コーデリア「確かに澪さんの言う通り、そんな多岐にわたるタイプを一人で使いこなすのは不可能ね。
でももし、一人じゃなかったら…?」
律「!!……『手品師(マジシャン)』は……複数犯…!?」
コーデリア「これはあくまで憶測だけれど、それ以外に考えられないと思うわ。
実際、この10枚の答案用紙…それぞれ別のタイプのトイズが検出されてるの」
紬「…複数の魔技使いが3年のクラスの生徒各一名を『憑依(ジャック)』した…
しかもそれぞれがかなりレベルの高い魔技使いだなんて」
律「思ったより事態は深刻だな…。これは本格的にミルキィホームズの手を借りるしかなさそうだ」
シャロ「任せてください!何でも協力します!」
律「よし…それじゃあ効率よく捜査できるようにこれからはペアで行動してもらおう。
ムギとコーデリアは『憑依』された3年生及び教職員の調査。
梓とネロは学校の魔技管理データベースから『手品師』に繋がる情報の探索。
澪とエリーはさわ子先生と協力して学園祭までに学校全体に魔技対策の防御壁、それからトラップの設置。
唯とシャロは情報統制と学校内の監視、教職員のお偉い方の護衛にあたってくれ」
澪「了解。律は何をするんだ?」
律「…私は極秘任務にあたる」
唯「とか言いながら時間作ってテスト勉強するんじゃ…」
律「私がそんな真面目なことするわけないだろ」
梓「それもそうですね」
ネロ「後輩にバカにされてるぞ~」
律「私は生徒会長から直々に指令を受けてるんだ。
内容は軽音部のメンバーにも言えない」
ネロ「そんなのズルイぞ~ボクたちにも教えろ~」
紬「まあまあ、りっちゃんは度々こういう指令を受けることがあるの。
私たちも気を悪くすることなんてないわ」
一同は律に言われた通り、それぞれでペアを組んで調査に乗り出した。
すぐに打ち解ける者もいればぎこちない者もいたが、軽音部のテスト勉強も並行しつつ
ミルキィホームズのサポートを最大限に生かすにはこの組み合わせしかなかった。
今日の作戦会議はひとまず終了とし、今後なにかあった時は直ぐに全員に知らせるよう念を押し、
解散とした
【唯・シャロペア】
シャロ「…というわけで私たちは何をすればいいんでしたっけ?」
唯「確か…情報統制と監視と護衛だった気がする」
シャロ「なんだか私たちだけいっぱいやることありますね~」
唯「まぁ成るようになるよ~。まずは聞き込みして私の『憑依』で情報操作しとかないとね。
変な噂流れちゃうと私たちも動きが取りづらくなるから」
【梓・ネロペア】
梓(…この人さっきからムギ先輩のお菓子食べてばっかだけど、ホントに大丈夫なのかな…)
ネロ「~♪………ん?」
梓「どうかしましたか?」
ネロ「そんな欲しそうな目をしてもあげないからなっ」サッ
梓「……いえ、私は結構です…」
ネロ「ならいいけど」パクパクモグモグ
梓「……あの、向かうのは魔技管理室じゃないんですか?」
廊下を悠々と闊歩するネロの後を追いかけていた梓は、自分たちが魔技管理データベースの置いてある
教室から遠ざかっていることに疑問を抱いた。
ネロ「ばっかだな~梓は~。今あそこのコンピュータをハッキングしたら確実に通報されちゃうじゃん。
『無人軍隊(アームズ)』の世話になりたくなかったら、まずは情報通信ターミナルを直接いじるのが
得策だと思うけどな」
平然と言ってのけたネロだったが、梓にしてみればハッキングも通信ターミナルをいじるのも
そう簡単に踏み込めるような領域ではない。
セキュリティの固い通信ターミナルに侵入するのは軽音部ですら難しい。
梓(…意外と考えてるのかも、この人)
ネロ「ま、無理やりハッキングするのもターミナルに侵入するのも大して変わらないけど、
安全にデータベースを調べたいならちゃんとした手順を踏んだ方がいいからさ」
【澪・エリーペア】
澪「エリーさんはさわ子先生のことは知ってるの?」
職員室へ向かう途中で澪はエリーに話しかけた。
エリー「ほんの…すこし…」
言葉少ないエリーとなんとか会話を続けようとする澪だったが、もともと澪も
積極的に話しかけるような性格ではない。
またすぐに沈黙の空気が流れる。
澪(…なんで律は私をエリーさんと組ませたんだ…私こういうの苦手なのに~)
エリー「……あの…澪さん…?」
澪「…えっ?あ、ああ何?」
エリー「澪さんは…どんな魔技を…?」
澪「ん~…私が使う魔技は主に『念動波(テレキネシス)』なんだけど、他の魔技系統も少しは使える。
あまり軽音部に使える人がいない魔技干渉系の魔技なんかもよく使うんだ。
対魔技用の防御壁とかトラップの設置にあてられたのはそのせいもあるし」
エリー「そう…ですか……」
澪「エリーさんは身体変化系の魔技…トイズだっけ?」
エリー「はい……『怪力(トライアセンド)』だけですけど……」
澪「身体変化系ってことは治癒能力もあるはずだよ。律なんかは開放系の魔技と合わせて
ただの攻撃バカになってるけど、本来は変身とか治癒方面で使うことが多い魔技系統なんだし」
エリー「……実は私たちのトイズは…一つの系統を…さらに細分化した…ある能力の一極集中特化型として
覚醒したものなんです……なので…本当に『怪力(トライアセンド)』しか…使えないんです…」
澪「そ、そうだったのか…」
なるほど、それならさっきのコーデリアの異常なほどの感知系魔技にも納得がいく。
しかし教員組合のトップの連中は彼女らを使って何を企んでいるのだろうか。
一能力だけを極限まで高めて、それを何に利用するつもりだったのだろうか…
澪が物思いにふけっていると、いつのまにか目的地についていた。
エリー「ここが…職員室…」
澪「用事があるのはさわ子先生だけだ。場合によってはアンリエット先生の協力も必要かもしれないけどな」
澪のこの台詞に、エリーの肩が少し震えたのを澪は見逃さなかった。
不思議に思いながら職員室の扉をノックし、二人の仕事は始まった。
【紬・コーデリアペア】
紬「さて、私たちは『手品師』によって『憑依』された生徒をまず見つけないと」
コーデリア「残念ながら答案用紙から生徒個人を特定できるような情報はなさそうね。
3年生の各クラスをしらみつぶしに調べていく他ないのかしら…」
紬「それには及ばないわ。魔技耐性の高い生徒を探すくらいなら私の『衛星解析(サーチ)』で
出来るはず」
コーデリア「へ~、便利なのね」
紬は部室に置いてあるキーボードに手をかけた。
コーデリア「これは?」
紬「『対魔技用思考楽器』ね。みんなにはキー坊って呼ばれてるわ。
どうやらさっきの私たちの会話を聞いて既に『衛星解析(サーチ)』を飛ばしているみたい」
コーデリア「…もしかして……」
紬「?」
コーデリア「いえ、なんでもないわ」
紬はキー坊と意識をシンクロさせ、衛星の射程を3年教室に絞った。
紬「一応コーデリアさんにも『知覚網(シェア)』しておく?」
コーデリア「…私に何かトイズをかけるというなら、オススメしないわ。
よっぽどあなたの『対抗魔力』が高くないと逆負荷によってあなた自身が傷つく恐れがあるから…」
紬「…そう……」
それほどコーデリアの魔力が強大なのだろう。軽音部も潜在的な魔力は並ではなかったが、
対魔技用思考楽器による底上げによるものが大きいのもまた事実だった。
機械によるドーピングなしで紬を上回る感知能力を発揮したコーデリアなのだ。
紬は内心ある種の恐怖を感じたが、すぐにそれを払拭し、解析に集中した。
紬「…『手品師』に直接『憑依』されたのは確か、10人だったわよね?」
コーデリア「そう。各クラスに一人ずつだと思うわ」
紬「でもこれを見る限り、魔技耐性の高い生徒は3年生だけでもざっと20人以上はいるわ…
それに今はテスト初日を終えて半数以上がもう帰宅しているから…」
そこまで言いかけた時、紬の『衛星解析』にある人物が映った。
紬「…!?これは…!」
コーデリア「どうしたの?」
紬「現時点で最大級の魔技耐性を示している生徒が一人、3年5組にいるわ」
コーデリア「…ということは、その人が『憑依』された生徒の一人…?」
紬「その可能性は十分あるわね…だけどこの魔技耐性は下手すれば唯ちゃん以上…
そんな人に『憑依』できるものなの…?」
コーデリア「とにかく、まずはその人を探してみましょう」
紬とコーデリアは部室を出て3年の教室へと向かった。
テストが終わってからだいぶ時間が経っているせいか、いつもより学校の中は静かだった。
~~~~~
3年5組の教室の前――
紬はそっとドアを開けて中の様子を見た。
3年生の教室に入るのが始めてだったこともあり、緊張した面持ちで教室内を見回した。
誰もいない。そう思って首をひっこめた時、不意に後ろから声をかけられた。
マミ「何やってるの?あなたたち」
コーデリア「へぁいっ!?」
突然後ろから話しかけられたコーデリアは驚きのあまり尻もちをついた。
マミ「あら、ごめんなさい。別にそんなつもりじゃなかったんだけど…ってもしかしてあなた、
軽音部の人じゃない?」
紬「…はい。巴…マミさん、ですよね?」
マミ「覚えていてくれたのね。随分前に軽音部にはお世話になったから」
コーデリア「あたた……紬さん、知り合い?」
紬「うん。……マミさんはここのクラスなんですか?」
マミ「そうよ。テスト勉強してたんだけど……軽音部がここにいるってことは、もしかして
また事件が起こったの?」
紬「………」
紬はもしやと思い、『衛星解析(サーチ)』をもう一度調べた。
紬(……やっぱり…!あの大きな魔技耐性の持ち主はマミさんだったのね…)
コーデリア「…!この人からすごいトイズの反応がする…」
マミ「トイズ?」
紬「あわわ、な、なんでもないんです!……ところでマミさん、一つ聞きたいことがあるんですけど…」
マミ「何かしら?」
紬「今回のテストで、何かおかしなことが起きませんでしたか?」
マミ「おかしなこと、ね…どうしてそんな事を聞くのかしら?」
ちょっと聞き方が直接的すぎたか、と紬は警戒した。
紬「いえ、実はとある先生が魔技対策を怠っていたみたいで、カンニング調査をしているんです」
紬は嘘をついた。
マミ「ふぅん…そういうことなら……おかしなこと、あったわよ」
紬「! ど、どんな風に?」
マミ「あれは数学のテストの時だったかしら…すごく頭がボーっとしたと思って、気がついたら
テストが終わっていたの。ちゃんと問題も解いた記憶があるのに、なんだか夢を見ていたような
気分になったのよね」
コーデリア「それって完全に『憑依(ジャック)』されてたってことじゃ…」
マミ「『憑依(ジャック)』?」
紬「はわわ…ち、違うんです!ただ魔技の使用痕跡を…」
マミ「…ねぇ、あなたたち…何か隠してるでしょう」
紬「い、いえ何も隠してないですよ」アセアセ
マミ「私に出来ることなら何だって協力するわ。だから教えて頂戴。
今回のテストで何か事件が起きたのよね?」
紬「な、なんでそこまで……」
マミ「私だって馬鹿じゃないわ。そっちの小さな黒髪の女の子が私たちの周りを嗅ぎまわっていたことくらい
お見通しなんだから。わざと気付かないふりしてただけ」
紬(梓ちゃんの捜査がバレてた……!?)
マミ「そんなに信用されてないのかしら?」
紬としても、マミに『手品師』の事を話していいのかどうか迷っている部分があった。
梓の報告によれば、巴マミとその仲間は無所属でありながら高い魔技能力を持っている。
かなり利用しやすい相手ではあるが、簡単に寝返る可能性もあるとして軽音部でも扱いに困っていたのだ。
コーデリア「いいじゃない紬さん!この人、悪い人じゃなさそうだし」
紬は思った。
何故だかこの3人は妙に似ているような気がする。
その漠然とした感覚が、紬に決心をつけさせた。
紬「…分かりました。巴マミさんに正式に捜査の協力を依頼します」
~~~~~
マミ「………事情は分かったわ。つまり私から『憑依(ジャック)』の足跡を探しだしたいってわけね」
紬はオカ研に関すること以外を洗いざらい話した。
マミがコーデリアの『局所解析(ポインティング)』に応じてくれれば、『手品師』の手掛かりを掴む大きな
一歩となる。
マミ「……良いでしょう。コーデリアさんの検査を受けるわ」
紬「ありがとうございます!」
紬はマミが素直に協力してくれたことで喜んだが、実際にコーデリアがどうやってマミから
魔技の痕跡を検出するのかは知らなかった。
コーデリア「じゃあさっそくやってみましょう♪まずは服を脱いで~」
マミ「ええっ!?そ、そんなの聞いてないわよ!」
コーデリア「でも肌を直接触らないと調べられないんだけど…」
マミ「なら顔とか腕でいいじゃない!なんで脱ぐ必要があるのよ///」
コーデリア「! 確かに…」
がっくりとうなだれたのは紬だった。
コーデリア「じゃあマミさん、両手を繋いでください」
マミ「こ、こう?」ギュ
コーデリア「ああっ、なんて柔らかい肌…!」
おもむろにトリップしかけたコーデリアをなんとか現実世界に連れ戻し、
マミの体に残る『憑依』の痕跡を探り始めた。
コーデリア「……物質生成系のトイズを使うのね。かなり強い魔力を感じるわ」
マミ「それはどうもありがとう」
最終更新:2011年05月25日 23:02