梓「私にとって、ギターを弾くことっていうのはご飯を食べることと同じなんです。手が、自然
とギターに向いてしまう。だから、弾いてみる。そうやって上手く弾けたら、嬉しいじゃないで
すか。また弾きたい。もっと弾きたい。そう思うんです。――それに、私はまだ高校生です
から」
ウメハラ「……」
梓「どうしたんですか?」
ウメハラ「梓は、俺がプロゲーマーだってことは知ってるよね」
梓「――はい」
ウメハラ「ミュージシャンでもスポーツ選手でも、プロというのはお金を貰うものだ。だから、
中途半端なパフォーマンスは許されない。常に最高の力を発揮できないといけない」
梓「それは、わかります」
ウメハラ「でもさ。最近になって思うんだ。俺はオンゴッズで1勝しかできなかった。プロ
なのに、勝てなかった。好きだった筈のゲームにプレッシャーを感じて、素直に楽しめ
なくなった。――逃げられなくなってしまった」
梓「……」
ウメハラ「――ごめん。こんな話をして。さあ、職員会議に行かないと」すくっ
梓「待ってください……」
ウメハラ「え?」
梓「確かに、先生は負けました。でもそれは! 不利キャラのフェイロンやダルシム。運の
要素が大きいヴァイパーやキャミィにじゃないですか! 負けたなんて言いません」
ウメハラ「どんな相手でも負けは負け。そのキャラクターを選んでいる以上。キャラ差なん
ていうのは言い訳にもならないんだよ」
梓「……そう、ですけど……」
ウメハラ「勝者ではなく、強者を決めるのがオンラインゴッズガーデンだった。それに負けた
俺は――」
梓「違います!」
ウメハラ「!?」
梓「私たちの――いいえ。私のウメハラはそんな人じゃありません! もっとふてぶてしく
て、もっと図々しくて、いつだって強いビーストじゃないといけないんです! だから、そん
なこと、言わないでください……」
ウメハラ「……」
ウメハラ「……ごめん」
ドア「がちゃ」
梓「……逃げたっていいんですよ……先生……」
――5月・部室――
澪「……なあ」
唯「あにー?」もぐもぐ
澪「私たち、何週間練習してないと思う?」
唯「うーん……」ひーふーみー
紬「今日のお茶、よくいれられたと思うんですけど」
ウメハラ「よく頑張りましたね」
唯「三日!」
澪「2週間だ!」
律「そんなに練習してなかったのか! いやー、時間が経つのは早いなー」
澪「呑気なこと言ってる場合か! いいか!? もう今年で受験生なんだぞ! 梓のため
に頑張ろうよ! 新入部員もいないんだから、もしかしたら、来年軽音部は潰れてしまう
かもしれないんだぞ! だから――」
唯「だから?」
澪「ゴールデンウィークを使って合宿をします! 朝から夜まで練習するの!」
律「でも、ゴールデンウィークは明日からだぞ。きつくないかー?」
澪「う……それは……」
さわ子「今からじゃあ、場所も見付けられないわよ」
澪「ムギ……別荘、使えないか?」
紬「ごめんなさい。さすがに明日からは……」
澪「だよなぁ」
梓「でも、二週間も練習してないのは異常です! 学校に泊まり込みでも構いません!」
さわ子「それにも許可はいるのよ。今からは厳しいわよ」
ウメハラ「うーん」
律「どうした? ウメちゃん」
ウメハラ「自由に使える場所に心当たりがあるんだけど」
澪「本当ですか!?」
ウメハラ「うん。ただ、持参したほうがいいものはあるよ」
唯「なにそれ?」
ウメハラ「ファブリーズとゴミ袋」
――その夜・西横浜の廃墟――
ウメハラ「――そういうことだからよろしく」
KSK「はい?」
ウメハラ「いやだから、明日からゴールデンウィーク終わりまで、俺の生徒がここに来る
からよろしく」
KSK「ごめん、なに言ってんの?」
ウメハラ「俺も来るけど、一応片付けておけよ。女子高生なんだから」
ときど「JKですかウメさん」
マゴ「黙ってろロリコンがよぉ!」
ウメハラ「部員5人と顧問の先生がもう一人来ることになるから。それじゃ」
KSK「待て待て待て!」
ウメハラ「なんだよ」
KSK「……ちょっと周りを見渡してみろ」
ウメハラ「……」
KSK「どう思った?」
ウメハラ「きったねー店」
マゴ「だろ!? マジきったねーんだけど!」
KSK「お前とマゴの言う通りだ。この店は、いいや、店でもないんだが汚い」
ときど「到底JKが泊りこむ場所ではないですよね」
ウメハラ「だから片付けろっていうの。とりあえず置くファブリーズ買ってきたから」どさどさ
KSK「そういう問題じゃない。もう一回見渡してみろ」
ウメハラ「……」
KSK「どう思った?」
ウメハラ「むっさい店」
KSK「そうなんだよ。この店には女性客なんかそもそも見込んでないくらいに、むさいんだ
よ。こんなところに女子高生を泊められるか」
ウメハラ「ときど」
ときど「はい」
ウメハラ「あの名言集、ネットでバラまけ」
ときど「わかりました」
KSK「それだけは勘弁してくれ」
ウメハラ「だったら明日の昼12時までに片付けろ。なんとしてもだ」
KSK「……背に腹は代えられないか」
マゴ「なにそれ」
ときど「仕方ないってこと」
マゴ「難しい言葉使っていい気になってんじゃねえぞ顔がァ!」
KSK「うっせえ。お前らも手伝え」
ときどマゴ「ふざけんな」
KSK「くっ。バイトのくせに……」
ウメハラ「じゃあ、また明日」
ドア「がちゃ」
KSKマゴときど「……」
KSK「配信しよ……」
マゴときど「おいこら」
――中野宅――
梓「――」カチカチ
梓「――――」カタカタ
梓「……チッ」
梓「――」ターンッ
梓「――まったくもう」
梓「顔TVにコテで書き込む奴は消えろ」
梓「ていうか、今日の顔TVおかしいな」
梓「……掃除? いや、これは――」
梓「模様替えとも違う」
KSK「おーいマゴー! ここおさえといて!」
マゴ「はいよー」トンチンカン!
ときど「いて、指打った」
マゴ「おいおい大丈夫かよ。見せてみろ」
梓「ヌッ」ずいっ
チャット「BLきた!」
チャット「ホモ勢消えろ」
チャット「飛翔さんの悪口はやめろ!」
チャット「連絡促しておきます」
チャット「蝿うぜええええええええええ」
梓「ハァハァ……と。明日の準備しないと」
梓「もうこんな時間だ。早く準備して寝ないと」
梓「……ウメハラ先生のツテってなんだろ」
KSK「とりあえず女の子はピンクだよなー」
マゴ「安直じゃね?」
ときど「概ね合ってるからいいでしょ」
梓「……」
KSK「これで明日もばっちりだな」
梓「……まさか……」
――次の日・桜高正門前――
さわ子「それじゃあ行くわよ!」
唯「さわちゃんの車に乗れるの?」
さわ子「そういうと思って、レンタカーで来ました! これなら全員乗れるわよ!」
澪「すごいですね!」
紬「なんだかピクニックみたい!」
梓「……」
律「それじゃあ乗り込むぜー!」
さわ子「そうそう! 全員乗れるのよ! 梅原先生でもそれは例外ではないわ! さあ!
梅原先生! 助手席に!」
澪「梅原先生なら、先に行ってるみたいですよ」
さわ子「ガッデム! 返してくるわこの車!」
律「おちつけさわちゃん!」
唯「あずにゃん、くまできてるよ? 大丈夫?」
梓(結局モノ思いにふけっていて眠れなかった……。まさか、あそこじゃないよね……)
律「私が部長だから、私が助手席!」
さわ子「ちぇー」
唯「さわちゃん残念だったねー」
紬「?」
唯「さわちゃん、梅原先生のこと……」
紬「あらまー」
澪「ハハハ」
さわ子「梓ちゃんも乗りなさい。12時までにはつかないといけないんだから」
梓「わ、わかりました。ところで、どこに行くんですか?」
さわ子「うーん。よくわからないんだけど、西横浜のVISIONってところみたいよ?」
梓「マジですか!?」
澪(まじかよ)
さわ子「なんか、梅原先生の知り合いがやってるお店みたいなんだけど、閉まっちゃってる
から好きに使っていいみたい」
唯「へー。すごいね! ウメちゃん先生!」もぐもぐ
律「だなー。憂ちゃんのおにぎり美味しいなー」もぐもぐ
紬「りっちゃんの、なにが入ってるの?」
律「梅干しー」
さわ子「梅……」
紬「そっかー。梅干しかー。えへへー」
さわ子「……」
澪「ムギ、わざとやってる?」
紬「なんのことでしょー。あははー」
梓「ムギ先輩……」
唯「私のは鮭!」
梓「私のはなんだろ……あ、梅干しだ」
さわ子「……」ぶつぶつ
澪「なんか怖い」
唯「どんな建物なんだろー」
さわ子「黒い建物って言ってたわよ」
律「黒?」
さわ子「黒いみたい」
澪(あー)
梓「おにぎりおいしっ」
紬「たのしみー」
さわ子「……このあたりだと思うんだけど」
唯「黒い建物黒い建物」
律「なんか不気味な響きだな」
唯「……あ」
さわ子「……まさか、アレ?」
梓(実際に来たことはないけど、あんな感じだったんだ)
澪「ひいいいいい!!!! あそこに入るの?」
紬「澪ちゃん大丈夫よ。梅原先生のお知り合いのお店だから、怖いのは外装だけよ」
さわ子「……」
律「……閉まってるぞ」
梓「入口、どこなんでしょう」
さわ子「……」コンコン
澪「……誰も来ないな」
紬「……」
さわ子「……」ピッポッパ
さわ子「もしもし、梅原先生? 到着しました」
ドア「がちゃ」
ウメハラ「あ、お疲れ様。入って」
紬「は、はーい」
澪「――」がくがく
梓「アングラ……」
さわ子「あの……失礼ですけど、ここで三日も?」
ウメハラ「一応掃除させといたから、多分大丈夫だとおもうんですよね」
ドア「がちゃ」
パンパンパーン!!!
澪「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
KSK「放課後ティータイムさん、ようこそ!!」
マゴ「歓迎するよ!」
ときど「いらっしゃい!!」
律「……」
梓(KSKさんたちがピエロの恰好でクラッカー鳴らしてる……)
唯「こ、これは……」
KSK「さあ入って入って! あ、そこの床、ぎぃって鳴るけど元からだから皆が重いわけ
じゃないから気にしないで!」
マゴ「うっせえ! テンションあげんな!」
ときど「ここはのっておきましょう」
唯「たのしそー!」
KSK「それじゃあ、歓迎会ということで食事会でも開こう」
マゴ「いきなりだな」
澪「あの、お気遣いなく……」
紬「わくわく」
ときど「それじゃあ、ピザでもとりましょうか」
ウメハラ「それじゃあお願い」
マゴ「ときどぉ! ピザでも食ってろピザでもォ!」
ときど「なんで嬉しそうに言うんだよ」
マゴ「こくじんさんが言ってたから、一度言ってみたかった」
梓「あ、それじゃあ私、飲み物買ってきます!」ぴゅー
律「私も行くよ」
KSK「待って。これ、飲み物代ね」
梓「1万円? こんなに買ってくるんですか?」
KSK「おつりはとっておきなさい」ニコっ
マゴ「金もねえのにかっこつけんじゃねえよ! でけえ顔で笑いやがって!」
最終更新:2011年05月26日 22:31