律「次は何がいいかな~」
唯「いっぱいあって目移りしちゃうね」
律「とりあえず片っ端から乗ってくか!」
唯「そうだねっ! 迷ってる時間が勿体無いよ!」
唯「わあ~かわいいね~」
律「あ、プーさん発見」
唯「どこどこ?」
律「ほら、あそこあそこ」
唯「どこ~?」
律「あっ、あっちにもいた!」
唯「ほんと!?」プに
律「やーい引っ掛かった」
唯「んもぅ!」
二人が今乗っているのは、色々なキャラクターが生活したり遊んだりしているのを写し象った空間を風船のような乗り物で抜けていくというアトラクションだった。
律「唯とクマのプーさんって似てるよな」
唯「似てないよ!? さらっと酷いこと言ったよりっちゃん!?」
律「似てるだろ? 常にハチミツなめそうな顔とか」
唯「りっちゃん!?」
唯「あっ! こっちにも! ああっ!」
律「そっちか! 逃がすか! あっちにもいるぞ! 唯!」
次に二人がやっているのはゾンビを光線銃で撃ちながら進んで行くアトラクションだ。
ゾンビについている光のポイントに光線銃のポインターを合わせてトリガーを引くと光が消える、つまり倒したということになる。
律「一つじゃ間に合わないか! ならばっ!」スチャッ
唯「二刀流だね!」フンスッ!
本来四人乗りの乗り物な為、光線銃が余っていたのだ。
律「唯! 左よろしく!」
唯「わかったよ!」
ピュンッピュンッ
唯「なかなかうまくあたら……あっ、行っちゃう…」
ゾンビにつけられた光のポイントが過ぎさっって……、
律「させるかっ!」ピュンッ
唯「あっ! また行っちゃ」
律「逃がさんっ!」ピュンッピュンッ
唯「あ(ry」
律「うおおおおおお」ピュンッピュンッピュンッピュンッ
気づけば律が踊るように光線銃を振り回し、左右両方をカバーしていた。
「ゴオオオオオ」
唯「あっ! ボスだよりっちゃん!」
律「いよいよラスボスか! 総攻撃だ! 唯!」
唯「わかったよ! りっちゃん!」
二人の光線銃がラスボス目掛けて火を吹く。
律「いけえっ!」
唯「そこだ」
律「くらえええ!」
唯「当たれよ」
律「まだまだァ!」
唯「迂闊なやつめ」
律「ちょっと冷静すぎだろ唯」
「ガアアアアアア」
無数に点灯していたポイントが消え、頭の分のみポイントが浮かび上がる。
しかし、それはかなり小さく、律も懸命に撃つが中々当たらない。
律「駄目だッ! このままじゃ通り過ぎ──」
律は見た──
光線銃をくるりと回転させてから掴み、構える唯を。
ポイントとポインターが赤い糸で結ばれてるかのように一直線に重なり、そして、
唯「ラストシューティング…」
ピュンッ──
ズバシャッ!!! テテテー
クリアした時の音楽だろうか、廃坑した街並みには相応しくないポップなメロディが二人を出迎えた。
律「やったな唯! クリアだぞ!」
唯「若さ故の過ちだよ、りっちゃん…」
ふー、とガンマンのように光線銃の銃口を吹き消す。
律「誰だよ」
1位 Y&R 5000000点
唯「ふぃ~いっぱい遊んだらお腹減ったね」
律「じゃあお昼にするか」
唯「そうしよっか。どこのレストランにする?」
休憩場所の簡易机の上にどんっ、置かれた箱。
律「田井中レストランにようこそお嬢さん」
唯「作って来たの!?」
律「これが第二の箱だ」
唯「第二の箱?」
律「まあまあ、気にせず食べた食べた」
箱、というかランチボックスを開くと中には彩り豊かなサンドイッチ達が犇めき合っていた。
唯「わあ~美味しそうい! いただきます!」
律「たんとお食べ」
唯「美味し~ぃっ! 前のハンバーグもそうだけどりっちゃんって料理上手だよね!」
律「そうかぁ? サンドイッチなんてただ挟むだけだろ? ハンバーグは焼くだけだし」
唯「またまたぁ~。謙遜しなさんなって。りっちゃんはいいお嫁さんになれるね」
律「大げさだよ、唯は」
二人でニコニコしながらサンドイッチを減らしていく作業はとても幸せな一時だった。
少し休憩した後、また乗り物に乗りまくる二人。
唯「放課後ティーカップ! なんちゃって」
律「定番だよな~コーヒーカップ」
唯「それ~っ!」
律「おいおいそんなに回すと…」
唯「とりゃ~っ!」
律「目が……あ……あっ」
唯「りっちゃん目が回るよ~」
律「唯さん!?」
制御不能となったコーヒーカップの上で二人はしばらく回り続けたそうな。
────
唯「メリーゴーランドに乗るよ!」
律「回る系はしばらく遠慮したい…ってわけでここで見てるよ」
唯「え~……。しょうがないなぁ」
唯「あはは~りっちゃ~ん」
外にいる律に手を振る。
律「危ないからちゃんとつかまりなちゃいね~」
手を振り返す律。
唯「あははは~りっちゃ~ん」
手を振る唯。
律「危ないからちゃんとつかまりなちゃいね~」
振り返す律。
唯「あはははは~りっちゃ~ん」
手を振る唯。
律「危ないからちゃんとつかまりなちゃいね~」
唯「あははははは~りっちゃ~ん」
手を振る唯。
律「無限ループって怖いでちゅね~」
振り返す律。
次に二人が乗ったのは、天空サイクリングと言う乗り物だ。
自転車を漕ぐことにより中空にかけられているレールを走ることが出来る。
唯「高いねりっちゃん!」コギコギ
律「ああ…。まさに天空エクサイクリング!」コギコギ
律「……。さっきのはエキサイトとサイクリングを掛けた高度な……」
唯「寒いね…りっちゃん」
律「心も体も冬にしてしまってすまない、唯」
唯「あっ! 後ろから来てるよりっちゃん! 早く行かないとつっかえちゃう!」
律「なにをー!? 追い付かせるものかーっ! ファイトォォッ」コギコギ
唯「いっぱあーつっ」コギコギ
唯「わあ~綺麗だね~」
律「そうだな~」
今二人は園内を走る列車に乗っている。そこから園内を眺めながら感慨に浸っていた。
唯「こうやって見るとまた何か違うね」
律「だな」
唯「あっ! 手振ってくれてるよ!」
律「ん? あ、ほんとだ。おーい」
ここのメインキャラクターが二人に向かって手を振ってくれている。
唯「お~い」
窓から乗りだして大きく手を振る唯。
『危ないですので窓から手は出さないようにお願いします』
唯「あっ、す、すみません」
律「ぷくくっ」
唯「あっ! りっちゃん酷い!」
観覧車に乗った時にはすっかり日も落ちかけ、夕焼けが顔を覗かせていた。
唯「ここからだとよく夕日が見えるね」
律「綺麗だな」
唯「……。ねぇ、りっちゃん」
律「ん?」
唯「昨日はごめんね?」
律「気にしてないよ。わたしこそごめんな、唯」
唯「……」
律「……」
唯「えへへ///」
律「にひひ///」
唯「みんな受験勉強で忙しいもんね…わたしの誕生日なんて覚えてられないよね」
律「唯…」
唯「これ終わったら帰ろっか。もう遅いし」
律「……ああ」
観覧車を降りた頃にはすっかり日も沈み、園内はライトアップされていた。
唯「今日はありがとうりっちゃん。凄い楽しかったよ。最高の誕生日プレゼントだった!」
律「……」
唯「祝ってくれたのはりっちゃんだけだったけど……それでも今までで一番楽しかった! だから……」
律「唯」
いとおしそうに優しく唯の頭を撫でる。
唯「りっちゃ……。ん……。だから……次はみんなで来よ゛う゛ね゛」
涙に邪魔されて最後まで上手く言えない。
律「大丈夫、まだ箱の魔法は終わってないから」
そう言って、律は携帯に目を遣る。
律「よーし、準備完了か。こっちもそろそろ……」
唯「?」
律「唯。お前のその涙を、笑顔に変えてやるよ」
そんな演技がかったセリフを口にし、カウントを始める。
律「5.4.3.2...」
律「1ッ!!!!」
両腕を翼の様に広げる律。
その遥か後方から何かが打ち上がった。
それはみるみる上空へと飛翔して行き……。
バァンッ!!! と派手な音をたてて散った。
唯「わあ…花火……! 花火だよりっちゃん!」
律「花火ぐらいで驚くなよ? 続いてパレード!!」パチンッ!
律がパチンと指を鳴らすと、まるで本当に律が指示したかのようなタイミングでキャラクター達が乗った台座カーが出現する。
唯「きれい……」
台座カーに取り付けられたイルミネーションが辺りを幻想の世界へと誘う。
律「もういっちょっ!」
その声に反応したかのように次々とイルミネーションが開花して行く。
園内全体が眩い斑の光に包まれた。
唯「ほんとに魔法使いみたいだねりっちゃん!」
律「ある時はジュリエット、そしてまたある時は魔法使い、そしてまたまたある時は……」パチンッ!
園内にワルツのような曲が流れ始める──、
律「ロミオにだってなれる」
学園祭で魅せた演技力は未だ健在のようだった。
律「Shall we Dance?」
そう言いながら差し伸ばしてくれた手を、
唯「Gladly♪」
と言って握り、二人は踊り始めた。
誕生日のワルツを。
その時唯の瞳に涙はなく、笑顔だけが広がっていた。
────
唯「すっかり遅くなっちゃったね~」
律「唯がまだ踊ろうよ~とか言うから」
唯「ごめんね。楽しかったからついつい」
律「まっ、いいけどさ。わたしは」
唯「あれ? そう言えばりっちゃんの家って向こうじゃ…」
律「……、まだ第三の箱があるからな!」
唯「第三の箱?」
第一は白い何も入ってない箱だった。
第二は美味しいサンドイッチだった。
第三は一体どんな箱なのだろう?
唯は興奮覚めやまぬと言った感じで律にせっつく。
唯「どれどれ?」
律「そう焦るなって。そろそろ見えてくるから」
そう言って歩きついた先は、
唯「わたしの家?」
律「これが第三の箱だよ。開けてみて」
唯「う、うん」
自分の家の玄関を恐る恐る開けてみると……、
パァン! パァン! パァン!
一斉にクラッカーが鳴る。
憂「お誕生日おめでとう! お姉ちゃん!」
澪「誕生日おめでとう、唯」
紬「お誕生日おめでとう唯ちゃん」
梓「誕生日おめでとうございます、唯先輩」
和「誕生日おめでとう、唯」
純「誕生日おめでとうございます唯先輩っ!」
さわ子「誕生日おめでとう唯ちゃん」
唯「ほ……? へ?」
一体何が起こったのか理解出来ず、律の方へ振り向く。
律「誕生日おめでとう、唯」
その言葉で、ようやく全てを理解した。
唯「みんな……、ズルいよ。忘れたふりなんてさ」
顔を俯ける唯。
澪「ごめんな、唯。律がどうせならサプライズでやろうって言うから」
律「澪も乗る気だったろーっ?」
紬「ほんとは昨日も……、…っ…ぅ…メールしたくて……、したくてぇ」
梓「もう、ムギ先輩鼻水出てますよ」
紬「ありがどう゛あずじゃぢゃん」
和「バカね、毎年やってるんだから忘れるわけないじゃない」
憂「律さんにどうしてもって言われてたから……、すやすや眠たそうなお姉ちゃんから掛布団を……、掛布団をっ!!」
純「はいはい落ち着きなよ憂」
さわ子「このツリー持って来るの苦労したんだから」
澪「クリスマスじゃないんですよさわ子先生…」
さわ子「似たようなものじゃない。綺麗だし」
純「まあ綺麗と言えば綺麗ですよね」
梓「すみません唯先輩。色々飾り付けしたりするためにどうしても家を出てもらわなくちゃならなくて…」
澪「その役目が律だったってわけだ」
紬「ほんとはみんなで喫茶店に行って……、その後りっちゃんと唯ちゃんを残して用意するつもりだったの」
唯「……じゃあ」
顔をあげ、もう一度律の顔を見ると、
律「唯の誕生日をみんなが忘れるわけないだろ? みんな唯が大好きだよ」
いつか言われたあのセリフ
唯「りっあああああああああちゃん」
私は、嬉しくて、嬉しくて……、りっちゃんに飛び付いた。
律「あぁ~もぅ泣くな泣くな。これから楽しい楽しい本当のプレゼントが待ってるんだから」
唯「ううん……。もういっぱいもらったよ」
流れる涙をこの時ばかりは塞き止めながら、精一杯の笑顔で。
唯「いっぱいプレゼント(思い出)もらったよ」
白い箱から始まり、美味しい箱、そして暖かい箱。
ううん、私の人生って箱には思い出がこんなにもいっぱいで……。
これからもいっぱいいっぱいもらうことになるから……、だから……、
唯「みんな、ありがとう」
精一杯の笑顔でお礼を言うんだ。
生まれた日、誕生日。
生まれて来て、みんなに出会えて、本当に私は幸せだよっ!
おしまい
最終更新:2011年05月25日 03:08