デコ村 見張り台

律「動きは?」

聡「いや、特にないよ。でも明かりが消えてる。この時間ならいつもはつける筈なのに」

律「今の間に罠を仕込んでるんだろう。一応平和を謳ってるんだ、あっちから攻めてくるってことはないだろうが警戒はしといてくれ」

聡「あいよ」

律「……聡、怖いか?」

聡「ああ。死ぬかもしれないしな」

律「逃げてもいいんだぞ? お前はまだ若い、これからもっと色々なことをして……」

聡「姉ちゃんだって若いだろ。それに姉ちゃんおいて逃げれるかよ。
たった二人の家族だろ。それに……」

律「……ああ、父さんと母さんがペロ跳ねされてからずっと待ってた……いつか復讐してやるってさ」

聡「やっと来たんだよな……やっと」

──スッ

律「」

聡「姉ちゃん後ろ!」

律「なっ……!」

律が気づき、腰にあるナイフを抜こうとするが、その上に手を添えられる。

律「(なんて力だ……全く動かせないっ)」

突如現れた侵入者に焦りもがいていた律だったが声を聞いてそれが止まる。

唯「りっちゃん、私だよ。唯だよ」

律「ゆ、唯?」
唯「うん。久しぶり。聡君も」
聡「唯さん……てっきり王国側についたのかと」

唯「ううん。私も二人と一緒に戦うよ。憂の仇を取るために……」

律「そうか……ならもう何も言わない。一緒に戦おう、唯。
憂ちゃんの弔い合戦だ」コツ
唯「ありがとう、りっちゃん。やっぱりりっちゃんが一番の友達だよ」コツ

拳を合わせ、協戦を誓う。
戦争はいよいよ明日に迫っていた。


翌朝、王宮

大広間には王宮に仕える全人口が集まっていた。
壇上に上がった国王が辺りを見渡した後、言葉を発する。

梓「皆のもの……ううん、皆さん、聞いてください」

ざわざわ……ざわざわ……

梓「今日は国王としてじゃなく、平和を求める一人として皆さんにお願いします」

ざわざわ……ざわざわ……

澪「梓……」

梓「今このあずにゃん王国は未曾有の危機に晒されています。それを招いたのは他でもない私です」

ざわざわ……! ざわざわ……!

紬「梓ちゃん……」

梓「しかし、それは他の危機からみんなを守る為に取った行動が誤解に繋がっただけなんです。
信じてくれはとはいいません……けど、私はこのあずにゃん王国を、世界を、守りたいんです」

和「第二次ペロペロ大戦を終わらせたのは他でもない梓よ。私達はその奇跡を信じて彼女についてきたんでしょう?」

ざわざわ……ざわざわ……

和「なら最後まで信じましょう。梓を、この国の国王を」

…………

澪「もう一度奇跡を、平和を、梓なら起こしてくれる!」

…………!

紬「その為にみんなで協力しましょう! 私達は今から戦争をするんじゃないわ! そのことだけは忘れないで!」

おお……おおおおお……

おおおおおお……おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

もう一度奇跡を!!!
梓様こそが平和の象徴!!!
我々には三騎士がついている!!!

梓「ありがとう……ございます……みなさん」



デコ村

デコじゃない長老「……壮景だな、律よ」

律「はい、長老。私達の為にこれだけの数が集まってくれたこと……私はこの恩を一生忘れません」

デコじゃない長老「開戦の号令、お前に任せる」

律「いいんですか? 長老」

デコじゃない長老「若くて麗しいものがとった方が士気もあがるじゃろうて」

律「そんな……」

デコじゃない長老「心配せんでええ。律、お前さんは誰から見ても立派に、綺麗に育ったわい。産んだあやつもあっちで喜んでおるだろう」

律「……お母さん」

律「長老、号令の件、ありがたくお受けします」

律「不肖ながら長老の代わりに開戦の号令に当たらせてもらうデコ村の律だ」

聡「頑張れ姉ちゃ~ん」

律「コホンッ! 私達は愚かな戦いを繰り返して来ました。民族戦争はやがてあの忌まわしき第二次ペロペロ大戦に発展しました……」

律「それを止めたのがあずにゃん王国の国王、梓です。しかしやつもまた私達に偽りの平和しか与えてはくれませんでした」

律「選民と言う名の尊厳殺し、水、食料は管理され、王国では豊かな暮らし……」

律「そして、我々の同士もたくさんたくさんペロ跳ねされ、殺されてきました」

律「私の両親も、そこにいる私の命の恩人、唯の妹も彼女達に殺されました」

ざわざわ…… ざわざわ……

律「だからってわけじゃないです。ただ、私達は平和が欲しい。
誰も殺されず、幸せで、お腹いっぱい食べられる世界が……」

律「私達合村連合が勝てば、そうなると信じています」

律「その為に、力を貸してください」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお
りつうううううううううううううう
デコおおおおおおおおおおおおおお

律「……現時点をもって回答の時刻を過ぎました。よってこれからあずにゃん王国に全面戦争を仕掛けます」

律「全員進軍!!!」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお



「あ~あ。こりゃ負けるわね、おデコちゃん達」

「契約を守らないあっちにつくよりデコちゃん側についてまた次の世代を見守った方が面白いかもしれないわね」

「さて、それじゃ久しぶりにちょっと働きましょうか」

さわ子「ペロの魔術師として、ね」




和「来たわよ! 準備はいい!?」

ガガッ

澪『ああ』

和「追撃はしなくていいわ。あくまで追い払うだけよ!」

澪『わかってる』


和「梓……」

梓「なんですか?」

和「全部終わったら話してもらうわよ。あなた達が私に隠していること全部、ね」

梓「はい。約束します」

和「それじゃ行きましょうか……」

和「あずにゃん王国防衛作戦開始!!!」

律「うおおおおおおお」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

澪兵「なんて数だ……予想外だぞ」
澪兵「やつら正面から突っ込んでくるぞ!!! だ、大丈夫なのか!?」

澪「うちの賢者を信じろ」

澪兵「澪様!」
澪兵「澪様!」

澪「すまない、お前達にはそんな役回りをさせたな」

澪兵「とんでもないです。ここを守れるのなら」
澪兵「死んでも本望ですよ」

澪「ありがとう。でもこれだけは命令しておく」

澪「死ぬなよ」
澪兵「えっ」

澪「遊撃部隊は私と続け!!! 打ち漏らした敵を迎撃する!」

おおおおおおお!!!

澪兵「死ぬなよってさ」
澪兵「ああ。隊長直々にそんなこと言われちゃ……」
澪兵「生きるしかないだろ!!!」

和「第一の地獄、針地獄へようこそ……安心しなさい、死なない程度に設置してあるから」


うあああああああああああああああ

どうしたああああああああああああ

下から針があああああああああああああああ

チクショウおおおおおおおおおおおおおおおお足をやられたああああああああああああ

シュッシュッシュッシュッ

次々に沸き出す針を紙一重で避けていく律。

律「怯むな! これぐらいの罠は想定内だ!
衛生兵!! 怪我をしたものを連れて後退しろ! ここにいたらいい的だ!」

了解!!!!

律「ちっ、唯のやつどこ行きやがった! 独断行動しやがって!」


和「あの黄色いのがリーダー格かしら。左右に展開し出したわね、さすがに露骨すぎたかしら」

ガガッ

和「澪、そこを右、そのまま直進して一個小隊を迎撃後、リーダー格をやるわ。
あんまり時間をかけないで、最悪でも中心部に押し出すだけでいいわ」

澪『わかった』

和「さて、そろそろあっちの本部隊は二の地獄、感電地獄かしら」

和「ふふふ、あなた達にとって未知のエネルギーに戦きなさい」



ビビビビビリリリリビビビビビリリリリリリリするううううううううううう

ああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ


澪「全く……無茶言ってくれるようちの賢者さんは」

ぐあああああ

うほおおおおおお

澪が通り過ぎる度に敵が地面に伏して行く。

澪「リーダー格は確かこの先か……」

角を曲がるとあっちから走ってくる長い前髪の持ち主を澪が視認する。

澪「あいつか」

和『ええ。出来れば捕まえてちょうだい』

澪「やってみる」

剣を地面に突き刺すと、憮然した態度で立ち止まる澪。

あちらも気づいたのか、周りの隊に止まる号令を出す。

澪「私はあずにゃん王国ペロの三騎士が一人、剣者の澪!
あなたに一対一を申し込む」

律「……(唯より先に出会っちまったか。でも私もこいつには借りがある。二人の舌を跳ねたのはこいつだろうしな……)」

律「デコ村の斬り込み隊長の律だ。受けて立つ」


律は短剣、澪は長剣での戦い。

一見長い長剣が有利に見えるが懐に入れば逆に短剣が有利な為まさにどちらも一長一短の戦いだ。

律が様子を伺うように澪の周りをゆっくりと回る。

澪はただそれを目だけで追う。

律「っ!!!」

次の瞬間律が駆ける。

澪「!!!」

それに呼応し澪を長剣の切っ先を律に向け、迎撃体勢。

澪「やあああっ!」

走り込んで来た律に水平斬り、しかし屈まれ、髪の毛を数本持って行くだけに留まる。

律「おらよっ!」

律はそのままの低姿勢で潜り込むと澪の足を払いに来た。

澪「くっ……」

見事に足を掬われた澪の体は一瞬中空に留まり、そして重力により落ちる。

律「もらった!!!!」

飛び込むようにしてナイフを澪に突き立てる、が、突き立てたのは黄金の都市の床。

澪は転がるようにして律のナイフを回避するとすぐさま立ち上がり、構える。

澪「やるな」

律「あんたもな」

律がナイフをクルクルと弄んだ後、キッと澪を睨み付け再び駆けた。

律「おらっ!!!」

短剣を数本投擲、

キンッという金属同士がぶつかると出る独特な音がした後、澪の長剣によって短剣が叩き落されたと知る。

律「遅いっ!」

その間を使い既に至近距離まで詰めていた律が素早く短剣を振るう。

澪「」キンッキンッ

それに焦る様子もなく澪は淡々と律の短剣受ける。

律「~っ!」

いつまでも受けきられるのに痺れを切らしたのか集中力が下がり、ほんの一瞬だけ隙が出来る。

澪「もらった!!!」

その隙を逃さずコンパクトに脇を畳み、間接を目一杯曲げ、斬り上げる。

律「うわっ」

それは律の前髪を削ぎ落とし、擦り傷ながらデコに跡を残した。

律「てめぇ……!」

澪「お前は……あの時の」

律「神聖なるデコに傷をつけるとは……!」

律はイライラしたようにいい放つとバックパックのようなものからカチューシャを取り出し、髪型を整える。

律「もう傷ついちまったんだ、なら出しても問題ないか。
あの時は世話になったな、そして両親も……唯の妹もな!!!
次は殺す」

デコを腕で拭うと両手に短剣を構える律。

澪「くっ……」

言葉で気圧されたのか澪の構えが鈍い。

律「おらァっ!」

そこをつけこまれ一気に仕掛ける律。

両手に持つ短剣を体ごと回転させることで素早く、かつ強力に、そして出所がわからなくなる。

澪「くっ……(攻撃を返す間がない!)」

和『澪!!! 急いで中央の部隊に合流して!!! はやく!!!』

澪「そんなこと……言われてもっ!」

律「ははは! こんなもんかよ三騎士さんよ!
これじゃ落とすのも時間の問題だな! 何があずにゃん王国だ!
平和を語った悪魔共が!」

澪「!!! 違う!!! 私達は!!!」

律「なっ……!」

短剣を恐れず無理やり前に出て、肩からの体当たりで律を吹き飛ばした。
その代わりに澪の頬にはざっくりと短剣が斬りつけた跡が残る。

澪「ただ平和を守るためにこうするしかなかったんだ!!! お前に何がわかる!!!」

律「このぉ……!」

デコじゃない「律! 中央が開いたらしい!!! 国王を取りに行くぞ!!!」

律「なに!? 本当か!? ちっ、あんたは唯にくれてやるよ!
私は国王をもらう!!!」タッタッタッ……

澪「まっ……ぐっ……少し深いか」ガクッ

頬の傷に手を当てながら顔をしかめる。

和『早く!!! 今私達の隊も降りて戦いに参加するわ!!!
梓は絶対守るわよ!!!』

澪「それよりなんで中央が破られたんだ! 自慢の罠は!?」

和『予想外だったわ……まさかあっちにペロの魔術師がつくなんてッ!』

澪「なんだと……?」

王宮の奥から岩が雪崩れ落ちてくる。

さわ子「それ~」ペロペロ

しかしさわ子が一舐めしただけでそれは減速、ゆっくりとゆっくりと地面に落ちてきた。
こんなものに当たるのはせいぜい蟻ぐらいなものだろう。

さわ子「さ~みんないよいよ王宮よ。頑張りなさい」

うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

なんだあのお方は!!!!!!!!!!

あの人こそ我々に勝利をもたらす女神に違いない!!!!!!

さわ子「なかなかわかってるわね」

斎藤「あんたまで出ばって来るとは、本気で落とすつもりだな、ここを」

さわ子「あら。あんたまだ生きてたの? しぶといわね」

斎藤「生憎な。この歳になってまでペロらなきゃならんとは……人と言うものはとことん愚かな生き物だな」

さわ子「なに人間やめたみたいな言い方してんのよ」

斎藤「本当にやめたあんたがそれを言うか」
澪兵「ここは一歩たりとも通さん!!!」
澪兵「澪様の為に!!!」

斎藤「邪魔だ、どいてろ」ペロリッ

澪兵「ぐはああああ」
澪兵「ぐほおおおお」

斎藤「若造が、身の程を知れ」

さわ子「あんたも相変わらずね」

斎藤「まあ雇われた身だ、やることはやらせてもらう」

さわ子「儚いものよね、平和なんて。あの子なら本当に統治出来ると思ったんだけど、見込み違いだったかしらね」

王宮に雪崩れ込む合村革命軍達。
もはや勝敗は明らかだった。


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最終更新:2011年05月09日 03:13