・・・・・
クリス「…へぇ~…恐暴竜としての運命ねぇ…唯も大変だな…」
イビル唯「はい…だから、もうそろそろ私行きますね」すっく
クリス「へ?なんで?どこ行くの?」
イビル唯「え?だってこのままここにいたら、いずれクリスさんを襲っちゃうし」
シュパッ ベチン!(舌ビンタ)
イビル唯「あいてっ!」
イビル唯「…!!」(なに今の…速すぎて見えなかった…)
クリス「ん~??…その発言は…つまりこのアタシがあんたに喧嘩で負けるってことか?」ぎろり
イビル唯「ひっ…い、いや、そういうわけじゃ」びくっ
クリス「あんま舐めたこと言ってっと…毒霧くらわすぞオラ」
イビル唯「え、ご、ごめんなさい」(こ、この人怖いよ)
クリス「なんてな。いいよ。ここにいなよ」にこっ
イビル唯「え…」
クリス「寂しかったろ?今まで1人でさ…」
イビル唯「…」
クリス「城を出てから…人と関わるのを避けてたんだろ?」
イビル唯「 」
クリス「仲良くなっても…喰っちまうから」
イビル唯「 」
クリス「辛かったね…唯」
イビル唯「 」ジワ…
クリス「アタシなら大丈夫だから…ここにいなよ」
イビル唯「う…うぅ…」ポロリ…
クリス「あんたの意識が戻ったあとも…隣にいるって約束する。だからここにいな」
イビル唯「う…うああう…」ポロ…ポロ…
イビル唯「うわああああああん!!!」だきっ
クリス「よしよし…」なでなで
イビル唯「ああああああん!!クリスさああああああん!!!」
クリス「辛かったね…」なでなで
ど く ん !!
イビル唯「あ…」
クリス「!?」
イビル唯「あ…来る…クリスさ…離れ…て」どくん、どくん
クリス「いきなりおでましかい…?本能とやらが」
イビル唯「お…ねが…い…は…なれ…て…」どくん!どくん!!
クリス「さっきも言ったろ?あんたの意識が戻ったあとも…隣にいるって約束するって」
イビル唯「逃げてクリスさん!!!!」ドクンッ!!!!
ぐぎゅぅぅ~~るるるるるるるるる
ゴゴゴゴゴ
イビル唯「ぐるるるるる…」ぼた…ぼたぼた
クリス「すげー涎だな…」
イビル唯「グルルル…」ギロリ…
クリス「けっ!良~い眼だな…ぞくぞくくるぜ」
イビル唯「ガアアアアッ!!!」どしんどしん!
クリス「ふっ!」バックジャンプ毒霧!
イビル唯「グッ…」
クリス「よし、この隙に透明になって…」すぅ
イビル唯「!?」キョロ…キョロ…
クリス「後ろから奇襲だ!気絶させてやんぜ!」ブオッ
イビル唯「 」クルッ
クリス「!?」
イビル唯「ソコガァッ!!!!」噛み付き!
クリス「なにっ!…くっ!」
イビル唯「ガチン!」すかっ
イビル唯「クンクン…」クルッ
クリス「そうか!こいつ匂いでアタシの位置を…」
イビル唯「ガアアアアッ!」噛み付き!
クリス「へっ…腹が減ると感覚が研ぎ澄まされるってわけかい」ひゅっ
イビル唯「ガアアガチンッ!ガチンッ!ガチンッ!」すかっ
クリス「おっかねぇなあこのっ!」げろっ…げげろっ…スタミナ減らし粘液!
べちゃっ…べちゃっ
イビル唯「グッ…グゥウ」
クリス「よし!効いてる!このまm」
クリス「なんだ…!?」ピタッ
イビル唯「グ…グガァウ」ゴゴゴゴゴ
クリス「ッ!」
イビル唯「グオオォオオォアアアアアアァッ!!」もこもこもこ
クリス「おいおい…冗談だろ…」ぞくり
怒りイビル唯「ガアアァッ!すぅ~~~~~」
クリス「やべぇ…!逃げ…」
怒りイビル唯「がああああああああぁ!!!!」龍ブレス!!
クリス「しまっーーーーーー」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
[次の日の朝]
チュン…チュン…
イビル唯「う…う~ん…」ぱちり
イビル唯「はっ!」がばっ
イビル唯「クリスさーーーー」
~~~周囲一帯には、真新しい血と肉片が飛び散っていた。
その中には、紫色の甲殻や渦を巻いた特徴的な形の尻尾も、見てとれた。
そして唯の空腹が、満たされていた~~~~~~
イビル唯「う…」じわり
イビル唯「うああう…」ポロ…
イビル唯「うわああああああああああああああん!!!!」
「あああああああああああああああああん!!!!!」
~~~竜の泣き叫ぶ声が、早朝の森に響き渡った~~~~
・・・・・・・・
[数日後・丘」
イビル唯「…」ぽけー
ゴゴゴゴゴゴ
イビル唯「なんかどんよりした空だなぁ…」
ゴゴゴゴゴゴ
イビル唯「雨ふってくるかな…」
「よぉ、てめぇが恐暴竜だな?」
イビル唯「…ん」ちらっ
「空を見るのが好きなのか?そのナリでよ…」
イビル唯「…人間?」
ココットの英雄「ワリィな…てめぇも生きる為にやってることだろうが…ワシたちも生きてーんだ」シャキン
イビル唯「…そんなちっぽけな武器で…私を殺せるの?」
(なんかこの人…校長先生に似てるな…眼とか雰囲気が)
ココット「いきなりしかけさせてもらうぜ」ひゅっ
ぶしゅっ…ぶしゅっ!!
ココットの英雄の剣が、座ったままの竜の肉体を次々と切り刻んでいく。
イビル唯「…ッ…ッ」(痛いなぁ…)
ココット「けっ…無抵抗かよ…ハンデのつもりかおい」ぶしゅっ…ぶしゅっ
イビル唯「ッ…ッ…」(痛い…クリスさんも…こんなに…痛かったのかな)
ごめん。
ごめんなさいクリスさん。
ここにいなよって言ってくれたのに。
優しく抱きしめてくれたのに。
本当にごめんなさい。
それから…憂。
腕…食べちゃってごめんね。
痛かったよね。ごめん。ごめんなさい。
なんで…本当にどうして私はイビルジョーに生まれてきたんだろう。
どうして。
どうして自分の空腹を満たす為に自分の好きな人を傷つけなきゃいけないの。
どうして好きな人の人生を終わらせなきゃいけないの。
なんで、どうして、なんで、なんで、なんで私なの…
イビル唯「 」ゴゴゴゴゴゴ
ココット「む…」
なんで、なんで私が
イビル唯「………」むくり
ココット「ふんっ、ようやくやる気になったかよ」
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで私が!!
イビル唯「グ…グググ」もこ…もこり…
ココット「む!?」
なんで!なんでなんでなんでなんでなんでなんで
どうして!!!!
ド ク ン !
イビル唯「なんでだぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」もこもこもこもこもこもこ!!
ココット「!?」
怒りイビル唯「グォオオォオオォアアアアアアアアッッッ!!!」
ココット「くくく、それがてめぇの真の姿かよ…」ぞくり
ポツ…ポツ…
ザアアアアアアアアア(雨)
怒りイビル唯「ガアアアアアアアアアアアアッ」ドスンドスンドスン
ココット「雨か…そういや50年前、ここで最強の飛竜[修羅]と戦った時も、こんな雨の日だったな」
~~この50年前の戦いは、最強のハンター、ココットの英雄が唯一獲物を仕留められなかった狩りであり、
そして最強の飛竜[修羅]にとっても唯一獲物を仕留められなかった戦いである~~~~
ココット「ありがとよ恐暴竜よ、こんなに血が滾る狩りは50年振りだぜ」ダダッ
怒りイビル唯「グオオォアアアアアアアアアァッ!!!!」
ゴロゴロッ
ピッシャーン
~この、轟く雷鳴と豪雨の中の闘いは、両者一歩も譲らぬ激闘となった。
しかしおよそ6時間後…『突然の来訪者』の出現により、
決着が付かぬまま終わりを迎えることになる~~~
ザアアアアアアアアア
イビル唯「ぐっ…」はぁ、はぁ、はぁ
ココット「ちぃ…」ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ
イビル唯「はぁ、はぁ、はぁ」(そういえばさわちゃんが言ってたっけ…)
ココット「嬉しいぜ…てめぇみてーのがいてくれてよ…ぜぇ、ぜぇ」にやり
イビル唯「はぁ、はぁ、はぁ」(竜人族は凄く強いって…)
ザアアアアアアアアア
ココット「さて、もいっちょいくかよ」ぐぐ
イビル唯「…ん!?…空からなにか飛んでくる…!?」
ザアアアアアア…パタ…パタパタ
ココット「!?」(雨の音が変わった!?上になにかいるのか!?」がばっ
ココット「な!」
イビル唯「……う………い………」
憂バトリオン「………」バサッ、バサッ、バサッ
イビル唯「憂!!!!」
憂バトリオン「…お…ねえ…ちゃ…」すたっ…ふらふらっ
イビル唯「憂!!!!」だきっ
憂バトリオン「はぁ…はぁ…はぁ」
イビル唯「憂!憂!!!」
(凄く弱ってる…それに…どうして…!?腕も生えてないし、身体中傷だらけだし…なんでこんなに痩せてるの…!?)
ザアアアアアアアアアア
ココット「おいおい…冗談じゃねーぞ」
ザアアアアアアアア
ココット「あいつは…ギルドの上層部しか見れねえ資料に載ってた…煌黒龍ってやつじゃねぇのかい…」
ザアアアアアアアア
ココット「恐暴竜と煌黒龍を同時に相手だぁ…?」
ザアアアアアアアアア
ココット「いくらなんでも笑えねーぜ…」
イビル唯「憂!!憂!!どうしたの!?なにがあったの!?」
憂バトリオン「はぁ…はぁ…ごめんね…お姉ちゃん…結局…祖龍…見つけられなかった…」
イビル唯「そんなの別にいいんだよぉ!なんでそんなに傷だらけなの!?」ポロ…ポロ…
憂バトリオン「はぁ…はぁ…はぁ…」
イビル唯「!?」
(あれ…憂に触ってるのに痛くない…)ちらっ
イビル唯「…!」
(逆鱗が…ほとんど剥がれてる…)
憂バトリオン「はぁ…はぁ…お…姉ちゃん…」
イビル唯「…なに?」ポロ…ポロ…
ザアアアアアアアアア
ココット「…!?」
(なんだ…?あの2頭…様子がおかしい…)
~~~憂がシュレイドを旅立ってからすぐのこと~~~
憂バトリオン「噂によるとどこかの塔の頂上にいるらしいんだけど…」ひゅおおお!バサッバサッバサッ
憂バトリオン「ん?」
アプトノスの群れ「んもー」
憂バトリオン「アプトノスか…ちょっと栄養補給して行こうかな」びゅおっ 降下
バサッバサッバサッ
アプトノス「ん?」
憂バトリオン「 」ストン!
アプトノス「うわああああああああ!」
アプトノス「肉食だ!みんな逃げろおおおおお!」どかどかどかどか
幼アプトノス「わっ」すてーん 転び
母アプトノス「坊や!坊やー!!」
憂バトリオン「…」すた…すた…
憂バトリオン「…」がっ
幼アプトノス「ひっ!うわあああ助けて!助けてママー!!」
母アプトノス「坊や!坊や!」だだっ
父アプトノス「やめろ!お前まで喰われるぞ!」がしっ
母アプトノス「いや!離して!坊やが!」
幼アプトノス「うわあああああん!!」
憂バトリオン「……」(今…楽にしてあげるからね)すっ
母アプトノス「やめてええええええ!家の子を食べないで!いやあああああ!」
憂バトリオン「……」
~~~『眼に映るもの全てを喰らう捕食マシーンとなる』~~
憂バトリオン「……」
~~~『あらゆる生命という生命を喰らい続けるじゃろうな』~~~
憂バトリオン「……」
幼アプトノス「うわああああ助けて!助けてええええ!」
憂バトリオン(神様…もし…私がこの子を助けたら…)
幼アプトノス「うわあああああん」
憂バトリオン(もし…私がもうほかの生命を殺さないと…生命を喰わないと誓ったら…)
憂バトリオン(お姉ちゃんを助けてくれますか…?)
憂バトリオン(お姉ちゃんの代わりに…私がもう生命を殺さないから…)
憂バトリオン(だから神様…どうか…どうか…お姉ちゃんを…)
心のどこかでは…
心の奥底では、分かっていた。
こんなことをしても無意味だと。
こんなルールを作っても何も変わらないと。
しかし、この時の憂の精神状態は…例えるなら、宗教に嵌る者の精神に似ていた。
人生に絶望し今まさに自殺しようとしていた者が、ふとしたきっかけで宗教に嵌り、自殺をやめ熱心な信者になる。
それに似ていた。
つまり…
何かにすがりたかったのである。自分がこれを我慢するから代わりに愛する者が救われる。
そういう愛する者が救われるという希望を抱けるような、支えが欲しかったのである。
生物史上初。
この日、憂は、生きる為に他者の生命を喰らうという、最も基本的な生物の本能を、放棄した。
最終更新:2011年05月15日 22:43