25ページ目

平和を脅かす為と称して、ペロ跳ねという舌を落とす残虐な見せしめを考案した。

これならば、否定することも出来ず舌を差し出すしかない。

澪先輩の腕は誰よりも信じてますから、大丈夫ですよね?>ああ、任せとけ

ちょっとだけ痛いかも、いや、凄い痛いかもしれないけど……死ぬよりはいいはず。

そう信じて、私は今日も悪い国王を演じます。


26ページ目

最近私をペロペロしてもただ反感を表す人が増えてきた。

ムギ先輩の話では水と豊富な食べ物がある場所とそうでない場所とではその差が何倍もあるらしい。

多分私の体を舐めた後、飲み食いする内に効力が下がってくるのだろう。

申し訳ないとは思いつつ、その村の食料や水を王国が管理することにした。
デコ村と言うらしい。
可愛い名前なのに、ごめんね。


もしかしたら、私の力がなくなってるのもあるかもしれない……。


パタンッ……

唯「」

憂「もういいの?」

唯「うん、みんながどれだけ平和の為に色々犠牲にしてたのかは痛いほどわかったから」

憂「でも、最後にここだけは見て」



65ページ目

唯先輩が王宮入りしてくれた!
妹さんの具合は良くないらしいけど、きっと治して見せますからね!

でも唯先輩の妹さんの舌を跳ねるなんて……出来ないよぉ……。

ムギ先輩は飲み薬で何とかしてみるって言ってたけど、もしどうしてもって時になったら……。

そして次のページに、

唯「私とあずにゃんの絵……」

唯「うっ……うぅっ……」

唯「ごめんなさい……あずにゃん……ごめんなさい……」

泣きながらただ謝ることしか出来なかった、だってもう……みんなはこの世界にいないのだから。

憂「お姉ちゃん、忘れないで」

唯「うんっ……うんっ……」

憂「誰よりも平和の為に頑張って、みんなに責められても……みんなを守るために続けて、自らを犠牲にし続けて来た人達のことを」

唯「うん……、絶対に、忘れないから」

憂「私も、忘れないよ。みんなのこと」

唯「……憂、私行かなきゃ。あずにゃん達にお別れ言ってないから」

憂「そっか。じゃあ行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

唯「うん、行ってきます」

夕暮れに染まった処刑台。
そこには誰もいない、あるのはただ死体と化した四つの物だった。

埋葬されないまましばらく見せしめとして晒されるのだろう。

唯「っ……!」

それを見て、ただ自分への憤りしか感じられない。

澪ちゃんに言われた通り、私に悲しむ資格なんてないのだ。

知らずとは言え、彼女達をここに追いやったのは他でもない、私なのだから。

一人一人の拘束を解き、担ぐ。

ちゃんと埋葬してあげるぐらいしか、今の私には出来ない。

ごめんね、ごめんね……。


和ちゃん、ムギちゃん、澪ちゃん、そして……。

唯「あずにゃん……」

この小さな小さな体で、どれだけの重荷を背負っていたのだろう。

唯「もう……ゆっくりしていいんだよ、あずにゃん」

最後にぎゅっと抱き締めた後、ゆっくりと穴に落とし、土を被せていく。

唯「おやすみ、あずにゃん……みんなと仲良くね」


さわ子「結局人間ってやめられないのよね、争いを」

唯「さわちゃん……」

さわ子「それにみんながみんな当たり前に平和が与えられるもんだ、なんて勘違いしてる。
その影にはどれぐらい頑張ってる人がいて、何をしてるかも知らずにね」

唯「……」

さわ子「私が彼女に言ったことは3つ。
私から能力をもらったことを人には言わないこと。
三日に一回は全身をペロペロされること。
そして最後は……」

さわ子「幸せになること」

唯「……」

さわ子「別に平和にしろなんて言ってないの。ただ彼女には幸せになってもらいたかったんだけどね。
私も頑張ったけど万能じゃないから。契約違反でどんどん力が弱まって行ったんでしょうね」

唯「だから……最後に?」

さわ子「そ、取り立てたの。平和になる度あの子は幸せじゃなくなって行ったから」

唯「そんなの矛盾してるよ! 平和になる能力を与えておいて、幸せにならなきゃ取り立てるなんて……」

さわ子「それもおかしくないかしら、唯ちゃん。
平和になればその人は幸せになれないの?」

唯「えっ……」

さわ子「じゃあそれは何のための平和なの?
教えて、唯ちゃん」

唯「……」

さわ子「わからないわよね。私が何百年追ってもわからないんだもの」

さわ子「だからやっぱりね、平和ってものは一生来ないものなの」

唯「ううん、違うよ、さわちゃん」

唯「確かにあずにゃん達はこの国に平和をもたらしたんだ……短い間でも……それは確かにみんなの胸に残ってる」

さわ子「そんな証拠どこにあるのかしら?
一人一人の心の中でも見たの?」

唯「見なくてもわかるよ。一週間後、ここに来てみて。そしたら嫌でもわかるから。
私にはその自信がある」

さわ子「いいわ、一週間後ね。何がどうなってるか楽しみにして待ってるわ」



そして、一週間後──


さわ子「……はは、やられたわね」

前までは何もなかったただの土の上に、しっかりと墓標が立てられていた。

その周りには、まるで花畑が引越ししてきたかのような量の花達が並んでいる。

唯「遅かったね、さわちゃん」

さわ子「あなた、あっち側に全部バラしたでしょう?」

唯「えへへ、バレちった。まあそれだけじゃないんだけどね。
第二次ペロペロ大戦を終わらせたのは間違いなくあずにゃんだし、他にも身寄りのない人達をバンバン王国に入れてたらしいからね。
そのことを覚えている人もいるんだよ、ちゃんと」

さわ子「全く……。でもまあ、いいわ。これだけ報われたら、彼女達も幸せでしょう」

唯「……確かにあずにゃん達にも失敗はあった。ちゃんとみんなで話し合えばわかってくれたかもしれないのに。
四人で抱えすぎたんだよ」

さわ子「そうね」

唯「だから、その四人の失敗を無駄にしない為にも、それを次に活かして行かなきゃならないんだよ」

さわ子「そこまでわかっているならもう私は必要ないかしら」

唯「うん。さわちゃんに頼らなかったペロペロ病も発症しないしね」

さわ子「私の性みたいに言わないでよ。あれは平和にするための副作用的なものなんだから。
私だってなくせるものならなくしたいわ」

唯「でももう大丈夫。そんな魔法がなくったてみんながちゃんと平和に生きてくれるよ」

さわ子「そうね。新しい魔法がかかったもんね、゛この子達が進んだ平和への道 ゛っていう魔法が、ね」

唯「もう道を踏み外さないから、ううん……もし踏み外したとしても、私達が残した平和への道が次の世代、次の世代に行って最後にはきっと平和になるから!」

さわ子「そうなると良いわね……」

さわ子「じゃあそろそろ行くわね」

唯「どこに?」

さわ子「さあ、どこかしら。平和にするために色々やってたら不老不死なんかになっちゃって、正直困ってるのよ」

唯「さわちゃんも平和にする為の道を進んだ人だったんだね」

さわ子「まあね。ずっと昔のことだし、たどり着いたのはこんな間違いだらけの魔法だし、本当困ったわ」

唯「じゃあさ、もしいつか平和な世の中になって……当たり前に学校? っていうのに行けて……私達の生まれ変わりみたいな子がいたらさ、先生になってよ! それがあずにゃん達の夢だったから」

さわ子「先生……そうね。もしそんな世界になったら……そうやって生きていくのも悪くないかもね」

唯「約束だよ、さわちゃん」

さわ子「ええ、約束ね」


それからも人々は争い、戦い、殺し合い続けた。

もう終わらしてしまおうかと思った。

あんな約束なんて違えて、自らの命をどうにか絶てないかそんなことばかり考えるようになった。

でも、唯ちゃんや他の子達みたいにいい人もいた。

だから、頑張れた。

ずっとずっと待ち続けた。

紀元前四世紀ぐらいから……今まで、ずっと……ずっと。

そして───


「担任の山中さわ子です。新任だから至らない点もあると思うけど、皆さん一年間よろしくね」

唯「よろしくさわちゃん先生!」

澪「バカッ! さわ子先生だろ!」

律「よろしくさわちゃん!」

紬「よろしくお願いしますしま~す」

和「軽音部、あんまりさわ子先生困らせちゃ駄目よ?」

アハハハハ

私は教師になった。
あの時の約束通り、みんなの。

さわ子「(梓ちゃんは一つズレちゃったけど……やっぱり後輩ポジションに生まれる運命にあると言うことでそのままにしときましょ)」

さわ子「じゃあ皆さん、一時間目の授業は────」

ああ、今日も平和だ。

どうしようもないくらいに。


帰り道

唯「あ~ずにゃん」ぎゅっ

梓「ひあっ! 何するんですかいきなり!」

唯「えへへ~出来心出来心」

梓「出来心で抱きつかれたんじゃたまりませんよ全く」

唯「ではお詫びにこれをあげよう!」

梓「なんですか? これ」

唯「ペロペロアメだよ!」

梓「へー……」

唯「一緒にペロペロしようよあずにゃ~ん」
梓「ちょ、やめてくださいっ」

唯「ペロペロ」
梓「ひゃっ」

唯「……む、どこか懐かしい味がしたような、そんな気が……」

梓「なにバカなこと言ってるんですか! 唯先輩は! もう!
先帰りますからねっ!」
唯「ああん待ってよあずにゃ~ん!」


唯「ペロペロ」
梓「ペロペロ」

唯「こうしてベンチで二人でペロペロアメなめてるなんて……」

梓「なんですか?」

唯「平和だね~」

梓「そうですね」

唯「ずっとこうしていたいね、あずにゃん」

梓「食べ終わったので帰りますね」

唯「もう、あずにゃんいけずぅ~」

そうして私達は家に帰る。
それが当たり前だから。
そんな当たり前も、何かを積み重ねて成ったもの。
この平和も、ずっとずっと積み重ねて成ったものなのだ。

当たり前にあるけど、忘れてはいけない。

唯「平和が一番だね! あずにゃん」
梓「当たり前です」

その平和(当たり前)の大切さを。

おしまい







最終更新:2011年05月09日 03:15