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さやか「う、うぅ~ん………」
マミ「美樹さん、どうかした?」
さやか「…えっ? い、いやなんでもないよぉ」アセアセ
マミ「? そう…」
さやか(ん~…。やっぱ他人の体は上手く使えないなぁ…よいしょっと)
まどか「さやかちゃん?」
唯が意識を乗っ取ったさやかの体はどこか動きがぎこちなく、教室をふらふらしていた。
さやか(…さて、と。どうすればいいのかなぁ?)
唯は辺りをキョロキョロと見た。
やはり教室の入り口は黄色い髪の生徒によって塞がれている。
さやか(なんか全然悪い人に見えないなぁ)
さやか(! 人が倒れてる…。3人…でも別に束縛されてるわけじゃないね)
さやか「あ、あの~」
まどか「なに?さやかちゃん」
さやか「(あ、私さやかっていうんだ)その人たち…どうするの?」
まどか「どうするって…さっきマミさんが言ってたじゃない。目が覚めるまで外には出さないって」
さやか「そ、そうだったね!うん、そういえばそんなこと言ってたね!」
まどか「…?」
さやか(状況がよく分からないなぁ…。目的は何なんだろう)
さやか(この体じゃ『読心(ハートキャッチ)』も出来ないし…まずは人命救助から先、かなぁ)
さやか「…なんだかこの部屋、暑くない?窓開けようよぉ」
唯は澪に連絡を取ろうと窓に近づいた。
澪の『念動波(テレキネシス)』で人質を空間移動させるためだ。
マミ「そうかしら?別に暑くはないと思うけれど…」
唯は適当に受け流すと、窓の外に澪の姿を探した。
さやか(あ!居た!っていうか遠すぎる~…えっと、サインサイン)クイックイッ
澪《ん…?あれは…》
律《どうした澪?》
澪《犯人の一人が窓を開けてこっちを見た。サインを送ってる事から、唯だな》
律《『念動波(テレキネシス)』できそうか?》
澪《いや、人質3人の姿が見えないから無理だ。もう少し近づいてみる》
律《慎重にな》
澪は生物科学教室の中が良く見える位置まで行った。
さやか(おっ、来た来た。後は人質を見えやすいところにもってこないと…)
さやか「あ、あの~…」
マミ「…さっきから美樹さん、様子が変よ…?」
さやか「い、いや、私なら大丈夫。全然問題ないよ~」
マミ「ちゃんと魔力の痕跡、探してる?」
さやか「(魔力の痕跡…?)う、うん。探してるよ。
ところでさ、この人たち地べたに寝かしておくのはちょっと可哀そうじゃない?」
まどか「う~ん、確かに…」
さやか「こう、机の上に寝かせてあげるのはどうかな?」
まどか「…そうだね、それがいいかも」
思ったより簡単に受け入れてくれたな、と唯は心の中でつぶやいた。
さやか「じゃ、じゃあ私が運ぶよ!」
唯は半ば強引に人質を窓際の机に並べて寝かせた。
澪「!」
澪《人質の姿を肉眼で確認、律のいる廊下にテレポートさせるぞ》
律《よし、それが終わったら唯にこっちに戻るよう伝えてくれ》
澪《了解》
澪は『念動波(テレキネシス)』を使い、人質3人を一瞬にして教室の外に移動させた。
さやか(よっし!作戦成功!)
まどか「あれっ!?さ、さやかちゃん!?」
マミ「鹿目さん、どうし……えっ!?あの人たちはどこに…?!」
さやか(気付かれちゃった!ってか当たり前か。どうしよ…)
さやか(あ、澪ちゃん…なになに、「もう戻っていいぞ」…おっけー!)
唯はすぐにさやかの体から抜け出した。
さやか「………っとと…! あれ?二人ともどうしたの?」
まどか「さやかちゃん、あの3人はどうしたの!?」
さやか「???」
~~~~~
唯「………はっ!」ガクン
律「おう、おかえり」
唯が自分の体に戻った時、廊下にいた生徒会執行部はいなくなっていた。
律「人質が私のところに来た時に、アイツらに事情を説明して撤退してもらったんだよ。
今頃保健室に連れてってるところだな」
唯「じゃあ任務完了だね!」
律「いや、執行部の連中が居なくなったいま、結局犯人の身柄拘束も私たちが引き受けることになった」
唯「そ、そんなぁ~」ガックシ
律「何言ってんだ、こっからが私たちの本領発揮だろ!」
律《澪、犯人の姿は見えるか?》
澪《見える、けど奴らを直接テレポートは出来ないぞ》
澪の『念動波(テレキネシス)』は意識のある物体に干渉するのが難しい。
基本的に"動かない物体"に対して使う澪の能力は、意識レベルの高い人間や動物を対象にするには
かなりの力が必要になる。
律《そうじゃない。これから私と唯で正面から突っ切るんだ》
澪《? 入口は塞がれてるんじゃ…》
律《だから澪の『念動波(テレキネシス)』で入口ごと座標変換するんだよ。
そうすれば教室はガラ空き、相手の意表もつける》
澪《な、なんつー発想だ…っていうかそんなデカイ空間移動は…まぁ、出来るけど…》
律《よし!カウント3で突入するぞ!》
唯(3…2…)
律《…1…行け!》
ドゴッ!!
マミ「きゃっ!?」
さやか「マミさ…んっ!?」ギュッ
一瞬にして廊下と地続きになった教室に唯と律が突入する。
隙が出来たマミとさやかは二人に後ろを取られ、身動きを封じられた。
まどか「マミさん!!さやかちゃん!!」
律「おっと動くな。この状態なら首も飛ばせるぞ(この人胸でっけー)」
マミ「……っ!」ゾクッ
さやか「は……離せっ…!」ジタバタ
唯「ちょ、ちょっと…暴れないでよぉ」
まどか「あ、あなたたちは誰!?」
律「軽音部だ。3人を強制拉致の疑いで補導する」
さやか「きょ…強制拉致!?私たちが!?」
マミ「…何かの間違いよ」
マミ(ヤバイわね…まさか軽音部が動く事態になっていたとは…)
律「ま、一般生徒3人を気絶させて教室に閉じ込めたという事実は変わらない。
おとなしくするんだな」
マミ「弁解の余地はないのかしら…(この子…すごい力…っ!)」
律「思ったより抵抗しない所を見ると、なにやら事情はありそうだが…話は別の場所でしようか」
さやか「私たちは何もしていな…」
まどか「ああっ!!」
驚きの声と共にまどかが見つめる先に、孵化しかかっているグリーフシードがあった。
さやか・マミ「!!」
マミ(魔女の結界が…開く!)
律「ん?どーしたんだよ、そんな悲鳴あげて…」
マミ「ごめんなさい、軽音部の人…!」ググ…!
律「うおっ!?」バンッ
マミは魔力を使い、律の拘束から抜け出した。
さやか「は、離してよっ!魔女の結界が…」
唯「まじょ?けっかい?」
マミ(駄目…遅い…ッ)
~~~~~
律「………で、これは一体どーゆーことなんだ?」
マミ「ここは魔女の住処…結界の中ね。私たちは迷い込んでしまったの」
唯「うわぁ~、なんかキレー」
さやか「この人は危機感とか恐怖心とかないの…!?」
律「説明になってないな。魔女ってそもそも何だよ」
マミ「…あの一般生徒3人は魔女の毒気にやられて気絶していたの。
私たちは原因である魔女を倒すため、あの教室で待ってたってわけ」
律「ふぅん…イマイチ分からんけど、なんか面白そーじゃん」
マミ「あなたたちは危険だから美樹さんと一緒にここに居て」
まどか「マ…マミさん…あれ…」
ゴゴゴゴゴゴゴ…
マミ「…!どうやらあっちから出向いてきたようね」
さやか「で…でっか!」
律「あれが魔女か?」
律は適当に魔女の方へ目をやると、ハハン、と軽く笑った。
マミ「軽音部は早く逃げなさい!」
律「その必要は……ないぜッッ!!」
ビュン、という音とともに律の体は魔女へと一直線に向かっていった。
さやか「なっ!?アンタ死にたいの!?」
唯「私も~♪」
律を追いかけて唯も魔女の足元へ走っていった。
さやか「ってコラ!……あ~あ、行っちゃったよ」
不意に爆音が轟く。
異形の魔女がバランスを崩し、地面に逆さに激突した。
マミ「こ、これは…!?」
律「唯!こっちによこせッ!」
唯「ほいよりっちゃん!そーれ!」ドゴォ
律「くらえッ!『ウルティマ・シュート』ッッ」
マミ「え」
ドドドドドド・・・!!
律のダサい掛け声とともに、魔女の体は完全に破壊された。
マミ「ちょ、ちょっと!パクらないで頂戴!」プンプン
何故か頬を膨らませて起こるマミを尻目に、律と唯は二人でガッツポーズを取った。
さやか「つ…つよすぎる…」
まどか「あんな大きな魔女を数発、しかも生身で…!?」
律「いやぁーっ、久しぶりに本気だしちゃった」テヘ
唯「普段使わない開放系の魔技なんて使うんじゃなかった…」グッタリ
マミ「……ま、まぁウルティマよりアルティマの方がカッコイイから許すわ…。
それにしても、あなたたち一体…何者なの…?」
律「だから軽音部だってば。あんたら二人も魔技の使い手なんだろ?」
マミ「魔技…?私たちの場合は魔法だけど…」
律「どっちも一緒だって!私らも魔技を使えるんだよ、一応」
さやか「じゃあアンタらもQBと契約を?」
唯「きゅーべー?」キョトン
魔女を倒したことで律たちの周りはいつもの学校の風景に戻った。
律「お、戻った」
マミ「ちょっと、詳しく聞きたいのだけれど…」
律「あー、話はあとあと!とりあえず生徒会に身柄を引き渡すから、そんときにな」
マミ「…分かったわ」
まどか「マミさん!?」
マミ「ここは大人しく従いましょう。生徒会には逆らえないわ」
マミ(…こんな化物がいるんですもの。この学校…底知れないわね)
~~~~~
マミ達を生徒会室に送り届けた後、律と唯は音楽準備室に帰った。
ガチャ
律「おいーっす。任務完了!だよーん」
紬「り、りっちゃん!」ダキッ
律「うおいっ!?どうしたんだよムギ!?」
紬「いきなり『衛星解析(サーチ)』から消えるんだもの、心配したんだからね!」
唯「あ、そうだったんだ」
澪「そうだったんだ、じゃない!全く、説明してもらうぞ」
律「そうそう、それがさ!なんか魔女とかいうアレがいてさ…………」
さっき起きた一部始終を臨場感たっぷりに澪と紬に聞かせている律を、梓はボーっと眺めていた。
梓(…なんかわけわかんなかったけど、魔技ってすごいんだな…)
紬の『知覚網(シェア)』によって軽音部の活躍を知った梓は色々な考えを頭に巡らせ、
知らぬうちに興奮していたことに気付いた。
梓(あっという間に解決しちゃったし、コレはコレでかっこいいかも)
唯「あ~ずにゃんっ」ダキッ
梓「んにゃっ!?ゆ、唯先輩なにしてるんですか!?」
唯「え~?可愛い後輩にまた会えてうれしいんだよぉ」スリスリ
梓「うぐ…そ、そういえば唯先輩」
唯「なぁに?」
梓「唯先輩の魔技って、どんな感じなんですか?」
唯「ん~…私の場合はね、意識干渉系に特化した魔技、かなぁ」
梓「意識干渉系、って具体的に何が出来るんですか?」
唯「例えば他人の五感を奪って私のものにするとか、逆に自分の五感を強化できるとか…」
梓「さっき、一時的に唯先輩の視覚情報が消えたんですけど…それも関係あるんですか?」
唯「あの時は私の意識を完全に他の人に乗っけちゃってたからね~…」
梓「そ、そんなことまで出来るんですか…」
唯「けっこう難しいんだけどねぇ。それから、ムギちゃんも割と意識干渉系が得意なんだよ。
ムギちゃんは『憑依(ジャック)』は出来ないけど、そのかわり広範囲に干渉できるんだ。
それプラス、感知系に特化してるから『衛星解析(サーチ)』で得た情報を『知覚網(シェア)』で
みんなと意識を共有できるってこと」
梓「は、はぁ…」
唯「…あずにゃん、もしかして自分が魔技使えないから落ち込んでる?」
梓「へ?い、いえ全然そんなことないです!」
唯「焦ることないからね~、私も最初は魔技使えなかったけど
いつの間にか使えるようになってたから、心配いらないよ!」エヘン
梓(…それよりも私、こんなぶっ飛んだ部活でやっていけるのかな…)
~~~~~
数日後。
巴マミを首謀として行われた小規模の拉致事件は、事情を知った唯や律たちの説得もあって
刑を執行されることなく解決した。
澪「和と太いパイプがあったから良かったものの、普通だったら巴マミ一味には実刑が下され
ててもおかしくなかったな」
律「最近じゃ表立って大きな事件ってのも無かったしな…生徒会の権威を示すための
見せしめにならなくて、ホント良かったぜ」
紬「それにしても、あれだけの魔技の使い手でありながら
どこにも所属してなかったっていうのも不思議ね」
唯「マミさんは自分たちの力を魔技じゃなくて魔法だって言ってたよ?」
律「似たようなもんだけどな、実際。もし学校管理外で魔技が使われているとしたら問題だけど」
梓「……でも、その可能性って十分あり得るんじゃないですか?」
律「その通りだ。そこで梓くん」
梓「はい?」
律「巴マミと美樹さやか、それから鹿目まどかの調査を依頼する」
梓「私がですか!?」
澪「ただ調査するだけなら別に魔技は必要ないしな」
梓「で、でも相手は魔技使いなんでしょう?」
律「マミさんは大丈夫だ。悪い人じゃない。だからといって不必要に近づくのも駄目だけど」
唯「実はマミさんを見逃す条件として見張りと身辺調査を頼まれたんだよ~。
和ちゃんの、生徒会長として公式に処置はしないけど何らかの対応はするべきっていう判断なんだ」
梓「…私に務まりますかね」
紬「大丈夫よ~。一応彼女たちに関する最低限の情報は用意してあるから、そこから身辺の関係を
探っていけばいいの」
梓「……了解です」
律「何か新しい情報があったら報告してくれ。場合によっては私たちも動く」
澪「そんな大事にならなければいいけどな」
放課後の部室で優雅に紅茶をすすりながら、物々しい会話に身を寄せる5人。
ひとまず巴マミの事件に関するミーティングは梓が引き受けることで終わりとした。
紬「ところでりっちゃん、今後の私たちの活動は?」
律「今まで通り続けよう。ムギは職員組合の潜入調査、澪と私は校内監視。
唯は待機、だ」
唯「らじゃ!」ビシッ
澪「了解、と…。それじゃさっそく…」
梓は体をこわばらせた。今から自分の仕事が始まると思うと緊張するのだ。
律「そうだな。ムギ!紅茶のおかわりくれ」
澪「違うだろ!練習するんだ!」ゴチン
律「あいたーっ」
梓「れ、練習?」
思いがけない言葉に、梓は聞き返してしまった。
紬「そうね~。たまには練習しましょっか♪」
数名がけだるそうに席を立ち、澪がやる気出せと促す。
梓はここが軽音部であることを思い出し、なんて面倒な部活なのだろうと今更ながら思った。
最終更新:2011年05月25日 22:51