唯「私、大学生になったら一人暮らしするんだ」

それは憂にとって全く予想外だったこと。

それまで当たり前のように寄り添っていた二人。

それが当たり前でなくなる現実を突き付けられる。

日常の一部にぽっかりと穴が開いてしまう。

あまりにもつらい欠落。

憂には、唯が離れることのショックは大きい。

様々な負の要素が瞬時に駆け巡り、憂の中で想像以上に深い孤独が押し寄せる。

憂「だ、駄目だよお姉ちゃん一人暮らしなんて」

唯「何で?」

憂「色々危ないし」

唯「大丈夫だよ、寮だからみんな一緒だし」

憂「でも・・・」

唯「もう決めたんだ」

憂「そんな・・・」


次の日

昼休みいつものように純、梓とお弁当を食べていた時の事。

向かい合って座っていた純が憂の態度を伺うように言った。

純「憂、どうしたの?元気ないよ?」

梓「そう言えば、朝からそんな感じだよね」

憂「う、うん・・」

純「何かあったの?」

憂「・・・あのね」

憂は事情を話す。

純「へー、唯先輩が一人暮らしね」

梓「そう言えば、先輩達みんな大学の寮に住むって言ってた」

憂「だから、私ひとりぼっちになっちゃうの」

純「あ、憂の両親ってあんまり家に帰ってこないんだよね」

憂「うん」

純(そう言えば、唯先輩が修学旅行で居ないってだけで泣きそうになってたな)

梓「でも良い機会じゃない?」

純「何が?」

梓「唯先輩が憂離れする」

純「確かにね、唯先輩もう子供じゃないんだし」

憂「それはそうだけど」

梓「それに、憂もいつまでも唯先輩にベッタリしてるのも・・・」

純「姉妹なんだから」

憂「・・・でも」

梓「今からそんなんじゃ、4月からどうすんの?」

純「そうだよ、今の内から慣らしてった方が良いんじゃない?」

憂「慣らすって?」

梓「あんまりべたべたしないようにして少しずつ距離を置くとか」

憂「・・・うん、そうだよね」

純「後は、好きな人作るとかして心のスキマ埋めるとか」

憂「好きな人か・・・」

梓「今居ないの?好きな人」

憂「お姉ちゃんかな?」

純梓「おおおおぉいい!!」

ズビシッ!!


3年の教室!

唯「今日のお弁当は唐揚げとエビフライです!」

律「どうせ憂ちゃんが作ったんだろ?」

唯「その通り!」

紬「憂ちゃん料理上手ね」

澪「あのさ、今度憂ちゃんに料理教えて貰いたいんだけどさ」

唯「憂に?」

澪「うん、大学生になったら寮で暮らすとは言え自炊出来ないとって思って」

唯「そうだね、料理くらい出来ないと」

律「私は料理出来るから問題ないぜ」

澪「律は、以外に料理上手いよな」

紬「私もシェフに習ってるから」

澪「シェフ・・・」

唯「今度の土曜日で良い?」

澪「お願いしていい」

唯「憂に話しておくよ」


土曜日

澪「お邪魔しまーす」

唯「いらっしゃい」

律「私も付き添いで来た」

澪「ムギも誘ったけど予定があるってさ」

憂「こんにちは」

澪「憂ちゃん、今日はよろしく」

憂「こちらこそよろしくお願いします」

律「唯、ゲームでもしてようぜ。キッチンに4人は狭いから料理は澪と憂ちゃんに任せてさ」

唯「良いよ、何やる?」

律「スト4やろーぜ。スト4!」

唯「返り討ちにしてくれる!」

澪「あいつは一体何しに来たんだ・・・」

律「料理できたら、呼んでくれ」

憂「分かりました」

憂「じゃあ、今日はハンバーグと煮物とサラダを作りましょう」

澪「うん」

トントントントン

澪「へー、手慣れたもんだな」

憂「えへ、そんな事無いですよ」

澪「憂ちゃんなら良い奥さんになれるよ」

憂「ありがとうございます」

憂「これを切る時は、包丁をこんな感じで持って」

澪「こう?」

憂「もうちょっと包丁を寝かせて、ちょっと良いですか」

憂の手が澪の手に添えられる。

澪(ドキッ!)

憂「どうしたんですか?」

澪「あっ、なんでもない///」

澪(何を私はドキドキしてるんだ///)

憂の声に我に返り、誤魔化そうと包丁を動かす。

トントントントン

憂「あ、澪さんそんなに速く切ると危ないですよ」

憂は澪の慌てた様子に注意を促そうとしたが、一足遅かった。 

サクッ

澪「あ痛ッ・・・!」

澪の指先に、ピリッとした鋭利な痛みが走る。

その部分に目をやると、右手の人差し指からうっすら血が滲んでいた。

澪「痛たた、切っちゃった」

憂「澪さん大丈夫ですか?」

澪「血、見るの苦手なんだよな」

憂「ちょっと見せて下さい」

憂はすぐに澪の人差し指を手に取り、傷口に目を向ける。

憂「うん、そんなに深くは切ってないですね」

指先をじっと見つめてそう言うと、その憂の唇が近づいてゆき・・・

澪「あ・・・」

指先がそっと口に含まれた。

しっとりとした唇に挟まれ、温かい口内で傷口の血が舐めとられる。

澪(うわー、うわー///)

澪は固まり、その光景と感触を半ば放心気味に見つめる。

澪「憂ちゃん///」

指先から唇が離される。

憂「カットバン持ってきますね」

憂はそう言ってキッチンを離れる。

指先には唇の温もりが残ったまま。

澪(ビックリした、いきなりだもんな)

憂「お待たせしました。カットバン持ってきましたよ」

憂は澪の指を手に取り、傷口をカットバンで包んだ。

憂「これで大丈夫ですね」

澪「あっ、ありがとう」

憂「じゃあ、料理続けましょうか」

澪「うん」

澪は普段通りに振舞おうと返事をした。

澪(まだドキドキしてる///)

憂「どうしたんですか?」

そう言って澪の顔をズィっと覗き込む。

澪「!」

澪「な、何でも無い///」

そう言い、顔を背ける澪。

澪(今私の顔真っ赤だよな///)

憂「?」


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最終更新:2011年05月26日 00:16