朝、それは光と共に幸せな空気も運んでくる。
そんな風がこの唯と憂の家にも吹いていることは間違いないだろう。
唯「美味しいね~憂~」
憂「今日はちょっと朝も奮発してみました。よく眠れたからかな? 凄いやるぞ~ってなって」
唯「偉いよ憂! こんないい妹を持ってお姉ちゃんは幸せだよ!」
憂「えへへ」
唯「じゃあお姉ちゃんも頑張って働いて来るかな」
憂「うん、頑張ってねお姉ちゃん!」
唯「よいこらしょっとぉ!」
荷を背中に担ぐとふらつきながらも体勢を立て直す。
憂「大丈夫?」
唯「へいきへいき! この憂草団子達が帰りにはフルーツや干し魚、もしかしたらもしかして木の椅子とかになっちゃうかもかもよ!?」
憂「そうなってくれたら私もお団子も嬉しいな」
唯「いってきまーす」フリフリ
憂「いてらっしゃ~い」フリフリ
最愛の妹に手を振りながら重たい荷物を担ぎえっちらおっちら。
唯「まずはデコ村から行こうかな」フンスッ!
唯が行おうとしてるのは物々交換である。
昨日憂と二人で作った憂草団子をいっぱいに詰めて村まで行き、その団子と何かを交換してくれませんか? と尋ねるのだ。
二人で暮らす唯達にとって必要なものは少なくない。
唯「やっぱり保存が効く干し魚がいいな~。ほっし魚~ほっし魚~」
干し魚の歌を即興で作りつつデコ村へと歩路を取る。
唯「フフ、相変わらず変な銅像」
「変だとはなんだよ変だとは。この村に喧嘩売ってんのか~?」
唯「あ、りっちゃん!」
律「よっ! 久しぶり。音沙汰ないからこっちから行こうとしてたとこだよ」
唯「えへへ、まあ色々ありまして」
律「色々ねぇ。ところでなんだその荷物? 体に不釣り合いもいいとこだな」
唯「よくぞ聞いてくれました! これは私と憂が作った憂草のお団子だよ!」
律「マジか! くれるのか?」
唯「甘いよりっちゃん、デコカレーより甘いよ!」
律「な、なにぃ!?」
唯「さあ! みんなを読んで! ここは物々交換と行こうじゃないか!」
律「なるほど、そう来たか! 等価交換はこの世界のルール、いいだろう!」
デコ1「デコが出てないおなごだと?」
デコ2「何が始まるんです?」
デコ3「いい匂いじゃあ……」
律「皆の者! 静粛にー! この人は私の恩人の唯だ!」
デコ4「おお、彼女が戦士律を助けてくれた恩人か!」
デコ2「一体何が始まるんです?」
デコ5「ありがたやありがたや……」
律「その唯からみんなに話があるんだ。聞いてくれ」
唯「こんにちは! ご紹介にたまわりました唯です! その件ではお世話になりました! デコカレーとっても美味しかったです!」
デコ6「綺麗なデコしてそうだなあの子」
デコ2「一体何が(ry」
デコ7「まありっちゃんのデコには敵わないさ。あれは村一のべっぴんデコだからな」
律「そこ! 真面目に聞けよ!」
唯「そのことは忘れてもらって、今日はちょっと行商人として来ました!」
デコ1「行商?」
デコ3「何を待って来たんだい?」
唯「これです!!!」バサッ
デコ長老「むぅ! これは!」
デコ長老婦人「憂草のお団子!」
唯「そうです! しかもこのお団子を作った子の名前も憂です!」
デコ婦人「あら、なんだか縁起がいいわね」
デコッパチ「こいつぁ縁起がいいや!」
律「というわけでこれが欲しいやつは物々交換だ! 家にあるもん持ってこーっい!
言っとくけど……これめちゃくちゃ美味いからな!」
わーわーわーわーデコわーわー
最後の言葉が止めとなり、蜘蛛の子を散らすように家に品物を取りに戻るデコ村の人達。
律「早くしないとなくなるぞ~ってな」
唯「ありがとうりっちゃん」
律「なに、事実を言っただけさ。宣伝費として一個もらうぜ」ヒョイ
唯「ふふ、どーぞ」
律「いただきまーす」モグモグ
律「うま……なにこれうま……えっ? てかデコカレーまずっ!
これに比べたらまずっ!」
唯「デコカレーも美味しいよぉ」
律「だ、だよな? いや、あまりの美味さに思わず村の特産品否定してたわ。こりゃ村長が食べたら残り少ない歯がとんじまうなwww」ニッ
唯「も~りっちゃんったら大げさだよぉ」
しかし、律の言葉通り試食で少し食べた村人達の反応は皆同じだった。
デコ「うまっ、なにこれ」
デコ「あっ……んんっ? うまっ」
デコ「これデコカレーまずくね?」
デコ「デコカレー完全敗北www」
聡「まず目で味わい、次は鼻で味わった後に一く」
律「さっさと食え!」ドンッ
聡「ゴホッ!ガッハッ! なにすんだよ姉ちゃん!」
律「お前がトロトロ食ってっからだよ」
デコ長老「……美味い」
デコ長老婦人「美味しいですわ」
唯「ありがとうございます。では早速物々交換の方に……」
デコ「これと交換してくれ!」
デコ「じゃあ俺はこれだ!」
デコ「ならば俺はこのデコを出そう!」
唯「デコはちょっと……無理かな?」
憂草団子は様々なものと交換されとうとう唯の持って来た背負い式の荷袋には入りきらないほどとなった。
唯「みなさん……ありがとうございます!」
明らかに不釣り合いな交換をあっち側から無理やり申し込んで来るもので唯もたじたじだった。
勿論唯が得な交換のは言うまでもない。
デコ「何言ってんだよ、俺らもう仲間じゃん?」
デコ「ほら、だからそのキューティクルなデコを……さ、ぺろんって」
唯「それはちょっと嫌です」キッパリ
デコ「あうううんっ」デコ「デコゲッ」
唯「ではそろそろ次の村に行かないといけないので」
デコ「え~もっといなよ~」
デコ「デコ~」
唯「すみません。妹が待ってるので早く回りって帰りたいんです」
デコ長老「ふむ。ならこの団子を作った憂という子に言っておいてくれまいか?
デコ村一同あなたのお団子の美味さにデコまげた、と」
律「……」
聡「……」
デコ長老「コホンッ! たまげた、と。また良ければ持って来てくれ」
唯「はい。必ず」
律「じゃあな~唯~」
聡「唯さ~んまた~」
デコ達「唯がデコと共にあらんことを」
デコ長老「……」
デコ長老婦人「……いいんですか長老? みんなであんなに騒がせて」
デコ長老「仕方あるまい。律の話では彼女は梓国王を倒せる唯一の者と聞く。なればこのぐらいは……な」
デコ長老婦人「普通に美味しくないですけどね、これ。作った本人はどんな味覚してるのやら」
――――
唯「良かった、みんなに美味しいって言ってもらって」
唯「こんなに色々……嬉しいな」
唯「ほんとはもっと色々回るつもりだったけど今日はあそこにだけよって帰ろう」
唯「……みんな元気にしてるかな」
優しさ村
唯「久しぶりだな、この村に来るのも」
唯「私達が住んでた村……そして追い出された村」
優しい住人「お前……もしかして唯か?」
唯「おじさん! お久しぶりです」ペコリ
優しいおじさん「何しに来た……」
唯「えっ…?」
優しいおじさん「何しに来たって言ってるんだ!!!」
唯「私はただみんなに憂草のお団子を……」
優しいおじさん「憂だぁ? よくその名前が出せたもんだな! お前達のせいでこの村で何人ペロペロ病で死んだと思ってんだ! あ!?」
唯「だ、だから……ちょっとでもお詫びが出来たらなって……お団子を」
優しいおじさん「いるかこんなもの!!!」
唯「あ……」
唯が取り出したお団子を手で払いのける。
唯「憂のお団子が……」
優しいおじさん「疫病神が! 二度とこの村に足を踏み入れるな!」
優しい村の長老「なんだ、騒々しい」
唯「長老様……」
優しい長老「唯、か。ここには二度と来るなと言った筈じゃが?」
唯「な、中には入りませんから。ただこのお団子を食べてみてください!
憂と私で作ったんです! 気に入ってもらえたら毎日でも持って来ますから!」
優しいおじさん「こいつ毎日来る気か……! 長老! こんな疫病神とっとと追い出しましょう!」
優しい長老「待て。この村とてあずにゃん王国が出来た今、食料は分配性、余分なものは溜め込めなくなっておる。
それはいざというとき何もないと言うことだ。元とは言えこの村の住人がせっかく持って来てくれたのだ。ありがたく受け取ろうではないか」
唯「長老!」
優しい長老「ただし、美味ければの話だじゃがな」
そうして試食することになった憂草団子。
唯と他数人が見つめる中、試食会が始まる。
唯「どうぞ」
優しい長老「うむ」
優しい長老「」モグモグ
唯「(デコ村総出で美味しいって言ってくれたんだもん大丈夫だよ!
それに憂が作ったものが不味いわけ……)」
しかしそれは次の瞬間、裏切られることになる。
優しい長老「ペッ。ふざけおって。こんな草の味しかしない団子でその罪を許してもらおうなんぞ片腹痛いわ」ポイッ
唯「ああっ」
優しい長老「二度とここへは近づくな。呪われた姉妹め」
優しいおじさん「全く憂とつくものは何をやっても駄目だな」
唯「…なんで……どうして……」
捨てられた憂草団子を拾いあげ、かじる。
唯「……」モグモグ
唯「こんなに美味しいのに……なんであんなこと言うのかな」
唯「確かに私達はこの村に多大な迷惑をかけた……だから少しでも罪滅ぼしがしたいのに……それさえ出来ないなんて……」
『憂とつくものは何をやっても駄目だな』
唯「そんなことない!」
虚影を振り払うかのように首を振る。
唯「……きっと味の好みが違うんだ。次はもっと憂草の味を薄くしよう」
唯「大丈夫だよ……きっといつかみんなわかってくれるから……そしたらまたここで暮らそうね、憂」
所変わって王宮
梓「こらあーーー! なんだこの書類は! もっと詳しく明記させろ!」
和「は、はっ!」
梓「こらあーーー! 最近の兵はたるんでいるぞ! もっと鍛えさせろ! あんなもので王国が守れるか!」
澪「はっ! 申し訳ございません!」
梓「こらあーーー! もっと右の方もちゃんと掃除せんか!」
紬「今からやることころ梓国王」ホジホジ
使用人1「荒れてますわね国王様」
使用人2「何でも意中の人を手に入れられなかったのが原因だとか」
使用人3「確か王宮に呼ばれたのに断ったのでしょう? バカな人もいるわね。
このあずにゃん王国は世界の中心、更にその王宮ともなればこの黄金のような人生を約束されたも同然なのに」
梓「こらあーーー! 口じゃなく手を動かせ!」
使用人123「はっ、はいっ!」
梓「全く……」
紬「やっぱりあの子が気になる?」
梓「……うん」
紬「ふふ、私達のペロは飽きられちゃったかしら」
梓「そんなことはない! そんなことはないけど……ただ……優しかった、暖かかったんだ、唯のペロは」
紬「そう」
梓「あんなに優しくペロられたのは初めてだった……まるでお姉ちゃんみたいだったなぁ……」ポケー
紬「あらあら。妬けちゃうわ」
梓「あ、ちっ、違うぞ! そういう意味じゃなくてだな!
あれにペロられたら執務が捗るな~っていうか! ああもうっ!」
紬「はいはい♪」
梓「無理なのかな……ここに来てもらうことって」
紬「……」
梓「妹さんが一緒じゃないといけなくて……その妹さんはペロペロ病で……」
梓「私の独断で民に害をなすことはあってはならない……わかってはいるのだ、けど……」
紬「ペロペロ病は、移らないの」
梓「なっ! 本当か!?」
紬「ええ。最近わかったんだけどね。最初は広まり方から見て伝染病の類いかと思ってたのだけどどうやら違うみたいなの」
梓「じゃあ早くそれを伝えに」
紬「駄目です、国王」
梓「なんで!!!」
紬「……あの子は、村外追放を受けてます」
梓「なっ……」
紬「恐らく妹さんがペロペロ病を発症したからでしょう」
梓「でも移らないなら……いいじゃないか……こっちでちょっとぐらいいい暮らしをしても」
紬「しかしそれを見た唯ちゃんを追い出した村民はどう思いますか?
自分達がのけ者にして追い出した子達が自分達より格段にいい暮らしをしている……なんてきっと苦虫を噛み潰す思いでしょう」
梓「でも……」
紬「……デコ村に動きがあるのはご存知ですよね?」
梓「ああ、何でも村同士結託しているとか」
紬「もしここで唯ちゃん達を王宮に迎え入れればたちまち噂は全土に広まるでしょう。当然それは唯ちゃん達が住んでいた村にも届く。
そうしたらあずにゃん王国への反感が高まることは間逃れません。もしそれでデコ村に協力して攻めて来たりすれば私達の作ってきた平和は……終わりを迎えます」
梓「……」
紬「しかし唯ちゃん一人なら問題ありません。選民で梓国王を喜ばせたと言う噂は既に伝わってるはず。
ここで専属ペロリストとして王宮入りしてもなんら不思議はないでしょう」
梓「でも……きっと唯は来ない。あの目は何か大切なものを持ってる目だ。
よほど妹さんが大切なのだろう……」
紬「どうしてもと言うのであれば……アレを」
梓「!? そんなことが出来るか!! 唯の妹だぞ……!」
紬「梓国王、それが唯ちゃんの為でもあるんです」
梓「しかし……」
紬「多分もう長くは持たないでしょう……。どのくらいの進行状況にあるかはわかりませんが……ペロペロ病の者がペロペロをやめた時、それは死ぬ一歩手前。そうなってはもう……」
純「……」
澪「おい貴様! 何をしている」
純「は、はっ! 国王に書き直しを命じられた書物を持って参りました!」
澪「そうか。毎回手をかけさせて悪いな」
純「いえ、とんでもないです」
モップのような頭の中から書物を取り出し渡す。
澪「そう言えばお前はモップ族だったな」
純「はい……」
澪「私は見ての通り髪長族だ。ペロペロ大戦の折りには色々あったが……今はそんなこと忘れてこうして同じ国王の元仕えている。
平和になったものだ。これも梓国王のおかげと言うべきか」
純「……そうですね」
澪「……うむ、確認した。これなら梓国王も納得するだろう」
純「はい」
澪「では通常業務に当たってくれ。今日もペロ神の加護があらんことを」
純「……澪様!」
澪「ん?」
純「あの……唯って子、王宮入りするんですか?」
澪「」チャキン
それを聞いた刹那──
純の喉元には澪の剣が添えられていた。
純「ひっ」
澪「どこで聞いた」
純「先ほどこれを持って行こうとしたら梓国王と紬様の声が耳に入ってしまって……お許しくださいませ」
澪「……ふんっ、まあいい」チャキン
純「っはあ……」
澪「何故かはわからないが梓国王はやけにあいつにご執心でな。何とかして王宮入りさせたがっている」
純「なんと……一民が本当に王宮入りを」
澪「あんなやつのどこがいいんだっ! 時間にルーズで通貨も知らない田舎者が!」
純「はぁ」
澪「確かに……気持ちいいペロだったのは認めるが……」ボソボソ
純「はい?」
澪「何でもない! まあ私達はただ国王の意のままに従うだけだ」
純「……不思議に思ってたんですけど、澪様達三騎士は他の方達みたいに王国が大事って言うより国王様が大事って感じがしますよね」
澪「国王あっての王国だろう。どちらも一緒だ」
純「それはそうなんですけど……」
澪「私達はあの戦争で敵同士だった……それをあの人に救われたんだ」
純「えっ」
澪「おっと稽古の時間だ。この話はまたいつか、な」
純「はい。是非聞かせてください」
最終更新:2011年05月09日 03:06