――放課後・音楽室――

ドア「がちゃ!」

唯「いえーい!」

律「ホイホイホイホーイ!!」

澪「なんだよそのテンション」

梓「よいしょ。よいしょ」

唯「ウメちゃん先生が来るんだよ! テンションも上がるよ!」

律「新しい顧問に、私たちの演奏を見せてやる!」

紬「そうだ! 美味しいお茶いれないと!」

梓「うんしょ、うんしょ」

唯「今日のお菓子はなーに?」

紬「モンブラ~ン」

梓「せいやせっと」

律「モンブラン大好きー!」

澪「まったく。あんまりハメを外し過ぎるなよ」

唯「はーい。澪ちゃんは今日も可愛いねえ」

澪「どうしたんだよいきなり」

唯「可愛い澪ちゃんなら、モンブランの栗、くれるかなーって」

澪「褒め落としか。そうはいかないぞ」

梓「よいせっと」ドスン

紬「あのね。梓ちゃん」

梓「なんですか?」

紬「みんなで使うテーブルに、こんなに大きいテレビとゲーム機置いたら、お茶できないよ?」

梓「大丈夫です。問題ありません」

律「あるだろ」

唯「あずにゃん! これなに!?」

梓「ブラウン管テレビとXbox360です」

澪(まさか梓のやつ……!)

梓「梅原先生がいらっしゃるんですから、これくらいはしないとです!」ふんす

唯「ふぇ?」

紬「えっくすぼっくす?」

律「うちにあるのはPS3だからなー。ちょっとよくわからない」

梓「ええー!? 律先輩の家、ラグステしかないんですかー!?」

律「な、なんだよ」

梓「延髄してるラグステでゲームなんて信じられなーい」

澪「それを言うなら遅延な」

梓「それに、有名人がいないラグステのPPなんてアテになりませんよー!」

律「なんの話してるんだよ」

唯「あずにゃん?」

梓「ていうか、箱でしか主要大会やってませんからねー。カァー!」

唯「あずにゃん!」ぎゅっ

梓「ほわー」

律「どうしたってんだよ。梓のやつ」

澪「さ、さあな」

ドア「がちゃ」

ウメハラ「ここが部室でいいんだよね?」

梓「は、はい!」

ウメハラ「へぇー」きょろきょろ

紬「今お茶入れますねー」

唯「ささ、ここに座ってくだせえ!」

ウメハラ「うん」きょろきょろ

澪「どうしました?」

ウメハラ「いや、どうしよ。鞄の。鞄の置き場所がわからなくて」

梓(キター!)

律「ああ。それなら、このソファにでも置いてくださいませ」

ウメハラ「安心した」

紬「あの、紅茶で大丈夫でしたか?」

ウメハラ「うん。紅茶好きだよ。……ここ、軽音部だよね」

梓「はい! ここにスパ4も用意してます! もちろんスティックはマッドキャッツです!」

ウメハラ「!?」

梓「どうしたました……?」

ウメハラ「あ。いや、大丈夫」

唯「なにが大丈夫なんですか?」

ウメハラ「もしかして、中野さん。知ってるわけ?」

梓「――」こくり

ウメハラ「それなら話は早いんだけど、俺は今先生だから、学校ではウメハラじゃなくて
梅原大吾教諭としていたいんだ」

梓「――!」

ウメハラ「もしかしたら、学校内でもこういうことがあるかもしれないと思ってたんだけど、
今はゲームは……」

梓「ご、ごめんなさい。先生」

ウメハラ「わかってくれればいいんだよ。ごめんね」

唯「どうしたの? ウメちゃん先生」

ウメハラ「大丈夫。心配しないで」

梓「それじゃあ、このテレビとゲームは片付けます」

ウメハラ「いや、それは俺がやるよ。生徒にこんなに重い物は持たせられないよ」

律「よーし! それじゃあウメちゃんに私たちの演奏を見せてやろうぜ!」

唯「おー! ……お茶飲んでからね」


澪「でもいいじゃないか。梅原先生と親睦を深めよう」

律「澪がそんなこと言うなんて珍しいな。ついに澪もこっち側かー?」

澪「た、たまにはいいってこと! 別に毎日これでいいなんて言ってない!」

ウメハラ「この辺に置いておけばいい?」

梓「はい! ありがとうございます!」

ドア「がちゃ」

さわ子「ちょりーっす」

ウメハラ「ん?」

さわ子「……あれ? 梅原先生?」

唯「あ、さわちゃんちょりーっす」

さわ子「えと……ごほん。こんにちはぁー、梅原先生。お疲れ様ですぅ」

律「さわちゃん。きついです」

さわ子「田井中さん。ちょっと」

律「んー? これ食べてからねー」

さわ子「ちょっと」

律「……」ちらり

さわ子「さっさと来い。殺すぞ」←律にはこう見える

律「……はい」

ウメハラ「?」

唯「おーいふぃー」

紬「よかったー。梅原先生、お口に合いますでしょうか?」

ウメハラ「うん。美味しい。モンブランは良い」

澪「モンブラン好きなんですか」

ウメハラ「かなり好き。というより、このモンブランは別格」

紬「よかったー」

梓(ウメハラって食べ方も綺麗なんだ)

律「……ふぅ。それじゃあ、そろそろやるか」

澪「そうだな。まずはふわふわから」

唯「ボーカルは私?」

梓「私という選択肢は?」

紬「今までそんな形はなかったよね」

澪「普通に唯がボーカルでいこう」

唯「らじゃー」

律「よぉし! それじゃあいっくぜー! 1・2・3・4・1・2・3!!」

唯「キミを見てると、いつもハートドキドキ!」

ウメハラ「へえ」

さわ子「うんうん」


――演奏終わって――

ウメハラ「これはみんなオリコン。いや、オリジナルの曲?」

さわ子「はい。曲は琴吹さんで詞は秋山さんが主に書いてます」

ウメハラ「高校生でこの楽曲を作るのは、なんていうか始まってる」

唯「えへへー」

律「唯は作ってないだろー」

唯「む! そんなことないもん! 私だってギターのピロピロとか考えてるもん!」

ウメハラ「平沢さんのギターって結構いいやつじゃない?」

唯「わかりますか!」

ウメハラ「いや、全然」

律「じゃあなんで言ったんだよ!」

ウメハラ「知り合いがインディーズのバンドやってて、ちょっと聞きかじったんだよね」

澪「す、すごい」

梓「もう外も暗くなってきてます。そろそろ終わりましょう」

紬「そうね。梅原先生。明日からもよろしくお願いします」


――都内のあるゲーセン――

ウメハラ「――」

ネモ「ウメさん、先生は大変そう?」

ウメハラ「どうだろう。まだ初日だし」

ネモ「でも女子高でしょ? 多感な年頃だからなー(笑)」

ウメハラ「それはある。そっちも大変な時期じゃないの?」

ネモ「結婚ってのも大変ですよ。……でも、『これ』に理解のある嫁でよかったっす」

ウメハラ「……のろけ?」

ネモ「(笑)」

ウメハラ「結婚か。それもいいけど、やっぱり好きなこともしたいよね」

ネモ「人生、誰かに縛られるってのは嫌ですよ。それがたとえ惚れた女でも」

ウメハラ「好きなこと……か」

ネモ「どうしました?」

ウメハラ「いや、なんでもない」

マゴ「てめー、厨キャラすぎんだろそいつ!」

ウメハラ「お前が言うなよ」

マゴ「うっせー! この変態教師!」

ウメハラ「相変わらずだなお前は」

マゴ「こうやって仲間とゲームして、煽りあったりしてる時間が好きなんだよ俺は。ここ座る
ぞ」

ネモ「ぷっ」

マゴ「笑ってんじゃねーぞコラ」

ネモ「ぷっ! マゴぷっ!」

マゴ「うわあああああああ!!!!」

ウメハラ「ハハハハ」


――次の日――

唯「いってきまーす」

唯母「いってらっしゃい。今日はお母さんたち、家にいるからご飯でも食べに行く?」

唯「うーん。どうする? 憂」

憂「私はお母さんのご飯が食べたいかな」

唯父「はっはっは。お母さんの料理はおいしいからな」

唯母「もう、パパったら」

唯母父「あはははははは」

唯「あはははは」

唯母「それじゃあ、今日は唯と憂が好きなハンバーグにするわね」

唯「わーい! それじゃあ、改めていってきます!」

憂「いってきまーす」

唯母「はいはい。いってらっしゃい」

メハラ「あれ?」

唯「あれま」

ウメハラ「おはよう。平沢さん」

唯「おはようございます!」

憂「梅原先生、このあたりに住んでるんですか?」

ウメハラ「うん。近所に住んでるみたいだね」

憂「それなら、これからもばったり鉢合わせするかもしれませんね」

唯「なんだか変な感じだねー」

ウメハラ「そう?」

唯「だって、ウメちゃん先生って先生って感じしないもん」

ウメハラ「そうかな」

唯「なんだかお兄ちゃんって感じ?」

ウメハラ「へえ。ところで、時間は大丈夫なの? 朝練するって言ってたけど」

唯「あ! 忘れてた! 憂、行くよ!」すたたー

憂「う、うん!」タタタっ


――部室――

唯「おはよー」

澪「遅いぞ唯。ほら、早く準備して」

紬「私、朝練するの夢だったの~」

律「どんな夢だよっ」

梓「まったく、仕方ないですね。唯先輩は」

唯「えへへ~。ウメちゃん先生と話してたら遅れちゃった」

梓「マジですか!?」

唯「ど、どうしたの?」

梓「ウメハラ先生、唯先輩の近所に住んでるんですか!?」

唯「そ、そうみたいだけど」

梓「わかりました。放課後の部活は休みます。ウメハラ先生の家を捜しますので」

律「おちつけ」

さわ子「梓ちゃん、私も行くわ。車出してあげる」

梓「さわ子先生素晴らしい」

澪「馬鹿なこと言ってないで、折角集まったんだから練習しよう」

紬「うん! まずはカレーからいきましょ」

唯「準備おーけーだよ!」

さわ子「それじゃあ、私は職員室行ってくるわね」

梓「お疲れ様です!」

ドア「がちゃ」

律「よーし! いっくぞー!」

ドア「がちゃ」

ウメハラ「おはよう」

律「――と。おはようウメちゃん!」

澪「梅原先生、こんな早くにどうしたんですか?」

ウメハラ「いや、今日の一時間目はテストだけど大丈夫なのかなと」

紬「え?」

唯「忘れてた……」

梓「皆さん仕方ないですね。私はウメハラ先生と練習しますので、みなさんは勉強しに
教室へ行ってください」

律「くそぅ! ウメちゃんめ!」

唯「ばーかばーか!」

澪「私も忘れてたぞ!」

紬「それじゃあ梓ちゃん、あとおねがいね!」

ドア「がちゃん!」

梓「……ふう」

ウメハラ「……」

梓「……ウメハラ先生は、ギターとか弾きます?」

ウメハラ「弾いたことない。ていうか、昨日初めてギターを見た」

梓「ふふっ。そんなわけないじゃないですか。弾いてみますか?」

ウメハラ「でもコードわからないんだよね」

梓「それくらいなら教えてあげます。ソファに座ってください」

ウメハラ「じゃあ、やってみようかな」

梓「それじゃあ、まずはCコードを……」

ウメハラ(……すげー、いい匂いするんですけど)

梓「そうそう、上手ですよ。ここはこうするといい音が出るんです」

ウメハラ「へえ」

梓「流石ウメハラ先生です」

ウメハラ「そんなことないよ」

梓「綺麗な手……。この手が、私たち格ゲーマーの夢を見せてくれていたんですね」

ウメハラ「……」

梓「でも、今は――この手はギターを弾くための手です」

ウメハラ「……中野さんは」

梓「梓でいいです」

ウメハラ「――梓は、ギター好き?」

梓「……好きです。昔から、大好きでした」

ウメハラ「じゃあ、ギターをやることに、使命感はある?」

梓「使命感、ですか?」

ウメハラ「そう。好きなことが、いつからかやらなくてはいけないモノに変わってしまったら、
それはきっと、もう好きなこととは違うものになってしまうと思う。梓は、ギターを弾くことに
義務感、使命感を持っている?」

梓「……わかりません」

ウメハラ「わからない?」


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最終更新:2011年05月26日 22:30