梓「澪先輩なんかも背は高い方ですよね」
澪「いや、それ程でもない気も…」
唯「澪ちゃんなんてもんじゃないんだよ!
だってうちの垣根越しに頭が見えるくらいなんだよ!」
律「はぁ?唯んちの垣根っつったら2メートルはあんだろ
なんかの見間違いじゃねーのか?」
紬「厚底ブーツとか履いてたのかしら…」
さわ子「私40センチの厚底ロンドンブーツ持ってるわよ」
澪「何に使うんだ…」
唯「ん~そうなのかな~ けど変なんだよ
服装は白いワンピースでね、帽子被ってて~
それにずっと『ぽっぽっぽっぽっ』ってつぶやいてた」
律「ハトかよ」
唯「ぜ~ったいおかしいよねぇ…」
隣の婆「唯ちゃん…それ…本当なの…?」
唯「おばあちゃん!?なんで部室に!?
あ、見学?私の演奏見に来たとか?」
隣の婆「それ、本当に見たのって聞いてるの!」
――――
唯「う~ い~…(泣)」
憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃんどうしたの?
学校から帰ってくるなり泣き出して
もしかして転んだ!?どっか擦りむいた!?」
唯「うぅ…うい~
長らく、長らくお世話になりましゅたぁ~(号泣)」
私の見たもの
それは隣のおばあちゃんの話では『八尺様』というものらしい
(回想)
婆「見てしまったのならしょうがないけど
それはね、とてもとてもよくないものなの」
紬「詳しく…聞かせてもらえませんか?」
澪「ちょ!ムギ!そんな恐そうな話!やめ、やめま、せん、か?」
律「おい澪!何言ってんだよ!
もしかしたら唯の一大事かもしれねーんだぞ!
話は聞いといた方がいいだろ!」
澪「律…その割にはなんで楽しそうなんだ…」
どうやら『八尺様』はこの町に昔から居るお化けで時々人にとり憑いては悪いことをしてきたらしい
澪「(聞いてない…聞いてない
私には聞こえない…)」
唯「そ、そ、そ、それでワタクシは一体どうなってしまうのでしょうかかかか…」
婆「最悪の場合…唯ちゃんは…」
紬「そんな!」
澪「(ひぃっ!)」
梓「にわかには信じ難い話ですが」
さわ子「いいえ
この世には科学でも解明出来ない恐ろしいことはあるのよ!
そう、あれは私が昔彼氏と山奥に夜のドライブに行った時のこと
突然車がエンストしてしまい立ち往生していると闇の向こうから一本脚の白い影が…」
律「あーはいはい
そういうさわちゃんの嘘臭い話はいいから」
梓「なんていうかリアリティないですよね」
さわ子「ちょっと!
これ本当にあった洒落にならないくらい怖い話なのよ!」
律「はぁ~…これでとうとう唯も一巻の終わりか
さらば放課後ティータイム
…って唯が居なくてもギターは梓がいるしボーカルは澪がいるしなんとかなるか」
唯「びぇぇぇ~!そんなのイヤだよぉおおおおおおお!(泣)」
梓「ちょっと律先輩!
唯先輩も泣かないで…泣かないでください…」
婆「大丈夫よ唯ちゃん!
助かる方法はあるのよ!」
一同「!?」
唯「うぇっ… うっ… ほんとぉ~に?」
婆「ええ!
おばあちゃんがきっと助けてみせるからね」
(回想終了)
「そんな訳でちょっくらおばあちゃんの家にお泊まり行ってきます!」
憂「はぁ」
唯「なんか助かるにはねおばあちゃんの家にある部屋に一晩お泊まりしなきゃならないんだって~
でね、その部屋からは一歩も出ちゃいけないらしいよ~」
憂「お姉ちゃんそんな大変な目に…
私応援してるから頑張ってきてね!」
憂「あ、それはそうとご飯どうする?
もう作っちゃってるし部屋ごもりするなら食べてった方がいいよね?」
唯「もちろん食べていきますともぉ~
お!今日は天ぷらそばですな」
憂「じゃあ私お泊まりの準備整えとくからその間に食べちゃってね」
唯「あいあいー」
憂「お姉ちーゃん、支度終わったよー」
唯「私も今食べ終わったよー
じゃあご飯も食べて気合いも入ったし!
いっちょ行ってまいりま…」
憂「どしたの?」
唯「でへへ~ おしっこ行きたくなっちゃった…
あの話聞いてから緊張しっぱなしで一回もしてなかったから…」
憂「もうしょうがないなぁ
早く済ませてきてね」
唯「あいあいー」
婆「憂ちゃん!駄目よ!」
憂「あ、おばあちゃん!
この度はお姉ちゃんがお世話になります
そうそう、この前もらった京茄子のお漬け物すっごいおいしかったです~」
婆「あらあらご丁寧にどうも
この前ねおいしいじゃが芋が手に入ったからまた肉じゃがを…
って憂ちゃん駄目よ!唯ちゃんを一人にしちゃ!」
憂「けど流石にお手洗いには…」
婆「お手洗いでも駄目!
相手はそんな恐ろしいものなのよ!
常に一人にしないで見守ってなきゃ駄目!」
憂「え…(見守るって…お姉ちゃんのおしっこしてる所を!?)」
憂「(いや待って、これはお姉ちゃんのおしっこ姿を合法的に見れるチャンス…
いやいやいや、そうじゃなくて相手は恐ろしいお化けだからお姉ちゃんを一人にはできないし
前におしっこしてるの見たのはいつ?
確か小学校3年生の時一緒にお風呂入ってて見せっこを…
あれだけお風呂場でおしっこしちゃ駄目って言ったのに「見せっこ」って甘美な響きに惑わされて…
違う違う!今おしっこは関係なくてお姉ちゃんの安否が一番心配…
一番といえば一番搾りだけどお姉ちゃんずっとしてないって言ってたし特濃一番搾り!?
カップ?カップ持って行った方がいいの!?
あ、今日昼にローソンで買ったティーカップゼリーの容器!
それや!それしかないで!
違う!違うそうじゃない!
私はお姉ちゃんを見守る大事な役目が…
見守るってことは監視だよね?
監視といえば監視カメラ、カメラ持っててもいいの!?
これでPCのお姉ちゃんフォルダ念願のおしっこムービーが収められるの!?
やるか?やってまうか?行ってまうかあああああああ!?)」
唯「うい~戻ったよー
いやー結構たまってたみたいですごい出ちゃったよー」
憂「え…え… あ?」
婆「あらあら、なんとか大丈夫だったみたいねー
心配したけどよかったわぁ」
憂「え…あ… はい? え?」
唯「あ、おばあちゃん迎えにきてくれたのー?
それじゃあ憂、お姉ちゃん頑張ってくるからね!
しっかりお留守番してるんだよ!」
憂「うぇ? はぁ はい…
行って らっさい…」
━━━ 婆宅
律「お、やーっと来たか
おせーぞ唯ー」
唯「りっちゃん!それにみんな来てたんだ
澪ちゃん…こんな時に来て怖くないの?」
澪「怖いさ…
話を聞いた時は怖くて死ぬかと思ったけどさ…
けど、こんな時こそ近くに居たいんだよ
直接の役には立てないかもしれないけど、近くで唯が助かるのを願っていたいんだよ」
唯「澪ちゃん…」
律「まあ私は見物しに来ただけだけどなー」
澪「一番最初に行くって言ったのはお前だよな」
律「う、うるせー!そういうことはバラすなよ!」
唯「りっちゃん…」
紬「唯ちゃん、これ持って行って」
唯「これは…お札?」
紬「ええ、うちの斉藤に事情を話したの
あの人の家ってそういうことに詳しい家系らしくて…これを持って行って渡しなさいって」
唯「ムギちゃん…」
梓「唯先輩、私はこれを…」
唯「お?これはお守りだね」
梓「ムギ先輩のみたいに大した物じゃないかもしれないけど神社でもらってきました
…本当にこんな話信じられないけど唯先輩に万が一があったらって私… 私…(泣)」
「あずにゃああああああん!
部屋にこもってる間、ずっとこのお守りをあずにゃんと思って身につけてるからね!」
梓「先輩…唯先輩!」
婆「唯ちゃん…本当にいい友達が出来たのね…」
律「ほら二人ともいつまでも泣いてんなよ
おばあちゃんが用意してくれたスイカがあるからさ、唯が助かる前祝いにパーッと食おうぜ」
唯「みんな…みんなぁ…」
この仲間達が見守っていてくれれば何事もなく全てを終えられる
その時の私はそう信じていたのです
おばあちゃんに案内された部屋は異様な雰囲気だった。
全ての窓は新聞紙により塞がれその上から何枚ものお札が貼られていた。
部屋の隅には盛り塩が盛られ、中央には四角い箱のようなものが置かれている。
その上にあるのは仏像…だろうか。
また一晩部屋から出れないための処置だろう、おまるが2つ置かれている。
唯「ちょっと、怖い、かも」
婆「いいこと、唯ちゃん
あなたは一晩この部屋から出ては駄目
また私もお友達もこの部屋には来ない」
婆「もし誰かの声がきこえたとしても相手をしては駄目
誰の声であろうとそれはその人ではないのよ」
唯「ごくり…」
返事が出来ない。
ここに来てようやく気付いたがこれは尋常なことではないのだ。
こみ上げてきた恐怖に喉がつまる。脈が早くなる。体温が上がるのが感じ取れる。
あずにゃんに貰ったお守りを握りしめた。
彼女を近くに感じ取れた気がして、少し心が休まる。
婆「明日の朝7時にここへ来ます。
もし怖いことがあったらあそこにある仏様にお祈りしなさい。
大丈夫、唯ちゃんしっかり育ったし、あんなに素敵なお友達が待っててくれるんですもの
無事に終わるわ」
唯「うん…」
○月×日 PM19:00
部屋に入ると入り口から4人が見守っているのが見えた。
部屋の中は照明が点けられないため廊下からの逆光で表情は見えない。
けど何故だろう、彼女達がいると思うだけで先の恐怖が薄れていく。
きっとあの気持ちは…
律「唯、明日の朝まで会えないってだけのことだ
きっと大丈夫
全部終わらせて…いつも通りお茶、飲もう」
りっちゃんが言い終わると襖がピシャッという音と共に閉められる。
けど大丈夫。今は。
さっきの恐怖、あれは皆から私一人離れて闇へ、日常から遠く離れた人の知れない闇へ落ちていくと錯覚したからなのだ。
けど今はもう平気だ。
私がどこまで行こうが彼女たちとの繋がった何かは切れることはない。
世界がどうなっても私はひとりじゃないんだ。
○月×日 PM22:00
唯「おなか…痛い…」
ぎゅるるるぐ!ぐぎゅ!ぐぐぅううううううううう!
唯「うっ!」
なんでこんなにお腹が痛いんだろう。
これも『八尺様』の呪いなのだろうか。
…違う…これは違う。
私の中で何かが繋がり、解った。
(回想)
憂「あ、それはそうとご飯どうする?
もう作っちゃってるし部屋ごもりするなら食べてった方がいいよね?」
唯「もちろん食べていきますともぉ~
お!今日は天ぷらそばですな」
天ぷら…
律「おばあちゃんが用意してくれたスイカがあるからさ、唯が助かる前祝いにパーッと食おうぜ」
スイカ…
そしてあずにゃんに貰った暑中見舞い…
『暑い中、体調に気をつけて勉強がんばってください
×スイカと天プラ
×うなぎと梅干し
×かき氷と天プラは食べ合わせが悪いので一緒に食べちゃダメですよ』
ぐりゅりゅりゅぐりゅうううううう!
唯「またキタ!」
余りの激痛に思わず畳み敷きの床を転げまわる。
唯「もう…限界かもぉ…」
腹痛に屈しつつある私の視線の先。
そこには陶器のアヒル二匹が冷ややかな目で私を見おろしていた…。
最終更新:2011年05月19日 23:40