んでこい!」
澪「お前が負けたら問答無用で王宮に入ってもらう、いいな?」
唯「いいよ」
澪「心配するな。妹も必ずなんとかする。何なら一面憂草で敷き詰めた部屋を用意させる。
団子をもらった礼もしたいしな」
唯「あはは、ありがとう。でも負けないから大丈夫だよ」
澪「なにぃ? ふん……まあいい。その吠え面すぐに雨に濡れた仔犬の顔にしてやる」
澪「つかえ」
ドサッ
唯「いいよ、武器は使わない」
澪「……お前はどこまでも私をイラつかせるな。唯!!!」
澪が地を駆ける──
唯「あ、やっぱり一つだけ武器使うね」
もはや言葉などどうでもいいと言った具合にグンッとその距離は縮まる。
後三歩、いや、二歩か。時間にして1秒かからないだろう。
しかし、唯はゆっくりとこう告げた。
唯「舌だけは使わせてもらうから」
澪「!!?」
だが、もう遅い──
懐に飛び込んでいる澪が剣を振り上げる。
澪「安心しろ!!! 峰打ちで終わらす!!!」スッ
唯「」ペロ……
澪「なっ……!」
唯は舌を出したかと思うと、何故か次の瞬間澪の一撃を軽くかわした。
澪が驚くのも無理はない、これはもはや唯が避けたと言うより澪の剣が唯の舌を斬るのを嫌がった、と言った方が自然だろうか。
澪「このっ……!」
だがさすがはペロの三騎士剣者の澪、持ち手を変え、すかさず斬り上げの体勢に入った。
唯「ペロペロ」
澪「あっ……」
その隙を見逃さず唯は澪をペロペロ。
澪「このっ……!」
唯「」ペロ
澪「あれっ?」スカッ
唯「ペロペロ」
澪「ん……っ」
澪「このっ」スカッ
唯「ペロペロ」
澪「ひゃうんっ」
澪「」グター
唯「私の勝ちかな?」
澪「こんな……ことが……!」
澪兵「隊長が……負けた?」
澪兵「嘘だろおい……」
澪「認めるものか……! たかが舌一つに私が負けるなんて……!」
唯「梓国王は一ペロられでこの世界を平和にしたと聞きましたけど?」
澪「それは……」
唯「じゃあ約束通り帰るね澪ちゃん! また遊びには来るからね」ニコッ
澪「くっ……唯……あいつは何者だ」
澪「それにしても……いいペロペロだったな。人に舐められるというものはあんなにも気持ちがい……」
澪「///」カァァ
澪「私は何を言ってるんだ!!! バカッ!」
澪兵「ペロペロさせてください隊長!!!」
澪兵「お、俺にもお願いします!!!」
澪「ええい馬鹿者どもが! さっさと訓練するぞ! さっきのを見て私に勝てそうなどと思ったやつは来い!
その幻想叩き折ってくれる!
いいか! さっきのは半分の力も出してないんだからなっ! 本当だぞっ!」
紬「……」
和「覗き見とは関心しないわね」
紬「どうしても気になって……でもそれも確信に変わったわ」
和「もしかしたら彼女が?」
紬「ええ。なら梓ちゃんの求めようもわかる」
和「ペロられし者とペロりし者……二つが集いし時永劫の平和が訪れん、か。胡散臭いわね」
紬「それでも私達はそれに頼らないといけないの……この偽りの平和が終わる前に」
唯と憂の家
唯「ただいま~」
憂「お帰りなさいお姉ちゃん……ペロ」
唯「あれ? 憂喋れるようになったの?」
憂「うん。今日は何だか具合がよくて、ペロ。あんまりペロペロしなくてもいいみたいペロ」
唯「そっか! 段々良くなって来てるのかもね!」
憂「うんっ! これもお姉ちゃんのおかげペロペロ!」
唯「そんなことないよぉ。憂の頑張りとこの憂と同じ名前の子が憂を守ってくれてるからだよ」
憂「うんっ! ありがとう、憂」ニコ
唯「じゃあ今日は奮発してお姉ちゃん川にお魚を取りに行っちゃうよ!」
憂「私もいくー」
唯「危ないから憂は木の実を集めて! ね?」
憂「むぅ~お姉ちゃんがそう言うならわかったぁ」
川
唯「……」
唯「……グスッ」
唯「なんで……なんで憂が……」
唯「神様……私は憂の為なら何でもします! だから妹を、憂を助けてあげてください!」
そう願っても、現実は変わらない。
唯「……」
唯もわかっていた。
この目の前に泳ぐ魚達をただ見ているだけではどうしようもないことに。
唯「ペッ」
舌を丸め、乗せた枝を拳銃の様に打ち出す。それは見事泳いでいた魚を捉え水面にぷかりと浮かんだ。
唯「憂を助けるためなら……なんだって」
もう何年も前に誓ったことを再び言葉にする。
言葉にしなければ、揺らいでしまいそうな思いだった。
食事の後、唯は憂を外に連れ出した。
憂「お姉ちゃんどこ行くの?」
唯「ふふ、いいからいいから」
山の斜面をひたすら登る二人。山育ちだけあって山登りは二人とも得意のようだった。スイスイと登って行く。
いつもならペロペロし続ける為酸欠になりやすい憂も今日はほとんどペロペロしていない為、唯の手をかけるまでもなく登り切った。
憂「こんな上まで上がってどうするの?」
唯「まあまあ。えっと~獅子座があっちだから~もうちょいかな」
憂「ふぅん?」
唯「そろそろかな! あっちの方! よ~く見ててよ憂~」
憂「うん?」
納得しないまま唯に指差された方向を見続ける憂。
唯「さんはいっ!」
パァアアアアアア
憂「わぁ~なにあれ!」
唯「電気って言うらしいよ! これからは夜でも明るくなるんだって!」
憂「でんき?」
唯「私も詳しくは知らないけど火さんの親戚とかじゃないかなぁ?」
憂「そうなんだ~。綺麗だね~お姉ちゃん」
唯「うん、とっても綺麗」
電気の灯りに照らされて、闇夜の中一点、黄金が輝く。
もしかしたら二人は人類初の夜景を見たのかもしれない。
再び唯と憂の家
唯「憂、具合どう?」
憂草のベッドに横たわる二人が顔を向け合う。
憂「大丈夫だよ。もう全くペロペロしなくても良くなったみたい」
唯「……そっか! じゃあきっと治ったんだね! 良かったね憂!」
憂「うん。……治ったらね、ずっと……ずっと……お姉ちゃんに言いたかったことがあるの」
唯「なぁに?」
憂「お姉ちゃん……ありがとうって、大好きって」ぎゅっ
唯「憂……」
憂「いっぱいいっぱい迷惑かけてごめんねって。いっぱいいっぱい大変な思いさせてごめんねって……!」
憂「ずっと……ずっと……言いたかった」
泣きながらも笑顔を向け、そう言う。
唯「いいんだよ……そんなこと思わなくて。だって私はお姉ちゃんだもん。
憂のこと誰よりも大好きで大切に思ってるお姉ちゃん」
憂「うん…うんっ……!」
唯「これからもずっと一緒だよ、憂」
憂「うん。お姉ちゃん……。これからは……ちゃんと自分のことは自分でやるか……ら……」
唯「ふふ。舌を気にしなくて寝るのなんて三年ぶりだもんね。ゆっくりおやすみ、憂。
これからもっともっと楽しいこと二人でしようね。平和に……幸せに生きていこうね」
最終更新:2011年05月09日 03:04