和兵「和様! やつらの大半がこの王宮に入り込んでます!!!
中にはあのペロリ斎藤もいるとのことで……まるで赤子を捻るかのようにここへ進軍してきます!!!」

和「まさかペロリ斎藤まで用意するなんて……! 完璧予想外だったわ……。
そもそも予想出来たとしても勝てなかったわね……あの二人が来れば」

梓「……やはり来ましたか、魔術師」

梓「和先輩、全軍に通達してください。私達の負けだと。これ以上いくらやっても両者に怪我人が出るだけですから」

和「でもっ! そんなことしたら!」

梓「大丈夫です。何とか私一人の命で済むよう交渉しますから」

和「梓……」

梓「さよならです、和先輩。学校で色々あなたから習ったこと、忘れません」

澪「くっ!!! お前達!!!」

澪兵「隊長……ご無事で」

澪「なんで……どうしてこんなことに」

澪兵「梓国王を……守って……あげて……ください」ガクッ

澪「……。お前達の意思、無駄にはしないからな」


紬「澪ちゃん!」

澪「ムギ! 無事だったか!」

紬「えぇ、なんとか。あ、傷が……」

澪「大したことないよ。他のみんなに比べたらこれぐらい」

紬「いいえ。これから普通の女の子として生きていくのにこんな傷残したら駄目よ。
すぐ終わるからじっとしてて」

澪「あ、ううん、もう……わかったよ」

紬「……この戦い、私達の負けね」

澪「……」

紬「でも、私達は精一杯やったわ。二つの敵と戦って、頑張ってきた」

澪「でも、負けた。結局守れなかった、みんなを」

紬「そうね……。でも守れたものもあるじゃない」ニコ

澪「……ああ。確かに、な」

紬「はい、出来たわよ澪ちゃん」

澪「ありがとう。ムギ」

紬「じゃあ私は傷ついてる人片っ端から治療していくわね。澪ちゃんは梓ちゃんを守ってあげて、今はもうあなたにしか出来ないことだから」

澪「ああ……わかってる」

澪「……」

澪「ムギ!」

紬「?」

澪「もう会えないかもしれないから、先に言っとくよ。会えて良かった」

紬「うん。私も」

そうして二人は最後に笑い合い、互いの道を行く。

これが自分達の信じた道だと、疑うこともなく。



―――――

和「くっ……トランシーバーがイカれてる! これも魔女の仕業って言うの!?」

梓「……」

和兵「駄目です!!!!!!! 最終防衛ライン突破!!!!!
ここに来ます!!!!!!」

律「一番槍はもらったああああああっ!」

和「くっ! やらせないわよ!」チャキン

律「あんたが賢者の和か! 確かに賢そうだがなぁ!!!」キンッ

和「あっ……」

律「賢さだけで人を幸せに出来ると思うなよ!!!!」

梓「そこまでです!」

律「」ピタッ

律「なんだよ王様。もうあんたが命令出来る時代は終わったんだよ」

梓「はい。終わりました。私達の負けを認めます……だからその最高責任者である私を殺して終わりにしてください。
他の人達には手を出さないでください!」

律「ずいぶんと潔いいな」

梓「お願いします、この通りです……」

律「はっ、今更土下座するぐらいならもっと早くしろよ!!!」ゲシッ

梓「ぐっ」

律「お前のせいでどんだけの人間が死んだと思ってんだよっ!」ゲシッ

梓「かはっ」

律「ただここで皆殺しなんてことしたら私達もあんたらと同じだ。だからあんたの要求を飲んでやるよ、一部な」

梓「じゃあ!」

律「国王梓、他三騎士のみ、公開ペロ跳ねの刑で幕を下ろす。みんなもそれでいいな!」

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

俺達の勝利だ!!!!!!!!!!!!!!

梓「そんな……私だけで……私だけでお願いしますっ! 和先輩達は私の指示に従っただけで」

律「残念だったな、もう決まった。今さっきな」

澪「どけえええええええっ!!!!!」

ザンッ! ザンッ!
うわああああああああああああああ

澪「邪魔だああああっ!!!!!」

ザンッ! ザンッ! ザンッ!
ふおおおおおおおおおおおおおおお

澪「梓国王!!!!」

律「なんだぁ? 今更ナイトの登場か?
遅いよ、もう話は決まった。あんたらの公開ペロ跳ねでな」

澪「そんなこと……させない!」

律「おいおい、周りを見ろよ。一体何人いると思って……」

澪「はあっ!!!」

ザンッ!

ぶふおおおおおおおおおあああああ!!!

律「なっ……」

澪「ここにいる全員倒して逃げさせてもらうよ。国は勝手にするといい。
お前達が真の平和を作れるのなら、私達は喜んで退場してやる!」

律「この場に及んで悪あがきとは……!」

澪「悪いがさっきみたいに手加減出来ないから。梓を守るためならここにいる全員……」

梓「澪先輩っ!!!」

澪「悪いな、梓……。ムギに頼まれたんだ……だからここでお前を殺させるわけにはいかない。それにどうせこのまま捕まっても全員仲良く殺されるだけだ。
なら最後の最後に私に賭けて見てくれないか?」

梓「澪先輩……」

律「ペラペラとよく喋る舌だな!!! 私達の両親同様跳ね飛ばしてやろうか!!!」シュッ!!!

短剣を下に向けて柄を握り、斬り上げる。

澪「っ……!」

それをスウェー気味にかわすと、すぐさま前に向き直る澪。

律「今度とらせてもらう!!! 仇を!!!」

澪「悪いけど、それは出来ない」

澪「ペロ流奥義……」

律「なっ……!」

澪「ペロペ露十字斬り……!」

すれ違い様に鮮やかな鮮血が飛び散る……。

律「か……は……」

梓「まさか……」

澪「大丈夫。殺してはないよ。さ、今のうちに窓から逃げよう!
ペロリ斎藤や魔術師が来たらさすがに私でもまずい」

梓「でも……」

澪「生きて、それからまた考えよう。きっとみんなわかってくれる日が来るから!」

梓「……うん!」

澪が和を担ぐ、周りを牽制しつつもジリジリと窓に体が近づく。

澪「(ここから王宮の屋根に出て……それから屋根裏部屋を使って地下から出ましょう。ムギなら大丈夫、きっと上手く逃げるから」

梓「」コクリ

これから生き延びて、また、やり直せるだろうか、本当に。

わからない、けど……もし、生きられるのなら……私は生きていたい。

ただ毎日を平凡に過ごすだけでいい……そんな平和をまだ掴めるのなら……。

澪「行こう! 梓!」

手が差しのべられる。あの時と同じ手が

あの時もこの手を握り、私は始めた……みんなで平和を探す旅を。

そう願った筈なのに、いつの間にか狂ってしまった歯車、それをまた……戻せるのなら。

梓「私は!」

ザンッザンッザンッ───

澪「あっ……」

梓「澪……先輩?」

目の前にあった道が閉ざされる、真っ赤な鮮血を撒き散らしながら。

唯「行かせるわけないじゃん、ねぇ? あーずにゃん」

そして、窓から、大好きだった唯先輩が降りてきた。
私に終わりを持って来てくれた、、、、、、


コツ……コツ……コツ……。

コツ……コツ……コツ……。

一段一段登って行く。
私達の終わりへと。

コツ……コツ……コツ……。


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


下には大勢の人達が、私達が死ぬのを今か今かと待ちわびている。

両腕を鎖で縛られ、足も同じように拘束されている。

「そこで止まれ!!!」

これは私達四人に向けられた言葉。

そのまま後ろから倒されると、木の板に、紐のようなものがついたもので体を固定される。

「一人づつ行くからな。楽しみにしてろ」

恐怖を煽るようにして発せられる言葉。
誰だろう、この人。名前も知らない人に殺されるなんて、ちょっと残念だ。
唯先輩なら良かったのに……。


多分後、数分で私の命は終わる。

それまでに、少しだけ昔を思い返してみよう。

何が間違っていたのか、どうしてこうなったのか……わかるかもしれないから。


────

私はツインテール村に生まれたごく普通の女の子だった。

村の中で当たり前に遊んだり、食べたり、寝たりしていた。

外は争いが絶えないらしいけど、中立を保っていたツインテール村は至って平和だった。

そんなある日、村の中に学校というものが出来た。

多くを学び、これからに役立てようという名目で建てられた学校には私のような子供がいっぱいいた。

その中で出会ったのが、和先輩、ムギ先輩、そして、澪先輩だった。

梓『(他の村の人もいるんだ……なんか新鮮)』

澪『隣、いい?』

梓『は、はいっ』

澪『私は澪。見ての通り髪長族だよ。種族は違うけど同じところで学ぶ仲だ、よろしくね』

梓『梓です! よ、よろしくです!』

和『和よ。眼鏡族ね。よろしく』

紬『紬です。ムギでいいからね。まゆげー族よ』

三人ともこの紛争で両親を亡くし、身寄りがないところをこの村の村長さんに呼ばれたそうです。

三人は学校に住んでいました。
他に家がないので、仕方ないと笑って言ってたのを覚えています。

私は度々家から色々なものを持って行き、夜遅くまで三人と一緒にいました。

澪『綺麗な髪だな、梓』

澪先輩は優しくて。

紬『いつもありがとう梓ちゃん』

ムギ先輩は暖かくて。

和『でも明日の学校の宿題は自分でやりなさいよ?』

和先輩は賢くて。

私は三人からいっぱいいっぱい思い出をもらいました。


でも、第二次ペロペロ大戦が勃発し、私達の村も容赦なく戦争に巻き込まれて行きました。

当然学校はなくなり、大人達は仕方なく武器をとりました。
生きるために。

それでも村長さんは澪先輩達を殺したりはしませんでした。

ここにいるよりは元の村に帰った方がいいと言うことで、私達はまたバラバラになることになりました。

和『みんな……元気でね』
紬『うんっ……また絶対一緒に学校行こうね』
澪『ああ、約束だ。平和になったらまた四人で学校行こうな』

梓『絶対です。約束ですからね……』

そして、とうとう戦争に行ったお父さんも帰って来なくなりました。
さらにツインテール村は焼き討ちに合い、家にいて逃げ遅れた母は……焼け死んだ。

私は三人が帰って来るのを学校で待っていた為に命だけは助かりました。

けれど……後はもう何もありませんでした。

あてもなくただフラフラと歩き、空腹で力尽きて倒れました。

梓『なんで……どうして……平和にならないんだろう……』

死ぬ間際、そう呟く。

その時だった、あの声が聞こえたのは。

さわ子『それはね、平和が大嫌いな人がいつもそれを壊しに来るからなのよ』

梓『平和が大嫌いな人……?』

さわ子『平和は全員が守らなければ成り得ないけど、戦争は一人でも壊すものがいれば起こりうるわ。その一人が、平和が大嫌いな人なの』

梓『そんなの……じゃあ絶対平和は来ないじゃないですか』

さわ子『そうね。多分これから先何千年立っても人々は争い続けるでしょうね』

梓『……そんなこと……駄目です。そしたら……またみんなで学校行けなくなっちゃいます』

さわ子『……欲しい? 平和が』

梓『……はい』

さわ子『平和の代償は勿論ただじゃないわ。
どんなにあなたが苦しむことになっても構わないかしら?』

梓『……このまま死ぬぐらいなら、私は……』

平和の為に、みんなの為に死にたい!!!

さわ子『契約成立ね。これであなたは自らを差し続ければ、未来永劫の平和を手に出来るわ』

梓『……?』

さわ子『あなたを舐めたものは争いなんてしなくなる。ただ普通の生活を当たり前に送ってくれるわ』

梓『……舐める……?』

さわ子『そう。この世界じゃペロペロは磨けば戦争にも使えるし、また日常的にもされていることだから』

梓『どうすればみんなに……舐めてもらえるんでしょうか?』

さわ子『さあ? それは自分で考えなさい。ただあなたは平和の為にその体を犠牲にして生きなさい。
それが平和を祈ったものの重みよ』

さわ子『じゃ、そろそろ行くわね。この紙に色々条件も書いておいたから。破ったら取り立てちゃうわよ?』

そう言い残して、彼女は消えた。

私にペロられを与えて。

私はその足ですぐさま戦場に行き、両陣営がぶつかる丁度真ん中で……降り頻る雨の中、思い切り大声で叫んだ。

梓『本当にあなた達は争いたいのか!!!??? 本当は平和が欲しいんじゃないのか!!!?』

初めは誰も聞いてくれなかった、でも、諦めずに声を張り上げた。

梓『平和が欲しいなら私をペロれ!!! 私こそが平和の象徴です!!!』

何度も何度も殺されそうになりながらも、自らをペロらせることによって一人一人戦意を奪っていった。

その情報は瞬く間に戦場を駆け巡り、そしてとうとうそこで争っている三民族の長達に、自らをペロられせることに成功した。

そして戦争は終わった。
本当に何事もなく、ただ、終わったのだ。


そうしてまた私達は再開した、半壊したツインテール村の学校で。

澪『驚いたよ、梓がうちの村長を納得させたって聞いて』

紬『私の村長もよ』

和『どんな手品使ったの?』

そこで私は話した、自らを差し出すことで平和を継続出来ることを。

魔術師については黙っていた。渡された紙に能力を誰かにもらったと言ってはいけないと書いてあったからだ。

和『にわかには信じられないわね……』

紬『でも梓ちゃんは本当にあの三民族を平和にしてみせたわ』

澪『ああ。もしかしたら長く戦争ばかりだったこの世界に平和が訪れるかもしれない』

そして───

私達は誓い会った──

和『どうやってペロらすかは私が考えるわ。
そうね、今戦争を引き起こしてる張本人、あの金ぴかの王宮に住んでる王様には退場してもらって私達が新たに国を仕切るなんてどうかしら』

いつもスケールが大胆な和先輩。
その時はただの笑い話だったけど、その数ヵ月後それは現実のものとなる。
そしてその更に数年後……今に至る。

紬『私は戦争で傷ついた人達を治療したいわ』

暖かくて優しいムギ先輩。最後まで敵味方分け隔てなく治療してくれたと聞いて、私は涙を流さずにいられなかった。
誰よりも誰かを助けたムギ先輩……それがこんな形で恨まれるなんて……本当にごめんなさい。

澪『私はみんなを守れるように強くなりたい……誰よりも』

優しくて、カッコ良くて、真面目な澪先輩。
戦争で親をなくした者達を集めて剣の修行をし、みんなを守る為に戦った。

和『剣を持つってことは誰かを殺すってことよ、澪』

そんな和先輩の小難しい質問にも、澪先輩ははっきりと答えた。

澪『私の剣は誰も殺さない。約束するよ、みんなと』

そしてその約束は、今現在も守られている。

手が差しのべられた。
三人から、私に。


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最終更新:2011年05月09日 03:14