そして夜、唯は梓の部屋に呼ばれた。
コンコン
梓「入れ」
唯「おじゃましま~す」
梓「よく来たな。まずはこれでも飲め」
そう言うと梓は曇りがかった緑色のボトルをグラスに傾ける。
唯「お酒?」
梓「いや、ぶどうを搾ったジュースというものらしい。果実を潰すなどもっての他だと持って来た時はコックを怒鳴り付けてやったが……飲んでみるとこれが案外美味くてな」
唯「ふふ、そうなんですか」
梓「ああ。その後澪と一緒に謝りに行ったよ」フフフ
唯「ふふふ、国王様でも謝るんですね」
梓「まあ、な。それじゃ乾杯と行こうか。音頭は任せる」
両者グラスを掲げ、見つめ合う。
唯「コホンッ! では、不肖ならが私が音頭を取らせていただきます」
唯「あずにゃん王国の繁栄と、この世界がいつまでも平和に、幸せでありますように」
梓「……ああ」
「乾杯」カラン
唯「」ゴクゴク……
梓「」ゴクゴク……
唯「ぷは~」
梓「ぷは~」
唯「美味しいですね国王!」
梓「ああ……」
唯「国王?」
梓「その国王というの、やめろ」
唯「ならなんて呼べば……?」
梓「あ、あずにゃんでいい。昔はみんなからそう呼ばれていた」
唯「あずにゃん……なんか可愛いですね」
梓「後敬語もいい。私の方が年下だ」
唯「それは……」
梓「二人きりの時だけでいいんだ」
唯「……わかったよ、あずにゃん」
梓「」パァァ
梓「もっとジュース入りますか? 唯先輩」
唯「先輩?」
梓「目上のものを下の者が呼ぶとき敬意を込めて先輩、とつけるらしいです。私の学校でもそうでした。だから、唯先輩」
唯「なんか先輩っていい響き~。偉くなった感じがするよね!」
梓「気に入ってもらってなによりです」
梓「二人きりの時は身分関係なく接してください。その方が私も嬉しいです」ニコリ
唯「はうっ」
梓「どうかしましたか?」
唯「その……国王……あずにゃんってニコっとしたら凄い可愛いなって」
梓「なっ……!」カァァ
梓「そんなこと……」
唯「いつもニコニコしてたらいいのに。勿体無いよ」
梓「……私は国王ですから。感情は必要ないんです。ただ、平和の為になれば」
唯「……悲しいね」
梓「それが国王たる者の定めです。さ、もう一杯どうぞ、唯先輩」
そしていよいよ……唯の専属ペロリストとしての初仕事となる。
唯「あずにゃん、そろそろ」
梓「……はい」
そう言うと梓は着ていた物を一枚づつ脱ぎ、丁寧に折り畳んで床に置く。
梓「よ、よろしくお願いします……唯先輩」
唯「任せといてよ!」
胸と秘部を隠しながら梓はベッドへと歩き、俯せになって横たわる。
唯「綺麗な体だね、あずにゃん」
梓「///」カァァ
それに乗り掛かるようにして唯がゆっくりと舌を梓の肩の辺りに滑らせた。
梓「ひゃっ」
唯「ペロペロ」
あずにゃん王国では平和の祈願として国王は三日に一回は全身をペロられなければならない、という掟がある。
ペロらせて終わった戦争の奇跡にあやかったものだ。
この平和がいつまでも続くように、彼女はいつまでもペロられなければならない。
ペロの鎖に囚われているのだ。
唯「ペロペロ」
梓「んっ……」
唯の生暖かい舌が梓の腰辺りまで下降する。
細く、少し背骨が浮き出ている背中を更にペロる。
唯「ペロペロ」
梓「にゃっ……」
そして唯の舌は小さく丸みを帯びたお尻へと到達する。
唯「ペロペロ」
梓「んっ……んっ……」
ペロる度にプルンと唯の舌を押し返す程の弾力。
唯が最高のペロリストとしたら、梓はその対極、最高のペロラレストだろう。
ペロり、ペロられ、お互いの興奮を高めて行く……。
唯「……ペロペロ」
しかし、唯の本当の気持ちはここにはなかった。
梓「……」
背中やお尻、太もも、足を一通り舐め終えた唯は「ふぅ」と一息をついた。
これで自分の仕事は終わりだと言わんばかりに。
そう、彼女にとってこれは仕事であって私欲ではない。
憂を助ける為にやっていることだ。
勿論嫌々やっているわけでもない。唯の性格上助けてもらった恩義は全力で返す、そういう子だろう。
唯「お疲れさまでした~あずにゃん」
しかし、それでは一線は越えない。
梓から言えば、越えてくれない、だろうか。
梓「前も……お願いします。唯先輩」
唯「えっ? あ、あずにゃん!? ダメだよ! 色々見えちゃってるよ!」
仰向けになった梓に対し手で目隠しを作りながら反応する唯。
梓「唯先輩……」
梓は少し起き上がると、そのままの姿で唯を抱き締めた。
唯「あず……にゃん?」
梓「私……どうしようもなく寂しいんです。みんな国王としての私しか見てくれない、興味がない」
梓「だから私もそう在ろうとしたんです……ただ平和に尽くす国王に。 でも……」
唯の肩に梓の涙が零れ落ちる。
梓「駄目でした……。もう耐えられないんです……だからずっと誰かにすがりたくて……わがまま言いたくて……」
唯「あずにゃん……」
梓「他のみんなに心配かけないようにすると……一人でいる時感情が溢れて零れちゃうんです……」
唯「よしよしだよ、あずにゃん」
梓「唯先輩……国王の命令でも何でもいいです……お願いだから側にいてください」
梓「大好きなんです……唯先輩が。あの時ペロられた時からずっと……」
唯「……私はずっと一緒にいるよ。憂も」
梓「……」スッ
憂の名前が出た途端梓は唯から離れる。
梓「やっぱり一番は妹さんなんですね……」
唯「……うん、ごめんねあずにゃん」
梓「……」
一瞬泣きそうな顔になりながらも、止める、ギリギリ笑顔と呼べる表情を。
梓「憂、良くなるといいですね」ニコリ
唯「うん。そしたらみんなでピクニックいこっ!」
梓「みんな?」
唯「私に憂にあずにゃんに澪ちゃんに和ちゃんに……後はあの眉毛が可愛い子とモップ頭の純ちゃんと後はデコ村のりっちゃん!」
梓「王宮の管理職全員じゃないですか。全くもう……でもいつか行ってみたいですね」
唯「うんっ!」
────
それからしばらくは平和な日が続いた。
途中澪にまた決闘を挑まれたり、和の研究の為にメガネ谷まで花を摘みに行ったり、王国の中で買い物したりなどもあったが、基本的には平和であった……。
しかし、未だに憂には会えず仕舞いでいた唯は、ひっそりと仕事を抜け出して憂のいる病室へと足を運んだ。
唯「もしも~し」
シーン……
唯「誰もいませんかー?」
シーン……
唯「憂~?」
シーン……
唯「いないのかな? よいしょっと」
中庭に面した病室の窓から中に侵入する。
唯「憂~? どこ~?」
そう、ここに憂はいない。
では肝心の憂はどこに言ったのかと言うと……。
憂「」ニコニコ
純「はあ、またあんた抜け出して来たの?」
憂「」コクコク
純「まあいいけどさ。私も暇だしね~。あんたが来た時に降った雨以来降らないからさ。百合も元気いいよ」
憂「」ニコニコ
純「……///」
純「あんたがそうやって笑ってるだけで何かこっちまで嬉しくなるよ。何がペロペロだよ。あんたの笑顔の方がよっぽど平和に繋がるっての」
憂「」フルフル
純「そんなことないって? まあ現にペロペロさせて戦争を止めたって言うんだからバカには出来ないけどさ。
それでも私はあんたの笑顔の方が好きだよ」
憂「」ニコニコ
純「ん? ういって呼べ? ……わかったよ、憂」
純「憂、お姉ちゃんには会わなくていいの?」
憂「……」
純「会ったらいいじゃん。きっと唯さん憂のこと心配してるよ」
憂「……」
純「会って、また、心配かけたくない?
私のことは、忘れてほしい?」
憂「」コクリ
純「はあ……そんな独りよがりな考え方してちゃ駄目だよ?」
憂「?」
純「人はね、自分が良くってもそれが相手に伝わらなきゃ駄目なの。わからないの。
だから唯さんが憂のこと気にかけてる以上憂にはそれをどうするかちゃんと言わなきゃいけない義務があるの」
憂「……」
純「勿論全く興味がない人間どうしならそんな義務ないよ? というよりこんな話にもならない。
けどさ、二人は姉妹なんだから。お姉ちゃん好きなんでしょ?」
憂「……」コクリ
純「じゃあちゃんと会って言いたいこと言いな。お姉ちゃんの為にも、憂のためにもね」
病室
唯「憂や~い。出ておいで~」
紬「憂ちゃんならお出かけ中よ」
唯「あ、へんなまゆげの人!」
紬「紬よ。ムギでいいわ。よろしくね唯ちゃん」
唯「よろしくムギちゃん! それで憂がどこ行ったか知らない? ずっと会ってないから会いに来たんだぁ」
紬「……唯ちゃん、ちょっとお話をしましょう」
唯「でも憂が」
紬「待ってたらきっと帰ってくるわ。それに憂ちゃんのことについての大事な話だから」
唯「……うん、わかった」
紬「唯ちゃんはペロペロ病についてどれぐらい知ってるの?」
唯「……昔長老様の本でちょっと読んだぐらいです」
紬「そ……。知ってるとは思うけどペロペロ病はかなりの難病よ。
一度かかって治ったって記録はないわ」
唯「だから諦めろって言うんですか? 憂を」
紬「……正直に言うわ。憂ちゃんは持って後数日。というより今までが奇跡的過ぎたのよ。
三年も生きられたことが……」
唯「……あの時憂を助けてくれたことには感謝しています。だから私はこうして恩返しに働いてます。
でも……そんな諦めてしまったような言い方をするあなたのこと、嫌いです」
紬「嫌われてもいいわ。それが仕事だもの。
ただ現実は理想のようにはいかないわ。それを知ってもらいたくて話したの」
唯「……憂は死ぬんですか?」
紬「……可能性は高いわね。もう壊死がかなり進行してるわ。
あのままだと後数日で喉から腐りだして苦痛の中で死んで行くでしょう……」
唯「そんな……ことって……」
紬「それが嫌なら安楽死をお勧めするわ。毒薬を注射すれば眠るように逝ける」
唯「そんなことさせないっ!!!」ガバッ
紬「唯ちゃん……くるし……」
唯「もし憂にそんなことしてみろ……殺すから……全員……この王宮の人達全員っ!!!」バッ
紬「っはあ……はあ……ならあなたは憂ちゃんに苦しんで死ねと言うの!?」
唯「違うっ! 憂は私と生きるんだ! ずっと一緒に!」
紬「甘えないで! 言うだけなら誰でも出来るわ! 唯ちゃんはただ嫌だからって駄々を捏ねてるだけよ!」
唯「それでも……私は憂と一緒にいます。安楽死なんてさせないからっ……!」タッタッタッ……
紬「唯ちゃん!!!」
紬「……はあ。憎まれ役は大変よね、梓ちゃん」
紬「もっとも梓ちゃんはこの非じゃないけど……ね」
紬「どうしても死なせたくない……。なら、もう………私達で…………」
紬「……ごめんね、唯ちゃん。これも憂ちゃんの為なのよ」
百合園
純「じゃあ次会ったらちゃんと言うんだよ?」
憂「」コクコク
純「ありがとう? ううん、どういたしまして」
純「じゃあ私はこれで」
憂「」フリフリ
王宮の中に戻って行く純に笑顔で手を振りながら見送る憂。
憂「……」
どこか視点を落としたまま、憂もゆっくりと歩き始めた。
「うううううううううううううううう」
憂「!?」
火事が起きた時に知らせる為の音のような声が聞こえる。
「いいいいいいいいいいいいいいいい」
憂「!!?」
その声はどんどん憂に近づいてくる。
唯「どびっしゃ~んっ!」ぎゅむ
憂「んむ」
抱きつかれた衝撃で音に近い声が漏れる。
唯「会いたかったよぉ~妹よぉ~」スリスリ
憂「……」
ただされるがままに頬擦りされる憂。しかしどこか嬉しそうな表情だった。
唯「うい? 寂しかった」
憂「……」フルフル
唯「えぇ~……」
憂「……」
唯「寂しかったのはお姉ちゃんだけじゃない? って? 憂も言うようになったね!」
憂「……」コクコク
唯「もう子供じゃないんだからって? そっか、憂もう17だもんね……私の方がずっと子供だよね」
憂「……」
唯「憂。また一緒にあそこに戻ろ」
憂「……」
唯「ここにいたら何されちゃうかわからないから。ね?」
憂「……」
唯「帰るなら自分一人で帰って……って?」
憂「」コクコク
唯「……そんなこと言わないでよ。私は憂の為に……」
憂「……」
唯「ここなら食べ物にも困らないし食べやすい料理をわざわざ作ってくれる? 食べやすい料理か……私も頑張るから一緒に帰ろ!」
憂「……」
唯「それだけじゃない? ここは雨漏りもしなくてベッドも綺麗でよく眠れる?
そう来ましたか……う~ん……なら帰ったら屋根とベッドを改装しよう!
お姉ちゃんうんといいの作るから! ね?」
憂「……」
唯「……ここならもうお姉ちゃんに頼らなくていいから……お姉ちゃんの機嫌伺うことなくていい?」
唯「……憂、それ本気で言ってるの?」
憂「……、……」コクコク
唯「……そっか。ならもう私は好きにしていいんだね?」
憂「……」
唯「お姉ちゃんのやりたいことして、好きに生きたらいい? 私のことはほっといて?」
唯「わかったよ、憂。そこまで言うなら好きにさせてもらうからねっ!」
憂「……」
唯「……」
憂「……?」
唯「……」フンスッ!
憂「……」
唯「なにやってるのって? 当然好きにさせてもらってるんだよっ!」
憂「!!」
唯「憂が私を嫌いでも、私は憂が好きだから。やっぱり離れられないよ。
嫌われたら、また仲良しになるまでずっと側にいるもん。絶対いるもん」
憂「……ぉねぇひゃん……」
唯「だから一緒に帰ろ、憂。二人でゆっくり暮らそ? ね?」
憂「…………」
唯「憂じゃない、私が憂に側にいてほしいの。これは私のわがままなの。憂はそれに付き合ってくれたらいいの。
迷惑かけてるなんて思う必要ないんだよ!」
唯「憂、大好きだよ。一番一番、大好き」
憂「……」コクリ
必死に涙を堪えながら、憂も頷いた。
こうして、二人はあの家に帰ることにした。
もう一度、二人で暮らすことを夢見て。
その夜、唯は一足早くあずにゃん王国を抜け出し、我が家へと足を運んでいた。
最終更新:2011年05月09日 03:11