「言い残すことはないか? 賢者の和」
和「……」
和『一緒に平和な国を作りましょう、梓』
和先輩……。
和「梓。私はあの時交わした約束を後悔してないから。
束の間の平和だったけど、次は必ず未来永劫の平和を実現させてみせるわ」
梓「和先輩……」
涙で視界が曇る。
もう彼女を見られる最後の機会なのに、手が使えないから拭うことも出来ない。
和「じゃあね、みんな。先にあっちの世界が平和なのか確かめてくるわね」
────バシャッ
「あんたは出来れば殺したくはなかった……紬さん」
紬『みんなで力を合わして誰もが平和で苦しまなくて済む世界を作りましょう……梓ちゃん』
ムギ先輩……。
紬「その気持ちを次の平和に向けてね。もう誰も殺さないで、約束よ?」
「ああ、約束する」
紬「梓ちゃん。きっとみんなは気づいてくれるわ、私達がやって来たことに。だから心配しないで」
梓「ムギ先輩ぃっ……!」
最後までこの人は、笑顔だった。
紬「次生まれて来るときは、梓ちゃんのお姉ちゃんがいいな」
────バシャッ
「剣者の澪もこうなると可愛いものだな」
澪『私は梓達を守る。だから梓は平和で世界を守ってくれ』
澪先輩……。
澪「ああ~学舎に集いし我ら~」
「な、なんだ? 気でも狂ったか?」
梓「その歌は……」
澪「見た目や性格も違うけれど、学ぶ心は同じさ~」
梓「ああ~我ら~よ、永久に、あれ」
澪「ああ~我ら~よ、平和で、あれ」
梓「校歌……覚えてたんですね」
澪「忘れるもんか。また学校行くんだろ? 一緒に」
梓「はい、絶対に……絶対に行きましょう!」
澪「ん。待ってる。平和な世界で、梓達みんなと学校に行ける日を」
────バシャッ
「国王、最後はあんただ。覚悟はいいか?」
梓「……」
梓「みんなで、この世界を平和にしましょう」
梓『みんなで、この世界を平和にしましょう』
「あ? なにいってんだか……それは今から俺達が作っていく。
壊したあんたの後始末をしてやるよ」
もう、何も言い残すことはない。
後は、唯先輩……。
あなたにすべてを託します。
すべてを知っても、やっぱりあなたは私達を許さないかもしれません。
それでも……。
梓「やっぱり大好きでした、唯先輩」
次会うときは、わかり合えるといいな。
────バシャッ
律「終わったな……」
唯「うん……」
律「人が死ぬのを見るのはやっぱり嫌なもんだな。私が言ったこととは言え」
唯「仕方ないよ、けじめだもん。他に任せてたら王国の全員がペロ跳ねされててもおかしくなかった」
律「お前、仲良かったんだろ? あいつらと」
唯「……ちょっとだけ、ね」
律「……正直な話な、お前の妹さんが殺されたこと利用させてもらったんだ。
この世界を変えるための火種になってもらった」
唯「酷いね、りっちゃんは」
律「ああ、酷いさ。けど、そうしないと変わらなかった。実際弔い合戦ってのは本当だったしな」
唯「そっか、まあいいよ。終わったことだもん」
律「まあ、な」
律「これからどこ行くんだ?」
唯「わかんない」
律「優しい村の村長さんが戻って来ないか? って言ってたぞ」
唯「移らない病を私達のせいにして追い出したところにわざわざ戻りたくなんてないよ」
律「そっか。ならデコ村に来るか? 楽しいぞ」
唯「やめとくよ、おデコ出すのはちょっとね」
律「ははっ、言ってくれるな」
唯「じゃあね、りっちゃん。聡君にもよろしく」
律「ああ……また遊びにこいよな、絶対。デコカレー作って待ってるから」
唯「いいよ、別にあれ美味しくないから」
律「やっぱり? 私も最近そう思ってた」
手を振る、と言う行為は相手に自分の気持ちを伝える一番のジェスチャーが採用されているらしい。
手を左右に大きく振りながら唯を見送る。
律「またな~唯~」
唯は、それを見て、ほんの少しだけ手を振り返してきた。
どうやらまだまだ気持ちが足りなかったようだ。
次はもっと大きく手を振る。
律「またな~!」
すると、唯も大きく手を振り返してきた。
伝わったのだろうか、私の思いが。
たった一人の友達、多分それは今失った。
唯はもう帰って来ない、それは唯の気持ちがさっきので私にわかったからだ。
律「じゃあな、唯」
いなくなった友達に、何度目かのさよならを告げた。
律「ペロペロ」
それにしても、舌がムズ痒い。
誰もいない王宮を一人歩く。
きらびやかだった黄金の王宮は戦闘によりボロボロに傷ついていた。
何故ここに来たのか、それはあの人に言われたから。
全てを知りる権利があると言われたから。
唯「さわちゃんが言ってたのは確か……」
更に奥に進む。
いつか純ちゃんが私と憂を抜け出させる為に用意してくれた道、その反対側に地下へと降りる道がある。
カチャリ、という音がし、錠が落ちる。
この鍵も、さわちゃんからもらったものだ。
更にその奥へと進む。全く光のない、暗闇の中に。
いつかりっちゃんが言っていた。
舌を跳ねた後に縫合し、地下牢に閉じ込める……そんな噂があると。
確かに言っていた。
私はその時はただ怖いな、と思っていた……。
でも、もしかしたら……本当は違うのかもしれない、と、今になって思うようになった。
わざわざ舌を跳ねるというめんどくさい殺し方……。
ペロペロ病の蔓延……。
選民……。
それらが私の中で繋がって行く。
そして、暗闇の中に光が射した────
キィィィィ
光が漏れ出しているドアを開けると、そこは明るい空間だった。
唯「これって……」
この明るさはあの電気と言うやつだろう。
「あれ? どちら様ですか?」
唯「えっ……」
「すみません。初めて見えた方なので。いつもは澪さんか紬さんか梓国王しかいらっしゃらないもので」
唯「あの、えっと……」
「ここに来たってことは三人の関係者なんですよね?
いや~最近誰も来ないから心配しましたよ。仲間の中で誰か様子を見に行こうってなってたんですが、もしかして誰かにペロペロ病が移っては大変ですから」
唯「……あなたは、もしかして」
「ええ。選民の際に舌をちょっと跳ねられたものですよ。まああの後すぐ治療してもらいましたがね」
舌をべーと出して見せたが、今はそんなに目立っていなかった。
というより、
唯「ほんとにペロペロ病だったんですか?」
「ああ。すっごいペロペロしてたよ」
しかし、その人の舌は私達と同じピンク色だった。
「舌っていうのは案外丈夫らしくてね、人間が噛みきろうとしても出来ないぐらいらしいんだ。詳しくは僕はわからないけどね」
唯「ほんとに……ほんとに……そうだとしたら!」
唯「あ、あのっ! りっちゃんのご両親の方いらっしゃいますか?」
「私だが」
「律のお友達?」
唯「あっ……ああっ……」
詳しくはわからない、けど確かにペロ跳ねされたとされる人達は生きていた、ここに。
いや、もしかしたらそんな話ではない。
これまでの行動全てに何か理由があったと仮定しても不思議じゃない。
それより、舌を跳ねられらものには、他に誰がいた?
けど、澪ちゃんは確かに言った、殺したと。
なら、憂がここにいるわけが……
憂「お姉ちゃん、待ってたよ」
唯「う、い?」
憂「来たのがお姉ちゃんだけってことは……他の三人はもう」
唯「何言ってるの……? わかんないよ……全然……わかんないよ……?」
憂「言えることはね、全部平和の為だったってことぐらいかな」
唯「わかんないよ……憂。澪ちゃんは憂を殺したって……だから私は……!」
憂「助かる確率は低かったから、お姉ちゃんに期待を持たすようなこと言いたくなかったんじゃないかな」
唯「そんなので納得出来ないよ!!!」
唯「普通に死んだって言えばいいじゃない!!! なら私は澪ちゃんにあんなことすることなかったのに……!」
憂「ううん、違うよお姉ちゃん。もしあそこで澪さんが私が死んだ事実だけを述べたら、お姉ちゃんはきっと自分を責めたよね?」
唯「っ……」
憂「そしてあそこで澪さんがお姉ちゃんを優しく慰めたら、多分お姉ちゃんは王宮の味方をしたんじゃないかな。
私や私を最後まで看取ってくれたみんなを守るために」
唯「だからって……」
憂「巻き込みたくなかったんだよ。私達を。本当にただそれだけだったんだよ」
唯「なんで……どうして……みんな……言ってくれなかったの」
憂「これ、梓ちゃんにいつかお姉ちゃんが来たら渡してくれって頼まれてたの」
唯「ノート……?」
唯はその1ページ目を開く。
そこには幸せそうな四人が描かれた絵があった。
2.3ページ目へ。
どうすればあずにゃんをペロペロさせることが出来るかなどの案が様々にあげられていた。
そして、選民のところにニジュウマルがされている。
4.5ページ目へ
王様を追い出した後、小さな村に移住させる計画が事細かにかかれていた。
これは王様からの、願いでもあったらしい。
6.7ページ目へ
たくさんの王国の名前があげられていた。
梓大合州国×
ペロにゃん王国△
梓と子リスさん達の国?
あずにゃん王国○
8.9ページ目へ
王の格式はなんたるか、や、剣士の心得、仮にも人を従えるものとしての対応など、色々難しいことが書いていた。
10.11ページ目へ
この頃から忙しくなったのか、書かれていることが疎らになっている。
最初ビッシリ文字を埋めていた綺麗な字の持ち主は、いなくなっていた。
そして、12.13ページ目へ
ペロペロ病について
唯「これだ……」
私はそれを瞬きもせずに目に映す。
平和な世界が続いていく中、突如この辺りで蔓延しだした病気、それがペロペロ病だ。
一度かかると治ることがなく、ただペロペロし続け、最後には死ぬという恐ろしい病気だ。
もしかしたら、私をペロペロし、平和を得る代わりの副作用なのかもしれない。
なら、どうしたらいいのか?
このまま諦めて世界を投げ出すくらいなら、私達はその病気と戦って行こうと思う。
紬が言うにはペロペロ病には憂草が効くそうだ。
それを煎じてみんなに飲ましてみよう。
すぐさま他のペロペロ病について書いてるページを探す。
唯「あった……18ページ目」
このところ、ペロペロ病の患者が増えてきた気がする。
ペロペロ病の人は、他の人と舐め方が異なることが最近わかってきた。
これを利用してペロペロ病の人にだけ何か治療が出来ればいいんだけどな。
唯「……選民は二重の意味があったんだ……!
一つはあずにゃんを舐めさすこと、もう一つはペロペロ病の患者をみつけること」
唯「でもどうしてペロ跳ねなんて荒っぽい真似したんだろ……ちゃんと言えば……」
次のペロペロ病については、24ページ目だった。
とうとう、ムギ先輩がペロペロ病の治し方を見つけた。
早速それを選民の時に見つけたペロペロ病患者に話してみた……しかし、これを断固拒否。
それはそうかもしれない。なんせこの治療は舌の一部を直接切り取るという恐ろしいやり方なのだから。
しかし、本人の了承なく手術(ムギ先輩が名目)をすることは出来ない。
しかし、放っておけばペロペロ病の患者は増え続け、このままだとどちらかを捨てなくてはならなくなる。
私が作った平和か。
私達の体裁か
なら、そんなもの捨てる方は決まっているだろう?
唯「……」
最終更新:2011年05月09日 03:15